二つのランドセルが上下に激しく揺れながら、渋谷の道玄坂を走り抜けてゆく。通り過ぎる人々は二人を見るたびに足を止め、思わず動きを目で追ってしまう。
 まだ、身体よりもランドセルの方が大きいのでは?と思ってしまうような子供達が、なぜ道玄坂なぞを走っていくのだろうか。イヤそれよりも人々の目を引いたのはその、容姿にあった。
 まだ幼い子供でありながら、実に整った容貌をした顔立ち。一人でいても充分に目立つというのに、息を切らせ白い肌を赤く上気させて走っていく二人は、鏡合わせのように実によく似ていたからだ。二人を見れば一卵性双生児という言葉が誰の脳裏にも浮かぶが、ここまで整った顔立ちの双子を見るのは、壮観である。
 実に将来が楽しみな二人に間違いなかった。
 額に汗を浮かべて、肩で息をしながら二人は周りには目もくれずひたすら走っていく。途中顔が黒くて髪が白いおねーさんにも声をかけられたが無視。スーツのよく似合う人にも声をかけられたがこれもまた無視。言葉が通じないかのように周りにはまったく眼も触れなかった二人の足が、同時に止まる。
 一つのしゃれたオフィスビルの前でだ。
 一階にはお洒落な喫茶店があるが、二階以降上にはオフィスしかないビルである。少年達は一階の喫茶店に用があるのかと思いきや、噴水の脇にあるエスカレータに乗り二階へと上がると、柱の影になっているドアを開けたのだった。
 カラン…コロン…とドアの上部に取り付けてあるベルが、来訪者が来たことをオフィス内にいる人間に知らせるが、それをうち消すかのように住んだ少年達の声が響く。
「笑麻と愛衣はいる!?」
 開口一番出た言葉に、事務室にいた麻衣は苦笑を漏らす。
「お父さんの所?」
 テクテクと息を切らせたまま近寄ってきた双子を見て、麻衣は首を振る。
「安原さんが幼稚園の方に出掛けるからって、ついでに二人を迎えに行ってくれているの。もう少ししたら帰って来るんじゃないかな?」
 時計に視線を向けて麻衣は双子にそう告げると、双子はがっかりとした様子だ。明らかに肩を起こしているのが判る。
「唯人も咲也も真っ直ぐに事務所にきたの?」
 ランドセルをまだしょっているところを見るとそのようだ。二人の通う小学校はマンションから歩いていけるところにある。もちろんオフィスまで歩こうと思えば歩けるが、子供の足では一時間はかかってしまうだろう。
 二人は既に電車の乗り方を覚えているから、地下鉄でも使ってきたと言うことは容易に判る。そして、学校帰りに直接来ることはこれが始めてではなかった。
「ああ〜〜〜もう二人ともいると思ったのに」
 麻衣は苦笑を漏らしながら走ってきた子供達に、冷たい飲み物を与える。
 ランドセルをついたての奥にある戸棚の中にしまうと、来客がないことを良いことにソファーに陣取り、麻衣が淹れてくれたアイスティーとお菓子を頬張る。
「でも、お母さん、大丈夫かな?」
「何が?」
 二人の正面に腰を下ろして、自分用に入れた紅茶を飲みながら二人に視線を向ける。
 外見は文句なしにそっくりなのだが性格は違った。唯人はどちらかというと落ち着きが今一つ無い。その為お菓子を一気に口に入れ、ポロポロとよく零す。落ち着きがないところは母親の自分に似たと、痛感せざるえない。対照的に咲也の方は非常に落ち着いており何事も考えてから行動をするため失敗はほとんどない。食べ方も静かで唯人のようにポロポロ零すことはめったにない。どうやらこちらは父親のナルに似たようだ。
 だが、しかしこの二人に共通することは外見以外にもう一つあった。
 それは……
「愛衣と笑麻のことだよ。襲われたりしないかな?」
 二人は真剣な表情で言っているのだが、対する麻衣はというと…
「は?」
 息子達の言っている言葉が理解できず、間抜けにもぽかんと口を開けて問いかけ直してしまう。
「も〜お母さん、しっかりしてよ!!
 愛衣と笑麻はすっごく可愛いんだよ!! 安原のおじさんが変な気起こしたりしちゃわないかな? おじさん車で迎えに行っているんでしょ? そのまま変な人気のないところとか連れていかれたりしたら、笑麻達大きな声出しても、誰も気が付いて貰えなくて、助けられないじゃない!! お母さんは心配じゃないの!?」
 と言われても……
 麻衣は息子達の思いにもよらない台詞に、開いた口が塞がらなかった。
「あ、あのね…二人とも。見知らない人が迎えにいたって言うならともかく、安原さんだよ?そんなことになるわけないでしょ―――」
 脱力してものが言えなくなりそうだ。
 だが、しかし、双子は真剣に心配しているようだ。
「甘い!! 安原さんだって男なんだからね。目の前に可愛い女の子がいてその気にならないわけがない!!」
 いったい何を考えているのやら・・・
 力説をする二人というより、唯人が力説し咲也は無言のまま同意している。だが、しかし…件の可愛い女のことやらはまだ5才にすらなっていないのだ。たいして安原はナルより一つ上…実質は同じ年なのだが…である。世の中には病的な趣味の人もいるというが、安原にはあり得ない。彼も今では家庭を持ち今年4才になる息子がいるのだから。
「お母さん!年なんて古くさいこと言ってちゃ駄目だよ!?
 愛は盲目なんだから! もの凄くスペシャル的に可愛い女の子がいて、性格も可愛くて、メロメロになっちゃうような子が居たら、襲いたくなったって当然でしょ!!」
 イヤ…当然ではまずいのだが――――あんた達、どこで情操教育受けているんだ。私はそんなこと教えた覚えないぞ・・・というのは麻衣の内心の声だったりする。変に言葉が達者なのは、周りの大人達の影響だろうということは判るが・・・はたして、このとんでもない発想も周囲の影響なのだろうか?
 麻衣は既に冷や汗ダラダラである。
「お母さん、一番お母さんが判っていると思うよ?」
 咲也がポツリという。
 なぜ自分が一番よく判っているというのだろうか。
 作也の発言を引き継ぐように、唯人が口を開く。
「お父さんの執着具合見ていてそう思わないの?お母さんが例えば自分より遥かに年下でも、お父さんならそんなこと無視しちゃうでしょ?」
 確かにその通りだと思うのだが――息子の言葉に思わず納得しかけるが、一気に麻衣は真っ赤になって言葉が続けられなくなる。
 だが、しかし―――それとこれとは話が違う。…はずである。
「あのね、安原さんは笑麻と愛衣のことを娘のようにかわいがってくれているんだよ?
 だから、大丈夫だってば。全くもう、あんた達は少しは妹離れしなさい」
 苦笑を浮かべながら麻衣が言うと双子は見事に声を合わせて一言言った。
「イヤだ」
 と。
 そう、この双子が全く同じになるのは、父親譲りのたぐいまれなる美貌だけではなく、同じく父親なみの独占欲の強さであった。それも今はその対象が実の妹にむいているのだ。それは、もう異常なほどの溺愛ぶりである。
 妹たちに近寄る男の子がいると、父親に勝らずとも劣らない『笑み』を浮かべて害虫駆除を謀り、さらに妹たちには優しい言葉を書けて自分達の方へと関心を向ける。さらには、ベタベタと甘やかす……感情を表に出す分父親に似ていないようにも見えるが、やっていることはまんま同じである。
 しかし、さすがのナルも辟易しているようで、既に自分は関わらないつもりのようだ。いずれ飽きるだろうと言って二人に何も言う気配がない。その事をいつだったか綾子や真砂子に泣きついたとき、二人は声をそろえてこういったのだ。
「娘達に集る虫除けにちょうどいいと思っているんじゃないの?」と。
 あのナルもどうやら人並みの父親の心理という物は持ち合わせていたらしい。娘達に男の子達が近寄るのを快く思っていないようだった。迎えに行ったおり娘達が男の子と遊んでいると、大人げなくも無造作に近寄って、年端もいかない男の子達を威圧しながら、娘達を連れてくるのだ。それが判ってからあまり麻衣はナルに迎えを頼まない。
 幼稚園の保母さんや迎えに来たお母さん方は、ますます磨きの掛かったナルの美貌に見とれているが、威嚇された男の子達は大合唱で大泣きをし始めるのだから。
 あの父にしてこの息子あり。と言ったところであろうか?
 麻衣はへろへろになって自分の席に戻ると、やりかけの仕事に戻る。息子達も仕事をし始めた麻衣に話しかけたりはしない。邪魔をしない。口にしなくても子供達はオフィスに出入りし始めた頃からの暗黙の了解になっていた。
 来客があった場合は、所長室の部屋へと移動するのも、いつの頃からかついた習慣だ。
 二人は小声でボソボソと話しあっているようだが、麻衣にまで何を言っているかは聞こえてこない。十五分ほど経過した頃だろうか。再びベルが鳴り視線を向けると、安原に連れられて双子の娘達が入ってきた。
「安原さん、ありがとう」
 まず最初に同僚に礼を述べる。
「いえいえ、買い物のついでですから」
 ニッコリと相も変わらずの越後屋スマイルを浮かべて応じる安原。それを胡散くさげな目で見る唯人と咲也。
「ママただいま」
 チマッとした愛らしい娘達に視線を合わせると「お帰り」と麻衣も言う。
 この子達の笑顔は疲れたときに見ると、心が和むのだ。
「今おやつ持ってきて上げるね。座って待ってなさい。
 安原さんもお茶飲みます?」
「はい、お願いします」
 大人達のいつものやりとりの間を縫って歩くかのように、唯人と咲也は立ち上がると、トテトテと歩いて妹達に近づき、その紅葉のような小さな手を握ると、ソファーへと引っ張って歩く。そして、一人ずつ自分の隣に座らせると、咲也は目を閉じると二人の手を交互に握りしめる。
 麻衣が戻ってこない内にやって置かねばならないことがあるのだ。これがばれたら麻衣ばかりにかナルにすらしかられることは、重々判っているのだが…妹(自分達の心)の平和を守るためには仕方ないことなのだ。その事をあの呑気な母親と、母しか眼に入っていない父親には判らないのだ。
 数秒が経過すると咲也は息を付くと、ニッコリと笑顔を浮かべた。それは、とある御仁が浮かべる笑顔に酷似しており、それを偶然見てしまった安原の背筋に冷たいものが走る。
「笑麻、翔君って誰?」
 笑麻はキョトンと兄を見上げ、愛らしく小首を傾げるとうなり声を上げる。
「愛衣、誰だっけ?」
 しばらく考えても判らなかったようで、笑麻は双子の妹である愛衣を見て問いかける。
「笑麻のクラスの男の子だよ。今日笑麻と一緒に遊んでいた男の子だよ…たぶん」
 そう言うと漸く判ったのだろう。
 笑麻はポンッと手を軽く叩いて、兄を見るとニッコリと笑う。
 笑麻は愛衣に比べかなりしっかりしていることはしているのだが、非常に人を覚えることが苦手だった。というより興味のあまりない子を覚えないといった方が正解なのだが。
「あのね、あたしと遊んでくれた男の子。
 お嫁さんごっこしたんだよ。あたしがねママとパパみたいにらぶらぶな家族ごっこしたって言ったら、一緒に遊んでくれたのv」
 笑麻はにこにこ顔で言うが、咲也は不穏な笑みを浮かべている。そして、笑麻の言葉に唯人の笑顔が凍り付く。咲也は父と母から譲り受けた特殊な力で、二人の今日一日の行動を視たのだ。その中で笑麻に近づく男の子を発見したワケなのだが、あいにくと唯人にはその力は受け継がれていないため、咲也が何を視たのか判らなかったのだ。
「愛衣も一緒に遊びたかったなぁ〜〜〜」
 不満そうな愛衣に、唯人が慌てて「おにいちゃまと一緒に遊ぼう!!」と叫ぶ。
 いきなり兄達が大声で叫ぶから、妹たちは驚いて目をぱちくりとさせている。
「笑麻や愛衣がしたい遊びは全部僕たちがしてあげるから、男の子と遊んじゃ駄目だよ?男の子は乱暴でね、すぐに可愛い女の子を泣かせちゃったり、怪我させたりするからね。笑麻も愛衣も痛いのいやだろ?」
 愛衣は心当たりがあるのか、怯えたような顔で兄達を見上げ、笑麻はプリプリと不機嫌そうに頷き返す。
 幼稚園の男の子はけっこう乱暴な子が多くて、気が弱い愛衣は良く泣かされているのだ。いつも、泣かされると笑麻が助けてくれるのだ。
「でも、おにいちゃま達はらんぼうじゃないよ?」
「当たり前だろう? どうして僕たちが可愛い可愛い、笑麻や愛衣を泣かせなきゃいけないんだ?大丈夫だからね。僕たちが守って上げるから」
「うん。おにいちゃま達だ〜〜〜〜い好き」
 大好きな兄たちの言葉に、二人の妹たちは何の迷いもなく思いっきり抱きつくと、とろけるような笑顔で甘えたのだ。唯人や咲也も小さな妹の身体を抱きしめると「僕達もだよ」と囁く。まるで小さな恋人達の図である。その様子を見ながら安原は何だか昔似たような物を見たようなあるような、無いような…と思った時点で、これはヤバイのではないだろうか?と思わずうなり声を上げてしまう。
 そして、恐れていた事態はしばらくして訪れたのだった。
 良く事務所に出入りする派手巫女の綾子が、手作りケーキを持って訪問してきたのはそれからすぐのことで、美味しいケーキにかぶりつきながら、唯人が綾子に話しかける。
「綾子ちゃん、あのね、男は幾つになったら結婚できるの?」
 齢七つの子からの質問に、綾子は驚いたかのように二人を見るが、二人は真剣な眼差しである。
 ちなみに綾子は子供達から「綾子ちゃん」と呼ばれている。断じて「オバサン」とは呼ばせなかった。
「十八才になったら結婚できるけれど、二十歳になるまでは親の許しが必要よ」
「女の子は?」
「十六才ね。何よ、二人とも好きな子いるの?
 どんな子?お母さんに似ているの?同じクラスの子?」
 矢継ぎ早の質問に、二人の少年達は同時に同じ方向を指さしたのだ。すなわち二人の双子の妹たちを。
「悪い虫が付かない内に、結婚しちゃえばいいんだよね。
 だから、お母さんいいでしょ?」
 思いにもよらない言葉に、麻衣はもちろんのこと綾子や安原も唖然としてしまう。
 いったいどこでそんな言葉を覚えたんだか・・・いや、今問題にする時点はそこではない。
「あんたたち―――」
 綾子がとりあえず口を挟もうとするが、二人はもうドリームの世界へと飛びだってしまっているようだ。周りの声を聞こうとはしない。
「笑麻や愛衣もいいよね?」
 事後承諾と言わんばかりに、あとから二人に確認を取る二人の兄。
「パパとママみたいにラブラブ?」
 愛衣が聞くと、兄たちはもちろんと大きく頷き返す。
「そうすると、おとーさんとおかーさんも一緒だよ。同居すれば、家族六人ず〜〜〜っと一緒にいられるんだから」
 兄達の甘い言葉に二人は顔を見合わせると、ニッコリと笑顔を浮かべる。
「パパとママもずっと一緒?」
「じゃぁ、おにいちゃま達のお嫁さんになる!!」
 妹たちはは笑顔満面で頷き返し、兄たちはそんな愛らしい妹たちをぎゅっと抱きしめるのであった。
 見事なまでにラブラブぶりを既に発揮している四人の子供達を、眺めながら麻衣がハッと我に返る。
「咲也と唯人、妹とはね結婚できないのよ」
 夢を壊すのは可哀想だが、間違った知識を植え付けるわけにはいかない。
 母親としての義務は果たさなくては。
 唯人と咲也は確認するかのように安原と綾子を見る。二人も子供の夢を壊すのは忍びないのだが、嘘は言えない。
 何せあの男の息子達なのである。多少は母親の血が交じっていることによってあの男の血は薄れているようだが、この息子達の行動を見ている限り、非常に危険な物を感じたのだった。
「えぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 二人はショックを隠せないようだ。
 だが、しかし、腕に抱き込んだ妹たちを放そうとはしない。
「駄目だからね。笑麻と愛衣は僕たちのだから誰にもやらないんだから!!」
 ぎゅぅっと強く抱きしめて、取り上がられまいとしているのがハッキリと判る。ほほえましいと言えばほほえましい光景なのだが……
 異常なまでの妹たちに対する執着ぶりは、どこぞの男が自分の妻に対する執着ぶりと非常にダブるようなきがしてならない。だが、どこぞの男の場合は血の繋がらない他人であり、世間が許す間柄。しかし、彼らは両親を共にする立派な(?)兄妹なのだ。ダブるようなことがあってはならないのだが。
 兄達は妹を死守するかのように、威嚇せんばかりに睨み始めている。しまいには興奮しているせいだろうか。咲也が力の制御を出来なくなっているのだろう、備品がゆらり…ゆらり…と宙に浮き始めた。
「止めなさい!!」
 その事に気が付いた麻衣が声をあらげるが、既にコントロールできないようだ。その事に当人の方が慌てているようでさえある。
「落ち着きなさい――誰も、愛衣や笑麻を取らないから」
 麻衣が優しい声を出して二人をなだめようとしていると同時に、騒ぎにいい加減切れたのだろう。不機嫌そうな顔でナルがドアを開けて姿を現した。
「何をしているんだ」
 事務室を見て深々と溜息。
 備品が宙に浮き、自分によく似た二人の息子は見て判るほど興奮しているようだ。特に咲也の方がそれが顕著に出ている、髪が僅かに逆立ち頬が赤く上気している。このままでは、咲也の身体にも分が掛かるため、麻衣がなだめようとしているのがすぐに判った。
 綾子や安原もひどく緊張しているのは、一目見て判ったが、判っていないのが二人ほどいた。息子達の腕の中にいる娘達である。
 ドアが開いてそこから長身の父親が姿を現すと、二人はぱぁ〜と笑顔を浮かべる。
 仕事中めったに出てこない父親が出てきたのだ。二人は顔を見合わせると「よいしょ」と言って兄達の腕を引き剥がす。
「愛衣!?」
「笑麻!?」
 二人の行動に驚いたのは唯人と咲也の方だ。
 大切な大切な妹たちは、自分達から離れると黒ずくめの父親に近づくとその足にしがみつく。
「パパ、ただいまv」
 そのとたん、音を立てて落ちていく宙に浮いていた備品達。
 そして、脱力してその場に座り込む咲也と、それにつられるようにして唯人もしゃがみ込む。
「あのね、あのね、綾子ちゃんが美味しいケーキ作ってきてくれたの。パパも食べる?」
「今日はね、安原のおにいちゃまが迎えに来てくれたの。
 面白いお話いっぱいしてもらったんだよ」
 すっかり二人の関心は兄から父親に移行したようで、ナルにべったりくっついて離れる気配はなかった。ナルも娘達を無理矢理引き離すつもりはないのだろう。一人を抱え、もう一人の娘の背中に腕を回すと歩くように促し、ソファーに腰を下ろすと麻衣にいつもの台詞を言う。
 なぜだか疲れきっている麻衣だが、ふらふらな足取りで給湯室へ向かう。
 ナルを真ん中にして笑麻と愛衣は今日の出来事とやらを、父親に報告する。ナルと言えば片手に本を持って話を聞いているんだかいないんだか判らない状態だが、愛衣や笑麻は気にする様子もなくおしゃべりに花を咲かせる。
 そして、黄昏る二人の兄達はその様子を見ながら、
「一番の虫は、お父さんじゃないかぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」
 と叫んだという。
 給湯室で聞いていた麻衣は、ハッキリ言わなくても将来が不安でたまらない。
 果たして、あの子達は将来まともな恋愛ができるのであろうか?
 不安は募る一方で消えてはくれない。
 どうかこれ以上の不安の種はまかないで欲しい…そう思うのは無駄なことで、立ち直った二人の息子達は果敢にも父親に立ち向かっていたのだった。
「お父さんにはお母さんがいるんでしょ!!」
 めずらしく咲也ですら声を張り上げる。相手が父親の場合なりふり構っていられないようだ。
「お父さんはお母さんと、いちゃいちゃしていればいいでしょ〜〜〜!!」
 息子達の叫びも聞こえているんだかいないんだか、ナルは全く無関心。
「笑麻と愛衣は僕たちに頂戴よね!!」
「笑麻と愛衣を返してよぉ!!」
 ナルを囲むようにして、側にいる四人の子供達。
 会話を聞いていなければ親子の団欒にも見える――――――かもしれない。
 しかし、その会話はとても親子の間でする物ではなかった……というより齢七歳の幼子が父親に言う台詞ではなかった。
 綾子と安原は既に見て見ぬ振りしか、できないのであった。
「誰かどうにかしてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
 麻衣の悲鳴だけが空しく給湯室に響き渡る。
 『独占欲』の強さだけはバリバリに父親に似てしまったようであった。
 ある意味それは、そう言う男を生涯の伴侶に選んだ麻衣のミスかもしれない。




☆ ☆☆ 作者の戯言 ☆☆☆
まだ、残夏の森が二話分ほど残っているのに、私はなんでこっちを書いているのでしょう?(笑)ふとぼーや達が「妹とは結婚できないのよ」と言われてショックを受けるというシーンが脳裏を駆けめぐって、すぐに形にしたくなり書いてしまいました(^^ゞ
いやぁ、息子達の暴走ぶり書いていて楽しかったです(笑)
さすが魔王jrと言ったところでしょうか?将来が楽しみですvなわけ無いだろうけれど…いったいどんな大人になる事やら。
とにかく「目指せ!普通ではない家族!!」をキャッチフレーズにまた、何か面白いネタが浮かんだら書きたいなぁ〜〜〜〜何だか麻衣の頭に白髪が出そうだけれど(笑)

も・ど・る