紅華乱舞発行 RINKOさんとの合同誌
薄桜鬼 斎藤×千鶴 R-18になります。
通販はRINKOさんサイトで行ってくださいます♪




回、RINKOさんと話の流れが続いてますが、別に狙ったわけではありませんから(笑)
偶然です、偶然(笑)
GWで長すぎるからと後回しにしたネタを今回書き上げました。
時間軸は天華が会津戦争後(離別)〜再会するまでの話になります。
RINKOさんは同居生活〜祝言までです。




以下は本文 序章一部伐採・・・じゃなくて、抜粋。
なして一部かって?これ以上は指定なのよ!!(大笑)





コメントに書き忘れているのだけれど、序の冒頭で書いた話は・・・サイトで掲載したネタです(笑)

















「斎藤さん? 幾ら暖かくなってきたとはいえ、髪が濡れたままでは風邪を引きますよ?」
 一人ゆったりと風呂を堪能した斎藤は、縁側を歩いて戻る途中、まばゆいほどに輝いている月を見上げ、足を止めていた。
 どの地で見ようとも空に浮かぶ月の姿はけして変わらない。冷たく感じる淡い光を腕を広げるように地上に注ぐ。夜ごとその姿を変えながらも、肌に触れる光は変わらない  昼に姿を見せる焼くような陽の光とは違い、優しく肌を撫でるように。
「ずいぶんと風が心地よくなってきたな」
 時は移ろい明治三年四月  江戸から少し遅れて会津にも遅い春が訪れていた。
「心地よいじゃありません、風邪引かないうちに髪をしっかりと拭ってください。春になったとはいえ夜になるとまだまだ冷え込むんですから。ほら、こんなに冷たくなっているじゃないですか!」
 千鶴は無造作に手に持っていた乾いた手ぬぐいを斎藤の頭の上に乗せると、無遠慮までにガシガシと髪を拭っていく。
 だが、その手つきは優しく地肌を労るように触れてはくれているのだが、いかんせん身長差はどうしようもない。
 幾ら斎藤が男の中では・・・いや新選組の中では小柄な方とはいえ、千鶴とは身長差もある。かなり強引に下を向けさせられれば当然首に負荷がかかった。
 それでも手を振り払わず自分でやらないのは、文句を言いながらも千鶴の顔が真剣そのもので、その顔を間近で見ていたいという欲求の方が強かったからだが、ふと以前もこんな事があった事を思い出す。
「斎藤さん? どうしたんですか?」
 ふいに口元に笑みを浮かべている事に気がつき、千鶴はガシガシ動かしていた手を止めて、斎藤を不思議そうに見上げる。
「以前も同じように髪を拭って貰ったことがあったことを思い出した」
 千鶴は数度瞬きを繰り返し昔を思いだそうとするかのように視線を宙にずらす。それは僅かなずれでしかなかったが、背景に月を見て思い出す。
 あの夜も、月が斎藤を照らしていた。
 今のように  いや、今だけではなくずっと、月は斎藤を静かに照らしている。いつの夜も。
 今は優しく微笑を浮かべる斎藤を見上げ、千鶴は鼓動が少しずつ早くなってゆくことを感じずにはいられなかった。正直に言えば落ち着かず意味もなく逃げ出したくなるような衝動にもかられるが、それよりも以前には見ることの出来なかった、穏やかな表情を浮かべる斎藤をずっと見ていたくて見つめる。
 あの時は、こんな穏やかな時を共に過ごせるようになるとは思いにもよらなかった。
「  私が屯所でお世話になり始めた頃のことでしたよね。寒い京の夜だというのに、冷たい井戸の水で血を洗い流している斎藤さんを見かけてびっくりしました」
 あの時の事を思いだし千鶴は思わずため息を漏らす。いちばん冷え込む時間帯に水を被るなんて正気の沙汰とは思えなかったのだ。
「ああ、そうして俺はお前に怒られた。冷たい水を浴びるとどんな壮健な人間でも、心の臓が突如止まることがあるのだと」
 烈火のごとくではなかったが、あの時の千鶴の口調に反論する余地はなかった。
 止めることも出来ずただ言われるがまま、されるがままになっていたことなど、斎藤の記憶の中でもそう多いことではない。
 まして、知り合って間もない人間ともなれば、なおさらだが、あまりにも真摯な態度に振り払うことなど出来なかった。


 あの頃の千鶴は新しい環境になじめず、眠れぬ夜を過ごしていたことを斎藤も知っていた。
 当たり前だ。まだ15の少女がいきなり訳のわからない  それも、ちまたでは血に飢えた殺戮集団とも噂され怖れられていた男達に連れられたあげく、口々に口封じのために殺されるような事を示唆されたのだ。
 あの場で取り乱さなかったのが不思議な程、千鶴は取り乱すことなど一度もなかった。
 普通の娘なら咽び泣き、生き別れとなってしまった父を恋慕い、己の置かれた環境に恐れ戦き、恥も外聞もなく助命を請うていただろう。
 だが、斎藤は一度も泣き言を聞いたことがない。
 眠れぬ夜を過ごしていたとしても、弱音を口にする女ではなかった。
 強い女だと思った。
 その心根が真っ直ぐでだが、柔軟でしなやかで・・・だからこそ、気がつけば囚われていた。
 己を真っ直ぐ見て逸らされない双眸に。
「斎藤さん? どうかしましたか?」
 何も言わずじっと自分を見下ろす斎藤を見上げ、千鶴は微かに首を傾げる。名を呼んだ直後、突然と言って良いほど斎藤が柳眉を顰めたのだが、なぜそんな顔をするのか千鶴には判らない。
 遠慮無く髪を手ぬぐいで拭ったことが不快に感じさせたのだろうか? だが、最初は昔を懐かしむように苦笑を浮かべていた。不快に感じている様子はなかったのだが  今は明らかに機嫌が悪そうだった。
「なぜ、斎藤と呼ぶ?」
「は?」
 千鶴の疑問には答えず、斎藤は千鶴の頬を片手で包みながら、先ほどから引っかかっていたことを口にするが、思いにもよらない問いに千鶴はきょとんとして首を傾げる。
「何でといわれましても  斎藤さんは斎藤さんですよね? えっと、一ノ瀬さんとお呼びしたほうが宜しかったでしょうか?」
 政府軍に投降した時、斎藤は一ノ瀬伝八と名を改めていたのだが、今もその名で呼んだ方が良いのだろうか? と疑問に思ったのだが、斎藤は千鶴が『一ノ瀬』と呼んだとたん嫌そうに顔を顰める。
「そうではない」
 ではいったい何なのだろうか?
 意味が判らず眉を寄せながら考え込んでいると、斎藤は一つため息を漏らし、おもむろに行動に移す。
「さ、さいとうさん!?」
 いきなり顔をよせられたかと思うと耳朶を軽く甘噛みされ、思わず身を仰け反らせて距離を開けようとするが、それよりも先に肩をぐいと掴まれて逆に引き寄せられる。
 まるで、血を啜っていた時のように、舌先が耳朶をなぞってゆき、吐息が耳にかかるたびに、腰の奥から背筋を寒気にも似た何かがはい上がってくるのが判り、千鶴は思わずぎゅっと目を閉じて斎藤にしがみつく。
「褥では何度も名を呼んでくれていたが、なぜ斎藤に戻る?」
 掠れた声が紡がれる度に、熱い吐息が耳に首筋にかかる。
「あ・・・・あ、あの  
 急に何を言い出すのかと思ったらとんでもないことを口走る斎藤に、千鶴は真っ赤になって口を何度も音もなく開閉させる。
 名を呼んだ。
 確かに、何度も・・・いや、呼んだのかどうか実は定かではない。
 何も考えていられなくて、ただひたすら斎藤を呼んでいた  ような気はする。
「お、おぼえてませんっっっ」
 真っ赤になりながら俯いて叫ぶと、斎藤は顎に指をかけて仰向かせる。
「覚えてないのか? 何があったのかも?」
 わざわざ問わずとも、そんな分けがないことは斎藤も良く判っているはずだ。
 なにより、あの夜のことを思い出したのか、顔と言わず耳と言わず項まで真っ赤になっている様子を見て、何も覚えてないと叫ばれたとしても信じられるわけがない。
 だが、判っているはずだというのに斎藤は何も判らないと言わんばかりに千鶴の名を呼ぶ。
「千鶴?」
 熱を帯び掠れた声が名を呼ぶ。
 答を求めるように瞳が細められ、唇をなぞるように親指が触れ、言葉を促す。
 覚えていないわけがない。
 あの夜  新しく未来が始まった日のことを、忘れられるはずがない。


「忘れられるわけが  ないです」


 蚊が鳴くような小さな声で呟くのが精一杯だった。
 顔を真っ赤にし視線を俯きがちにしながら告げられた言葉にも、羞恥以上の熱が籠もっていることを、斎藤は指先で感じる。
 そのまま親指をゆっくりと動かし、柔らかな唇をなぞる。
 微かに開いた唇の隙間から、白い歯に触れると、千鶴の身体が微かに震えた。
 それ以上の接触はない。
 だが、二人とも肌で感じていた。
 互いの熱を孕み空気が少しずつ変化し始めて居ることに。既に互いしか見えなくなっていることを。邪魔するものはこの場には何もない。
 遠慮しなければならないことも何もない。
 何かを求めるように細い腕が伸び、斎藤の袂を握り締め、刀を握り続けていた腕が囲むように腰に伸びる。
 距離は瞬く間になくなり、触れていた指さきの変わりに少し冷えた唇が探るように重なりあい、自然と千鶴は目を閉じる。
 こうして斎藤と交わす口づけは幾度目になるだろうか。もう千鶴にも判らない。ただ、いつも思い出すのはあの夜  初めて、唇を合わせた夜のこと。
 初めて交わした口づけは死地へ出向く前に交わしたものだった。
 これから先どうなるか何一つ判らない。いやむしろ絶望しか先に見えていなかった、あの時どれほど思ったことだろうか。この口づけが将来を約束するものならどれだけ良かっただろうかと。
 だが、幸せにさせてくれた。
 例え絶望しかなくとも、共にあれる事を。
 最後まで共に在ることがあの時の自分の最大の望みだったから。それ以上の望みはなかった。ただ、ひたすら最後の時まで共に在りたいとしか  
 それからいつ果てるか判らない激戦の中、幾度口づけを交わしてきただろうか。
 覚悟を決めた死地で、互いの温もりを、生きていることを確かめあうように時には優しく、時には荒々しく交わされてきた。
 だが、それ以上の交わりを持つことはなかった。何度か関係がより深くなりかけたことはあった。だが、その都度彼はその強靱な理性でもってやりすごしていた。
 なぜ、斎藤は自分に手を出さないのか、千鶴にはその真意は今もわからない。
 命を賭して皆が闘っている中、斎藤一人が女を抱くわけにはいかないと思ったのか、千鶴一人が生き残った場合の事を考えて手を出さなかったのか判らない。
 だが、おそらく両方とも当てはまるような気はしていた。
 あの夜・・・別れざる得なくなった夜、斎藤は自分を待つなと言い捨てて居たのだから。
 だが、今更斎藤のことを忘れられるわけがない。
 他にどんな素敵な男性が現れたからと言って、この想いが消えるわけがなかった。
 ただ、ひたすら待ち続けた。
 彼が真実自由となるその日まで  


 忘れるわけがない。
 いや、忘れられるわけがない。
 願って・・・夢を視て・・・ひたすら、この人が戻ってくるのを待ち続けていたのだから。


「忘れられるわけが  ないです」