未来予想図 5


〜おねだり〜


  


 麻衣とナルにはそれはそれは、愛らしい四人の子が居る。四人というと子宝に恵まれたように思えるが、まぁ実際に恵まれたと言ってもよいのだろうが、実は双子同士である。上は男の双子。父親に瓜二つと表現してよいほど、そっくりな顔立ちをしているが、母の血も混ざっているせいか二人とも感情表現は豊かである。
 その二人には三つほど離れた妹がいる。こちらも愛らしい双子の姉妹だ。顔立ち的には父と母の良いところを混ぜたような、実に将来が楽しみなお子達である。
 はてさて、まだまだ、四人は手の掛かる年頃。
 上は漸く小学校に入ったとはいえ、まだまだ幼子。その年頃の割には異様なほどしっかりしているが、親から見ればまだ頼りない年である。
 そして、下の子達はまだ四つ。何をするにも親の助けがまだ必要な年頃であった。
 さて、麻衣とナルは共働きである。
 といっても両親の職場は同じなのだが。
 よって、子育ても分担…しているわけではないが、麻衣の手が放せないときや忙しげな時は、何もいわずにナルも子供達(娘達)の面倒は見ている。
 さて、これはそんなある日の一こまの出来事だ。


 笑麻と愛衣はナルと三人きりになる機会を必死になって狙っていた。大事な、大事なお話があるのである。もちろんその「お話」は兄達も知っていた。二人の兄に話をしたらそれは、麻衣にではなくナルに話した方がきっといいと言われたのだ。
 だから、二人は日々機会を狙っていた。
 これが、なかなか難しい。父は母と違っていつも書斎にこもってしまってなかなかお話ができないのである。リビングにいるときは傍らに母もいる。よって、父と内緒話ができる機会がなかなかないのだ。ならば、書斎に入っていけばいいのだが、そこは父の神聖な場所。母もむやみやたらと押し入ったりはしない部屋である。そうそう自分達が入れる場所ではなかった。
 何日も、何日も辛抱強く待つ。
 待てばきっと道は開ける。と、思っていたかは別として二人はひたすらじぃぃぃぃぃと待ち続けた。
 時折、父が話しかけてくるが二人は、なんでもないといって首を振ってはまた父の動向をうかがう。話したいのは山々だがやはり、傍に母がいて話ができない。母も母で「どうしたの?」と問いかけてくるが、やはり二人は首を振ってなんでもないという。一番最初に父に話したほうが願い事がかなうと兄に言われたため、ひたすら機会を待ち続けるのだ。
 父と三人きりになれる機会を。
 そして、この日漸くチャンスが訪れたのである。
 リビングでお茶を飲んでいるナルを見た二人は、向き合ってニッコリと笑みを浮かべて力強く頷き合ったのだった。
 母は今夕飯の仕度に忙しくて、こちらの様子に気を配る気配はない。
 今を逃してしまったら機会が逃げてしまう。
「唯人〜咲也〜、愛衣と笑麻と一緒にお風呂はいちゃって」
 麻衣は夕飯の支度をしながら、子供達の名前を呼ぶ。時刻は既に七時を過ぎようとしていた。夕飯が出来るまでまだ少し時間がかかるため、子供達は先にお風呂に入らせた方がいいだろう。だが、その言葉にがっくしとうなだれる笑麻と愛衣。だが、笑麻がこれは完全に密室で三人きりになれるチャンスに違いない。と思ったかは別として二人はぼそぼそと会話を交わす。
「ウン、任せて」
 見事なまでに声が揃っていいお返事が返ってくる。それもとうぜんだろう。自他共に認めるシスコンの兄達は、妹の面倒を見れることを三度の食事よりも好きだと言ってはばからないのだ。
 大事な大事な妹たちの、白魚のような肌を綺麗にするのは自分達の役目。かってに自分達に課しているのである。
 咲也と唯人は妹たちに声をかけると、入浴タイムの支度をする。バスタオルに、パジャマに下着。妹対は今大のプーさん好きでもあった。笑麻は黄色のプーさんのパジャマ。愛衣はピンクのプーさんのパジャマである。当然、パンツにもそれらがしっかりとプリントされている物を兄達は選ぶ。
 さて、今日はお風呂場に何のおもちゃを持ち込もうか。船にしようか、水鉄砲にしようか…唯人と咲也が悩んでいる間、笑麻と愛衣はトテトテと台所にいる麻衣の元へ行く。
「ママ」
 邪魔にならないように出入り口で声をかける。いきな入り調理中に近づくのは危険だから、むやみやたらと入ってはいけないと教えられているからだ。親の言うことは良く聞くいい子達である。
「な〜に?」
 キャベツの千切りをしていた手を休めて振り返ると、二人はもじもじとして背後に立っていた。どっちが言い出すかボソボソと話していたかと思うと、笑麻がいいずらそうに口を開いた。
「あのね、今日パパと、お風呂はいりたいの」
 最近兄達とばかりお風呂に入っている妹たち。母親である自分とは時々一緒に入っているが、父親であるナルとはあまり入っていない。ナルが入れたがらないと言うより、唯人と咲也が率先して入れたがると言うことと、ナルの仕事の邪魔はしちゃいけないという刷り込みが、二人にもあるからめったに言い出さないのだ。そして、ナル自身も自分からは言わない。
「パパ今ねリビングでお茶飲んでいて、お仕事してないから、頼んでも平気かな?」
 確かに先ほどお茶を淹れたばかりである。
 麻衣は二人に目線を併せるべくその場にしゃがみ込む。子供達と話すときには視線を合わせるようにしているのだ。
「ナルにお願いしてみたらどうかな?」
 確かに、娘達は父親であるナルと一緒にいられる時間は少ない。たまには、父と娘の邪魔(兄達の)の入らないスキンシップも必要だろう。
「うん!!」
 麻衣の提案に二人は満面の笑顔で頷き返す。麻衣がこのような言い方をしたとき、よっぽどのことがない限りお願いをして断られたことがないから、二人はもう一緒に入れる気でいるのだ。
「ぱぁ〜ぱぁ〜」
 麻衣は、夕飯の支度をするべく止めていたことを再開する。が、リビングの音は何げにキッチンまで届く為、思わず耳を澄ませてしまう。
「お暇なら、一緒にお風呂入ろうv」
 左右を娘達に挟まれ、上目遣いに父親を見上げて可愛らしい声でおねだりをする。その様子を思い浮かべながら麻衣は苦笑を漏らす。鉄壁の無表情を誇るナルだけあって、表情には出ないのだが、そのおねだりに非常に弱いことを麻衣は知っていた。
「唯人と咲也と入るんじゃないのか?」
 先ほど二人はルンルンと鼻歌を歌いながら、支度をするべく二階へ上がっていったばかりである。その事を知っているナルが聞いたのだが、愛衣と笑麻は兄の心妹知らずとばかりに、無邪気なまでの笑顔で言い放つ。
「おにいちゃまとは、いっぱい入っているからいいの」
 「いやよくない!!」と、笑麻の言葉を兄達が聞いていたら、滂沱しながら騒いでいるに違いない。
「今日は、パパと入りたいな。駄目?」
 NOと言われたら、また別の機会を捜さなくてはならない。
 ナルが仕事をしていない機会はなかなか無いのだから、二人は必死である。じぃ〜〜〜と見つめられナルは溜息を一つ。
「―――――――――――――――支度してきなさい」
 キラキラと大きな双眸を輝かせてのおねだりに、数秒で陥落してしまうナル。その返事に二人は「きゃぁ〜〜〜」とそれはそれは嬉しそうな声を上げて、ピョンピョンはね回る。
「パパ、大好き〜〜〜〜vvvv」
 ぱっと立ち上がってソファーに座っているナルに、両サイドから抱きついてその頬に可愛らしい音を立ててキスをする。
 いつにない娘達のはしゃぎようにナルは苦笑を漏らしてしまう。たかだか、一緒にはいるだけで何がそんなに嬉しいのかよく判らないが、娘達の頭を軽く撫でると支度をしてこいと促す。
 その言葉に、二人は楽しげな返事を返す。実に久しぶりの父親とのバスタイム。今回を逃せば次いつになるのか判らない。いっぱいいっぱいパパに遊んで貰おう。そしてお願い事を言うのだ。
 パパは、仕事が忙しいしママのだから、邪魔しちゃ駄目だよ。と常々兄である唯人と咲也に言われていたのだ。実際にナルは仕事が忙しいし、麻衣と一緒にいるときが一番穏やかであることを知っている笑麻と愛衣は、兄達の言うことを良く聞いていた。そんな二人を見ているのが大好きだし、もちろん、二人も自分達のことをとても大事にしてくれていることは十分に知っているからだ。だから、兄達の言葉に不満は何もないが、たまにはやはり一緒にお風呂に入りたい。今なら仕事もしていないし邪魔にはならないはずである。注意されていることを一つ一つ思い浮かべ、今なら大丈夫だと幼い頭で判断した二人は、母親の麻衣に了承を得てのお誘い。(少なくとも麻衣は息子達のそんな、とんでもない刷り込み現象が娘達にされているとは知らない。ナルは…どうだろうか?)
 二人は文句なしの笑顔(果たしてナルもそうとは言い切れないが)で了承してくれたので、笑麻も愛衣も大変な嬉しがりようだ。
 だが、しかしそうは問屋が下ろさないとばかりに横やりが入る。
「お父さん!笑麻と愛衣は僕達がお風呂に入れて上げるんだから、邪魔しないでよね!!」
 はいそうですかと、黙ってみていられるわけがない。自分達の大事な大事な指名(何と大げさな)を父親に奪われてなるものかと、必死の唯人と咲也。
 ナルは息子達をみて明らかに疲れたような溜息をもらす。何を勘違いしているのか、二人の息子は娘が絡むと、まるで恋敵を目の辺りにしたかのようにくってかかってくる。ナルとしては毎度毎度こうだと、いい加減にしろと言いたくなってくる。
「ヤダ!!」
 ナルとしては自分が入れても息子達が入れても、どちらでもよいのだが、良くないのは娘達の方だった。今夜は父親と入る気でいたのだから、幾ら大好きな兄達にも邪魔はされたくない。
「やだって……」
 キッパリハッキリ言いきられて、非常に情けない顔になる二人の兄達。
「そんなこと言わないで、僕達と入ろう?
 ほら、プーさん柄のパジャマとパンツを選んできて上げたんだよ? おもちゃはね、水鉄砲。これで、僕達と遊ぼう? お父さんはこういうので遊んでくれないよ?」
「そうだよ。ごしごし洗われて、さっさと温まったら出されちゃうよ?」
「僕達と入った方が楽しく遊んで上げられるし、乱暴に洗ったりしないよ?」
 言葉を換え表情を変え、必死になる唯人と咲也。
 なぜ、妹達にたいしてここまで必死になれるのか、全くもって判らないナルだが、判ることは、将来二人が同じ女性を好きになった場合明らかに血の雨が降る。と言うことだった。
 そこでふいに、当の昔にいなくなった片割れが生きていたら、そうなっていたのか…思わず溜息が出るようなことを考えてしまうのは、二人の息子が自分達によく似ているからだろうか?
「やぁ〜〜〜、今日はパパとはいるのぉ〜〜〜〜」
 愛衣と笑麻はナルの足にへばりついて離れようとしない。ナルとしてみれば誰と入ろうが同じなのだから、早く決めて欲しい。ハッキリ言えば、この問答の間は時間の無駄である。さっさと済ませてやりかけの仕事に取りかかりたい。
「お父さん!!どうしていつも、僕達のスキンシップを邪魔するの!?」
 唯人が、頬をぷぅ〜〜〜と膨らませて上目遣いにソファーに座っている自分を見下ろす。
「お父さんは、お母さんとだけいちゃいちゃしていればいいのに、笑麻と愛衣まで取らないでよね」
 その台詞は、もちろん台所で夕飯の支度をしている麻衣も聞いている。その証拠とばかりに何かをひっくり返すような音と、短い悲鳴が聞こえてきた。きっと今頃息子達の言葉に真っ赤になって、どこで育て方を間違えてしまったのだろう…と落ち込んでいることであろう。そんな麻衣を余所に、僕達は怒っているんだぞ、と言わんばかりに腕を胸の前で組んで不満を父親にぶつけるが、対するナルは聞いているんだかいないんだか、ただたんに煩わしいと思っているのか、溜息をもらすだけである。
 無言の睨み合いに割って入ったのは、当事者である娘達。
「おにいちゃまこそ、邪魔しないで」
 気が強い笑麻が兄にくってかかる。
「え、えま!?」
「おにいちゃま、どうして愛衣達パパとお風呂入っちゃ駄目なの?」
 悲しそうな目でうるうると涙を両眼に溜めながら兄達を見上げて、問いかけるのは愛衣だ。
「いや、駄目って言うんじゃなくて……」
 焦りまくる唯人。
 妹たちを泣かすのは当然のことなのだが本意ではない。
「どうして、お父さんと入りたいの?僕達とじゃつまらない??」
「だって、おにいちゃま達とは毎日入っているもん」
「パパはいつも、夜遅くお風呂にはいるから、一緒に入れないんだもん」
 確かに二の句が出なくなるようなもっともな、妹達の言い分。
「ママも、パパと入っていいよって言ってくれたもん。
 だから、愛衣達パパとママのラブラブ邪魔してないよ」
「そうだよ。あたし達おにいちゃまの言うこと守って、ママとパパのラブラブ邪魔してないもん」
 「ねっ」と仲良く声をそろえて言う笑麻と愛衣の言葉に、ピキリ…と固まる唯人と咲也。何だか嫌な気配が辺りに漂い始めているような気がする。
 咲也はともかく唯人には両親のような特別な力は持っていない。だが、どうもこの「嫌な予感」というものは的中する。そう、当たって欲しくないことほど当たるのだ。父やその仕事仲間に言わせるとどうやら、母親の危険に対する野生動物並の本能が受け継がれているのではないか?という話だが、唯人は素直には喜べない。何せ、当たって欲しくないことが当たる予感なんて…いらない。
「――――――――――――――」
 恐る恐る背後を見ると、父親は無言の溜息。
 ここが気配の発生源ではない。
 さらに、首の向きを変え…見てはならない方をしっかりと見てしまった唯人と咲也。
 やはり当たってしまっている…
「唯人……咲也………いらっしゃい」
 ニコニコといつもと変わらないような笑顔を浮かべて、二人の名を呼ぶのは夕飯の支度をしていたはずの麻衣。笑顔を浮かべているはずなのに、妙に口元が引きつっているし、何だか仁王立ちしているように見える。
「あ…で、でも、僕達…お風呂―――――――――――」
 ヤバイ…聞かれてはならない人物に、聞かれてしまった。
 焦りまくる二人を余所に、ナルは唯人と咲也が用意したタオルなどを手に取ると、娘達に先におふろ場へ行っているように言う。
「パパもすぐに来てねv」
 場の空気を今一つ読めていない笑麻と愛衣は、ニコニコと笑顔を浮かべてそれらを受け取ると、スキップをしながらお風呂場へと向かう。そして、ナルも支度をすべくリビングを出ていった。
 そして、その場に残された麻衣に睨まれる唯人と咲也。
「あんた達は、また妹たちに変なことを教えているわね!!」
 「ぴゃっ」と肩をすくめてリビングを出ていった父親を恨めしげにそれでも見る二人に、麻衣は目眩を覚えてしまう。










 麻衣の雷が落ちている頃、お風呂場では――――
「あのね、パパ。愛衣達欲しい物があるの」
 大きな湯船に三人仲良く浸かりながら、愛衣と笑麻は父親を見上げる。
「何だ」
 二人のおねだりは珍しい物ではないが、欲しい物があるとは珍しい。そう言う物は大抵自分にではなく、麻衣の方に言うからだ。
「うん、おにいちゃまに言ったらママに言うより、パパに言った方がきっと叶えてくれるって言ってたの」
「だから、何だ?」
 唯人と咲也が絡んでいるとなると、ろくな事ではない…と思っても仕方ないことだろう。
「うんとね、あたし達おにいちゃまはいるから、あと、おねえちゃまと妹と弟が欲しいの」
「おにいちゃまは、弟はいらないって言ったけど、愛衣達は欲しいな」
 唯人と咲也は弟たちと妹を取り合いたくないからの、台詞だと言うことがよく判る。
「―――――――――」
 唯人と咲也は良く人を見ているものである。たぶん麻衣が娘達に言われても、そう困ったことにはならないと思うが、それを自分に言うかどうかは謎だ。たぶんおそらく、絶対にその事を自分にはあえて言わないだろう。
「パパ、駄目?」
 何も言ってくれない父親に、二人はしょんぼりしてしまう。
「姉はもう無理だが、弟と妹は時の運だな」
 ナルの言葉に二人は首を傾げる。今一つ言われた言葉が難しくて理解できなかったようだ。
「おねぇちゃまはむりなの?」
 愛衣が大きな目をぱちくりさせて問いかけてくる。
「お前達より年下は、全て弟か妹だ。年上はもう生まれてはこないからな」
「そっかぁ〜〜〜。でも、弟とか妹なら大丈夫??」
 それは否定してはいない…はずである。まだ、望みが全て絶たれたわけではない。笑麻も愛衣も期待に満ちた目で、無表情な父親を見上げている。
「こればかりは、人の力でどうにかなるものではないな。絶対とは言い切れないから、約束は難しいが、駄目だとも言い切れない」
「パパでも判らないの?」
「こればかりは、判らない」
「パパでも判らないことあるんだ。あたしね、赤ちゃん抱っこしたいんだ♪」
「愛衣はね、おねちゃまって呼ばれたいの♪妹か弟が出来たら、抱っこさせてくれる?」
「出来たらな―――――――」
 どこか疲れたかのような声には気付かない笑麻と愛衣は、父親の首に抱きつく。
「きゃっ、パパ大好き〜〜〜〜〜〜〜〜〜vvvvvv」
 お風呂場から聞こえてくる、楽しげな声に唯人と咲也は、「お父さん、愛衣と笑麻に何しているのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 という叫び声を上げ、麻衣のお怒りを再び買ったとか買わなかったとか………

 
 








 その日の用事が全て終わり、最後にお風呂に入った麻衣は髪の毛を乾かすと、書斎で仕事を片づけているナルの所に顔を出して、お茶でも淹れるかと尋ねる。が、この日ナルはめずらしく仕事を早く切り上げるようで、パソコンの電源を落としていた。
「僕も寝るからいい」
「そっ? 今日は早いね」
 良いことだ、良いことだといいながら出ていく麻衣の後を追って寝室に入る。
「で、どういう風の吹き回し?」
 時刻は今だ十時少し過ぎた頃、そして、自分のウエストに手を回すナルの意図など分かっていて麻衣は、意地悪げに仰向いてナルに問いかける。
「弟と妹が欲しいらしい」
「は?」
 ナルの言っている意味が分からなくて、キョトンとする麻衣の首筋にナルはそっと顔を寄せる。柔らかな感触に思わず、震えてしまう麻衣。
「愛衣と笑麻からのおねだりだ」
 その言葉に漸く意味の分かった麻衣は、深々と溜息をもらす。
「私に、後二回産めと?」
 今でも充分なほど賑やかなのに、これ以上産んだら手が回らなくなってしまうではないか。娘に甘いのもいいが、少しこっちの身にもなって欲しい…
「次も双子を産めば?」
 産もうと思って産める物でもないと判っていての台詞であろうか。思わず目をむいてしまう麻衣に、ナルは綺麗な、それは綺麗な笑みを返す。


「どうして、お父さんはいつも邪魔するんだろう」
「僕達は邪魔してなんかいないのに」
「酷いよ」
 深夜ベッドに入り込んだ二人は暗闇の中ぶつぶつ呟いていた。
「邪魔してやる」
「お父さんが、僕達の邪魔するなら、僕達だってお父さんの邪魔してやるんだから」
 なぜか、復讐に燃える二人の姿があったという。
「邪魔しに行ってやる」
 二人は決意を決めると、ベッドから起き出した。

 果たしてその後、どうなったかは…神のみぞ知る(笑)






☆☆☆ 作者の戯言 ☆☆☆
 段々、暴走度が激しくなっていくお兄ちゃん達。しかし、妹たちに向ける一途なまでの愛情は空回り気味(笑)どころか、報われてません。
 今回は麻衣の出番は少な目。そして、その場にいながらナルの台詞も相変わらず少ない。まぁ、番外編の主人公は子供達と言っても差し支えないようなものだから、いいんだけど。
はたして、笑麻と愛衣の願いは叶えられたのか?(笑)そして、邪魔をしに言った唯人と咲也の運命はいかに?
 全ては、神様だけが知っています(笑)
 天華は神様じゃないから何も知りませんεε=ε=εε=ε=εε=ε=ε=┏( >_<)┛ばびゅーーーーん!