☆注意☆ 死にネタではありませんが、沖田ED後の微妙な・・・・いつかその時が・・・・的な話になっております。 これから下を読まれる方はその点ご了承の上ごらんくださいませ〜
「ねぇ、千鶴」 唇が触れそうなほどの距離で、そっと吐息を吐くように呟かれた名。 千鶴は、焦点を合わせることができず、ぼやける視界で目の前に迫る沖田の顔を見つめる。 いつになく優しい笑みを浮かべている沖田の顔。 その顔が、どこか寂しく・・・哀しげに見えるのは気のせいだろうか。 「総司・・・・さん?」 囁くようにそっとその名を呟くと、沖田は一瞬だけ苦笑を浮かべるが、その表情を察する前に沖田は瞼を閉ざして、千鶴をつよく抱き寄せその耳元に唇をよせ囁く。 「僕は、長く生きられないと思う」 思いにもよらない言葉を唐突に囁かれ、千鶴は息をのみとっさに身を離しかけるが、沖田はそれを許さないかのように強く抱きしめる。 【労咳は治ってないんだろう 】 それは、戦いの中で示唆された事。 だが、面とむかってはっきりと言われた事ではなかった。 だから、千鶴は信じたかった。 変若水を飲んだことによって、刀を持つことも、起きあがることも出来なかった沖田が再び刀を振るうことが出来たのだから、死病と言われた病も治ったのだと・・・無かったことになったのだと。信じたかった。 だが、鬼である自分以上の快復力を持っていても、その病を根絶することは叶わなかった 。 今はまだ目に見えて病は進行していない。 だが、いつの日か・・・再び来るのだ。 刀を持つことはおろか、起きあがることも出来なくなる日が・・・ いつか、この温もりをなくす日が。 彼は人としての寿命を全うできない。 それは、消して避けて通れない定め。 なぜ、今この時になって・・・と思う。 今までにも十分に言う機会はあったはずだ。 それが、なぜ今・・・・互いが抱き合い、垣根を越えようという間際になって・・・・ なぜ今更という思いと。 とうとう、その言葉を彼から聞くときがきてしまったという思いが交差する。 いつか、その言葉を告げられる時がくるだろうと・・・思っていた。 きっと、一線を越える前に・・・・ でも、来ないかもしれないとも思っていた。 千鶴はぎゅっと目を閉じて、わななく唇にそっと力を入れ、漏れそうな嗚咽と共に息をのむ。 「だいじょうぶ・・・・です」 浮かび上がる涙を堪える為に目を閉じて、油断をすれば掠れそうになる声を、意思の力で押さえ込み、強ばる顔に笑みを浮かべる。 「そのときは きっと、わたしも・・・・」 「ダメだよ」 千鶴が告げかけた言葉を沖田は否定する。 「僕の後を追うなんて、考えちゃだめだ 酷なことを言うけれど、君には生きて欲しい」 本当に酷いことを言う人だ。 愛する人を亡くしても、生き続けろと言うのだから。 だが、確かにこの人は後追いなんて望まないだろう。 例え、どんなに悲しみの底に沈もうと、絶望の淵に追いつめられようとも、生き続けろと無情にも言い切る人だ。 千鶴は、力をなくしていた腕をゆっくりと持ち上げて、沖田の髪に指を埋めると少しだけ身を起こして、沖田の双眸をまっすぐに見つめる。 「安心してください。後追いなんてしませんから 」 そう、後追いなんてする必要なんてきっと無い。 千鶴もむろんそんな事をするつもりはない。 刹那を生きてきた人達を知っているから。 死を覚悟した人達だった。 人を斬る物は、いつかは自分も同じように死ぬ。 そう達観している人達でもあったが、だがけして、己の命を無駄にしている人達ではなかった。 少なくとも、自ら命を絶とうなどと、そんな弱いことを考える人達ではない。 なにより、それは生きたいと思っても、志半ばで絶えて逝った者達に対する冒涜にしかならない。 「でも、きっとそんなに待たせることはないですよ?」 後追いはしない。 でも、きっとそんなに長いこと沖田を待たせることはないだろう。 千鶴はそう信じている。 だが、沖田は千鶴が言いたいことがこの時ばかりは判らず、僅かばかり戸惑ったような色をその双眸に浮かばせた。 彼女が呟いた言葉は、さほど彼女も生き続けることはないと言うことを匂わせるのには十分な言葉だ。 だが、沖田が知る限り千鶴はそう簡単に死ぬような要素を持ってはいない。 健康体で病一つ持っておらず、命に関わるような怪我を負っているわけでもない。 まず、普通に考えるならば、千鶴が死ぬような状況になるには自ら命を絶たない限り、数十年先の話になるはずだが、それでは「そんなに待たせることはない」などという言葉が出るわけがない。 そんな沖田のとまどいは、千鶴にも伝わっているだろう。 千鶴は今までに見たことのない表情を浮かべる沖田にそっと口づける。 「・・・・総司さんが、再び労咳に蝕まれて・・・・・・・・」 そんな日はうんと先ならばいい。 いずれ来ると判っていても・・・・少しでも・・・・1日でも遠い未来の話であって欲しい。 京都で労咳に蝕まれる沖田を思い出すと、そう思わずにはいられない。 あの病は、人を楽には死なせてくれない。 苦しめて苦しめて・・・・なぜ、ここまで人を苦しめて死に追いやるのだろうと・・・・そう思わせる病だ。 沖田が・・・・愛しい人が、死ぬのも辛く哀しいが、苦しむ姿を見る日が少しでも遠い先の話であって欲しいと、願わずにはいられない。 「労咳が私から、貴方の命を奪うときは 」 千鶴は穏やかな笑みを浮かべたまま沖田を見続ける。 沖田はどこまで、この病のことを知っているのだろう。 身をもって知っていることは、その病がもたらせる壮絶な苦しみ。 知識として人に移ることは知っているはずだ。 なら、どうやって移るか知っているのだろうか・・・・・ 死病と怖れられるこの病の伝染の強さを 「千鶴?」 途中まで言いかけて口を閉ざした千鶴を促すように沖田は名を呼ぶが、千鶴は不意に口を閉ざす。 きっと、彼は知らない。 知っているかもしれない。 だが、思い至っていないのだろう。 労咳が、千鶴にも伝染する可能性を。 無意識のうちに、鬼である千鶴は罹らないと思いこんでいるのだろうか。 だが、その保証はどこにもない。 変若水を飲んだことによって、鬼である千鶴よりも優れた回復力を持つ、羅刹ですら根絶することのできなかった病。 それが、鬼である千鶴に移らないという保証はない。 まして、労咳は伝染力が強く、人から人へと移ってゆく病だ。 こうして、生活を共にし、唇を重ねるだけで、病はきっと移ってゆく。 まして、身体を重ねる行為を繰り返せば、その可能性はより高まる。 むろん、かならずしもかかるとは限らない。 生まれながらに鬼である自分と、変若水によって羅刹と化した沖田では完全に比較することは出来ない。 思い至っていないのならば、あえて言葉にする必要はない・・・ 千鶴は笑みを深くする。 「ちづ・・・・っ」 問いかけようとする沖田を封じるように、千鶴は生まれて初めて自ら口づける。 それは触れるだけの優しい・・・・儚いほど優しい口づけ。 だが、沖田の言葉を封じるのに十分な役目を果たす。 沖田は自分の腕の中で、全てを受け入れるような笑みを浮かべる千鶴を見つることしか出来ない。 誤魔化そうとしているのか、それとも何も言わずとも判っていると言いたいのか。 いつも何を考えているのか、口にせずともわかりやすいというのに、この時ばかりは沖田にも判らなかった。 ただ、判ることはいずれ自分は彼女より先にこの命を終えることだ。 そして、それが彼女を苦しめると言うこと・・・うぬぼれでも何でもなく。 彼女は慟哭するだろう・・・己が死す時は。 どんなに守りたくても。 どんなに離れたくなくても。 最後の最後まで、あらがい、生きる希望をなくすようなことだけはしない決意を持ってはいるが、それでも、一度あの病に倒れたから判るのだ。 己の意志ではどうしようも出来ないことがあることを。 一人残してしまう事が判っているのだから、彼女に触れるべきではないことも。 彼女には、別の幸せを見いださせてあげるべきだろうことも。 今はどんなに辛くても、この先、人として長い人生を歩んでいく彼女のことを思えば、それが最善の道なのだと言うことは誰に言われなくても判っていた。 それでも、この腕を手放すことはできない。 このかけがえのない温もりを・・・・生まれて初めて愛しいと思えた女を、他の誰かに渡すことなど出来ない。 それが、どんなに惨めで、諦めが悪く、惨めであろうとも。 今度こそ、最後の最後まで守りたい。 その思いが強すぎて、決定的な言葉を言うことが出来ない。 だから、躊躇し続け・・・・・・引き返すことの出来る、ギリギリの・・・・この場に来て、今更な事を彼女に告げたのだ。 改めて言う必要はなかったかもしれないことを・・・・ だが、そんな自分を判っているかのように背に手を回し抱きしめてくれる千鶴の腕を振り払うことはできるわけがなかった。 「大丈夫です。女は強いんですよ。 あなたとの思い出があれば、それだけで大丈夫です それに、あの時と同じように病が進行するとも限らないんですよ?」 千鶴はあえて可能性の一つは口にすることはなかった。 己の病が千鶴の身をも蝕む可能性があることを沖田が気がついたら彼はどうするだろうか。 もう、彼女の身を脅かす危険は存在しない。 兄である薫は死に、嫁にと狙っていた風間も、変若水の毒に犯された千鶴から興味を無くし、彼女をつけねらうものは存在しなくなった。 ならば、後は己が姿を消せば、危険はなくなると考えないだろうか。 千鶴は口にするまい・・・と己に固く誓う。 なにより、その可能性にたどり着いていないのならば、彼がその事で苦悩することはないだろう。 「治っていなくても無症状に近いぐらいまで回復してますし、体力も今はあります・・・ 身体に無理な事をしてませんし、空気が良くて、水も美味しい・・・あの変若水の毒さえも無毒化してしまう清らかな水に囲まれて生活しているんですから、きっと病の進行も緩やかに決まってます」 それは、あくまでも希望的な観測にしか過ぎない。 それに緩やかに進むのであって、病が治るわけでもなければ、このまま表面化しないわけでもない。 「だから、何も心配しないでくださいな。 その時がきても生きていけるように、私にたくさんの貴方との思い出をください。 わたしは、貴方と共に生きられることを誇りに思うことはあっても、けして後悔はいたしません」 千鶴は強い意志を込めてその双眸を見つめる。 沖田はしばらくの間、何も言葉を紡ぐことはせず、己を見つめる千鶴をみてふっと肩から力を抜き笑みを浮かべる。 この子は、初めて会ったときから、人の目をまっすぐ見る子だった。 たとえ、どんなに恐ろしいめに遭おうとも、どんな悲惨な・・・・目を覆うばかりの残酷極まりない場面と遭遇しても、けして目をそらすことなく、現実を真っ正面から見つめ受け止められるだけの、強さと柔軟さを持ち合わせていた事を思い出す。 でなければ、いまここに彼女はいなかっただろう。 こうして、腕の中に居ることもなければ、自分の傍にいることも・・・・あの、激動の時代と共に走り抜けることも 沖田は千鶴の身体に回した腕に力を少し込め、抱き寄せる。 少しだけ早く鼓動を打つ音が、薄衣を通して温もりと共に伝わってくる。 「僕は君にどれだけの思い出を贈れるか判らない・・・・それでも、君は僕と共に、これからの未来を共にいてくれる?」 沖田の問いに、千鶴は満面の笑みを浮かべて強く頷き返す。 「共に居られる時間があとどのぐらい残っているかって考えるよりも、今・・・この時をどれだけ貴方と共に幸せに生きていけるかを 私は 」 それから、先は言葉になることはなかった。 両頬を優しく包み込まれたかと思うと、言葉を封じるように口づけをされる。 薫との決戦の前に交わした口づけとは違い、涙の味がしない優しい口づけは、いつしか深く・・・深く・・・・言葉にされない思いをも奪い取るかのように、深く重ねられる。 ☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆ 労咳についてちょろんとウィキペディアで調べた時、主な感染経路「飛沫感染」と載っておりました。 飛沫感染・・・・手っ取り早く言えば空気中に飛んだ唾液などから感染。 当然性交渉なんかも感染経路になるざましょうねぇ。 まぁ風邪なんかと同じつーわけですね。 結核菌のキャリアになったとしても、まぁ身体が丈夫なら表面化しないかもしれないけれど・・・・ まぁ、確実に千鶴は結核菌のキャリアになってなきゃおかしいよなぁと思うのでありまして、で、そうなったらやっぱりいずれ体力or気力が落ちた頃にでも発病してもおかしくないよなぁと思った時に、この話が浮かんだのでありました。 で、寝れなかったので書き始めたら・・・・もう良い時間(爆) 明日はまだ金曜日で会社だってのに、3時ですよ。 いいんです。ちーっとも眠くならないから・・・・ 斎藤さんルートは同じ羅刹化していても、あまり悲壮感ないんだけれど、沖田さんはハッピーエンドのはずなのに切なすぎ。 話に聞くと土方さんも切ないみたいなのだけれど(><←未だに手つかず(笑)←今現在(09/06/01)はクリアー済みです(笑) この時代に、飛沫感染というルートはまだ発見されてないのかしら? ワクチンが開発されるまで、死病と言われるぐらいだし。 でも、現実的に考えたら・・・沖田さん隔離だろうし、千鶴と夫婦生活なんてできないだろうし、なにより、移すことを怖れてできないだろうけれど。 まぁそこはあれだ。ゲームなんだから細かいところは無視しなけばならないってことよね(笑)