花火大会



-後編-







 花火大会当日。


「すみません!笠原お先に失礼いたします!」

 郁は午後休を申請していたため、堂上達を残して慌ただしく事務所を後にする。
「午後休取っている癖に、なんであんなに慌てているんだ?あいつは」
 時間が無いと言いながら日報を書き上げ、堂上の判を貰っていたが、時間がないもなにもまだ昼を過ぎたばかりだ。待ち合わせは18時に吉祥寺。時間はまだまだたっぷりあると言うのに、なぜあそこまで慌てているのかが堂上にはさっぱり判らない。
 手塚はこんなに早く書けるのに、なぜ普段はあんなに無駄に時間がかかるんだと、納得出来ない表情で郁の書き上げた日報を凝視していた。
「女の子の身支度は幾ら時間があっても足りないからじゃない?」
 小牧は笑いながらそういうが、手塚も堂上もパーティーに参加するわけでもないのに、何にどれだけ時間を費やす気なのか・・・そう思うと、二人とも知らず内に溜息が漏れる。
 二人の様子に小牧はわざとらしく問いかける。
「あれぇ? 堂上はおしゃれした笠原さん楽しみじゃないの?」
「大勢の人間が集まるところで、しゃれこんだって面倒な事になるだけだ」
 ただでさえ、柴崎が人目を集めるというのに・・・・はぁぁぁぁと堂上がため息をつけば、手塚も同意するようにコクコクと頷き返す。
「そんなんじゃ、おしゃれのしようがなくなっちゃうじゃないか。せっかくなんだから周りの男どもに見せびらかすつもりで居た方が良いと思うけれど?」
 要は自分達がガードすればいいだけだ。
「俺は面倒なだけです」
 きっぱり言い切る手塚に小牧は苦笑を漏らす。
 互いに憎からず思っているはずだというのに、なかなか一歩が踏み出せない二人の関係では、手塚の気苦労も推して知るべしと言うところか・・・だが、郁はともかく柴崎の方は全て判ってやっているはずなのだから、それを楽しまなければ気苦労するだけだと小牧は思うのだが、まじめな部下はそう簡単に割り切れないのだろう。
 ただ、小牧にもまったく気がかりが無いというわけではない。
「まぁ、願うことなら今日は検閲が来ないことを願っていよう。下手に検閲が来たら、女の子達だけで花火大会に行かせることになっちゃうし」
 呼び戻せば郁は直ぐに戻って来るだろうが、下手をすれば彼女達だけで花火大会に行かせる事にもなりかねない。
 それだけは、避けたい最重要項目であったが、運良くこの日は検閲の類もなければ、玄田に足止めを喰らうこともなく無事に定刻通りに事務所を後にし、寮に戻ってから15分後には三人揃って吉祥寺に向かうべく寮を後にする。












 土曜日の夕方ともなれば、吉祥寺の周辺は当然のごとくかなりごった返していた。
 これから飲みに行く者や買い物を終えて帰宅する者、路線の乗り換え利用者、人々の足は様々な方へ向かいかなり混み合い、工事中で狭くなっていることも重なって真っ直ぐに進みにくい状態になっていた。
 こういう時通勤の苦労がない自分達の環境に感謝をしつつ、人混みの中を辟易しながらも、器用に人をさけて進んで行くと、聞き慣れた声が前方から聞こえて来たが、その声音に堂上の眉間の皺が一気に深くなり、きつい眼差しが周囲を素早く見渡す。
 郁の背丈でも人混みに紛れて確認できなかったが、あの聞き慣れた声は間違いようが無い。
「だから、あたし達には連れがいるから、他当たってって言っているの!いい加減にしてよ!!」
 今にもぶち切れそうな声に気がついたのは堂上だけではない。
 小牧、手塚も気がつき二人の柳眉が寄る。
 そして、三人一言も口を開いていないというのに、足を動かす速度が急に速くなる。
 手早くICカードを改札に当ててゲートを潜ると、三人の姿が直ぐに視認できた。郁が二人を庇うように前に立って、ニヤニヤとだらしない顔で三人を囲むように立つ男達を睨み付けている様子が、男達の背中越しに一目でわかった。
 周囲の人間は遠巻きに視線を向けるものの、関わり合うのはごめんだと言わんばかりに通り過ぎていく。
 三人の前に立つ男の一人が、何かを言いながら郁の肩に手を伸ばそうとした瞬間、ぐっと郁の腰に力が入りすっと下げられるが、その腕が郁の肩に触れることはなかった。
「いててててててて」
 いきなり背後から伸びてきた腕に無造作に掴まれ、捻りあげられると男は瞬間的に脂汗を浮かべてうめき声を漏らす。
「教官!」
 キリリっとつり上がっていた眉だが、堂上の姿を確認するとぱぁっっと笑みの顔に変わる。
「遅くな・・・・」
 男の腕を捻り上げながら一言言い掛けた堂上は、郁の姿を視認すると思わず言葉をとぎらせる。
 堂上は予想しなかった郁の身なりに思わず瞬く。
 それなりにおしゃれをして来るとは思ってはいた。
 柴崎の事だからここぞとばかりに、郁の脚線美を強調した身なりをさせて来ると思っていたのだが、その脚線美は予想に反して見事なまでに隠れている。
 そのかわり、襟足から伸びた首筋に思わず目がいってしまうのは男の性というものか・・・
 濃紺の生地に生える、オレンジの百合の花が描かれた浴衣姿に、思わず喉がなったような気がするが、郁には気がつかれなかったのだろう。
「どうかしました?」
 きょとんと小首を傾げて問う郁の襟足に、さらりと短い髪が揺れる。
「いや・・・で、悪いがこいつらは俺達の連れだ。ナンパなら他を当たってくれ」
 咳払いをして郁から視線をそらすと、腕を捻りあげたままの男達へと視線を戻す。
「なんだよ、おっさんが後から来て・・・・!」
 と、言い掛けた男達だが、堂上だけではなく小牧、手塚の姿を見ると黙り込む。
 腕を捻り上げられているというのに、堂上一人ならばどうにかなるとでも思ったのか威勢を失わなかったが、Tシャツの上からでも明らかに体型が自分達とは違う・・・と判る三人を前にして、分が悪いとでも思ったのか、それ以上は何も言えずに堂上の手を振り払うと、悪態をつきながら去っていく。
「三人とも綺麗だからしかたないけれど、さっそく絡まれちゃったみたいだね」
 堂上が怒れるオーム状態だったよ。
 っと、笑いながら言う小牧だが、その眼が笑っていない。
 最初の一言は三人に向けられた言葉だったが、すぐに郁と柴崎に守られるように立っていた毬江に向かって、大丈夫?怪我は無い?と甲斐甲斐しく確認したあと、とても綺麗だよ似合っている。と三人の中でいち早く褒め称える。
 その様子を見て郁が思わずいいなぁ・・・と言いながらちらりと堂上を見るが、堂上はぷいっと顔を背けてしまう。
 小牧のようにつらつらと褒め称えて欲しいとは言わないが、もう少し他の態度があるのではないだろうか。
「こんな所で突っ立っていてもしかたない。行くぞ」
 そういうと、何も言わない堂上に拗ねて頬を膨らませる郁の手首を掴んで、さっさと歩き始める。
「素直じゃないねぇ・・・」
 似合っているんだから褒めればいいのにねーと、隣にいる毬江に話しかけながら、小牧は毬江の肩に手を回して歩き始めると、手塚は柴崎に俺達も行くぞとと言って歩き始める。その速度は柴崎に当然の如く合わせていたが、堂上のように手を繋いだり、小牧のように肩に手を回したりはしない。
 柴崎は、手塚の横に並びながら「何か言う事はないのぉ〜?」と意地悪く問いかける。
 手塚はちらりと柴崎を見下ろすと、不承不承と言わんばかりに「よく似合っている」と口にする。
「棒読みじゃなければ、もっと良いのにね」
 でも、アリガト。と艶やかに微笑むとその視線は手塚からそれて、目の前を歩く二人へと向かう。
 初めはぎゃいのぎゃいの言っている様子だったが、堂上が郁の耳元に何かを囁くように顔を寄せて呟くと、郁の顔が破顔するのが少し離れていても良く判った。
「ああ、あんなにとろけるような顔をしちゃって。最初から素直に教官誘っていれば二人っきりのデートが出来たのにねぇ」
 その言葉に手塚は問うような視線を柴崎へと向ける。
「花火大会デートしたかったらしいんだけれど、子供っぽい気がして誘えないって頭抱えていたら、毬江ちゃんが自分をダシに使ってくれって言ってくれたのよ。それとも、毬江ちゃんが笠原をダシにしたのかしらねぇ?どっちもどっちかしら?」
 毬江は毬江で小牧と花火デートを楽しみたかったのだろうが、小牧はまだ毬江を連れて遅くまで出歩いたりしない。
 それが、もどかしく感じる年頃になって来ているにもかかわらずだ。
 小牧は毬江を目の中に入れても痛くないほど大切にしているが、けしてペースを速める事はしない。
 本心はともかく。









 朝の通勤ラッシュ並の混雑具合となった電車からはき出されるようにホームへと降りると、乗車していた人間の大半が同じ目的だったのか、電車の中はがらがらになり、対照的にホームには人があふれんばかりの状態となる。
 気がつけば、柴崎や毬江達と少しずつ距離がひらき、堂上と二人並んで改札へと向かう。
 陽はまだ沈みきってはおらず、さらに人口密度が高いため辺りは熱気が満ちており正直浴衣はかなり暑い。
 花火といえば浴衣!と思って着てきたが失敗したかと思わなくもない。
 団扇を仰ぎながら、人の流れに乗って駅を出るとさらに人口密度が増す。
 他の駅から歩いてきた人たちとの合流地点でもあるのだろう。
 細い路を歩いて多摩川までに出ると、土手にはびっちりと屋台が並び、川下に向かって人の流れができている。
「郁、足下気をつけろよ」
 土手には階段があるが急勾配で歩きにくいため、堂上が手を差し伸べてくれた。プライベートだと当たり前のように女の子扱いしてくれることに、まだ若干不慣れではあったが、その手をつかんで裾が開きすぎないように気をつけながら、階段を上って土手の上に上がる。
 河原には思い思いの場所で花火を楽しむために、すでに場所取りしている人たちで埋まっていた。ぱっと見では腰を落ち着けられるようなところが視界に入らないほど、人人人人。噂には聞いていたが予想よりも人の出はかなりあった。
 花火は川下の方であがるため、打ち上げ花火を見る分にはどの位置からでも視界を遮る物無く見えるのがいいが、仕掛け花火の類は少し移動しないと見えそうもなかった。
 時間的に花火の時間までまだ少しある。
 屋台を冷やかしながら、どこか落ち着けるところを探すべく歩き始るが、電車が満員ならば細い土手上の路も満員電車なみの混み具合で、歩調は自然とゆっくりとなり、すれ違うときは互いに身体を斜めにして譲り合う。
 それでも、肩が相手にぶつかってしまうのは、仕方ない。
 堂上がかばうように中側を歩いてくれるため、比較的ましではあるのだが、端のほうを流れに逆行するように歩いて来る人間もいるため、誰にもぶつからずに歩くという事は出来なかった。
 最初のうちはぶつかるたびに、すみません。ごめんなさい。といっていたが、だんだんそう言うモンだと思うように成ってくると、いちいち謝罪の言葉が出てこなくなる。というより間に合わない・・・というよりも聞こえないだろう。
 陽気な音楽やアナウンスが聞こえ、屋台のおにーさんおねーさんの威勢の良い呼びかけ、周辺住民からしてみれば良い迷惑じゃ?と思うほどの喧噪に包まれていた。
 生半可な声では悪目立ちしない。
 にも、かかわらずその声は辺り周辺に響き渡った。


「誰か捕まえてっっ! ひったくりよ!!」


 その声にその場にいた人間がいっせいに同じ方向へ視線を向ける。
 それは、郁達も同様だった。
 ぱっと見には誰が引ったくりなのか、人が多すぎてわからなかったが、身動きするのもままならない状態の土手から一人の男が飛び出すのが見えた。その手には男が持つには不似合いなバックが握られていた。
 あの男がひったくり犯。だということは直ぐに判ったが、周囲の人間は思いにもよらない事態にどよめきつつも、まるで男を逃がすように道を空けてしまう。
 唐突の事に周囲の人間は捕まえるよりも、反射的に巻き込まれまいとするかのように逃げ出していた。
 それによって出来た隙間を縫って、滑り落ちるように土手を駆け抜け、反動を利用して路上に飛び出す。通り過ぎようとした車が慌ててブレーキを踏み、ハンドルを切る音がこだまするが、男は速度を緩めることなく二車線の道路を走りぬけ、反対側へ逃げ出す。
 人ごみの中から、その姿を見たとたん郁の足に力が入るのと、「笠原!」と堂上が反射的に上官の声で郁の名を叫ぶのがほぼ同時で、周囲・・・いや、背後から「あ」と声が漏れたときには郁の足は地面を蹴ってバックをひったくって逃げようとする男を追いかけるべく、土手を滑り降りていた。
「いや、待て!」
 堂上が表情を変えて郁を呼び止めたのは次の瞬間だったが、遅かった。
 その声は郁の耳には届かない。
 彼女は堂上の制止には気がつかず、走り出した。
 浴衣を着ているため走りにくかったのだろう。
 郁はこともあろうことに、裾をたくし上げて白いふくらはぎを露わにして地面を蹴る。
「まてぇぇぇぇ! このあたしから逃げられると思うなっっっっ!」
 カランコロンカランコロン。
 音だけ聞けば風情。
 だが、その速度は風情からほど遠い。
 下駄のためいつもの速度は出せていなかったが、そのスピードは下駄を履いて走っているものとは思えないほどの速度。
 カランコロンと立てていた音は、いつの間にかカッカッカッカという音へと変わり、みるみるまに男との距離が縮まっていくのが土手の上から見ていてよく判る。
「いいぞ!ねーちゃん!!」
 誰かの威勢の良い応援の声が響く。
「あと少しだ!」
 それはあと少しで犯人に追いつくという意味か、それとももう少しめくれれば・・・という意味か。めくれあがった裾は気がつけば膝上にまで達していた。後少しめくれればかなりきわどい状態になるのではないだろうか。
 暗闇に浮かび上がる白い脹ら脛が目に眩しい・・・と思う男は幾人いたのか。
 女の足なんぞその辺ににょきにょき出て珍しい物ではない!と訴えたいところだが、不思議と浴衣から覗く・・・というより露わになっているというシュチュエーションは、普通にスカートからにょっきり出ている足よりも艶めかしく見えてしまう。
 それはやはり、浴衣マジックと言うべきか。
 ひゅーひゅーと囃子立てる口笛も周囲に響き渡る。
 引ったくり犯捕縛劇の結末よりも、周囲の男たちは別の意味で色めき立っている。その状態に、お前、少しは浴衣だと言うことを思い出せ!と堂上は叫ぶが周囲の歓声にかき消されて郁の耳には届かない。
「・・・・・・・堂上・・・・」
 なんで、お前笠原さんをしかけるかな?
 と生ぬるい目で小牧に見られても何も言えない。
 本来ならば郁を制止して、堂上が駆け出すべきだった。
 だが、ついいつもの癖で笠原と呼んでしまったのだ。
 気がついたときには遅い。
 少し遅れてやってきた手塚と柴崎も状況を見て察っする。
 手塚はなにやっているんだ。と呆れんばかりの視線を郁にむけるが、すぐに自分の立場を思い出したのだろう。郁の後を追うように走り出す。
 おそらく、手塚が追いつく頃にはケリはついているだろうが、郁一人に任せないところが真面目な手塚らしい行動だ。
「あらあら。せっかく綺麗に着付けたのに。惜しげもなく足をさらしちゃって。ただで見せるなんて大サービスねぇ」
「なにが大サービスだ! お前なんで、郁にあんなかっこうを!」
 八つ当たりと判っているが、言わずにいられない。
 浴衣でなければこの騒動の何割かは防げたはずだ。
「教官、お言葉ですけれど、普通に考えたらこんな状況になるなんて思いませんことよ?」
 少なくとも柴崎や毬江では太ももまですそをたくし上げて、走るなんてまずありえない。
 いや、一般的に常識から考えたら、浴衣を着た状態で引ったくり犯を追いかけるなんてありえない。男女問わずにだ。
 だが、その一般常識にカテゴリーされない人間もいる。
 その一人が間違いなく、今目の前で犯人を追いかけている笠原だ。
 彼女の頭の中には今、自分がどんな姿で走っているかなど頓着していないに違いない。
「でも、きょーかん。ご安心くださいな」
 このあたしにぬかりはございません。と誰もが見とれる笑みを浮かべて柴崎は言うが、堂上には全くその効果は現れない。
「なにがだ!」
 くわっと堂上が吠える。
 郁が裾をたくし上げた走り出した瞬間、男達の歓声があがり、さらにフラッシュが光ったことを見逃してはいない。
 今すぐ消せ!と叫びたいところだがそんなことを叫んでも無駄だ。
「こんなこともあろうかと思って、万全の対策はしていますから」
 にっこりと太鼓判を押す柴崎に、堂上と小牧はいぶかしむ。
 いったいどんな対策をしているというのだろうか。
 どんなに暴れても着崩れないようにしているとでも言うのか?
 いや、すでにあそこまで裾をたくし上げて走ればかなり着崩れているだろう。
「あ、おいつきますよーやっぱり、ここは笠原得意の大外刈りですかねぇ」
 柴崎ののんきな発言に堂上は表情をこわばらせて、今更ながらに追いかける。
 裾をたくし上げて走っている状態で大外刈りぞやれば、どこまで裾はめくれ上がるのか。想像する事がたやすくて頭痛を通り越してめまいを起しそうだ。
 郁はためらいなくやるだろう。
 ミニスカートでですら大外刈りをやろうとしたのだから。
 堂上の予想どおり、郁は男に向けて手を伸ばすと、むんずっとつかんだ。
 その体勢で手塚も郁が何をしかけるつもりなのか判ったのだろう。
「ばっ!ばかか!ここで大外刈りなんてやるな! お前ゆか・・・」
 制止する声が響く。
 が、それはなんの抑止力も働かなかった。


「あたしの前でひったくりしたのが運の尽き!」


 そう叫ぶと、勢いよく男の襟首をつかんで、どりゃぁぁぁぁと叫びながら男を投げ飛ばす。
 がばりと開いた足は見事なまでに裾を割り、大きくめくれ上がる。
 その瞬間を待ちに待っていた男達は、おおおおおおっと歓声に満ちた声をあげるが、それがぴたり。と止まる。
 確かに浴衣の裾はめくれ上がった。
 これ以上ないぐらいに。
 太ももまで露わになっただろう。
 だが、浴衣の下から現れたのは脹ら脛のように白く艶めかしい太ももではなかった。
 なぜ黒い!
 誰かが叫んだのかもしれない。
 だが、それは釘付け状態になっていた男達全員のつっこみだっただろう。
「・・・・スパッツ?」
 陽が沈みはっきりと見えた訳ではないが、白い太ももではなく足を覆う黒いものが見えた事に、小牧が首をかしげながら柴崎を見下ろす。
 まさか、股引じゃないよねぇ・・・・と情緒の欠片も無いことを思ったのは、ここで男の性を落とすためならありえないことではないかな?と思ったのだが、それは杞憂だった。
「三分丈のレギンスでーす。何があるか判らないので笠原の足に仕込んでみました」
「さすがだねぇ」
 騒動が何かあれば、絶対に自分の身なりを忘れて走り出すのが笠原という女だ。
 それを見越していた柴崎に小牧は素直に賞賛する。
「笠原は暑いからいやだって言ってましたけれど。何があるか判らないんだから穿かせて正解でしたね。備えあれば憂いなしってことです」
 郁に投げ飛ばされた男は見事に背中から落ち、目を白黒させている。
 その背中に郁はがしっと足を乗せてマウントをとると、召し取ったり!と声高々と上げた。
 むろん、裾はめくれあがったままで白くて形の良い脹ら脛が露わになってるが、犯人確保の高揚感で気が付かないのだろう。
 手塚が呆れたように犯人確保を引き受けるのと同時に、郁の頭頂部に遠慮のない拳骨が落ちたのは言うのもデフォルトとしか言い様がなかった。






 
 

「いきなり何するんですか!」
「浴衣を着ているのに大外刈りする人間がいるか!」
「レギンスはいていたんだから、そんなに怒る必要ないじゃないですかぁぁぁ!」

 犯人捕まえた功労者ですよ!あたし!!

「お前は恥じらいというものを少しは学べ!!」
「教官だって笠原ってあたしの名前叫んだじゃないですか!あれって行けってことですよね!?」
「やかましいわいっっっ!」

 
 いつの間にか花火に負けず劣らない勢いで、喧々囂々と叫ぶ二人に挟まれて手塚がいたたまれない思いをしたのも、またデフォルトかもしれない。











                                       -END-














☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
 ってなわけで続きです。
 ただたんに、先日、浴衣を着ているお嬢さんを見かけて思いついた浴衣ネタ(最初は普通にお祭りの予定)でしたが、花火大会のポスターを見たので花火大会の変更しました。
 でも、花火なんて欠片も関係してませんけれど(笑)
 浴衣を着て大外刈り。ってシーンが書きたかっただけです。
 で、思わず焦る堂上だけれど、露出したのは目にも眩しい白い太ももではなくて、レギンス姿(笑)
 股引でも良いですけれど、さすがに股引は浴衣に影響が出そうだ・・・ってか暑くてさすがに厳しいだろう(笑)いや、もうなんつーかげんなり度はupしそうなきはしますが(笑)
 もう少し、ストックを書いたら次をupしたいところなのだけれど、夏ならではの時候ネタなので今月中にはupをしたい所存。


 お初upですが、書いたのは実はストックの中では一番最後だったりします。少しでも楽しんでいただけたら幸いでございます(笑)


                               2012/08/19