洗濯日和
遠くお江戸を離れて父を捜しにはるばる京の都へやってきた千鶴でございましたが、いったい何の因果か運命か。 京都へ着いたその日になにやら、得体の知れない恐ろしい物と対面してしまい、その結果、今をときめく・・・元言い、悪名を轟かせる人斬り集団、その名も新選組の一番隊組長沖田総司と三番隊組長斎藤一と、運命のご対面・・・ではなく、危うく斬り殺される!?という第ぴーんちに、陥った物のあれよこれよと言ううちに、なんだか現状を理解できないままなぜだか新選組に、身を寄せることになってしまったのでした。 か弱き乙女であるのに、男として・・・・ いえ、確かに男装をして江戸を出て参りました。 日本橋を出発して東海道を南下。 今のご時世どんな事があるか判りません。 幕府のご威光はいったいいずこへ? 忠義はいずこへ?と言わんばかりのありさま。 まぁ、そんなご時世ですので治安は宜しいとはお世辞にも言えないというものでございます。まして女子供となれば、鴨が葱を背負って、お出汁の効いた鍋の中で、ゆったりとくつろいで煮立っていくようなものでございます。 まぁ、世間知らずの嬢ちゃん。と言われる身の上でございますが、その程度の世慣れはしておりましたので、どこからどうみても若者に見えるように出立をしたのでありました。まぁ、どこからどう見ても誰にあっても疑われないというのは、やはり少々年頃の娘としてはもの悲しい物がありますが・・・・ でも、そんな周囲を欺く生活も京に付くまで!!と思い、えんやこら。品川宿、川崎宿、戸塚宿、小田原宿に・・・とどんどんずんずかずんずか、南下・・・西?下っていったのでございます。 ちなみに、余談でございますがどこからどこまでが南下と表現して、西へ移動となるのでございましょうかねぇ。 そーいえば、千鶴の実家ってどの辺よ?と今更ながらにつっこみを少々入れたくなりましたが、まぁ東海道の始まりは新橋・・あれ?日本橋?浜松町?まぁその辺からスターと言うことにしておきましょう。 そもそもどうでも良いことでございますが。 まぁ、そんなわけでして。江戸を立ってはや幾日。ようやくたどり着いた京の都。だがしかしついたそうそうそう簡単に行方不明の父親が見つかるわけもなく、頼りにしていた父の友人も何処かへと出かけてしまい、おーまいがっ。と、一人とほほーんと途方に暮れていたら、なにやら真っ白な髪に、赤いおめめをした、カラーだけは愛らしい白兎さんそのものの、でもなにやら、涎を垂らし、返り血?をあびているようだし、「どう見てもこの人達、イっているよなぁ〜〜〜〜」的な三人組と遭遇。 あわや、 んだがしかしだがしかし、颯爽と現れた美形二人組を見た瞬間、「えーと正義の味方・・・?なんですか?」と首を傾げたくなってしまったのも仕方ないというもの。 まぁ、いきなり「面倒だから殺しちゃおうよ」と笑顔で言われたときには「をいをい」と思ったりもしましたが、もう一人のクールビューチーが、端的に尋問を始めてくれたので何とか事なきを得て・・・しどろもどろ、とにかく父親を捜しに来ただけであって、いきなり訳のわからない人達に襲われただけだと言ったら「やっぱり殺しちゃおう」なんて言われる始末で、やっぱり血も涙もない人斬り集団だー!!!と思ったりもしたのだけれど・・・・気がつくと、彼らのアジト・・・元言い、屯所へと連れてこられて早数日・・・ 軟禁状態とはいえ、組長クラスと共に出かけるのならば、父親を捜しに市中へ出ても構わない。というお墨付きをいただいて、京という町での父親探しが始まったのでした。 しかし、だからといって朝から晩まで好きなように父親探しができるわけではなく、その一日の大半を屯所で過ごすことになります。 基本的に幹部クラスが寝起きをしている八木邸のさらに、副長土方の居室のすぐ近くに部屋を割り与えられているとはいえ、平隊士達と遭遇しないわけでもございません。 女という事を隠しているため、出来るだけ顔を合わせない方ががよけいな騒動が起きないというもの。そのため、部屋から出るな。と言われれているのですが、人間することが無ければ暇なのであります。 何より、今まで父一人子一人で、療養所を切り盛りしてきたのですから、朝から晩まで忙しく、のんびりだらだら生活なんて性に合いません。 まぁなにより、ただ飯食いと呼ばれるのもゴメンですし、働かざる者食うべからず。とも言います。 そのため、幹部達の食事の世話や、簡単な雑用、掃除など彼らとしても誰か代わりにやってくれたらラッキーと思うような雑務を引き受けるようになったのでした。 とはいったものの、朝餉の後片付けも終え、お掃除も一通り終えてしまうとすることがございません。 鬼の副長にご機嫌伺いしても、部屋に引っ込んでいろとのご一括。 すごすご、部屋に戻りましたが、お外はぽかぽかの陽気でじっと、薄暗い部屋にいるのがなんだかもったいない感じです。 よーし。とりあず、皆の男臭そうなお布団でも干しますか。 と、一念発起。勝手に部屋に入るのは御法度なため、屯所内にいる幹部の一人一人に声をかけて、OKを貰えた人達だけ、お布団を外に干します。 やはり、男臭いと言うべきか、汗くさいと言うべきか、微妙に生臭いのはあれでしょうか。返り血の匂いなのでしょうか・・・・?まぁ、深く考えることはやめて、お布団を干していきます。 しかし、それとて時間がかかることではありません。 すぐに、やることがなくなってしまい、どーしよう。いっそうのこと壁でも磨くか?なんて思いながらテチテチ廊下を歩いていると、渦高く山盛りにされた物をみつけたのでした。 浅黄色や白や、なにやらカラフルな模様・・・・皆の隊服などがうずたかく山になっております。 びろーんと広げると、一番上に載っているのは「二」の字を背負った、隊服。二番隊組長永倉新八のでした。その下にも他の組長の隊服。とりあえず顔の前にもってくると、「これぞ男の匂い!!」と言わんばかりの、かほりがぷーんと漂ってきます。 「・・・・・・・・・・・せ、せんたくもの・・・・? これ、いつからここに・・・・・?」 なにやら、発酵しているような気がするのは気のせいでしょうか? さすが、男所帯と言うべきか。 千鶴は、一山幾ら。と言わんばかりの状態のそれらを、桶に詰め込んで、緯度の傍までずりずりと引っ張っていくことにしたのでした。 袖をたすきがけにし、山の攻略に取りかかります。 キンと冷え切った井戸水を桶にいっぱい注ぐと、洗濯板と灰を使ってお洗濯を始めたのでした。 ざぶざぶざぶ ごしごしごし 井戸水はかなり冷たいのですが、ぽかぽか陽気の元でやっていると汗ばんでさえくるほどなので、逆に井戸水は冷たい方が気持ちよいほどでした。 一枚、二枚洗い終えながら、時折びろーんと広げ、千鶴は首をかしげます。 何故、こんなに派手なのだろうか? 立派な富士山がかかれたものや、海から登る朝日が描かれたもの。虎と呼ばれる動物に、龍の絵姿。どれもこれも派手な物ばかり。初めてみる図柄に思わず魅入っていると・・・・ 「千鶴、何しているの?」 縁側をにぎやかに歩きながら近づいてくる三つの人影。 新八に左之助、平助。いつもこの三人は一緒にいるなーと思いながら、千鶴はにこやかに笑顔で「溜まっていたので、洗濯させていただきました」と明るく応じる。 その返答に、三人とも山のように溜まっていた洗濯を思いだします。 そろそろ、誰かが洗わなければならないとは思っていたのですが、面倒臭くてつい放置してしまったがために、さらに溜まっていた洗濯物。 「を、わりーなー」 それをやってくれるというのなら、大感謝だ。 新八はらっきー♪と呟きながらそのまま通り過ぎようとしていたのですが、はた。と足が止まります。 「千鶴ちゃんよ・・・今、何洗って居るんだ?」 山のようにうずたかく積まれていた隊服。 とうぜん、着替えは隊服だけはありません。 その下に着ているあれやこれやそれや・・・とにかくイロイロな物も一緒くたに置いていたのです。 「え?これですか?」 新八に尋ねられた千鶴は、何も考えず両手でせっせと洗っていたモノをびろーんと広げます。 どでーんと、描かれた日の出がはたはたと風になびいていきます。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 耳に痛い沈黙がほんの一瞬辺りに漂いました。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どわぁぁぁぁぁ!? な、なにあらっあらあららら・・・・・」 新八は素足のまま縁側から飛び降りると、千鶴の持っていたそれをひったくって背後に隠します。 その後を、「あらららら」と呟きながら左之助が追ってくると、桶の中に入っている一枚を手に取ります。 「俺のもあるよ」 「え?ってことは きょとんと眺めていた平助も縁側から飛び降りると、桶の中に使っている一枚を手に取って叫びます。 「? あの・・・洗っちゃいけないものでしたか?」 彼らの反応が理解できず、千鶴が問いかけると、三人は微妙な顔で目を合わせます。 「抵抗無いわけ?」 「何がですか?」 まだ桶の中に残っている他の一枚をじゃぶじゃぶと洗いながら問いかけると、左之助は軽くため息をつくと。 「それ、近藤さんのふんどし」 びろーんと広げてみれば、どどーんとそびえ立つ富士山の図柄。 「こっちは、土方さん」 勇ましく吠える龍の図柄。 「これは、総司」 無地ですが真っ赤な生地のふんどし。 「・・・・・・・・・・で、コレが俺で、ソレが新八でそれが、平助のはあれ。で、ソレが山崎君で、あっちが島田さん、こっちが井上さんで・・・・山南さんのは・・・・・・」 左之助は、一枚一枚指を指しながらすらすらと答えてゆく。 「詳しいですね」 思わず呆気にとられると、左之助は嫌そうな顔をします。 「男のふんどしなんざ詳しくはなりたくねーよ。 他人のと間違ってつかわねーように、してんだ」 「ああ、なるほど!」 それぞれ、図柄や色に特徴があるのは、そういうことなのか。 確かにどれもこれも、同じ色の同じ生地だったら、誰が誰のか判らなくなってしまう。 名前を刺繍すればいいのかもしれないが、だったら好きな柄のを巻いてしまえということなのだろうか。 「で、千鶴ちゃんは男の下着なんざ洗うの抵抗無いわけ?」 嫁入り前の娘なのだから、そうそう男のふんどしを目にすることすらないはずだ。 「江戸にいた頃は、良く洗いましたよ? 父のや診療所にいた患者さんのふんどしを交換したり、洗ったりするのも私の仕事でしたから」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 こともなげに言い切った千鶴に、三人とも黙り込む。 洗うのはともかく「交換」と言わなかったか? 言ったよな? ふんどしの交換ってことだよな!? 三人とも口を一切開かず、目だけで会話を交わす。 「高熱で意識がもうろうとされていたり、大けがを負って身体を動かすことも出来ない患者さんが、診療所にいたので・・・・どうかしましたか?」 言っていることは確かにおかしくはない。 父と子一人で切り盛りしていたのなら、そういった細々としたことはすべて千鶴が引き受けていただろう・・・ だがしかしだがしかし・・・・嫁入り前の娘がいいのかそんなことをして?! と、思ってしまう自分達は古いのだろうか? そんな三人の葛藤などしらず、千鶴は洗濯をさらにし続け・・・いたたまれなくなった、平助が思わず手伝いを初めてたりするのだが・・・ちなみに、左之助と新八はそそくさと逃げ出している・・・千鶴ははたと手を止めて、一枚一枚指をさして数える。 「あの、斎藤さんのがありませんけれど そう、そこに斎藤一の分だけがなかった。 考えてみれば、隊服も「三」の字がなかったかもしれない。 「ああ、一君ね 一君は毎回風呂入ったときその場で洗うからないよ」 市中見回りよりなんだか疲れたなーと思いながら、ざぶざぶ自分の分を洗っていく。 「入浴時に洗ってしまうんですか?」 「そっ、一緒くたに置いとくのが嫌なんだって。 毎回ノリをつけてきっちりあらって、コテを当てたかのように綺麗に干しているよ」 そういって、平助は庭の一角を示す。 そこにたなびくのは「三」の文字を背負った隊服と・・・・・はたはたと風にたなびく黒いふんどし。 斎藤さん・・・・・・・・・・・ふんどしまで黒いんだ・・・・・・・・ 思わず何とも言えない目で見てしまう。 それをどう思ったのか、平助はさらに口を開く。 「びっちりノリ付いているでしょう? ふんどしまで皺一つないんだぜ」 言われてみれば確かにそうかもしれない。 なんだか、逆になじみにくそうだ・・・・ごわごわしたりしないのだろうか? 「あれ? これだれのだ?」 視線が斎藤のふんどしで固定されていたため、平助が今何を手に取ったのか気がつくのが一瞬おくれたが、次の瞬間それを組長達が驚くほどの早さで奪い取る。 「うわっ、な、何千鶴?え?どーしたの??」 それを奪い取ると濡れているにもかかわらず、己の胸にぎゅっと抱きしめ俯く。 顔はおろか首まで真っ赤になっていた。 「え?千鶴?なに?え??」 理由が全くわからない平助は顔をのぞき込もうとするが、千鶴は「ぎゃー!近寄らないでー!!見ないでー!!!」と叫ぶ。 「はぁ!? な、なんなの!?わっかんないよ!」 千鶴の豹変に平助は、どうすれば良いのか判らず、のばしかけた手を途中で止めてオロオロとすると、耳はおろか首まで真っ赤になっている千鶴をどうすればいいのか途方にくれていると、叫び声をきいて駆けつけた斎藤が、二人の様子に足を止める。 「何を騒いでいる」 「あ、一君。良く分かんないんだよ。 あの、まっさらなふんどしをいきなり抱えたかと思うと、真っ赤になってさー 誰のか一君なら知っている?」 斎藤は、ちらりと千鶴の抱えているモノを見てため息を一つ付く。 「誰のでも良いだろう。それより、雪村。濡れた物を抱えていると着物が濡れる。 早く干して、着替えろ。 幾ら日中は暖かくても、風はまだ冷たい。 風邪を引かれるのは面倒だ」 興味ないと言わんばかりの反応の斎藤だが、平助は「でも、誰のかわかんねーとこまるじゃんかよ」とブツブツ呟く。 「消去法で考えてみろ」 斎藤の言葉に千鶴はさらに赤くなる。 うわー、ばれてる。ばれてるー!!!! もう半泣き状態だ。 早くこの人達どっかいって!!と思うのだが、平助は、えー、あれは左之さんでと斎藤が言うとおり消去法をしていき・・・・・はた、と指が止まる。 さらに止まる。 妙な沈黙に耐えきれず、千鶴が恐る恐る顔を上げると、目を見開いてまっすぐ自分を指さす平助と目があう。 「え?まさか千鶴の・・・?いや、だってそれ・・・ふんど 「いやぁぁぁぁ!!いわないでぇぇぇぇ!!!!!!」 皆まで言い切らないうちに、千鶴はそれを平助の口に押し与えて口を封じる。 「もーもー平助君のばかー!!」 涙目になりながらも、むぎゅむぎゅそれを押し当てて、さらに何かを言おうとする平助の口を封じる。 平助の目が白黒し、手をばたばたさせるが、千鶴はかまい無しにむぎゅむぎゅ押し当てる。 「最低っっっ!!デリカシーなさ過ぎです!!!」 平助の力なら当然千鶴を押しのけることは出来るが、男たる物が女子に力をふるうことは出来ず・・・むろん時と場合によっては容赦なく斬るが・・・平助としては、女の子に乱暴な事はできるだけしたくはなく・・・・でも、押しつけられる力は容赦という物も遠慮という物もなく・・・・・・「一君、助けてっっっっ!!」、我関せず。と言わんばかりの様子で立っている斎藤に、目で必死に訴える。 「雪村、いい加減それを口から離せ。平助が窒息する」 「は・・・・? い・・・・・・・・・・・・・・・・い・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁー!!!!さいていっっっっっっ!!!!」 最低なのおれ? 良くわからないが、叩きつけられたそれを頭からぶら下げながら、全力疾走で逃げ出す千鶴の後ろをぼんやりと見送りながら、思わず呟いてしまう。 「平助、いらぬ事は言わぬ方が身のためだという事を覚えておけ」 斎藤もそれだけ言いのこすと何事も無かったかのように去ってゆく。 「で、なんで千鶴がふんどしなわけ? 湯巻きじゃなくて?」 未だにナゾはとけないまま・・・・平助は残りのふんどしを、だまって洗ってゆくのだった。 ☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆ ふんどし編です。 過日、RINKOさんの所でチャットをやったとき、ふんどしネタがでました(笑) その後、一さんの事をネットで調べていたら、一さんは、かなりきまじめな方らしく、ノリを付けて、コテをあてたかのように洗濯をしていたようです。 そのエピソードを見た瞬間、私は敗北感を感じました。いえ、挫折感と言うべきでしょうか。 どんなに、一君を愛していても、一緒には生活できない現実を思い知りました。 よよよよよと泣き崩れるかと思いました(大笑) ずぼらで、アイロンなにそれ? そもそも、アイロンをかけなきゃならん面倒なものは着ないわ。 じゃなかったら、オール・クリーニングよ。ほっほっほっほ。金で片づけるわ!(枚数ないし) と言わんばかりの人間です・・・・・ 几帳面な人とは私生きていけない!!(大笑) ずぼらなので、きまじめな一さんとは一緒に生活できない・・・・・・しょぼーん。 千鶴がなぜ、ふんどしなのかは・・・まぁ、そのうちまたネタにでもしてみようかと。 |