堂上+小牧です。
革命で入院後、郁が見舞いに行った数日後の話です。
















 つきあうことになった。








 郁が見舞いに行くようになってから、数日後に顔を出すと堂上はぶっきらぼうな口調で唐突にそう言った。
 いったい誰と誰が?なんて野暮なつっこみはいれない。
 当初はどの程度意識していたのかはっきりと判らないが、彼女が入隊してからこの3年間おもしろいぐらいに女っ気のない生活をしていたことを知っている。
 その間に告白されていて、その断っていたことも。
 個室とはいえ寮にプライベートはあるとは言いにくく、何かの会話の檻にそういった事をされているニュアンスが混じっていたため、直接聞いたわけではないが、誰かに告白されたんだなと思うことはあった。
 だが、堂上はその誰ともつきあうことはなかった。
 それまで、間が空くことなく・・・という状態ではなかったが、成人した男だ。それなりに関係を持った彼女がいることぐらいは知っているし、同様にその頃はまだ毬江との関係を変えていなかった自分にもむろんいた。
 男同士ならではの会話になったことも一度や二度じゃない。
 それが、三年前からふつりと止まっていた。
 班長になって新人教育に忙しいから・・・と当初は言っていたが、それだって一年二年も経てば、独り立ちと言わなくとも、それなりに経験を積み目を片時も離せないというほど、危なっかしい状態からは脱する。
 だが、年数が経てば経つほど目が離せなくなっていた。
 最初は無意識に。
 そのうち本人も意識していただろう。
 堂上が誰を見て、誰を想ってきたか、副班長として、同期同僚として、友人として傍にいれば自然と判る。おそらく本人よりもその視線が誰を追っているか判っていたかもしれない。
 素直になってしまえば楽なのに。
 意地を張り続ける堂上に呆れつつも、自分のことではなく彼女のことを真剣に考えて動く堂上に感嘆の念を抱いた事も一度や二度ではない。
 自分の性格ではきっと無理だ。
 そもそも、最初から自分ではありえないのだが。
 だが、堂上が堂上らしく選んだ先に、彼女がいればいいだろう。と思ったことは一度ならずともある。


 あまりにもまだるっこしくて、いい加減にしろ。と思ったことはそれ以上にあったが。


 ようやく、納まるべき所に納まった二人に敬意を称して、小牧は堂上にお祝いがあるんだ。と言う。
「祝い?」
 小牧の言葉に堂上は怪訝な顔をする。
 まだ退院するには早い。
 リハビリが始まるどころか抜糸もしておらず、足は吊られた状態で身動きすらままならない。
 祝い事をされるのはおそらく二ヶ月ぐらい先のはずだ。
 それ以外に何があったというのか。
 当然のごとく何も判っていない堂上の表情に、小牧はぷっと早くも上戸に入りつつ、携帯を堂上に見せる。
「お前、ここ病院だぞ?」
 いくら外科病棟とはいえ、病院内での携帯は御法度だ。
 だが、それよりもすでに小牧の肩が小刻みに動いていることに、堂上は思いっきり警戒心をむき出しにする。
「大丈夫だよ。通信機能はオフにしているから」
 通信モードがオフならば使用して良いのかどうか疑問はあるが、電波が出てないのならば病院内の機器に影響が出るとは考えにくい・・・
 が、携帯を渡されて堂上はこれをどうすればいいのかが判らない。
 自分の携帯は当麻事件で水没し利用不可の状態だが、今特に必要とはしていない。
「いいから中、見てよ。データーは携帯買い換えたらあげるから」
「?」
 データーをあげると言われても、小牧の個人携帯から貰うデータに覚えはない。
 業務関連のやりとりは、隊から支給されている業務用携帯とPC以外では守秘義務上許可されていないはずだ。アドレスの類に関しては、PCにバックアップがあるから支障がない。
 よく判らないが促されるまま、とりあえず閉じられている携帯を開いて、モニターに視線を落とすが、モニターを視認したとたん堂上の目が思いっきり見開かれた。
「んなっっっっ!?」
 携帯を開いたとたんバックライトが点灯し、モニターが表示される。
 本来なら待ち受け画面が表示されるはずだというのに、そこに写り混んでいるのはなぜか判らないが、自分と郁の寝顔だった。
 それも、ただの寝顔ではない。
 互いに寄り添って眠る姿だ。
「綺麗に撮れているでしょう」
 モニターを凝視したまま愕然とする堂上から、小牧はひょいと自分の携帯を奪い返す。
 わなわなと震える手の中で、携帯がみしみしと音を立て始めていたから救出したにすぎない。
 このデーターに関しては焦らすつもりもなく、携帯を新しいのに買い換えたら、堂上にメールで転送するつもりだ。
「覚えているかな? 茨城県展に行くとき堂上、笠原さんに肩貸した状態で二人して居眠りしてたよね」
 確かにバスの中で居眠りしたことは覚えている。
 自分の方が先に寝たため、郁がいつ寝たのか覚えてない・・・いや、正直に言えば肩に重みがかかった瞬間、柔らかな髪が頬やうなじに触れた事を今でもはっきりと思い出せる。
 穏やかな寝息に眠気は吹っ飛び、身動きが取れなくなったのはここだけの話だ。が、そのうち間近にある温もりが心地よく、いつの間にか再び寝てしまったのは確かだ。
 だが、だからといってなぜその時の写真が、小牧の携帯に納まっているのかが理解できない。
 いやちがう、理解することを堂上は放棄したと言っても良いだろう。
 堂上は何も言わないままおもむろに、けが人とは思えない動きで携帯を小牧から奪い返そうとするが、むろん小牧が堂上とは言えけが人に遅れを取るはずがない。
 ひょいと上体をそらして堂上をかわす。
「小牧・・・・携帯を貸せ」
 喉の奥から呻くような声を漏らす堂上に、小牧はすっとぼけた顔でなんで?と問い返す。
「なんでもかんでもあるか! んな写真後生大事に保存しておくな!!」
 寄こせ!と腕を伸ばして叫ぶ堂上を、からかうように小牧は右へ左へと携帯をひょいひょい動かしながら、そんなに暴れると傷に響くよ?とよけいあおるようなことを口にする。
 実際にすでに響いているのだろう。
 冷や汗のようなものが浮かんでいる。
「だったら、さっさと携帯をよこしやがれ!」
「いや、だってこれ俺のだし?」
「携帯はお前のでもデータはおまえんじゃない!」
「いや、これ撮ったの俺達だし」
「撮ったのはお前達でもっっ・・・・俺達?」
 小牧の言葉に堂上は動きをぴたり。と止めて、眉間にぐぐっと皺をさらに刻む。
 すでに堂上の眉間の皺はデフォルトと言っても良いぐらいだが、眉間を通り越して額にまで皺が刻まれるのはいかがなものなのか。
「うん、俺達」
 小牧はわざとらしく繰り返す。
 にっこりとまぶしい程の笑顔を浮かべて。
「どういうことだ?」
 聞かない方が良いということは堂上も判っている。
 この流れから言って自分にとっていい話とは思えない。
「あの時、俺だけが一緒にいた訳じゃないでしょう?」
 それが答えだった。
 だが、その答えを聞いた瞬間めまいを覚えたのはきっと、未だに下がりきらない熱のせいや、動いた為にうずく銃創のせいではないはずだ。
 めまいどころか頭痛までしてくるのも気のせいではないだろう。
 こめかみをもみほぐしながら、堂上はあの時のバスの乗員を思い返す。
 あの時あのバスにいたのは何人だったか。
 手塚はまずこういう事には参加しないだろう。
 二日酔いの影響もまだ抜けきっていなかったため、自分よりさきに寝ていた。下手をすればこの騒動自体手塚は知らない可能性もある。どちらにしろ、手塚はカウントから確実にはずせる。
 だが、隊長がいた。あの人は絶対に悪のりするに違いない。他にもこういったことに悪のりする面々は・・・・走馬燈のようにながれたメンツはほぼ全員。
 あの日に茨城に向かった者は隊の半分。
 2台のバスに分乗したから同乗者は、さらに半分として特殊部隊の四分の一は確実にバスに乗り込んでいた。
「一応訂正しておくけれど、1/4で計算しているかもしれないけれど、隊の皆の携帯にほとんど入っているんじゃないかな? だから、俺の携帯だけ消しても無駄」
 うちの隊って本当皆仲良いよねーと爽やかに言い切る小牧だが、堂上の表情は爽やかとは対局の位置にいたことは言うまでもあるまい。






 【王子と姫の備忘録-旅の思いで編-】






 そんな名のアルバムが特殊隊で作られている事を知らないのは、堂上と郁ぐらいだと言うことを、当人達だけが知らない。









おまけ


「手塚、隊長がちょっと極秘任務を任せたいから隊長室来てだって」
 小牧に言われた内容に手塚は怪訝な顔をする。
 隊に入ってまだ一番下っ端の自分にどんな任務を任せようとしているのか。そう言った任務に今までもついたことはあるが、総じて堂上が隊長から指示を受け、堂上から話を聞くというのが今までのセオリーだったはずだ。
 それが、なぜ直接自分が呼び出されたのか。
「俺だけですか?」
 何かしらの任務を言いつけられるとき、高確率の場合で郁も呼ばれていることが多い。
 特殊隊唯一の同期同僚で、今後どちらかが特殊隊を止めない限りもっともバディを組む率も多い相手となることは間違いない。
 それが判っているだけに、自分だけしかいないときに呼ばれる事に違和感を覚えるが、任務は狙撃に関することなのだろうか。
 堂上経由ではなく小牧経由で呼び出されたことも、珍しいなと思ったのだが、上官の呼び出しに否と言うことはありえない。
 極秘という言葉に気を引き締めて、手塚は隊長室へと足を向ける。
「手塚、入ります」
 軽く扉をノックすると中から「入れ」と玄田の声が聞こえ、隊長室へと通じる扉を開けて中に入る。むろん、入ったら静かにだがきっちりと扉を閉める。極秘任務を言いつけられるのにうっかり扉が開いていたらしゃれにならない。
 だから、気がつかなかった。
 その時、事務室内にいた隊員達全員がニヤニヤと笑っていたことを。
 そして、手塚に声を掛けた小牧の肩が小刻みに揺れていたことを。


「おう来たか。まぁ、そう硬くなるな」

 手塚が入室するといつもの気安さで玄田は声を掛けてくる。
 極秘任務と聞いて顔がこわばっていることに気がついた玄田は、手塚が思っていたよりも上機嫌な様子だった。
 その表情に深刻な状態ではなさそうだと判断する。
 もともと、深刻な案件は今はないはずだが。
 玄田はさて。と机に肘を突いて組んだ手の上にあごを載せて、にやりと手塚を見上げる。
「お前の、スナイパーとしての目を買って極秘任務を言いつける」
「はっ!」
 郁が呼ばれず自分だけが呼ばれた理由がその一言で判った。
 特殊隊に選抜されておきながら信じられないぐらいに、郁は射撃が下手だ。それはもう致命的なまでに。
 だいぶましにはなったが、腕の筋力がなかなか突かないせいか銃口の安定率は低いままだ。
「お前に、堂上と笠原のベストショットを撮影することをいいつける」
「は・・・・?」
 姿勢を正し指令をまった手塚は思わず間抜けな返答をしてしまう。
「ほれ、詳しくは是に書いてある。読んでおけ」
「いや、あの・・・ベストショットの撮影って・・・」
 読んでおけと言われれば読むが、玄田からの指示が今ひとつ・・・いや今二つ意味がわからない。
 顔にでかでかと素直に書いている手塚に、玄田は大きな声で小牧を呼びつける。
「まぁ、とまどうのも無理はないけれど、ようは盗撮をしろってことだよ」
「と・・・・・・」
 小牧の思いにもよらない言葉に手塚は絶句する。
「うん、手塚ならそういう反応すると思ったけれどね。ほら、堂上って気配に聡いだろう?俺だとすぐにばれちゃうんだよねぇ。だから、手塚に任せようと思って」
「盗撮って何がですか!」
「いや、落ち着いて? 堂上と笠原さん二人でいるとき良い表情しているんだよねぇ。それ逃す手ないでしょう?」
 さらりと言い切られ、手塚は口をはぐはすさせながら、無駄と判りつつも救いを求めるように玄田へと視線を向けるが、玄田は誰もが悶絶するほどの力で、手塚の背中をバシンっと叩く。
 めったに手塚はされたことはないが、郁が悶絶する姿は何度も見ている。これは確かにかなり強烈だ。
「後は任せたぞ、手塚一士!」
 将来有望な若手が入って、特殊隊は安泰だ。と全く関係ないことを言いながら、ガハハハハ!と出て行く玄田の背を、思わず恨めしげに見たとしても誰も文句は言わないだろう。
「頑張ってね、手塚」
「ですが、小牧二生! 盗撮など自分には・・・・」
 できません!という言葉は、小牧が開いた携帯の画面を見たとたん止まる。
 小牧の携帯には堂上と郁のツーショット写真がなぜか納まっていた。
 そして、そのどれもがカメラ目線とは言えない。
 明らかに隠し撮り。
「見つかったら騒ぎになるから、見つからないようによろしくね?あ、是に関する君の上官は俺だから、俺に転送してね」
 じゃぁ、見当を祈るよ。
 そう言って、隊長室を出ようとした小牧だが、不意に思い出したように足を止めて振り返る。
「そうそう。俺だけじゃなくて柴崎さんにも転送してあげてね。彼女は君の同期同僚でこの案件に関してはバディだから」
 頼もしい味方がいてよかったねぇ。
 と、爽やかに言って出て行く。




「・・・・・・・・・・・・俺、特殊部隊に入ったんだよな・・・・?」





 パパラッチするために入ったのでは断じてない。
 という呟きは誰にも聞かれなかったが、聞かれたとしても綺麗に黙殺されただろう。
 






☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
先日、会社のメールサーバーが死んじゃって仕事が出来なくなった間に、唐突に閃いたからその勢いで、ちまちま打ってみたりしてみました。
だって、データ転送して貰わないと仕事にならなかったんだもーんとか言ってみる。
サーバーは死んでたけれど、ネットは生きてたのよねん。
コミックの10巻買ったときに、ふと思ったのですよ。
これ、いつばれるんだろう・・・・って(笑)
やっぱり、二人がくっついてからかなぁ。
茨城県展終了後?それとも、革命の間での一コマで?
どのタイミングかなーとか思っていたので、こんな感じにしてみたのでしたん。
おまけはまさにおまけな感じで(笑)
郁のように見事なぱぱらっちになってくれるか、どうかは判りませんが(笑)


とりあえず、郁と出会ってからは女っ気ないことにしております。
そんな余裕なさそうだし(笑)
入隊当初はいたとしても堂上が郁ばかり構うので、別れたってパターンでもいいかもしれませんが。
GHで書けない女絡みとかの話も書きたいなぁとか思いまする〜(笑)



                                    


                   2012/08/22
            Sincerely yours,Tenca



次は、GHの未来ネタです。