久方ぶりの見事な五月晴れのとある日、たまりにたまった洗濯物を千鶴はせっせと片づけておりました。
 江戸を遠く離れ京に腰を落ち着けて早数ヶ月。まだ外出はままならず、ただ部屋でじっとしていろと言われた日々。ですが、15才というもっとも体力も気力もある年頃。いくら娘とはいえ、なにもすることのない部屋でただひたすらヒッキー同然の生活を送るというのは苦痛というもの。
 と、いうことで、いつの頃か差し障りのない家事という名の雑用を任せてもらうことになったのでした。
 もっぱら、幹部達の食事の支度や、差し障りのない範囲での掃除、あと山のように放置されがちな、洗濯物。
 これらに関しては感謝されることはあっても、文句を言われることはありませんでした。
 特に山のような洗濯物・・・
 新選組の隊員達は比較的若い世代が多うございます。
 ええ、皆様言わずともおわかりですね?
 若い男というものはえてして、汗くさい物でございます。
 まして、日夜剣術を初めとし槍術や武術など鍛錬に鍛錬を欠かさず行い、さらに市中見回り。捕り物などで身体を動かさない時間の方が短いのではないか?というほど身体を動かしております。ということは春夏秋冬問わず否応にも汗をかくというのが自然の摂理というもの。となれば、一晩放置されただけでもすてっきーな臭いを醸し出しているものでございます。
 麗しいあの鬼の副長ですら例外ではございません。


 男という物は若かろうが年寄りだろうが美形だろうが、そうでなかろうが問わず臭い。ものです。はい。夢も浪漫も幻想も減った暮れもございませんとも。






閑話休題






 この日もざぶざぶざぶざぶ、まだ冷たい井戸水で隊服の一つ一つ丁寧に洗っては、皺を綺麗に伸ばして干していきます。この後は、ほころびがあれば乾いた後に縫い、隊服にはコテを当ててびしっと形を整えます。
 幹部たる者。よれよれのしわしわの隊服なんてきせられませんから。
 ええ、貧乏な浮浪浪士隊なんて陰口なんて言わせません。
 

 一通り洗い終えた千鶴は、「う〜ん」と唸りながら腰を伸ばして背を逸らします。
 仰け反ると青い空と、色とりどりのふんどし(これは、天華のmy・設定。気になる方はWebログをご参照くださいませ/笑)が、パタパタと見事なまでに棚引いております。
 パタパタパタパタ。
 幹部数人分とはいえ、その洗濯物は十分な量があるため壮観な眺めになります。
 全て洗い終わった頃には太陽もすっかりと上り、一仕事を終えた千鶴はお茶でも飲んで一服した後に、お昼の支度にでもかかろうか。そう思ったときのことでした。
 外出先から戻ってきた土方さんと、廊下でばったり鉢合わせたのでございます。


「お帰りなさい。すみません、お帰りに気がつかなくて、足洗いようのお水用意してませんでした」


 袖をたすきがけしていた千鶴は紐をほどきながら問いかけると、土方さんはちらりと庭の様子を見て、千鶴が何をしていたかを把握すると、「いや、かまわねえよ」と簡潔に答えます。
 千鶴はとっさに足下を見て、いつもははいている足袋がなく素足な事を確認します。
 汚れたので土間で脱いでから上がってきたのでしょう。


「今日は暑いくらいなので喉が渇いてませんか? お茶お入れしますね」


 土方さんの視線が洗濯物を一巡りし、ふと再び最初に戻りまた一巡りしていることに気がつかない千鶴は、足袋に泥がついてないか確認して縁側に上がるところでした。


「洗濯してたのか?」


 見れば判るような事を問うのは珍しいな。と思いながらも千鶴は素直に「はい」とよいこのお
返事を返します。


「おまえのは一緒に洗ってねえのか?」


 さらに妙な質問をするな?と首を少し傾げながら、千鶴はその問いには「いいえ」と否定の答を返します。


「奥の方に干させて貰っています」

 奥の方には確かに千鶴が普段はいている袴と着物、小さめの足袋や、湯文字変わりに使っている少し丈の短いふんどしが遠慮がちに棚引いています。
 男所帯の新選組で女物である湯文字を干すわけにはまいりませんので、仕方なく短めの褌を用意して肌着として使用しておりました。
 ですが、そこにあるものが足りないことに土方は気がつき、気になっていたのです。


「おめえ、さらしは洗わねえのか?」
「さらしですか?原田さんのでしたら、長かったのであちらの方に干してますけれど」


 普通に干したのでは丈が長すぎて地面についてしまうため、普段原田が使用しているさらしは、別の場所に地面につかないように工夫して干されていました。が、そこにはどう見えも原田一人の分しかありません。


「いや、原田のことじゃねえよ。おまえのだよ」
「え?私のですか? 私、さらしなんて使ってませんけれど?」


 土方がなぜそんな質問をしてきたのか判らない千鶴は小首を傾げて土方を見上げます。
 自分を見上げる二つの漆黒の双眸を、土方の紫眸がじっと見返します。


「使ってねえのか?」
「はい、え? 原田さんのようにお腹に巻いた方がいいですか?」
「いや、そうじゃねえ。って、本当に使ってないのか?」
「え・・・ええ・・・使ってません。けれど・・・」


 何度も何度も念を押すように問いかけられれば、悪いことなど何一つしてなくても、人間誰しも不安になるというものです。
 まして、目の前にいるのは新選組副長の土方歳三。
 泣く子も黙る土方歳三。
 百戦錬磨、手練手管ならお任せの島原のおねーさまがたもついうっかり本気になりかねない、土方歳三。
 まだやっと15になったばかりの小娘が、間近からじっと凝視されて、その美貌・・・もといい、視線に耐えられるわけがございません!!
 後ろ黒いことなど何一つないというのに、そわそわと落ち着きがなくなるのも至極当然。一瞬にして過去のあれやこれ・・・別に心当たりなどないのですが、ここへ来てから過ごした日々が走馬燈のように蘇るというもの。


「あ・・・・あのぉ・・・・」


 うわーん。誰か助けて!!
 と、叫んで回れ右をしたくなるのを必死に堪えながら、絞り出すように呟きます。
 ですが、土方さんはそんな千鶴の様子など構うことなくじっと凝視します。
 目と目が合っている。


 ようで、合っていない?


 ような気がしましたが、もう土方さんが「どこを」見ているのかなんて、考えていられる余裕は千鶴には在りませんでした。

 土方さんは、「はぁ」とため息を一つつくと、千鶴の年を尋ねて来ました。


「おまえ、いくつになったんだ?」
「は?15ですけれど」


 さらしの話からなぜ年の話になるのか今ひとつ、土方さんの展開について行けない千鶴は疑問符を頭の上にこれでもかというほど並べながら答えます。


「15か・・・まぁ、まだまだこれからだな」
「は?」
「今日の夕飯は、小魚にしてくれ」
「小魚ですか?」
「頭からしっぽまで骨ごと食えるやつだ」


 日々、色々な問題に頭を抱えている土方さんは、常にピリピリとした空気を纏わせております。
 カルシウム不足かな?(←そんな概念この時代にはあるわけないですが)
 千鶴は、珍しく土方さんが夕飯の献立を注文してきたのです。「否」と言えるわけがございません。満面の笑顔を浮かべて副長からの指示を承ります。


「判りました。小魚をたくさん用意しておきますね」


 千鶴は、これで、この訳のわからない状態から脱出できる!
 そう察すると、いそいそと土間の方へと向かったのでした。




























 そして、その夜。




 土方さんの注文通り、食卓には小魚が串にささって炭火でじっくり焼かれた魚が山のように皿の上に盛られて置かれていました。
 むろん、それだけで食べ盛り(・・・はすぎているとおもいますが)、働き盛りの男達の胃袋を満足させるわけがございません。
 他に、アラと大根を煮たものや、芋の煮っ転がし、青菜のおひたし。アラ汁、漬け物などをたっぷりと用意しましたが、みるみるうちにそれらは幹部達の胃袋に納められていきます。
 毎度の事ながらその食べっぷりは壮観で、どうしてお腹がぽっこりでないんだろう?と首を傾げてしまいたくなるほどの食欲でした。
 千鶴は自分の前に確保したおかずとご飯をちびちび食べていると、いつもは少し離れたところに座っている土方が、わざわざ多量の小魚をどっちゃりと千鶴のお皿の上に置きます。


「ひ、土方さん?」
「いいから、千鶴は食え」
「もう十分に頂きましたので、土方さんが召し上がってください」
「俺が喰ってどうするんだよ。おまえがもっと食え。でねえと成長しねえぞ」
「は?いえもう、伸びないかと・・・・・」
「なにいってやがる。まだこれからだろうがよ」
「でも、もうそろそろ成長は止まる頃ですから。さすがにこれ以上はもう・・・」
「んな悲観するこったねえだろう。おまえなんざ、まだガキなんだからこれから幾らでも成長するだろうよ」
「た、確かに土方さんからみたら、私はまだま子供ですけれど、でももう成長するような年でもないですから」


 土方さんの言い方にさすがにむっと来たのか、千鶴は言い返しますが、土方さんは千鶴がとんちんな事を言っているようにしか聞こえません。


「土方さんよ。さすがに千鶴ちゃんでももうでかくはならねーと思うぜ?」


 二人のやりとりを真横から見ていた、永倉さんが援護射撃をしますが、土方さんは何気なく腕を振り上げると、勢いよく振り下ろします。


「ってぇ!!」
「新八は余計なこと言うな」
「あ!? 俺の何が余計なことをいたって!?」
「全てだ」
「土方さん、今のは新八っつぁんのほうが正しいと俺も思うけどなー」




 幾ら千鶴からまだ子供っぽさが抜けないとはいえ、さすがに成長期は脱しているはずです。
 男で15歳ならまだこれから幾らでも伸びるでしょうが、女の子ともなれば育ってもほんの僅か、目に見えて激変することはありません。
 どちらかと言えば、これから子供らしいまっすぐな体型から少しずつ丸みを帯びていくようになるでしょうが、そうなるにはまだ数年という月日を要するはずです。
 とりあえずとしては当座の成長期と呼ばれるものは千鶴には無縁のはず。ですが・・・


「土方さん、何をムキになってるんですか? 千鶴ちゃんが困ってますよ」


 今まで黙ってちびちびお酒を飲んでいた沖田さんが口を挟みます。
 関係ねえと言わんばかりに鋭い眼光を向ける土方さんに、沖田さんは何かを含んだような微笑を唇に浮かべます。


「さらし、使ってないの気になったんでしょう?」


 いったいいつの間に盗み聞きしていたのか。
 昼間のやりとりをしっていた沖田さんは、土方さんが何を気にしていたのかすぐに察したのでしょう。


「総司はいいから黙っていろ」


 沖田さんが口を挟むとろくな事にならないことを知っている土方さんは、すぐに牽制をかけますがそんなことで大人しく黙っている沖田さんではありません。


「そんなに気になるなんでしたら、揉んであげたら一番早いんじゃないですか?」


 笑顔でなんと言うことを言うのでしょうか!
 しかし、肝心の千鶴は沖田さんの言葉の意味がわかってないので、きょとんとして首を傾げますが、土方さんはぴくりと眉を微かに動かします。
 その気配を離れていても察した沖田さんは、にっこりと人の悪そうな・・・いえ良さそうな笑みを浮かべて続けます。
 土方さんは盛大なため息を一つつくと、平助君が呑んでいたおちょこを手に取り、手首を切れよく翻すとスナップをきかせて沖田さんへ向かって無言で投げつけますが、それをすいっと身軽によけると、再び日本酒を喉の奥に流します。


「だって、それが一番確実じゃないですか」
「ガキに手をだしてどうする」
「成長が心配なんでしょう? 親心ですよ、親心」
「どこの親がガキに手を出すって言うんだ」
「そんなの世間を探せばごまんといますよ」


 なぜ、千鶴の成長期の話から揉むだのガキに手を出すだのという話になるのか、周りの人間はついて行けません。


「総司、なにいってんだ?」


 今ひとつ意味の判っていない永倉さんが問いかけると、沖田さんはにっこりと笑みを浮かべて疑問に答えます。


「昼間、千鶴ちゃんがさらし使ってないこと、気にしてたからそうかな?と思って」
「さらし? 千鶴ちゃんがなんでんなもん必要なんだよ? 別に斬った貼ったのやりとりしてねえんだから、腸(はらわた)が飛び出すようなことにはならねえだろうよ」


 それは、やくざが腹にさらしを巻く理由では・・・・?と誰かが思ったかもしれないし誰も思わなかったかもしれません。そんなことしか思い浮かばない永倉さんへと視線を向けながら、沖田さんは、ただ含み笑いを滲ませて答えにならない答を口にします。


「だって普通必要品でしょ? 女の子なんだから」


 だからなぜ、必需品になるのか。
 そう問いかけようとした永倉さんでしたが、やはり今ひとつ意味が判りません。
 首を左右に傾げて考え込んでおりますが、無言のまま話を聞いていた斎藤さんの手が、止まるのと同時に、今まで静観していた原田さんが不意に沖田さんの方へ視線を向けます。
 どうやら、原田さんは今までのやりとりで話が見えたのでしょう。


「使ってねえのか?」
「みたいですよ。土方さんが問いかけたら使ってないってはっきりきっぱり答えていましたし、原田さんのように使った方がいいですか?なんてトン珍な事聞いてたから。
 なんで必要なのかが判らなかったみたいだから・・・必要な状況じゃないんでしょう?」


 沖田さんの話を聞いた原田さんは、盛大なため息を一つ漏らします。


「そりゃー、土方さんも心配するわけだ。千鶴、いいから食っておけ。将来に役立つから」


 状況が飲み込めた原田さんは、穏やかに千鶴に小魚を勧めます。


「将来って何にだよ?」


 話を聞いてなかった平助君にはちんぷんかんぷんです。


「将来って言えば将来だよ。良いから食っておけ。食ってそんはねえから」
「だから、そんなに心配なら土方さんが・・・」
「総司は余計な口出ししてくるんじぇねえっ」


 ふたたび土方さんは手近にあった茶碗を手に取ると沖田さんへと向けて切れの良いスナップをきかせますが、沖田さんは真横に座っていた平助君の肩を掴むとぐいっと引き寄せます。


「をい、総司!なにすっっっっっ」


 唐突に引き寄せられ体勢を崩した平助君にはよける暇もございません。見事なまでにすこーんとこめかみに茶碗の縁が激突し、びしっと嫌な音を響かせますが、沖田さんはそんな音も平助君の様子も何もなかったかのように爽やかな笑顔を浮かべます。


「僕は親切に解決方法いっているだけですよ?」
「おまえのは親切じゃねえつうんだよ! ただおもしろがってまざっかえしているだけだ!」


 今度は土瓶蒸しが入っていた土瓶が、勢いよくまっすぐに飛んでゆきます。


「あはははははは、酷いなぁ。被害妄想強すぎませんか?」
「誰が被害妄想だ!事実だ事実!」


 沖田さんはひょいひょいと、場所をずらしながらおちょこを傾け続けますが、その都度、一人倒れ、二人倒れ、それと同時にお皿がひっくり返り、お椀がひっくり返り、蕎麦が空を飛び、筆舌につきるほどとっちらかってゆくばかりです。


「あ・・・あの・・・・」


 これ、誰が片づけるんでしょうか・・・・?


 千鶴は思わず救いを求めるように斎藤さんをじっと凝視しますが、斎藤さんは我感せず。
 時折飛んでくる飛来物を酒を飲みながら、刀の柄で器用に弾き飛ばしていきます。


「あんたに片づけろとはいわん。だが、自分の身は自分で・・・・・」


 守れ。と告げるつもりでした。とはいえ、一応何かが飛んできたら払うことぐらいの事はする気ではいました。
 いくら何でも男の格好をしているとはいえ、女の子なのですから顔に傷でも作ってしまったら哀れです。
 ですが、そんな斎藤さんの紳士的な思いなどまったく無頓着な沖田さんは、ひょいと千鶴の両肩を掴みます。


「っっっっ」


 腕を振り上げた土方さんはとっさに止めようとしたものの、すでにスナップをきかせた手首は握っていた物を手放しておりました。
 ただ、とっさに威力は弱めた・・・・とはいえ、湯飲みです。
 それが見事なまでに千鶴の額にゴツと当たります。
 これが20世紀になっていたら「すとらいく!!」と誰かが叫んだかもしれません。
 が、まだ一応19世紀で開国すらいまだ行われていない幕末。「やきゅう」と呼ばれる運動がない時代ですので、誰も合いの手を入れる者はいませんでした。
 いえ、例え知っていたとしても合いの手を入れられる者はすでに「おりません」でした。


「てめぇ、総司!」


 幾ら土方さんでも女の子の額に湯飲みをぶつけて平然としていられるほど、無神経ではおりません。その怒りは千鶴を無情にも盾に使った沖田さんへと向かいます。


「いやだなぁ、物を投げているのは僕じゃなくて土方さんじゃないですか。千鶴ちゃん女の子なのに・・・こんなでかいたんこぶこさえちゃって、お嫁のもらい手なくなちゃったらどうするんですか?ああ、土方さんが責任を取るつもりだったんですか?じゃぁ、やっぱり今の内から育てていけばいいじゃないですか。ほら、光源氏みたいに千鶴ちゃんを紫の上に育て上げるというのも一興ですよ?」


 なぜ、お前はそう火に油を注ぐ・・・・そんなことを言いたそうにさすがの斎藤さんもため息をつきます。
 肝心の千鶴は、「きゅぅぅぅぅ〜〜〜」とうめき声を上げて目を回していたので、自分の真上で繰り広げられる会話など耳に入ってきません。




「そぉうぅじぃ」




 地の底から聞こえてくるような声が響かせながら、 土方さんは新たに手に持ったとっくりを握り潰すと、


「平助、俺の刀を持って・・・・」


 右手を突き出してくいくいっと持ってくるように促すが、その手に刀の重みが乗ることはありません。
 訝しんでいると、ぽつりと斎藤さんがが口を開きました。
 少し、哀れみを称えた声で。 
 




 
「副長・・・・・・・皆、堕ちてます」






 その言葉に土方はようやく視線を沖田さんから周囲に巡らし・・・


 平助君、永倉さんを初めとし、原田さんや島田さんまで見事なまでに伸びているではありませんか。山崎さんは巻き込まれないうちに場を離れたのか、その場には姿を見せません。他の幹部は?なんて気にしてはいけません。色々都合が悪くなってしまいますからね。
 蕎麦を頭から垂らしている物、見事なまでに酒を被って日本酒の臭いを全身から酒の臭いを漂わせている者。
 皆、とにかくまともな状態の者はおりませんでした。


「・・・・・・・・・ちっ、軟弱な奴らめ」


 それを貴方がおっしゃいますか。
 とは斎藤さんはわざわざいいません。
 とりあえず沈黙を通します。
 

「雪村を部屋へ・・・」


 ただ、目を回している千鶴を他のやろう達のように放置することはできません。
 斎藤さんは未だ目を回して伸びている千鶴を部屋まで運ぼうと、腰を上げかけますがそれよりも先に、土方さんがひょいと千鶴を肩に担ぎ上げます。
 女の子を運ぶように両腕で抱えるのではなく、俵でも肩に担ぐかのように・・・荷物ですか?それ。とつっこみたくなるような抱え方です。


「ったく、ガキはさっさと寝ねぇと、余計成長しねぇだろ」


 そんなことを言いながら、部屋を出て行こうとしますが。不意に足を止めるとその場に残っていた、斎藤さんへと土方さんは視線を向けます。


「お前には悪いが、かたしておいてくれ」


 その時すでに、沖田さんはこの場には残っておらず・・・唯一、斎藤さんだけがぽつーんと正常な状態でその場に座していたのでした。


 逃げ遅れた・・・


 と、斎藤さんが思うかどうか判りませんが、ただ一言「御意」と答えると、目の前の襖が静かに閉められます。


「心配なら、心配って素直に言えば良いのにね」
「そう思うなら、雪村を盾に使うな」
「だって、君の肩を背後から掴んだら斬りかかるでしょう?」


 最初は沖田さんも、千鶴を盾にしようと思いませんでしたが、とっさの判断で無意識のうちに「無害」な方を選んでしまったのでした。


「・・・・・・・・・」
「じゃぁ、一君、片付けはよろしくね」
「待て、総司!」
「頼まれたのは君だもんね。僕はもう疲れたから寝るよ。おやすみー」


 とっちらかすだけとっちらかして、我感せずとばかりに姿を消す総司の要領がいいのか、自分の要領が悪いのか・・・このままばっくれることも考えたが、「御意」と言ってしまった以上、このままにしておくことも出来ず・・・
 斎藤はため息を長く吐き出すと、腰を上げたのだった。

 



 さて、一番の貧乏くじを引いたのは誰でしょう?(笑)












☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆


昨年(2009年)裏方業務で携わった土方千鶴のアンソロ「華艶の宴」の告知サイトに載せた小話でした。
そして、私が書いた初の「土方」話でした(笑)誰がなんと言おうと(笑)土方×千鶴とは言えない上に、オールキャラな比率ですけれど。というより沖田さんの方がでばってますけれど。
いいんです。これはとりあえず高尾山レベルなのであって、チョモランマにはまだまだ到達しませんから!!
って、高尾山の何倍ですか・・・チョモランマって。富士山にすら到達するのは遠そうです・・・


薄桜鬼の制作ブログを見て、思いついた話でした。
まさか初期設定がまな板だったとは!!
びっくりさ。
15歳?現代だと14歳なら・・・・まぁ、おかしくはないかな?とも思うのだけれど。(年齢は指定されてませんが、スタート時点はその辺ぐらいかな?とか思っておりますです)
ヒロインなのに・・・(遠い目)と思ってしまった人は大勢いると思います(笑)




なんてことを、書いてました(笑)
ではでは、ここまでおつきあいありがとうございました。



2009/06/02(初出)
2010/10/20(再UP)



Sincerely yours,Tenca