未来への不安





 ぼんやりと心地よい陽気の外に視線を向けて、連絡事項に耳を傾ける。これから徐々に暑くなって行くのだろうが、まだまだ心地良い季節だ。こういうときはのんびりとお昼寝でもしたいなぁ…って思ってしまうが、そんなことをして許されるのは猫と縁側でひなたぼっこを楽しむ老人ぐらいだろう。
「谷山ちょっと来い」
 HRが終わりあとは荷物をまとめて帰るだけというときになって、担任がひょっこりと顔を出したかと思えば突然のお呼び出し。
 私は小首をかしげて考えてしまう。呼び出されることに心当たりがないからだ。
 先日終わったテストは安原さんのおかげでかなりよかった。
 学校で教えてもらうよりもわかりやすいのは、さすがというべきだろうか。
 面白おかしく、すんなりと頭に入りやすい方法で教えてくれるので、短時間でも恐ろしいほど進む。
 その結果、テストの成績は上々と言ってもいいぐらいだ。
 出席日数のほうは本来ならかなりやばいのだが、そこは生活のためのバイトでの欠席。よって、出席日数の不足分はレポートとかで免除になっているので、それで呼び出される理由にはならない。それも、安原さんのアドバイスの元力作が各教科の教師の元へ届けられているのだから。
 はて、ほかに何かあっただろうか?
 まったくもって、思い浮かばないがとりあえず担任の後について行く.
 今年担任になった先生は、受験生を持つには若い。まだ、漸く三十に届くかというぐらいの現国の教師である。お坊ちゃんタイプで(本当にお坊ちゃんらしいけれど)若い割には熱血で少々から回りしてしまうこともあるが、生徒の間の評判はそれなりにいい・・・らしい。私はよく判らないけれど。 
「谷山、進路はどうするつもりだ?
 二年の末のアンケートではおまえだけが保留扱いになっていて、まだ進路志望が定まっていないんだ。
 確かにお前の状況だと限られた中からしか選べないかもしれないが、就職するなら早いうちから行動をしておいたほうがいい。いや、すでに出遅れているといっても言いぐらいの時期だ。就職組みはもうすでに動いているんだぞ?もたもたしていたら取り残されてしまうぞ。
 確かにお前は、現在の生活も支えるためにいろいろとほかの生徒に比べれば、大変だろうが希望があるなら早く教えて欲しい。僕もできる限り協力するから。もしも、興味があるならこれを見てみるといい。就職情報だ。
 出遅れたといってもまだまだ、挽回は効く。だが、就職するなら今学期中に決めないと状況は厳しくなるぞ。そのことは忘れるな。
 話はそれだけだ。不況はまだまだ続くから、先のことを考えて動いたほうがいいぞ。若いから、フリーターでも大丈夫なんて言っていられなくなるからな」
 担任はそれだけを言いたかったらしく、話し終えると退室して構わないと言った。
 思わず廊下に出た瞬間ため息が出てしまう。
 自分でもどうしようと、迷っていたことを他人から突きつけられると、ますます迷ってしまう。
 もう、三年生になって二月が過ぎようとしていた。周りは確かに受験で目の色を変え始めている。推薦組みにしろ一般組みにしろ、予備校通いをしていなかった者達も通い始め志望校を目指してがんばっている中、私一人だけが取り残されていたのだ。
 あと、十ヶ月もしないうちに高校を卒業する時が来る。
 その時、私は何をしているのだろう?
 就職か・・・進学か。
 就職するのなら、今のバイトは止めなければいけないということになる。
 できれば、やめたくはない。
 普段の仕事と調査の仕事のきつさは雲泥の差だけど、大好きな人たちがたくさんいるあそこは、私にとっての『家』に等しい。そこから離れるのはたまらなく心細く感じてしまう。
 だけれど、確かに先生の言葉どおり今のままなら私はフリーターということになる。
 若いうちはいい。二十代ぐらいまでならフリーターでも構わないだろう。だけど、三十代になったら?
 その時もしも結婚していたらバイトでもパートでもいいけれど、独身だったら?そのときにフリーターという身上では心もとない。
 何かあったときの保証もないし、なによりも今の場所にいつまでいられるのかもわからない。
 ナルもリンさんも日本人ではない。仕事のために一時的に日本に滞在しているだけであって、いつかはイギリスへ戻るときがやってくる。その時がきっと事務所の閉鎖のとき。今すぐに事務所が閉鎖されるということはないだろうけれど、これから先ずっとあるものでもない。いつか、ナルもリンさんもイギリスへ帰るときが絶対にやってくるのだ。
 『帰るとき』・・・ナルの帰る場所は遠い海を隔てた外国。
 私の知らない世界・・・国・・・・・・
 けしてこの国にはなりえない。
 私の手の届くところと言うことにはなりえない。
 今、一緒にいられるのが奇跡な人なのだ。
 イギリスには、彼の帰りを待っている人が大勢いる。
 義理とはいえ両親に、彼の未来を大いに期待している幾人もの人たち・・・自分とは違って多くの人が彼を待っているのだ。それだけの期待が彼にはかかっているのだ。
 そんな、人と一緒にいられることが本当に不思議だ。
 いつまで一緒にいられるのだろう。
 時々不安になる。
 こうして、現実を突きつけられると、その時が思いのほか早くきそうで不安になる。
 その時・・・別れの時・・・が、来てしまいそうで・・・
 やっぱり、就職かな。
 少し、ナルと距離をおいていざって言うときに慣れておく必要もあるし、何よりいつまでもナルに甘えていられない。
 二年前私を雇う必要もなかったのに、破格の給料で雇ってくれているのは同じように孤児という立場の私に同情してくれたから。
 本当の意味で独り立ちしなければいけないときがきたのだ。
 だから、いつまでも甘えてはいられない。
 雇われ始めたときより、多少は役に立っているだろうけれど・・・それでも、味噌っかすなことには変わりない。
 将来、真砂子や綾子のようにこれだけで、ご飯を食べていけるようにするのなら、修行もかねてバイトを続けさせて欲しいっていえるけれど、私は真砂子や綾子のようにこれでご飯が食べていけるようになれるとは思えない。なら、早いうちに決断を下しておくべきだ。下手に未練を引きずらないうちに・・・
 皆とはなかなか会えなくなってしまうけれど、辞めたら二度と会えなくなってしまうわけじゃない。
 あの事務所があそこにある限り、私が帰る場所はあるんだから・・・
 ナルにも日本に彼がいる限りいつでも会えるんだから、そのぐらいで寂しいなんて思っていたら、彼が帰国した時私は寂しくて寂しくておかしくなってしまう。
 ナルへの思いに気が付いてからすっごく悩んだけど、両思いになって幸せだなぁ・・・って思えるようになってからまだ、そんなに時間はたっていないのにもう別れることを考えなければいけない現実に、悲しみを覚えないわけではないけれど、いくら嫌だと思っても時間は止まることなく流れているのだ。
 いずれ来る日。少しでも別れることを惜しんで貰える人間になりたい。
 なら、いつまでも甘えていないで、早く独り立ちをしないといつまでたっても、ナルの厚意に甘えていることになってしまう。そんなんじゃ、子供扱いから卒業できない・・・・

 そう言い聞かせても、先の見えないことを不安に思う気持ちは消えない。


 そのまま、季節は梅雨へと入りぐずつく天候のように、気持ちが晴れない日々が続く。
 あの放課後から、担任が決まったか?とちょくちょく聞いてくることが多くなったからだ。
 ナルにバイトを辞めて就職するとまだ伝えられてなかったから、担任にも言い出せなかった。
 それに、迷っている理由にはもう一つある。
 就職以外、もう一つの道も選択できるのだ。
 将来的に役に立ちそうな専門学校に進んで、資格をとると言う道。就職するための準備という名目で進学すること。
 この、ニ年間と卒業するまでのバイト代と保険で二年分ぐらいの学費ならどうにか捻出できる。もちろん、その二年間はナルのところでバイトさせてもらえれば卒業できるだろうとの、希望的観測の元の計算だけど。
 だけど、それは結局はナルに甘えてしまうことになるのだ。
 そう思うと、それもまた選べられない。
 甘えたくないというのなら、選ぶ道はたった一つしかなくなってしまう。
 ある意味それしか、もう選択はないのかもしれない・・・いいかげんに諦めろと言う事なのだろうか。
 今の自分に卑屈になるきはないけれど、現実的に選べられる状態ではないのだ。限られているのなら、その中から最も自分らしく最良の選択をしよう。
 皆に会ってもその時に恥ずかしくないように。
 ナルがいつか英国に帰って、いつか再開したとき恥ずかしくないように・・・・・・
 そうと決めたら行動あるのみ。
 このまま、うじうじと考えていても何も決まらないのだ。
 考えるのはいつでもできるのだから。
 決意を決めると今日こそナルに話そうと思って、HRが終わると急ぎ足でオフィスへと向かった。
 すっかりと通いなれた道玄坂を登って、オフィスのドアを開けるといつものメンバーがすでにきていて、私が口を開くよりも先にお茶の催促をしだす。
 それもいつものことなので、荷物を置くと彼らのご注文どおり丁寧にお茶を入れて差し出す。後、何回も淹れることはできなくなるのだ。そう思うといつもよりもゆっくりと丁寧に入れてしまう。
 リンさんにもお茶を差し入れると、ナルのお茶の準備をして所長室へと向かう。
 所長室は事務室に比べて光が落とされている。もう少し明るいところで仕事をすればいいのにと思ってしまう。
「あのね・・・ナル、ちょっと大事な話があるんだけどいいかな?」
 カップをテーブルの端にそっと置くとナルに問い掛ける。
 革張りの立派な椅子に深く腰掛けて、長い足を軽く組みながら分厚い洋書をめくっていたナルの手がとまることもなければ、その視線が本からはずされることもなかった。いつものことだと判っているがこれから自分が話そうとしていることを考えると思わずため息が出てしまう。
 できれば、何かをやりながら片手間に聞かれるってことはやめてほしいなぁ・・・と思いつつも、いつもと何一つ変わらないこの状況のほうが言い出しやすいかもしれない。
 変に構われてしまうと、よりいっそう緊張してしまう。
 緊張する必要など何もないというのに、体は緊張でこわばりトレイを抱えている両腕は、じっとりと汗をかき始めていた。そのことに思わず苦笑が漏れてしまう。
 なぜ、ここまで緊張する必要があるというのだろうか。
 別にナルと別れるわけでもないと言うのに。
「あのさ、ナル・・・私ね、高校卒業したら就職しようと思っているの。
 だから、多分年内でバイト続けられなくなると思う」
 一気にそこまで言い切ると漸く溜めていた息を吐き出すことができた。
「就職?決まったのか?」
 今まで黙々と文字を追っていた視線があがり自分を見据える。
「まだ・・・これから。
 ただ、一応動き出す前に報告しておこうと思って。
 就職活動し出したら、バイトも休むことでてくるだろうし、就職先によっては決まったら土日はバイトで入って欲しいって言うところもあるみたいだし、そうしたらここのバイトできなくなるでしょ?
 だから、先に報告しておこうと思って。私が急にやめても業務に支障出ると思えないけれど、やっぱり報告は義務だと思うし」
 ナルは何も言わない。
 ただ、黙って何かを考えるように私を見上げながら、指先で肘掛をたたいている。
 私も言うことは言ってしまったから、ナルが肘掛をたたくトン・・・トン・・と言う音だけが室内の音と鳴る。
「そ、それだけなの。大事な話って言うもののことでもなかったね。
 仕事邪魔してごめんね。詳しく決まったら報告するから」
「待て」
「ナル?」
 出て行こうと振り返ったときナルの静止する静かな声が聞こえた。
「やりたい仕事があるのか?」
 その言葉には首をかしげることしかできなかった。それをこれから見つけるのだ。
 ナルみたいにこの年でやりたい仕事なんて見つけられるわけがない。
 友達の中では将来やりたい仕事があるから、それを学ぶために専門学校とか大学に進学する子達はいるけれど、私はやりたい仕事をまだ見つけてはいない。
「なぜ、進学ではなく就職を?」
「なぜって、やっぱり就職しか道はないもん。答えなんて聴かなくてもわかるでしょ?」
「孤児だからか?
 それが理由になるとは思えないが?勉強しようと思えば、夜学でも奨学金制度もあると思うが?
 それに、僕はお前の進路の選択を狭めるほど少ない給料を払っているつもりはなかったがな。ボーナスもそれなりに出していたはずだ。計画的にお前が貯蓄をしていれば、大学の入学金と一年分ぐらいの授業料は溜められるだけは出していたつもりだが?それ以降はお前の今後のがんばり次第だろうがな。
 まぁ、お前が学ぶことは何もないから就職を選んだって言うなら、あえて何も言うつもりはないが、金銭的なことを理由にあきらめるのなら馬鹿だな」
「馬鹿は・・・ないでしょ。
 ナルはさ頭がいいから奨学金制度でも何でも狙えるだろうけれど、私はそこまでよくないもん。
 私が入れる大学って言ったら私立だよ。
 ナルが言うとおりお給料はすっごくたくさん出ているから、お母さんが残してくれた保険とあわせれば二年分ぐらい大丈夫だけど・・・・・・」
 私はぎゅっと唇をかみ締めてナルから目をそらせてしまう。
「だけど?」
 言葉を中途半端で切らしてしまった私を促すようにナルが問いかけてくる。
「―――なんでもない」
 それだけ呟いてぎゅっと唇を噛みしめるとナルはそっと溜息をもらす。ぱたんと…本が静かに閉ざされ、ディスクの上に置くのが俯いた視界に入る。
「お前が勉強したいこともないというのなら、それでもいい。遊ぶために大学へ行くというのなら、したい人間だけが行けばいい。
 だが、それを環境のせいだと思っているなら考え直した方がいい。いずれ後悔するときが来る」
 ナルは簡単にそう言うけれど、実際問題はそんなに優しくはない。
 学びたいことは正直に言えばある。まだ、興味を持っているとしか言えない状況だが、それでも出来ることなら大学へ進んで勉強してみたい。だけれど、それには現実がついてこないのだ。
 海外の大学はどのぐらい費用が掛かるのか判らないけれど、日本の大学…私立はとにかくお金がかかるのだ。
 生半可な気持ちでは中途半端になってしまう。
 やるなら最後までやりたい…
 何よりも、もしも大学へ行くことを考えるならば、このままナルの厚意に甘えると言うことになるのだ。いつまでも甘えてはいられない…って決意したばっかりなのだ。
「もしも、お前がどうしても勉強したいが金銭的にゆとりがないというのならば、SPRで奨学金という形で援助してもいいが?」
 私はその言葉に力無く頭を振る。
「今でもすっごく、ナルに甘えているのにそこまで甘えられないよ……」
 ナルの申し出はすっごくうれしいけれど、幾ら図々しくてもそこまで甘えることは出来ない。もしも、自分がもっと役に立つなら働いて恩返しするって言えるけれど、そこまで言えるほど自分が役に立つとは思えない。
 自分の変わりなど誰にでもできるのだ。
「ナルにはさ、すっごく助けて貰っている。
 高校生の私には不相応なほどのお給金も貰っているし…だけど、このまま甘えていられないよ。
 だって、大学進学するってことは少なくとも今年を入れて五年間はここで働かせて貰えたら、卒業できるって計算になっちゃうんだよ?
 後、五年間もこのオフィスがあるかどうかも判らないし…何より、いつまでもナルにあまえてちゃ私、いざって言うとき何もできなくなっちゃうよ―――」
 苦笑を浮かべて明るく…軽く言ったつもりだったけれど、何だか泣き笑いになっている気がする。
 おそらくそれは気のせいではなく、本当に泣き笑いになっていたのだろう。
 ナルが軽く眉をしかめて私を見上げている。
「確かに、日本に永住するつもりはないが」
 判っていたとはいえその言葉を改めてナルから聞くと、かなりショックかもしれない。心臓がぎゅっと鷲掴みされたかのように痛い。
 その麻衣を見上げながらナルは微かに吐息を漏らす。
 その吐息の意味を麻衣はまだ判らない。そして、ナルも又麻衣に言わない。まだ、言う必要があるときではないから。だから変わりの言葉を淡々とした声で続ける。
「だが、後数年は居るつもりだが?
 日本は面白い現象がある。機械との相性が悪くなければ申し分ないが、早々上手くデーターが溜まる物でもない。ある程度のデーターが溜まるまではここを離れる気はない。それに、僕とて雇用主だ。
 安原さんとお前を雇っている以上、ここを閉鎖するときには充分な時間を用意する。そんなに何の前触れもなく急に、閉鎖を決めるようなことをするつもりはない。
 それに、そんないつくるかわからない未来を想定して、自分の将来を決めるのは愚かだと思うが?
 出来ることは出来るときにやっておくべきだと、僕は思う。
 無闇やたら怠惰に勉強することばかりが正しいわけでもない。だが、あてもなくただ働くことばかりがまた正しいわけでもない。幾つもある選択肢の中から後悔しないと思える物を選べばいい。自ら選択肢の幅を狭めて、限られた視野の中で決めるのは時間の無駄だ」
 ナルの言いたいことは判る。
 可能性を閉ざすことなく、ありとあらゆる道を自ら閉ざさないで選べって言っているのだから。
 だけど、ナルの言葉はまるで進学することを進めて、就職することを反対しているようにも聞こえる。
 このまま、ここで働けって言っているのかな?
 何だか、すっごくつごうがいい言葉に聞こえるのは、私の思い過ごしかな……これって、引き留めてくれているって思ってもいいのかな……
「援助を受けるのもいやだ。あてもない計算をするのもいやだというのなら、僕が貸しても良いが?」
 ナルの思いにもよらない言葉に、思わず顔を上げてしまう。
「――――――ナル、私を甘やかせすぎだよ―――――――――――」
 ポツリと漏れた言葉に、ナルは苦笑を浮かべる。きっと、ナルもその自覚はあるのだろう。ただ、何も言わず立ちつくしている私の腕を掴むと、グイッと引き寄せる。その瞬間二人の距離は一気に縮み、私は真上からナルを見下ろす形になる。
「別に、返さなくていいとは言ってない。
 お前の余裕がある中で返してくれればいいさ。別に僕はお前のように困ってはいないからな。気長に待ってやる」
 目頭がなんだか急に熱くなって、視界が滲んでくるのが判る。
「―――それでも、甘やかしすぎだよ……………」
 泣きたいような笑いたいような不思議な気分。
 なんだか、こんな顔を見られたくなくて私は、ナルの首にしがみついてその肩に顔を渦くめて隠してしまう。
「まぁ、お前でも入れる大学が日本にあるならばの話だがな」
「ひどぉ〜〜〜〜」
 確かに受験するつもりがなかった私は、スタートが大きく出遅れているけれど。
 それでも、もっと他に言い方があるだろう。
「で、どうするんだ?」
 しがみついたままの私にナルは問いかける。
「――少し考える。もう少し考えさせて?」
 今すぐに返事の出来ない私をじれったく思ったのか、ナルは疲れたように溜息をもらす。だが、それ以上何も言うことはせず、軽く私の背中を宥めるように叩いていてくれた。
 まるで、応援してくれているかのように………




 後日、私は担任に進路希望を出した。
「先生、私大学で勉強したいことが在るんで、大学に進学することに決めました」
 ニッコリと笑顔を浮かべて私がそう言うと担任は驚いた顔をしたけれど、頑張れって応援してくれた。
 結局、ナルの厚意に甘えることになる。
 お金を借りるって事ではないけれど、今のまま少なくとも大学を卒業するまではアルバイトさせて貰うという形で。
 その後がどうなるか、私には判らないけれど…少なくとも、後五年はナルは日本にいてくれると言うのが判ったことだけでも今は嬉しい。
 その先のことは、あえて考えない。
 どんなに考えたって答えは出ないから。
 その時が来れば、きっとその時導き出した最良の形の答えが在るはずだから。







☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
 これからの時期そろそろ進路に悩む方が出てくる頃でしょうねぇ・・・進路のみではなく、就職でもね。
 ちなみに、これ書いたときの天華はものすごく迷っていました。
 果たして今の仕事を続けられるのかどうか・・・・鬱々鬱々鬱々鬱々と・・
 結局どうでも良くなってしまったんで、おそらく続けることになりそうだけど(笑)
 天華の悪い癖です。悩んでいるとある時途中で面倒になって、どうでも良くなると言う・・・来年も今の所にいるのかねぇ?





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