新しく購入した別荘で、ポルターガイストが起こるから調査して欲しいと依頼が入る。
 人の訪れる事のない白樺の林の奥にひっそりと佇む別荘。
 そこは都会の喧噪を忘れるために作られた憩いの土地だった。
 誰にも荒らされたくない。自分一人の安息の地。その思いに囚われた霊が起こす激しいポルターガイスト。
 それは、麻衣達の上にも襲いかかる・・・


というような感じ?







  本文・序章より






 
 人と人との繋がりを何よりも大切にしてきた。
 例えどんな人との出会いもけして無駄にはならないと信じて。縁は縁を呼び、それは豊かな人生を作り出すと信じて来た。
「融資をどうか御願いします」
 その女は額が床に着かんばかりにまで土下座をして、己の息子ほどの年齢の男に助けを請うた。
 女の会社は、このまま行けば倒産を免れない状況まで逼迫していた。なぜここまで経営が悪化したのか判らない。ただ、気が付いたら手の施しようがないほどの状況になっていた。
 このままでは残るのは残りの人生をかけても払いきれないほどの借金。
 自分一人の問題で済むのなら、会社を素直にたたんで新しい人生をもう一度ゼロから始めただろう。だが、女は会社を経営する人間だった。大会社ではないが少なくはない・・・女にとっては家族同然の大切な社員が大勢いた。
 彼らをこのままでは路頭に迷わせてしまう。
 せめてそれだけでも避けなければならない。
 先祖が築き上げてきた会社を己の代で潰すのも面目が立たないが、己の面目よりも生きている人間の糧を潰すわけにはいかない。
 だから女は精力的に融資先を探し歩いていた。
 だが、どこもかしこも首を振る。
 女の事業を助けても一文の特にならないから。
 下手に融資をすれば己の所にも、波紋が広がりかねないから・・・そのためどの取引先も無常に首を左右に振り、銀行も苦笑を浮かべるだけで救いの手を差し伸べてはくれなかった。
 それでも女は諦めなかった。
 まだ、全てを諦めるのは早すぎる。
 心当たりはまだ他にも残っているのだから。
 縁は縁を呼ぶ。
 そう父から教えられた事を信じ、女は救いを求める者を拒むことなく様々な援助をしてきた。
 大成せず夢を諦めた者もいる。だが、中には見事夢を果たし大成した者もいた。
 その中には今では社会的な地位も築き、援助を請えるだけの財をなしている者もおり、季節の変わり目など近況を報告してくれていた。
 恩を着せるつもりはない。
 下心があったわけでもない。
 だが、それでも一縷の希望を抱いてしまう。
 昔助けた恩を返してくれることを・・・・
 だが、現実は女が望むとおりにはいかなかった。


「貴方には感謝をしています。
 あの時貴方の援助があったからこそ、私の会社は持ち直し今では大企業と肩を並べるまで成長することが出来ました。
 ですが、まだ他社の援助を出来るほど余裕はないんですよ。
 今のご時世どれほど厳しいか貴方ならおわかりでしょう。
 原油高が続き、物資の値上がりがいつまで続くか判りません。アメリカの経済状況もどう動くか判りませんし、我が社も現状を維持するのが精一杯なんですよ・・・世界恐慌になってないのが不思議なぐらいですからね。
 大変申し訳ないが、他をあたっていただけないでしょうか」


 昔のことは昔のこと。
 今は今。
 そう言われて簡単に見捨てられてしまうことに、女は唇を噛みしめる。
 あの時自分が援助をしなければ潰れていた会社のくせに・・・
 罵倒が喉の奥からせり上がりかけるが、必死にそれを押さえ込み、余計な手間を取らせてしまったことだけのわびを残し、部屋を出て行く。


「見込みのないところに援助できるかっての。今更昔の事を出されても、こまるよなぁ・・・・・だいたい、あれほどあそこには手をださないほうが   」


 ぼそりと呟かれた言葉が胸に突き刺さる。


 縁は縁を呼ぶのだから、大切になさい  


 父の言葉が否定される。
 縁を自分は頑張って築いた。
 情けは人のためならず 己のため。
 そんな理由で助けて来たわけではない。
 だが、それでも期待はしていた。
 昔助けた人達が、ここぞとばかりに自主的に集まって助けてくれるのを。
 今度は自分達が貴方を助ける番です!と言って駆けつけてくれるのを。だが、それはただの甘えでしかなかったことに漸く気が付く。
「誰も来やしない・・・・」
 それどころか訪ねれば露骨に嫌な顔をし、苦笑を浮かべながら皆同じことを言う。
『昔助けて貰ったことは感謝してますが  』
 感謝しているなら、助けてくれてもいいのに・・・
『ですけどね  』
 そう続く。
 自分が困ったときは援助を求めてきたというのに、いざ自分が援助を請われると出し惜しみしだす。
「縁なんてどこにもないじゃない・・・・」
 父の言葉に惑わされて、いいように人に利用されるだけされて、搾り取られて・・・・自分の手の中に残った物など何一つない。
 重い足取りで会社に戻れば、明るい笑顔で迎えてくれた従業員の姿もなく、シンと静まりかえっていた・・・いな、ひっきりなしに電話が呼び出し音を響かせている。
 まるで台風が通り過ぎた後のように荒れた事務所を無造作に通り抜け、電話に繋がっているプラグを全て引き抜く。
 一本引き抜くたびに、電話の音が一つ消え、五分と経たないうちに静寂が満ちる。
「・・・・・・・・・・っふふふ・・・・・・・・・・・・・」
 鳴り響く電話が朗報のわけがない。
 取引先やら仕事関係からの問い合わせの電話。借金取りからの電話・・・・取っても取っても鳴りやむことなく、延々と鳴り続ける。
 とうとう電話対応が嫌になって従業員は逃げ出した。
 給料も払えて無かったのだから逃げられても仕方ないのだが・・・・・・・・
「縁なんてどこにもないじゃない・・・皆、私を見捨てるんだもの。
 繋がりは一方通行で・・・ただの一つも私とは繋がってなかったわ」
 女はほの暗い目で室内を見つめる。
 今週中に融資先を見つけ出せなかったら倒産。
 そうなれば全ての財産を処分しなければならなくなる。
 家も、会社も・・・大切なもの全てを・・・・・・・・・・
「あと五日で全てを失うなら・・・・・・・・」
 女はふらりと事務所に背を向けて歩き出す。
 暖かな思い出の残る土地へ。
 優しい記憶しか残らない場所へ向かうために。



 あそこなら、全ての煩わしさから解き放たれる。
 そこで全てを忘れて、
 現の何もかも忘れて、
 あそこでひっそりと眠りましょう。




 何もかも忘れて・・・・・・
 疲れた身体を癒そう。