自分は何のために生まれてきたのだろう。
 一度は疑問に思う人もいるかもしれない。
 死ぬまでそんなことを思わない人もいるかもしれない。
 彼は生を終えてから考えた。
 自分は何のために生まれ、何のために死んだのだろうか、と。
 

「Happy birhtday to you」


 静かな声が闇の中に密かにこだます。
 誰も何も存在しない世界に、ひどく寂しげな唄が静かに響く。


「Happy birhtday to you Happy birhtday dear ……………」


 ふいに声は途切れた。
「今日は、何回目の誕生日だっけ?」
 彼は首を傾げながら長い指を折り曲げて自分の年を数える。
 両指を折り曲げ、右手を一本ずつ伸ばしていく。
「13,14,15,16――17――――1――――――――――――――」
 彼はそこで年を数えるのを止めた。
 自分はもう永遠に年を取らない存在なのだ。年をカウントする必要などないというのに、それでも数えてしまうのはなぜだろう。
「習慣かな。ねぇ、ナル―――」
 彼は問いかける。
 自分とは違い年を取っている弟を呼ぶ。
「ナル、聞こえないの?」
 いつものように呼びかける。例えアンテナがずれていたとしても、何度か声を呼びかければ弟は呼びかけに応えてくれる。おざなりで面倒くさそうでも、けして声が届かないと言うことはない。
「ナァルゥ」
 だが、この日は応えがない。
 それでも辛抱強く何度も声をかける。
 例え年を取らない存在になったとしても、ここにいることが自然の流れに逆らうことだとしても、この日だけは一人でいたくはなかった。彼との繋がりを求めてしまう。
「どうして応えてくれないかな」
 完璧と形容されるほどに整った顔立ちでありながら、まだどこか丸さを残す頬を膨らませる。ひどく子供っぽい仕草がまだ似合う。彼の弟が見たら眉をひそめるかもしれない表情。
 自分と同じ顔で子度っぽい仕草をされることを、彼は嫌がっていた。
「ねぇ、ナル覚えているかな。
 小さい頃よく二人でお祝いをしたよね」
 ないよりはマシというような孤児院で過ごしていたときは、互いしかいなかった。肩を寄せ合い互いが互いを守って生きてきた。毎年この日は一人っきりで生まれてこなかったことを祈った。それだけは居るか居ないか判らない神に祈っていいと、キミは言ってくれていた。
 形だけの作り物のケーキを用意して、蝋燭を二人(実質的にはナルは参加していなかったが)で消した。
 イギリスのディヴィス家に養子に行った後は二人きりで、この日を過ごすことはなくなった。優しい養父母と新しい仲間達に囲まれて楽しい一時を過ごせるようになったけれど、美味しいご飯に美味しい手作りのケーキ。全てが小さい頃夢に見た物に囲まれてすごせる、楽しい日に変わった。だけれど、それでも必ず二人きりで祝ったのだ。互いの誕生日を。
 自分の誕生日ではなく、愛しい半身の誕生日を。
「ねぇ、ナルどうして応えてくれないのさ」
 ジーンは苦笑混じりで呟く。
 理由など判っている。
 彼は生きているのだ。そして、成長しているのだ。
 自分と違って彼の心は漸く成長しだしたのだ。
 半身だけがいればいい。
 下手をしたらそれさえも思ってもいなかった彼は、漸く人並みに他人に関心を持ち出したのだ。
 もう、自分のように互いが互いを祝いあう必要などなくなってしまったのだ。
「お兄ちゃんは、寂しいな」
 囁きに返ってくる答えはない。それでいいと言うことは判っているが、それでも寂しさは消えない。孤独感は永遠に拭えないのだ。
「いったい僕は何のために生まれてきたのかな―――君と麻衣を会わす為だけに生まれてきたのかな?だったらいいね…無駄で何もしないまま終わってしまったと思うより、君と麻衣を巡り合わせることが出来ただけでも良しとしようか…でも、二人が知り合ったのって僕が死んでからなんだよねぇ…それじゃ、生まれてきた理由にはならないか」
 誰もそんな答えは持っていない。
 それを知る者が居たらそれは、神と呼ばれる者だけかもしれない。
 そんな存在いるとは思ったことはない。
 この世に宗教と呼ばれる物は多々あり、千差万別の神が存在するが神は平等に人を愛し慈しむという。それならなぜ、悲しみがある。苦しさがある。
 悪魔にそそのかされてリンゴを囓ってしまったアダムとイブ。
 その為に楽園を追放されてしまった人類の祖。
 神に見向きされなかったために、弟を殺してしまったカイン。
 その為に人類最初の肉親殺しの烙印を押されてしまった兄。
 神なんているわけがない。
 いるなら、自分からたった一人の肉親を奪う何てしないはずだ。麻衣のように孤児などあるわけがない。自分達のように親から捨てられる物もあるまい。
「ねぇ、ナル…オリヴァー、キミは幸せかい? 今日という日を大切な人に祝って貰っているかい?」
 夢現に、微睡みに身を任せながら呟く。
 柔らかな闇の揺りかごに身をまかせば、優しい夢を見れるだろうか?
 記憶の片隅に残る、新緑の風と青い空の下で過ごした日々の夢を見れるだろうか?
 後悔はしていない。
 この日出づる国と呼ばれる国へ来たことは。この地で果ててしまったのは片割れの言うとおり、自分の不注意なのだ。生に執着はないかと言われればあると応えるが、いい加減それも諦めの域にある。
 ただ、諦められないのは、悲しいのは彼らの記憶の中に埋もれてしまうこと。
 忘れられてしまうこと。
 どうか忘れないで。
 僕という存在をどうか忘れないで。
 キミの半身がいたことを、記憶の中に埋もれさせてしまわないで。
 それが、今の僕の願いだから……














記憶という名の馨り


























 先ほどまで激しいほどに早鐘を打っていた鼓動は静まり返り、緩やかさを戻し始めた頃甘やかな囁きが耳朶をくすぐる。意識はすでに微睡みの淵を漂っていたために、ハッキリと言葉を聞き取れず腕の中にある少女を見下ろす。
 麻衣はクスクスと笑みを零しながら自分を見上げていた。
 何が楽しいだのろうか。
 まだ幾分余韻が残っているとはいえ、無邪気なまでの笑顔を浮かべて自分を見上げている彼女を見ていると、先ほどと同じとは思えない。
「何が可笑しい?」
 腕の中で笑いを止めることが出来ないのか、微かに肩を揺らして笑みを零し続ける麻衣に、ナルは不機嫌そうに眉をしかめる。
「だって、ナル判ってないんだもん」
「何がだ」
 いったい何を判れというのだろうか。
 そもそも彼女はまだなにも言っていない。
 それで言いたいことを理解しろという方が無理だ。
 そして、常々彼女の方が自分に向かって言っている台詞である。
 相変わらず麻衣の言いたいことは判らない。
「今日が、何の日か覚えてないでしょ?」
「今日?」
「そっ。今日は特別な日だよ」
 特別な日。果たして何かあっただろうか。
 ナルは記憶力はずば抜けていいが、結局は自分が興味ないことは覚える気がないため、覚えていない。麻衣が言っている意味を理解できないことはよくある。特に麻衣が言う『特別』とは自分にとってはどうでも良いことが多い。だからなおさらだ。
「とりあえず調査はないな」
 実にナルらしい応えに明らかに脱力する麻衣。あまりにもらしすぎて涙が出てきそうだ。
 しばらく待ってもナルは本当に今日がどんな日か判らないのだろう。そして、さほど興味を覚えなかったのか、自分を見上げている麻衣を胸の中に抱き込もうと腕を伸ばしてきたとき、麻衣はゆっくりと上体を起こすと、ナルの耳もとに唇を寄せて再度囁いたのだ。


「Happy Birthday NOLL」


 その一言に今日という日にちを思い出す。
 9月18日 いや、既に日付線を越えているからもう19日になるのだろう。
 今日は19回目の誕生日だ。
 片割れを亡くして一人で迎える3回目の誕生日。
 1回目の時は一人この日を迎えた。
 祝ってくれた半身はその姿を見せることなく、今まで交わし続けていた言葉のやりとりもなく、ただ日常と変わらない日を、夜を過ごした。
 2回目の時は片割れを土の中に戻し、両親と過ごしたが前の年と何ら変わることはなかった。
 そして、今日は片割れを亡くしてから三度目の誕生日。
 別に去年や一昨年と変わりがないはずだった。
 今はイギリスにいる両親の変わりに、彼女が祝っているに過ぎない。ただ、それだけのはずだ。
「なるほど、でこれがプレゼントなわけか?」
 麻衣の腕を引っ張って再び自分の下に組み敷き、先ほどまで触れていた首筋に顔を渦くめて囁く。
 柔らかな血流が流れるあとをたどり、緩やかに口づける。
「ちょっ、ち、違うよ!!」
 ジタバタジタバタと腕の中で麻衣は必死になってもがいて、ナルの束縛からとりあえず離れると床の上に落ちているナルのYシャツを羽織り、ベッドから下りるとそのまま寝室を出ていってしまう。リビングでなにやらガサコソしている音が聞こえてくると思っていると、手になにやら持って戻ってきた。
 何かの瓶だろうか、綺麗に包装されているそれを麻衣はナルに手渡す。
「これが誕生日プレゼント」
 今すぐ開けてと言わんばかりの目で訴えられ、ナルは包装を紐解く。
 そこから出てきたのは一本の白ワインだ。フランス製の名のあるメーカー物。年数を見ると今から19年前だ。再びベッドに潜り込んできた麻衣は悪戯が成功した子供のように、鳶色の双眸を輝かせている。
「ナルはワインならけっこう飲むでしょ?
 誕生日プレゼント何がいいかなぁ〜〜〜何て迷っていた時ね、他のメーカーのだったんだけれど同じ年のワインをつけたの。でも、美味しいかどうか私には判らないから綾子や、ぼーさんとかリンさんに相談してどこのワインならナルの好みかなぁ〜〜って言ったら、ここのがいいって教えてくれてあっちこっちさがしたんだ」
 確かにこの銘柄はけっこう好みの味だったはずだ。ジーンは甘くないから嫌っていたが、適度に酸味と辛さが効いているここのは自分好みだ。
「で、何で僕の誕生日が特別な日なんだ」
 麻衣は今度こそ本気で呆れ返っているのだろう。
 力尽きたように枕に顔を突っ伏している。
「特別な日でしょうが!!誕生日なんだよ!?」
 がぁ〜〜っといきなり顔を上げて叫く。
「だから?」
 なぜ誕生日だからと言ってその日が特別になるというのだ。
 それはこの世にいる物全てにある物であり、別に珍しい物でも何ともない。
「ナルらしいけれどぉ〜〜〜。
 でもね、私にはすごく特別な日だよ。特に今日は。
 だって、初めてナルにおめでとうって言えたし、一緒に迎えられたし――何より、一番最初に言えたの私でしょ。だからすごく嬉しい。
 誰かの誕生日をこうして一緒に祝えるなんて、すごく嬉しいよ」
 白く滑らかな胸に懐きながら麻衣は至近距離にあるナルを見上げる。
 なぜそこまで喜べるのか判らないが、麻衣が本当に喜んでいることだけは、その表情を見れば一目瞭然だ。
「ついこの前も原さんの誕生日をお前達は、オフィスで祝わなかったか? その前は麻衣の誕生日だったな更に前は松崎さんか?その前は誰だったかな、安原さんか、リンもぼーさんのもジョンのもやっていたな。まだ祝い足りないのか」
 興味がないくせに変なことだけはしっかりと覚えている。まぁ、ナルのことだ。騒々しくて仕事にならなかったと言いたいのだろうが。
「そう言う意味じゃなくてぇ〜〜〜」
 どう言えば伝わるだろうか。思わず悩んでしまう。
 本当にこの朴念仁は人の感情の機敏という物を理解してくれない。
「嬉しいでしょ? 誰かにおめでとうって言って貰えるのって、すごく素敵なことなんだからね。自分が生まれてきてくれたことをそれだけ周りの人達が喜んでくれていることなんだよ。
 特に大切な人の誕生日ならなおさらだよ。
 だから、私は言いたいの。
 私はナルが生まれてきたこの日がとても大事。だって、この日がなければオリヴァー・デイヴィスという人はこの世に存在しなかったんだよ。
 だから誰よりも、ナルのお母さんとお父さんにすっごく感謝している。
 ナルを産んでくれてありがとうって。
 いるのかどうか判らないけれど神様にも、ナルと逢わせてくれてありがとうって言いたいの。
 それから、ジーンにも。
 ジーンが居なかったらきっと私達会えなかったね。ナルはきっとイギリスにいたままだっただろうし、私はきっと平凡な高校生やってた。そうしたらきっと道はどこまで行っても一直線でナルに会えなかった。
 ナルに会えなかったらきっとこういう気持ち知らなかったと思う。
 人ってこんなに誰かを好きになれるんだって、初めて知ったの。
 すごい我が儘な気持ちだと思う。だけれど、私はこの気持ちがすごく大切。こうしてナルの傍にいれるのはすごい幸せなんだよね。国籍も人種も、さらに育ってきた環境や考え方も何もかも違うのに、一緒にいられる事ってすっごい奇跡だよね。だけれど、一緒にいるのが日常的になって、いるのが当たり前になったらその奇跡と思うことを忘れちゃいそうになる。ずっと側にいる物って思いこんじゃう。
 だけれど、一年に一回思い出すの。この日を。ジーンとナルという私にとって奇跡を産んでくれた日を。そうしたら、きっと忘れない。こうして傍にいること自体が奇跡なんだって事が。当たり前ってきっと思えない。
 だから、ジーンには一番お礼が言いたい。ジーンがナルと双子で生まれてきてくれた事にすごくお礼が言いたい。それとナルと逢わせてくれてありがとうって―――ナルにとって見たら嫌なことかもしれないけれど」
 ナルから見れば、ジーンの死に礼を言っているような物に見えてしまうかもしれない。ジーンの死がなければ麻衣とナルは出会えなかったのだろうから。
「そうだな――誕生日はどうでもいいが、間抜けなあいつでも一つぐらいは役に立つ」
 全くこの弟は、どうして素直になれないのか。感謝の気持ちぐらい素直に表しても罰は当たらないというのに。
「どうして、素直にありがとうって言えないかな」
「言って欲しいのか?」
 素直なナル…不気味以外何者でもない。
「うっ…いやかも」
 らしくないことはして貰いたくない。
 雨どころではなく雪が降ってしまうかもしれない。幾ら世の中が異常気象に見舞われているとはいえ、9月に雪はイヤだ。
「ナル、生まれてきてくれてありがとう」
 麻衣の柔らかな髪に指を絡めながら梳いていると、それが気持ちいいのか夢心地に囁く。
 幼い頃はともかく、ディヴィス家に養子に入ってから、何人もの人間に誕生日は祝われてきたが、ハッキリ言えば何の感慨も湧かった。ただの言葉に過ぎない。
 だが、少女の言う言葉は不思議とすんなりと自分の中に染み込んでくる。今まで聞いてきた言葉と何も変わらないというのに、不思議な響きを宿す。
 胸の上で穏やかに微笑む麻衣を、抱き寄せその唇に口づける。
 しっとりと柔らかな感触をしばらく楽しむ。
 いつの間に人の温もりが平気になったのだろうか。
 もちろん対象は限定されているが、昔は片割れであろうと人の温もりは嫌いだったというのに。
 今ではこれを失うと言うことの方が耐えられないだろう。
 柔らかなキスを数度繰り返したあと、微かに唇を放し吐息に混ぜて囁く。
「悪くはないな」
 ポツリと漏れた言葉は麻衣には聞こえなかったのか、上目遣いに問いかけてきたがナルは微かに笑うだけで応えない。
 再度問いかけられないようにするかのようにナルは貪るように重ね合わせる。
 緩やかに開いた口腔内に舌を潜り絡ませ、ゆっくりと時間をかけて麻衣を陶酔へと引き戻す。
 時折苦しげに眉がひそめられ、くぐもったと息が漏れようとも解放せず、深く絡ませる。
 そのまま再び麻衣を腕の中に組み敷き、羽織っていたYシャツを再び床の上に落とし、柔らかな肌に指を這わす。
 ナルが唇を解放した頃にはすっかりと上気し、再び熱を持ち艶やかさを取り戻す麻衣を見下ろしていたが、ふいに視線を窓へと向ける。そこには成長している自分の顔が映っていた。
 届くかどうか判らないが、ナルも囁く。
 一人闇の中に微睡む片割れに。
 自分はこうして愛しい者を手に入れることが出来た。この腕に抱き今もある温もり。
 漸く、息を付ける場所を見つけられた。
 だが、彼は闇の中一人微睡み続けているのだ。誰よりも祝い事が好きで、率先して宴会の中に飛び込んでいく片割れが、寂しがりやだと言うことをナルは知っている。
 自分だけが得ることを出来、彼は全てをなくした。彼女さえも奪ったと言うべきなのであろうか。罪悪感?自分だけが得られるという後ろめたさ?瞬時に思考が凍り付くようなきがした。
「ナル?」
 麻衣の不安げな声が窓硝子を凝視しているナルに届く。
 その声に視線を麻衣へと戻すと麻衣は、細い両腕を伸ばしてナルの頭を自分の胸へと抱き寄せた。
 まだ、穏やかな時を刻む音が柔らかな肌を通して聞こえてくる。
「ねぇナル、たまには話をして。ジーンが生きていた頃の話。
 二人はどんな兄弟だったの? いっぱい、いっぱいナルの記憶を話して」
 いきなり麻衣は何を言い出すつもりなのか。
「時間の無駄だな」
「どうして? 大切なことだよ。二人の歴史…知りたい」
 自分の胸に顔を伏せているナルの髪に指を絡める。絹糸のように細い黒髪が白い指に絡む。
「あのね、ナル。悲しいときや寂しいときは素直に思った方がいいよ?
 でないと、心が壊れちゃうんだって」
 ナルはきっと自覚なんてしないだろう。
 自分がどんな顔をして鏡を見ていたか何て。
「悲しくて寂しいときは、昔を思い出すの。楽しかった昔を。そうするとね心が明るくなるんだよ?」
「お前はそうやってきたのか?」
 見当違いの言葉に苦笑を漏らし、頷き返す麻衣の腕を離して上体を起こす。
 別に自分が後ろめたくなる必要はないと判っているのだ。それでも、思ってしまったことは彼女の存在にどれだけ自分が染色されてきているかの証だろうか。
「気が向いたらしてやるさ」
 今すぐがいい。その言葉は無理矢理かき消され、今度こそ麻衣は再びナルの腕の中で溺れることになる。







 ねぇ、楽しい話をしようよ。
 いっぱいいっぱい、笑いが止まらなくて涙が出ちゃうようなほど楽しい話を。
 そうすれば、きっと哀しみは薄らぐよ。
 永遠に失ってしまった傷みは消えないかもしれないけれど、だけれど、優しい風のように柔らかい物に変わっていくよ。


 麻衣はナルの首に両腕を絡めて譫言のように囁いた。
「生まれてきてくれて、ありがとう―――ナル」
 礼を言われることではないが、麻衣の耳元にナルも唇を寄せる。
「どういたしまして」
































 闇に沈む直前優しい声が届いた。


――「Happy birthday Jeen」


 春風のように柔らかな声音。大切な大切な少女の囁き。
 それは片割れに向けられた言葉ではなく、自分に向けられた言葉。
 たった一言なのに、涙が出るほど嬉しかった。
 年を取らなくても彼と同じように祝ってくれる少女が。彼女の存在が涙が出るほど嬉しかった。ジーンは強ばっていた心がその一言で溶けていく気がした。




――「Happy birhtday dear ………」



 
 ひどくぞんざいな彼らしい声にも、苦笑が漏れる。
 優しい二人の言葉に、心が凪ぐ。
 いつか、本当に記憶の片隅に消えてしまっても、きっとこの日だけは思い出してくれるだろう。
 少女が愛した男と同じ日に生まれた、もう一人の存在を。
 自分と同じ日に生をえた、半身の存在を。
 例え、忘れられたとしても。彼自身が忘れたとしても、きっとこの日だけは思い出されるだろう。
 優しい記憶となって。











☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆


いったい、いつUPしたはなしなんでしょうかねぇ。
いつぞやかの後書きを見ると「9月6日23時から9月19日の夜23時までの期間限定」と書いてありましたわ。
年度がないと何年前のかわからないじゃんかよっっと、己で己につっこんでみたり。
以下はその時の戯言でございます。


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あう…誕生日話なのに、おにー様ブラック。真夏の夜の夢にアップしてある麻衣の誕生日話はコミカルタッチだったのに、なぜ双子君達になると暗くなるんでしょうかねぇ〜〜〜(笑) 謎です。
同じ双子なのに何て雲泥の差の誕生日。私の愛情のかたより度が物語る(笑)これはGacktがつい今月リリースしたCDのカップリング曲を聴いてジーンだ!!(と思う曲がなぜか多いのよね)と思いつつ書いた話(笑)
他にもジーン君を想像させてくれる曲はいっぱいあります。しかし、なぜかナルを想像する曲は少ない。ダークモードのジーン君系が多いようなきが…もちろん天華の腐れモード次第でしょうが(爆)
タイトルは「Fragrance」




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ちなみに、いまのわたくしは、Gacktのライブで新曲を聴くと「薄桜鬼!!」と一人で騒いでおります(笑)
いいんですのよ〜
今度のライブコンセプト舞台が第二次世界大戦時のドイツなのだけれど。
ようは、人造人間の哀しき定めというか、もう、ライブコンセプトを是非ともノベライズして欲しいと思いますわ。
早くアルバムでないかしらねぇ。
今月の末にGhostというタイトルのシングルが出て、(かっちょえーです。ヤフー動画でプロモをフルで見れます)3月のやっぱりシングルが一枚。
すると四月か五月かなぁ・・・アルバム。
をい、ツアーおわっているじゃんかよ。と思いつつ・・・早くアルバム出してくれないかなぁ。
ってか、追加公演はやらないのかなーなーなー


と指をくわえながら追加公演を夢見ております。