未来予想図


理想の形

「あんた達は、どんな人と結婚したいと想う?」
 この日は綾子と滝川が二人してディヴィス家へと遊びに来ていた。家主であるナルは騒々しいのはごめんだと言わんばかりに、書斎へおこもり中である。だからこその、綾子の質問であろう。
 見た目的には判らないかもしれないが、ナルも人の子。娘に対する愛情心理は世間一般なみに持っていたらしく、娘達に男の子達が近づくのを明らかによくは思っていないことは一目瞭然だった。息子達もそれなりにかわいがっているようだが、娘ほどそれらは顕著にはでないところを見ると、さすがナルといえるのかもしれないが。
「僕はね、お母さんや笑麻や愛衣みたいな人が居たら、速攻で物にしちゃうね」
 と言ったのは齢六歳の唯人。爽やかな幼い子供らしい笑顔を浮かべながらの発言とは、とてもではないが思えない。
「僕も、お母さんや笑麻や愛衣みたいな子がいたら一生放さない」
 こちらはポツリと言った言葉だが、唯人と言っている意味はたいして変わらない。二人の発言に質問した綾子とそれを聞いてい滝川はヒクリ…と引きつる。さすがはあのナルの血を引く息子達と言うべきだろうか。
 さすがについ先日兄妹は結婚できないと教えただけあって、笑麻や愛衣と結婚したいとは言わないが…この二人なみのお嬢さん方がこの世の中にいったい何人いるというのだろうか。運がいいことに双子の姉妹には内面的には麻衣の血の方が強いらしく、性格的には文句が付けようもないほど明るくて良い子達だ。外見上はナルの血の方が勝っているようでこれまた文句の付けようがないぐらいに、整いすぎている。
 普通ナルなみに外見が良かったら、ナルなみのナルシストになってもいいのだろうが…今のところそう言う気配はなく、麻衣が見ている限りナルシストな性格にはならないと思われる。が、しかし、少年達が理想とするのがこの二人のように外見も中身も文句なしとなると……果たしてこの世の中に存在するのかどうかが疑問である。
 万が一、彼らが理想とする女性が二人の目の前に現れた場合、きっと今の発言にもれなく必ず自分の物にするのだろう事が簡単に予想できる。きっと、父親譲りのたぐいまれなる容姿と頭脳を駆使して、その女性を物にしてしまうのだろう。二人の父親が母親を手に入れたように。
 思わずなぜだかオカンの走る未来を想像してしまった、滝川と綾子は身震いしてしまう。
 どうか、血の雨だけは降りませんように…祈ってしまったとしてもしょうがないかもしれない。
 DNAという物は侮れないのだから。
「でも、いるのかな?笑麻や愛衣みたいにもの凄く可愛い子」
 唯人がやはり疑問に思っているのだろう。ムムムム〜〜〜〜と眉間に皺を寄せて呻る。
「学校にはいない」
「そうなんだよねぇ〜〜〜。僕見たことないんだよ」
「僕もだ」
 二人は顔を見合わせて、深刻な問題だと言わんばかりにうなり声を上げるが、ふと唯人が何かを思いついたのだろう。ポンッと手を叩いて顔を上げた。
「そうだ! お母さんにお父さん以外の人の子供を産んでもらえば、愛衣や笑麻なみに可愛い子が産まれるに違いないよ!!」
「そうか…その手があったか」
 そうだそうだ。と言いあう二人にますます愕然とする滝川と綾子。その発想はどこから生まれてくるのかなぞだ。
「あんた達…何を言うかと思えば。母親が同じなら産まれた子はあんた達の妹でしょ。血が繋がっているから当然結婚では出来ないわよ。
 それに麻衣が浮気していいの?父親のナルを見限るってことは、この家出ていくかもしれないわよ」
 それは絶対にあり得ないことなのだが、綾子は意地悪くそんなことを言う。だいたいあのナルがそれを許すわけがない。そんなことになったらまさしく血の雨が降ること間違いない。
「そんなのやだ!!」
 声を上げて反対したのは笑麻である。
「おにいちゃま、ママが出ていっていいの?」
 寂しそうな顔でいうのは愛衣だ。
「イヤ、そんなことないよ。だって、お父さんが浮気して子供作ったらお母さんが可哀想だから…お母さんに…って思ったんだけれど…ごめんね、そんなこともう言わないから」
 今にも泣き出しそうな二人を見て、慌てる唯人と咲也。大切な大切な妹たちを泣かせるのは本意ではない。
 しかし、父が浮気すると母が可哀想だというが、母が浮気する分には良いと言うのだろうか?
「綾子ちゃん、愛衣達おいてママお家出て行っちゃうの?
 パパ以外の人が好きになっちゃったの?」
 エグエグっと泣きべそを掻きだした愛衣を綾子は抱き上げる。
「だーいじょうぶ。あんた達のママとパパは仲良しでしょ?喧嘩もしてないし、他の人を好きになってないから、安心しなさい」
「本当?」
 笑麻も確認するように滝川を見る。
 滝川は大きな手で笑麻を抱え足の上に乗せると、グリグリと頭をなでる。
「あったり前だろう。二人は仲良しだから愛衣や笑麻が心配するようなことは何もないぞ。
 唯人も咲也も、そんなことは言うもんじゃないな」
「は〜〜〜〜〜い。
 良い考えだと思ったけれど、結局は駄目なのか」
 反省している気配は全くない二人である。
 ますます自分達が抱きかかえている双子の姉妹の未来が不安になる滝川と綾子であった。
「で、愛衣と笑麻はどんな人と結婚したいんだ?」
 兄達の暴走した妄想ははこれ以上聴く物ではないと判断した滝川は、妹たちへと会話をふる。二人は顔を見合わせると同時に首を傾げる。本当に鏡合わせのようだ。
「ん〜〜〜っとね。愛衣はパパみたいな人が良いの」
 キャッと頬を赤らめていう愛衣。やはりこのぐらいの年の少女ならば幼稚園の誰々くんというか、出なければ一番身近な父というのだろう。もちろん双子の兄達も同じ様なことを言っているのだが、兄達の場合何だか下心を感じてしまうのだ。
「あたしも〜〜〜パパみたいな人がいいな」
 二人は顔を見合わせると「ねぇ〜〜〜〜〜〜〜v」と仲良くハモる。実に微笑ましい光景なのだが、
「えぇ〜〜〜〜〜お父さんみたいな人が良いって言うの!? あんなに無表情で何考えているのか判らない、ムッツリスケベがいいていうの?」
 それに不満を覚えたのはもちろん、二人の兄達だ。
 この双子の兄達、よく客観的に「父親」を観察している物である。しかし、息子達にそう思われるナルはいったい普段何をやっているんだか。
「僕たちじゃ駄目なの?」
 咲也が問いかけると愛衣と笑麻は可愛らしい表情と声で『駄目』とハッキリ言ったのだった。
「な、なんで!?」
 どうして!?
 二人の兄達はパニック寸前だ。父に瓜二つと形容されるのだから容姿的に劣っているとは思えない。頭だって年の割には良すぎると言われるのだ。それに、何より自分達はあの無表情で母以外誰も見ていない父と違って、妹たちを溺愛している自負がある。その自分達が何故にあの父よりも劣っていなければいけないのだ。
「だってね、幼稚園の皆が言っていたの」
「恋人や旦那さんにするなら、年上の男の人が良いよって」
「僕たちだって笑麻や愛衣より年上だよ?」
 必死である。その必死さが可笑しいのか滝川や綾子など笑いを堪えるのが大変だ。が、当事者からしてみれば死活問題(?)であった。
「だって、おにいちゃま達じゃ年が近いんだって。
 う〜〜〜〜〜〜んと離れていた方がいいって言うんだもん」
 最近の幼稚園児は…と思わず思う綾子と滝川。
「でもね、お父さんはお母さんのだから」
「だぁかぁらぁ〜〜〜、パパみたいにすっごく大人で格好良くて、頭が良くて、愛衣や笑麻をすっごく好きでいてくれる人が良いのて言ってるの」
「あたし達、パパやママみたいにラブラブがいいんだもんねぇ〜〜〜〜」
「でも、お父さんとお母さんは一つしか年違わないけれど、ラブラブだよ?だから、二つも離れている僕たちでも大丈夫だよ」
 必死も必死の兄達なのだが、妹たちは「イヤ」の一言である。
 どうやら双子の姉妹の理想というのは、両親らしい。果たしてそれは見本になるのかどうか判らないのだが……しっかりと未来を見ているのはどうやら妹たちのようで、兄達の方はまだまだ妹離れできていそうになかった。



 麻衣はお茶の容易をしながら彼らの話を聞いて昔を思い出す。まだ、母親が居た頃の記憶だ。
「麻衣は、大きくなったらどんな人と結婚したいのかな?」
 まだ、齢一桁の頃だったと思う。今まで思い出しもしなかったのだが、綾子が子供達にした問いかけに懐かしい記憶が甦る。
 自分は母の質問に何て答えたのだろうか。
「お父さんのように優しくて、格好いい人」
 笑麻や愛衣達のようにそう言ったようなきがする。誰もが一度は言うだろう台詞だ。
 記憶の片隅に残る父は、穏やかな人だったと思う。声を荒げる事はなく優しい柔らかな口調で話す人だった。母がいうにはかなりおっとりとした性格でいて生真面目だったらしい。それが災いしての早世である。身体に異常があったというのに、家族に心配をかけてはいけないと思い、ひた隠しにしていたのだ。そして、少しでも良い暮らしを――互いに孤児だった故に父は早く安定した生活を妻と娘に与えて上げたかったらしく、昼も夜も働きづめだった。それが更に病状を悪化させ、気が付いた時には手遅れになってしまったのだ。
 もう少し、自分を頼ってくれれば。
 母が夜父の写真に向かってそう呟いていたのを麻衣は見たことがある。
「そっか、麻衣はお父さんみたいな人が良いのか。性格はいいかもしれないけれど、仕事虫は選んじゃ駄目よ?お父さんみたいに麻衣を置いて早く逝っちゃうかもしれないからね?」
 寂しそうな目でサイドボードの上に飾っている父の写真を見る母に、麻衣は自分は悪いことを言ってしまったのだろうか?と不安を覚える。
「私ね、お父さんみたいに優しい人が良い。でね、いつも一緒にいてくれる人が良いの」
 慌てて言いつくろう麻衣に、母は苦笑を漏らす。そんなに慌てなくても麻衣が言いたいことは母に伝わっているのだから。
「そうね、いつも一緒にいてくれる優しい人を選んでね。結婚式の時はお母さんがお父さんの分まで泣いてあげるから。それで家族をいっぱい作ってね。お母さんは麻衣一人しか…弟妹を産んであげれなかったけれど、麻衣はいっぱい産んで賑やかな家庭を作ってね」
 そう言っていたのに、それから数年後母は父の後を追うように逝ってしまった。麻衣の花嫁姿を見るどころか、中学卒業する前に…高校の制服を見ることもなく、成人式の着物姿を見ることもなくあっけないほど早く逝ってしまった母。
「ママ?どうしたの?」
 お茶の準備をしにキッチンへと行ったまま戻ってこないのが気になったのだろう。娘の一人がリビングから様子を見に麻衣の元まで来た。
「ちょっとぼうっとしちゃったかな。
 今お茶持って行くから、愛衣はケーキの取り皿運ぶの手伝ってくれる?」
「うん!」
 愛衣はケーキの取り皿を人数分受け取ると、両手でしっかりと抱えるように持っていく。すぐ後をトレイを持って追いかけながらリビングに視線を向ける。
 そこには大切な大切な家族が居た。
 親のように、妹のように自分を気遣ってくれる優しい仲間達。
 そして、血を分けた大切な子供達。いつの間にか一人ではなくなっていた。
 子供達におやつを与えると麻衣は、書斎へとお茶を持っていく。そこでは一人黙々と仕事をしているナルが居た。
「少し休憩して」
 爽やかな香りのするフォションのアップルティーの入ったカップをテーブルの片隅に置いて麻衣が話しかけると、いつもは無視をするナルが珍しくすぐに顔を上げた。
「どうした?」
 ナルの問いの意味が分からず麻衣は小首を傾げる。
「何が?」
 本当に麻衣自身にはナルの問いの意味が分からない。が、ナルは溜息を軽くつくと麻衣に腕を伸ばしその華奢な腕を引っ張って抱き寄せる。麻衣は寄せられるままにナルの膝の上に座り込んでしまう。
 呆然とナルを見下ろしていると体温の低い掌が優しく頬を包み込む。
「何を情けない顔をしている」
 いつもと何も変わらない無表情に、抑揚の欠けた声。優しさの欠片も見られない台詞。なのに麻衣は、ふにゃ…と顔を崩すとナルの首に腕を巻き付けてその肩に額を押し当てる。
「お父さんみたいな人、が理想だったのになぁ〜〜〜」
 ポツリと漏れた言葉に、ナルの眉がぴくりと動く。
「優しくて、優しくて、穏やかな人が、理想だったのに」
 それはまるで今はいない片割れを想像するような理想。
「なのに、仕事馬鹿で生真面目なところを選んじゃう何てなぁ〜〜お母さんに止めなさいって言われていたのに」
 仕事馬鹿で生真面目な人は止めてね。
 お母さんはあの時そう言っていた。
 自分のように残されてしまうかもしれないから。
「なんでだろ?お母さんと同じような選択しちゃった」
 クスクスと笑みを零しながら肩の上で囁く麻衣だが、声にいつもの明るさがなくひどく弱々しい。
「私の理想はね、優しくて穏やかでいつも一緒にいてくれる人なの」
 首にしがみつくように腕に力を回して麻衣は囁く。
「なのに、仕事馬鹿で変に生真面目でいつもじゃないけれど、ずっと一緒にいてくれるって約束してくれた人を選んじゃった。一つしか理想通りに行ってないなぁ〜〜〜」
 不満があるような言葉。
 いったい麻衣は何が言いたいんだというのだろうか。
 不満があるのなら離れればいい(放す気はないが)だが、麻衣はまるで離れることを厭うかのように強くしがみついて離れない。
「だってさ、お母さん優しいけれど、穏やかだけれど、仕事馬鹿で生真面目なお父さん選んで置いていかれたから、私はそう言う人選んじゃ駄目って言い残してくれたんだもん。だけれど、似たような人選んじゃった。だけれど、お父さんのように優しくもないし穏やかでもないけれど」
「麻衣」
「私も、お母さんみたいにいつか置いていかれちゃうのかな」
「麻衣」
 名を呼んでも麻衣は顔を上げようとはしない。
「麻衣」
 語気を強めにして呼ぶと漸くのろのろと顔を上げる。泣いてはいないが今にも泣きそうな顔。
 急に不安になったのだろう。迷子の子供のような心細そうな顔で、自分を見下ろしている麻衣に向かってナルは無造作に指を伸ばすと、鼻をムニュッと掴む。
「ニャル!?」
 いきなりのことに麻衣は目を見開く。
「かってに人を殺すな」
 想像でかってに人を殺しておいて、そんな顔をするやつがいるか。
 呆れてしまう。
 ナルが言いたいことが伝わってきたのか、麻衣は「だって…」と小さな子供のような口の聴き方をするが、ピンッと額を弾かれる。
「恨み言は僕がお前を置いていったときにしてくれ。
 心当たりもないことを言われても、不愉快なだけだ」
「だって…ナル、お父さんみたいに仕事ばっかりして、絶対に早死にしそうなんだもん…………」
 ふにゅぅ〜〜〜〜と涙に双眸がにじみ出したとき、ふいに騒々しい闖入者が突入してきた。
「パパ、ママを泣かせちゃ駄目!!」
 笑麻である。それともう一人愛衣だ。
 戻りの遅い麻衣を迎えに来たのだろう。が、母親が今にも泣きそうな顔で父の前にいることにびっくりした二人は大声で、父親に文句を言うのだった。
「パパ! 知っている!?
 女の子を泣かす男の子は、最低なんだっておにいちゃまがいつも言っていることなんだよ!?」
「ママを泣かせるパパなんて大っきらい!!」
「パパなんて男の風上にも、おけないって言うんだよ!?」
 いったいどこでそんな言葉を覚えてくるのか。
 溜息をついてしまうナルに、慌てる麻衣。
「二人ともっ、違うの。ナルに泣かされてたわけじゃないからね?」
 ついでに自分がナルの膝の上に座っていることに気が付いた麻衣は、慌ててナルの腕から離れ膝から下りて二人の娘に視線を合わせる。
「私が昔を思いだして、悲しくなっちゃったからナルに慰めて貰っていたの。
 だから、泣かされていたワケじゃないの」
「違うの?」
「違うわよ」
「ママはパパが好き?」
「好きだから一緒にいるでしょ?」
「パパもママが好き?」
「だから、お前達がいるんだろうが」
 どうして自分達がいるから好きになるのか、笑麻と愛衣にはよく判らないが、どうやら自分達は勘違いをしていたようだ。二人が喧嘩をしていたワケじゃないのならいい。
「あのね、綾子ちゃんがお夕飯食べに行かない?って言ってたの」
「パパもいこっ。ね?」
 さすがのナルも愛娘達の願いを無碍に出来ず、不承不承ながら承諾したのだった。
「やったぁ〜〜〜〜! 皆に言ってくる!!」
 二人はお出かけお出かけ♪と鼻歌を歌いながら手を取って書斎を出ていく。
 なぜだかどっと疲れてしまう。
 まぁ、おかげで先ほどまで感じていた不安は消えていたが。
「で、お前は結局僕に何が言いたいんだ」
 麻衣はナルを見上げる。
 自分はナル似何が言いたいのだろう。
 ご飯食べて? 睡眠をとって? いい加減言い飽きているそれらの台詞を言えば気が済むのだろうか?それでこの気持ちは静まる?
 幼い頃の理想は、お父さんのように優しくて穏やかな人。そして、ずっと居てくれるって約束してくれる人。
 現実の自分が選んだ人は、父のように仕事無視で生真面目な人。だけれど、置いていかない人。
 父のようにいつも優しいわけではない。それでも、いつも側にいてくれる人。
 父のように穏やかな人ではない。だけれど…………
 ああ…あの時母は何を言っていたんだっけ?
 ――『麻衣はいっぱい産んで、賑やかで幸せだと思える家庭を作ってね』
 そう言っていた母。
 父のように穏やかではないけれど、自分にかけがえのない物をいっぱいくれた人。
 麻衣はふわり…と笑顔を浮かべる。
 もしかしたら、理想通りの人と一緒にいられているのかもしれない。
 たまに優しくて、包み込んでくれる人。何よりも家族をくれた人。
「ありがとう」
 唐突な麻衣の言葉にナルは瞠目する。
「何がだ」
「色々。やっぱり、私理想通りの人と一緒にいるのかもしれない」
 なぜ先ほどの理想が自分に繋がるのかナルには判らないが、麻衣がそう言うならそうなのだろう。
「ずいぶんと高望みな理想な事で」
「うわぁっ、おもいっきしナルシスト!」
 今更なのだがあまりにもな台詞に麻衣は笑みを零す。
 ナルの言うとおり贅沢な理想だったのだ。そして、それを実現できた今の自分を誉めて上げたい。
「ありがとう、ナル。わたし、すごくしあ――――」
 言葉は途中で消える。
 ナルの中に。
 柔らかい温もりの中に。


 ――「お母さん。私は幸せだと思える人達を手に入れられたよ」


 言葉に出さなかった思いはそれでもきっと伝わるだろう。
 不器用な優しい人に。

「パパ〜〜〜ママ〜〜〜早く行こうよぉぉぉ〜〜〜〜」
 階下からの可愛らしい声に麻衣とナルは、苦笑を漏らすと同時に書斎を出たのだった。




☆☆☆ 作者の戯言 ☆☆☆
 久しぶりの未来予想図です(笑)
 思いのほか好評をいただいている、双子ちゃんたち。はたして、あの父親からこんなお子たちが生まれる可能性があるのか・・・・・?それはきっと、成長していくにつれて明らかになっていくでしょう・・・・ええ・・・いずれね・・・・・