華巡り R18 新書 ページ数・値段未定 成人向けのためこの本は18歳未満の購入を禁じます。 薄桜鬼合同誌(RINKO、東流、天華) 四季をテーマにした話4作品収録。 通販はRINKOさん宅で行います。 |
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春: | 斎藤×千鶴・・・・・by天華 ED後数年後斗南での生活中設定 子供がなかなか出来ないことを思い悩む千鶴の話 R-18(のつもり) あらすじが気になる方は。こちらから |
夏: | 土方×千鶴・・・・・by東流 宇都宮後の日光での療養中 大怪我を負った土方さんを看病する千鶴の話 R-15(ぐらい?) あらすじが気になる方は。こちらから |
秋: | 原田×千鶴・・・・・byRINKO ED後 大陸に渡る決心を付ける千鶴の話。 R-18(どえす) あらすじが気になる方はこちらから |
冬: | 沖田×千鶴・・・・by東流 ED後 千鶴の温もりを恋しがる、実は寂しがり屋な沖田の話。 R-18(に成長(笑)) あらすじが気になる方はこちらから |
斎藤×千鶴サンプル
「無理をさせたか?」
いつもの淡々とした声音とは違い、熱を孕み微かに掠れた声が静寂を震わせる。
千鶴の横に身を横たえ、背中越しに包み込むように腰に腕を回し、力なく横たわる千鶴の身を引き寄せる。
「・・・・いえ、大丈夫です」
しっかりと千鶴は答えたつもりだが、掠れた声には力がなく、今にも眠りの縁に落ちてしまいそうなほどか細い声だった。
今宵も無理をさせてしまったか・・・その声音に一は苦笑を漏らす。
男と女の体力差を考えれば、もう少し早い段階で千鶴を解放すべきだと理性では判っているのだが、いつも抱き始めるとその理性がかき消えてしまう。
常に理性と隣り合わせに生きてきた自負があるだけに、加減のきかなさに当初は戸惑いもした。女の身を覚え始めた年端もいかぬ若造でもあるまいし、薹がたった男の所行ではないと思うのだが、愛しいと想う女の肌の温もりや、甘すぎる声音、熱すぎる胎内は自分を狂わす。
その麻薬の如き誘惑に抗えるすべは一も持っていなかった。
千鶴が冷えないようにその身を胸にしっかり抱き寄せると、居心地の良い体勢になるかのように千鶴は微かに身を動かし、収まりの良い状態になると、華奢な手が優しく重ね合わせられる。
「寒くはないか?」
気遣いの言葉に千鶴は微かに頷く。
「一さんは、とても暖かいので 大丈夫です」
どんな凍てついた空気だろうと、千鶴は寒いと思うことはなかった。
背中越しに感じる温もりと、守るように回された腕に包まれ、寒さを感じることはない。なにより今だ身のうちを巡る熱は治まることはなく、頬に触れる凍てついた空気が気持ちよく感じる程だった。
だが、一は千鶴の肩が冷えないように上掛けをしっかりとひきずりあげ白い肩が上掛けの中におさまるようにすると、腕に力を込めてよりいっそう引き寄せる。
それ以上の会話は無いが、千鶴はこの瞬間が一番好きだった。
抱かれると翻弄されわけが判らなくなってしまうが、こうやって素肌で熱を分かち合うように身を寄せ合っている時間はなによりも心地良い。
けして分厚い上掛けではない。一人でくるまれば寒さに震えてまともに寝付けないだろう。だが、二人でくるまると寒さなど本当に気にならず、浸透するような熱に身体の力がどんどん抜けてゆく。
ジワジワと押し寄せてくる睡魔に促されるように千鶴は重くなってきた瞼を閉じながら、無意識に手をそっと下腹部に重ね、そっと撫でる。
今宵も無意識のうちにしているその行為に一は気がつき、華奢な掌を包むように、一は手を重ねる。
彼女の願いを叶えられるものなら叶えてやりたい。そう祈りながら、ゆるゆると訪れた眠りに誘われるように一も瞼を降ろす。
朝、千鶴が寒気で目を覚ました時には傍らで共に休んでいた一の姿はない。毎日の習わしである居合いの型を外でさらっているのだろう。
いつも、夏であろうと冬であろうと関係なく、毎朝目覚めるときに寒気を覚えるのは、独り寝が寂しいからだろうか。
気がつけば傍らに一がいないと熟睡できなくなっている自分に思わず苦笑が漏れるが、いつまでものんびりと布団の中にいるわけにはいかない。一が戻ってくるまでに朝餉の支度をしなければならないのだから。
重く感じる身体を起こすと、昨日の名残が身体の奥から溢れてくる。この瞬間は幾度迎えても羞恥に全身が朱に染まる思いになる。
だが、これが身体の奥深くに根を下ろせば時と共に芽吹き、新しい命が花開くのだ。そう思うととても愛しく、できれば全てを胎内に留めておきたいと願ってしまうが、まるで留まりたくないと言わんばかりに、己の胎内から流れてゆく。
今度こそ、実ってくれるだろうか・・・
祈りにも似た思いがわき起こる。
所帯を持って幾度となく・・・それこそ、数えられないほど抱かれているが、今だその気配はなく不安に囚われる。
以前それとなくその話をした時、一は全く気にしているそぶりもなく、出来るも出来ないも時の運。気にするようなことではないと言っていたが、千鶴としては一日でも早くと願ってしまう。
今度こそ・・・・そんな思いを抱きながら、無意識のうちに下腹部をそっと一撫でし、残滓を拭おうと布に手を伸ばしかけたが、太ももをゆっくりと流れ落ちてゆく、生暖かい液体を見て千鶴の顔はこれ以上ないほどこわばり、力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。
土方×千鶴 サンプル
「――――…えらく他人事みてぇな言い草だな、望月さんよ」
土方の部屋まで近付いた時、不意に聞こえて来た低く険の含まれた土方の声と、その話し相手のものらしい息を呑む気配に、千鶴はびくりと足を止めた。
「何だったら、私の下で他の幕兵と共に戦ってはどうですかな? そうすりゃ戦況なんぞ、すぐにわかるでしょうよ」
「っ……し、しかし、私ごときは文官の身……武をもって幕府に尽くす術を、生憎と習熟しておりません。然るに、この身に適う術とあらば……親軍に従軍し、物資補給の御用立てをお勤めするのみと――――」
「それは卑怯だな」
ぴしゃり、と言い放つ声のする方へと目を向ければ、土方が療養している部屋の襖が薄く開かれたままになっており、声は当然の事ながらそこから漏れ聞こえてきている。
土方が意識を取り戻した事をどこからか聞きつけたのだろう。それでもまだ、起き上がる事はおろか枕から頭を離す事さえままならない状態だと言う事に変わりはない。
だからこそ今の土方には、話をする事よりも何よりも療養こそが必要だと、良順も繰り返し面会を求めてきた者には繰り返していた。そんなに戦の事が知りたいのなら、それこそ土方の言うように、自らも戦場に出て直に知れば良い。
そうすれば軍人だ、文官だのとのんきな事は言っていられなくなるのに……。
例えそれが極論であるとしても、そう、千鶴は思わず盆を持つ手に力を込め、知らず唇を噛み締めずにはいられなかった。
その間も、土方と望月という恐らくは幕臣らしき相手との、ともすれば一触即発とも伺える険のある会話があくまでも静かに流れていく。けれども容易にその間に割って入れる雰囲気でもなく、完全に入室の機会を逸してしまった千鶴はさて、どうするべきかと手にした盆を見下ろし、思案を巡らせかけた時だった。
「私も、かつては兵書などを嗜みましたが……勇猛も卑怯もそれは単に兵の勢い、強き弱きは軍形にて、用兵に優れた将であるならば、戦の情勢によっては兵を引かせる事もまた、一つの戦略と言えますでしょう。……【臆病】も、使いどころがあると言う事です」
気圧されたままでは文官としての矜持が許さなかったのか、途中から得意げに望月が語り始めた軍事談らしきその内容に、知らず盆を持つ手が強張っていく。
「過日、先生が力戦され、味方にとっては望みを繋ぐ要路である宇都宮を見事奪取されたわけではありますが」
――――…やめて。
「長くは持ち堪えられず敵に返す事となってしまった事、私はまことに惜しい事と存じます」
――――…それ以上、そんな風に言わないで……
鉄錆びた血と、焼けた火薬のにおい。
降り注ぐ銃声、鳴り響く鋼と鋼のぶつかり合う音に、地を揺るがす檄の声。
あの、戦いの最中にいた千鶴にはわかる。それがどれ程の痛みと、苦しみと、そして人の想いがぶつかり合いせめぎ合って成し得た事なのか。
言葉では語り尽くせない、どれほどの激しさを伴ったものか。
「流石にこれを奪回するのは至難の技かと」
それを……同じ幕府に仕えるはずのその口が、まるで軍事書でもそら読みするかのように語り、そしてさも「何を偉そうに言ったところで、結局宇都宮を奪い返されてしまったではないか」とあてこするような物言いで、実際に指揮をとり、そして血を流した土方に向けるのか。
「しからば……先程私を卑怯とおっしゃられた先生もまた、【怯懦(きょうだ)】と言わざるを得ないのではと…――――」
怯懦――望月の口から、土方に向けて吐き出された【臆病者】を意味するその言葉に、かっと血がのぼる勢いで千鶴の視界が赤く染まった気がしたその刹那。
襖を通してさえ、肌で感じる空気が一瞬にして変化した。
「黙りやがれっ!!」
原田×千鶴 サンプル
「海を越えねぇか?」
初め、夫が口にした言葉の意味が千鶴には判らなかった。
晩秋。
周囲の木々の葉が色深く染まり、鮮やかな色を描く冬へと向かう季節。
彼と夫婦として共に暮らし始めて既に数ヶ月、その期間の流れが早かったのか遅かったのかは千鶴には判らないが、彼との二人きりの生活にようやく慣れた、彼がそう言い出したのはそんな時だった。
彼の前に夕食の膳を用意し、湯気の立つ味噌汁を手渡そうとした時に紡がれた言葉は千鶴にとって余りにも唐突かつ、予想の範囲を超えていて、出来た事は一瞬ぽかんと目を丸くすることだけ。
そんな千鶴の様子に左之助も自分の言葉が唐突過ぎた事に気付いたらしく、悪い、と謝罪と共に彼らしい晴れやかな笑みを浮かべて見せる。
「この国を出て、大陸へ行かねぇか」
改めて言い直された言葉を聞かされて、ようやく千鶴も海を越えようと言った意味が理解出来た。
小さな島国である日本の周囲には多くの国や大陸があるという。
千鶴には上手く想像することが出来ないが、彼の言う通りに日本を出て異国へと旅立つ者たちは年々増え、もはや小さな島国の中だけでは収まらない異国文化が流れ込んで来ていると聞いた。
幕府が倒れ新政府が立った今の世は、これから先ますますその傾向は強まり、日本人の多くが異国を目にするようになるだろう。
その中で最も多くの日本人が海を渡って向かう先は、島国のすぐ隣にある大陸だという。確か、満州と言っただろうか。
「ちっと長旅になるが、それも悪くはねぇだろ?」
「………でも、どうしてこんな、突然」
自分の尋ね方が不自然にならぬよう、千鶴としては気をつけたつもりだ。彼が異国に対して良い意味での好奇心と興味を抱いていることは見ていれば判る。そんな彼の気持ちに水を差したくはない。
けれど少し声がうわずってしまったかも知れない。
つまりはそれだけ、思っても見なかった事に動揺したと言う事でもあるが、幸いな事に左之助は気付かなかった様子だ。
ああ、と頷いて笑う笑顔には戸惑いや躊躇い、迷いなんてまるで見えなくて、それが彼が千鶴に意見を求める問いかけのような姿勢を取りはしたけれど、彼の中では既に決定事項である事を教えている。
「実は突然って訳でもねぇんだ。以前から考えてはいた、旧幕府軍だ、新政府軍だってまだ騒がしいだろう。これから先しばらくはまだ落ち着きそうもねぇ…一応俺の名前もそこそこ売れているみたいだしな」
確かに元新選組十番組組長、原田左之助という名前は決して小さなものではない。
新選組に連なる人間やその家族の元へは度重なって新政府軍の厳しい取り調べが及んでいると聞くし、もしも捕らえられるような事があればただでは済まないだろう。
最悪処刑されるか、例え命を取られるというまでは行かないかったとしても、二人引き離されて投獄される事は間違いないだろうし、そうなればどれ程の年月を無為に過ごすこととなるか。
その間千鶴はひたすらに左之助の戻りを心許ない一人きりの身の上で待たねばならず、その間の生活も身の安全も保障されるものではない。
また左之助はあえて口にはしなかったが、千鶴の鬼であるという素性も、少なからず彼を警戒させる要素になっているはずだ。
鬼の存在を新政府軍は恐らく良くは思わない。隠れ住む、自分達とは違う存在の者を迫害し、狩ろうとする動きだっていずれ出て来るかも知れない……異端はそれだけで罪だから、と。
侍も農民も町民も何の区別もない平等な世が訪れるとは言っても、やはり一部の権力者が幅を利かせることには違いないし、そう言った者たちから見れば旧幕府軍に力を貸した、恐るべき人斬り集団新選組の幹部と鬼の娘などと言う存在はまさしく、敵以外の何者でもないはずである。
綱道を倒して以降、旧幕府軍と新政府軍との戦いを避けるように点々としてきたが、身を潜めながら政府軍の目を気にして続ける生活は確かに過ごし良いとは言えなかった。
旧幕府軍と新政府軍の戦いはまだ終わらずに続いている。つい一月ほど前に会津が降伏したというが、その戦いで会津藩は多くの犠牲者を出し、そしてその犠牲者は遺体さえ葬ることを許されていないと聞く。
彼らの死に様は相当に無残なものであったようで、その死者達の者の中に自分達も良く知る心優しくも口数の少ない、左利きの居合いの達人だった男も含まれると聞いてしばらくは、まともな言葉も出ないほどに泣き過ごした記憶はまだ新しい。
沖田×千鶴
それが、【音】ではなく【気配】なのだと気付いたのは、いつからだったのか。
「……もうすぐ雪が降るね」
一段と厳しさを増す冬の寒さに予感のようなものを覚え、締め切っていた戸板の隙間から空を眺めやって呟いた沖田の言葉に、縫い物の手を止めた千鶴が顔を上げ、その背を振り仰いだ。
「雪、ですか?」
「うん。たぶん、だけど」
「それは……大変ですね」
何やら真剣な面持ちで思案し始めた千鶴が、さしてその沖田の言葉を疑いもしていない様子なのは、そういった沖田の持つ【勘】の類を信用しているからなのだろう。
からかいや冗談が過ぎるとは言え、その一種神がかったような沖田の勘の鋭さは、あの斎藤でさえも一目置くほどで、それが彼自身を天才たらしめている要素の一つである事は、これまでの実績からしても疑いようはない。
けれども沖田としては特に確信があるわけでもなく、ただそんな気がする、という程度の事を、わざわざ口にするような事はこれまであまりしなかった。言ったところでどうなる事でもなく、また、何より面倒だから、と言うのが最大の言い分である。
それでも、特にこうした天候の類となると何となしに口をついて来るようになったのは、ここしばらくの事だった。
しばしの思案の末、途中で止めた縫い物の道具を片付けだした気配に沖田が振り返れば、丁度立ち上がった千鶴と視線が合わさった。
「出かけるの?」
「少し、畑に手を加えに行くだけです。雪が降るなら、何かで覆っておかないと折角のお野菜が台無しになってしまいますから」
「手は必要?」
「それ程広い範囲じゃありませんし……。近い内にやっておかないといけないと思って、ある程度の準備だけはしておきましたから」
だから大丈夫です、と笑って応える千鶴に短くそう、とだけ応じると、早速とばかりに上着を取り出し羽織って出掛けて行くその小さな背を、沖田は軽く手を振って見送った。
ぱたり、と戸が閉まるまで振っていた手が、貼り付いていた笑顔と共に静止し、しばしの沈黙を経て微かな溜息に変わる。
「……つまらないなぁ……」
つい今しがた、千鶴が出て行ったばかりだと言うのに。もうそんな風に思ってしまう自分に多少呆れつつ、沖田はもう一度空を振り仰いで、その暗い色合いに透明な眼差しをふっと細めた。
千鶴と共に、千鶴の生まれ故郷だというこの東の鬼の隠れ里に住むようになってからもう、どれくらいになるだろう。
土方と袂を別ち、そして千鶴にとっては育ての親や肉親とも決別したのは、この夏の事だった。
その後、死の間際に正気を取り戻したのだろうか、それともそれが、育ての親とは言え父が見せる、最期に残された娘への愛情だったのかは既に確認する事は叶わないが、この陸奥の地の水を飲み、毒素を薄めれば、身体とそして心をも蝕む羅刹の狂気を抑える事ができるだろう……そう言い残した綱道の言葉に半ば縋るような形で従い、この人里離れた地でひっそりと二人だけの生活を始めていた。
そして、日々千鶴が料理の腕に磨きをかけつつ努力を重ねた結果だろうか。羅刹である事に変わりはなくとも、二人の身体を侵していた狂気の毒は次第に薄れ、眠る時間帯も昼から夜へと移り行き、現在は生活の面ではほぼ、普通の人間と変わらないところまで戻る事ができていた。
あれ程頻繁に訪れていた血を欲する衝動も、ここしばらくは二人共に訪れてはいない。
もしかするともう二度と訪れる事はないのではないか、とそれを一番喜んでいたのは千鶴だった。
京での明日をも知れない殺伐とした日々とは全く違う、まるでぬるま湯の中に身を浸したかのような穏やかな時間の中で、唯一同じ色鮮やかさで目の前にあるその微笑みが、硬く骨ばった沖田の手を取って何度も「良かったですね」と繰り返す度に、「そうだね」と応えてきた。
その、まるで他人事のような反応に、千鶴はいささか不満そうに眉根を寄せて軽く沖田を睨んだけれども、やはり嬉しさの方が大きいのだろう。すぐに目元を綻ばせて、その温もりを……生きている沖田の存在を確かめるようにそっと、掌を頬に押し当て淡く笑う千鶴に沖田も微笑みを返し、そして応えるように互いの熱を分け合った。
そうして喜びと、そして熱を分け合い求めながらも、縋りついてくる千鶴の腕の中に微かな【不安】も共に抱えている事を沖田は無論気付いていた。
変若水によって克服したと思っていた労咳が、ただ、その強靭な生命力と体力によって抑えられているだけだ、という事を告げられてから今日まで、沖田自身もしその変若水の毒が消えないまでも薄まり弱まればどうなるのか、考えなかったわけではない。
けれども日々、羅刹の影響から脱していくにつれて大きくなっていくそれから、まるで文字通り目を逸らすように組み敷く沖田の下で、ただ必死に与えられる熱を、確かにここに居るというその存在感を快楽と共に受けとめる千鶴を目の当たりにする度に、それほど思い悩む事はないのに、と実際何度告げかけただろう。
元より、病などがなくともいつ命を落とすかわからない日々の中に身を置いていたため、【死】自体を恐れる事はなかった。
確かに、刀を交えた戦いの中ではなく、近藤の役にも立てないまま病で命を落とすのは何よりも苦痛で、刀すらまともに振れない己の身体を歯痒く思っていたけれども、本来ならばそれで無念を残しながら死ぬはずだったのを、変若水を飲む事で再び刀を握れるまでになったのだ。
色々と、失ったものもある。
手放したものもある。
死ぬよりも狂う方が先なのではと思う、病とはまた別の苦痛に苛まれる事はあったけれども、それでも沖田は自身で選んだこの道を、今でも後悔してはいない。
むしろ…―――
「――――…むしろ、自分で自分を褒めてやりたいくらいだよねぇ……」