「ちょ・・・・ナル、待ってよ・・・・・」
 麻衣は精一杯腕を伸ばして、ナルを押しどかそうとするが自分の上に覆い被さっているナルをそれでどうにか出来るわけがない。
「て・・・テレビ見たいんだけどぉぉぉ・・・・・」
 引きつった笑顔でナルを見上げれば、ナルは至近距離で笑顔を浮かべながら「見れば?」と一言簡潔に告げた。
 だが、見れば・・・と言われて「んじゃ、見てます」とは言えないこの状況。
 いや、言うことも出来る。見ることも出来る・・・たぶん。
 だがこの状況で、落ち着いて見れるわけがない。
 顎をナルに固定され横を向くことが出来ない状態で、そもそもテレビを見るのはかなりキツイ。視線だけを横に転じなければいけないのだ。その上・・・・・・・・・・・・キスをされているような状況で、テレビなどを見ていられるわけがない。
 ・・・しかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 いったい、なぜこんな事になっているのだろう・・・・・?
 あと30分で終わるのにぃぃぃぃ〜〜〜〜〜
 それは、ナルに言ったとしても無駄な事で・・・・・・・・麻衣は、恨みがましくナルを見上げるが、ナルは涼しげな表情で麻衣の訴える視線などムシをする。










好きな物は好きなんだもん

















 事の始まりは、ほんの二時間近く前に遡る。
 この日も特に依頼人もなく、台風が接近しているということもあって、早めにオフィスを閉め七時前にはナルと共にマンションに戻っていた。
 帰宅するなりナルは書斎にまっすぐ向かい、麻衣は夕食の支度に取りかかる。夕食はなんとなくあっさりしたいのが食べたいと思ったため和食だ。
 ナスを焼いたのをポン酢につけ込んで冷蔵庫にしまい、タマネギを薄くスライスして水にさらし、ワカメを水につけて戻すと、食べやすいサイズに切って水気を絞り、上にスライスをしたタマネギをてんこ盛りにする。醤油やポン酢をかけて食べるのが麻衣は好きなのだ。
 冷蔵庫から木綿豆腐を取り出し水気を十分に取ると、軽く油を引いたフライパンに厚切りにした豆腐を置き、両面をこんがりと焼く。魚肉類を食べないナルにとって豆腐は貴重なタンパク質なのだ。
 豆腐を焼いている間にお湯を沸かし、沸騰したところでうどんを茹でる。
 その間に出汁の準備だ。といっても簡単ではある。買ってきた白だしをどんぶりに適量そそぎ、お湯をその中に適量注いぎ、細かく刻んだ万能ネギをたっぷりとどんぶりに入れ、ゆであがったうどんをその中にうつし、とろろ昆布とレモン汁を数滴垂らす。
「美味しそうv」
 この前綾子に聞いたさっぱりうどんのできあがりである。
 冷蔵庫から冷えたナスを取り出し、焼き上がった豆腐を器に盛り、ワカメとタマネギのサラダをテーブルの上に並べる。ヘルシーきわまりないメニューだがナルは無頓着なので気にしない。そもそも、ナルもこってりとした物よりこういったメニューの方を好んでいるなと言うのは何となく判るからだ。
 初めて作った白出汁のうどんも檸檬が効いてさっぱりとし、麻衣としては久々のヒットだなと思いながら食事を終えると、急いで後かたづけをしざっとシャワーを浴びる。
 時間を見計らってすべて動いたために、時間は狙ったとおり9時少し前。
 リビングでくつろいだ様子で本を読んでいたナルだが、麻衣がテレビのリモコンに手を伸ばしたの気に立ち上がる。
 集中してしまえばテレビの音ぐらい気にはならないが、やはり静かな書斎で本を読みたいのだろう。だが、そうは問屋は卸さなかった。
「麻衣.......」 
「...............えへ」 
 麻衣はフローリングの上に直に座ったまま、ナルのズボンの裾をぎゅっとつかんで呆れたように見下ろすナルを見上げている。 
「離せ」 
 威圧的に言おうとも麻衣には通用しない。 
 それは、ナルとて判っている。 
 人間(だけとは限らないのだが)には耐性というものが備わっている。初めは威圧的な態度にびくつくことがあろうとも、長い間一緒にいれば慣れてしまうのだ。 
「僕は仕事をしたいんだが?」 
 食事を終え、食後のお茶にも付き合った。リビングのソファーで読書にいそしんでいた物の、麻衣がテレビを見るとなれば仕事場に戻るのはいつものこと。ましてこれから、しばらくの間は邪魔をされずに仕事に没頭できる時間である。現在の時間は8時55分。0時を過ぎると麻衣は寝ろと騒ぎ出すため、今の時間からだと邪魔されずにすむ時間はたったの3時間なのだ。有意義にその時間を使いたいと思うナルを邪魔するかのように、麻衣はその足を掴んだまま離れようとしない。 
「あのね、どーせ本を読むだけでしょ? なら、こっちでも読めるよね。  
 部屋は明るいし、私はテレビを見ているだけだし。 
 そりゃー、テレビの音とかちょっと五月蠅いかもしれないけど、集中しちゃえばテレビの音ぐらい気にならないでしょ? なら、問題ないよね。 
 お茶だって欲しいときすぐに、入れてあげられるしさ。 
 こっちで読もうよぉぉぉ〜〜〜〜」 
「麻衣......」 
「な....なに?」 
 笑顔を浮かべながらナルを見上げる顔は、それでもどこか伺うような挙動不審さが浮かんでいる。それを見逃すようなナルではない。 
「テレビを見たいなら勝手に見ろ。 
 僕は書斎でやりたいことをやる」 
「本を読むならこっちだっていいでしょ〜〜〜〜」 
 コアラよろしくその足に両腕でしがみつく。それでナルが歩こうとすれば麻衣はずるずると引きずられる形になる。それでも、麻衣はナルの足から両腕を離そうとせず、振り払われてなるものかと言わんばかりに、力一杯に足にしがみつくのだ。 
「いい加減にしないか」 
 ナルの声にはっきりと怒気が含まれようともなんのその。 
「一人で見ることが出来ないなら見るな」 
「だって見たいもんは見たいんだも〜〜〜ん」 
 まるで小さな子供がだだを起こすように、頭を左右に振って「いやだい」と呟く。 
 これではまるで、じゃなくれまるっきしだだっ子だ。 
「ナルがウンっていってくれなきゃ、離れないからね」 
 今度は脅迫である。 
 別に歩けないことはない。このまま引きずって行けば書斎に入れることは入れるが、ここぞとばかりに邪魔をするに違いないことは火を見るより明らか。本を読むぐらいなら確かにどこでも出来る。麻衣の言うとおり書斎で読む必要など実のところない。 
 だが、ここで折れてしまうから、麻衣はますます我を通そうとするのだろう。普段我が儘を言わず、言ったとしてもこちらが折れてもあまり支障のない...可愛いと言ってしまえば可愛い我が儘に過ぎないのだが、そろそろ釘をさして置くべきだろう。 
 そう決断したナルはふんぎゅぅぅぅぅと足にしがみついている麻衣を一別して、無情にも言い放つ。 
「麻衣、僕の邪魔をするなら帰れ」 
 だが、しかしすでに遅かったと言うべきだろうか。それとも、意固地になって聞く耳を持っていなかったと言うべきだろうか。以前なら萎縮したその一言も麻衣の腕を放す威力は持ってはいなかった。
「放さないモン」
 お前は玩具売り場でひっくり返ってだだをこねる子供か・・・・・
 ナルでなくても思わずそうつっこみたくなるほど、麻衣のソレは幼児特有のだだっこと同レベルだった。
「子供でもなんでもいいの!」
 いや、言い訳がない。
 二十歳を過ぎ、成人女性としてそれはどうよ?と誰もがきっと思うだろう。
「見たいけど一人じゃ見れないんだもん・・・・・・・・いいでしょ?」
 お伺いをするように上目遣いでナルを見つめる。
 今度はまるで、子犬が飼い主に目で訴える仕草そのものである。
「判った、二時間付き合ってやる。
 その代わり、今夜僕の仕事は一切邪魔をしないこと。0時を過ぎたからと言って、邪魔をしないというならば二時間をお前のために割いてやる」
「う・・・・・・・・それって、徹夜宣言?」
「そう思うならご自由に?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 麻衣は思いっきり眉を潜めてナルを見上げる。
 二時間付き合ってもらえるのは非常に魅力的なのだが、だがしかしそれ故にナルの徹夜を黙認するというのは少々・・・・かなり引っかかる。
「二時まで」
 二時間付き合ってもらうのだから目をつぶるのも二時間がだとうというもの。麻衣はにっこりと指を二本突き立てて交渉に入る。
「その時間までお前が起きているのか? 僕は別にそれでも構わないが、お前はそれをどう確認する?」
 調査中でもなければ麻衣はどんなに遅くても1時前には寝てしまう。2時まで起きているのは彼女的にかなり辛いだろう。
「あう! で・・・でも、約束したら・・・・守るよね?」
「守ったというのは簡単だな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうする?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「泣き落とそうとしても無駄」
 うりゅ・・・・と涙目でナルを見上げようとも、ナルはぴんっと麻衣の額を弾く。
「僕の譲歩はここまでだ。
 あとはお前が選べ」
 ナルとしてみれば迷うほどのことではないと思うのだ。
 たった、一晩徹夜したからと言って体調不良になるほど柔な身体はしていないのだから、麻衣がテレビを見たいというならば見ればいいのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・付き合って」
 しばしのあいだ、眉間に皺を盛大に寄せて考え混んでいた麻衣は漸く答えを出す。
「その代わり、二時間だけだからね! 二時にはちゃんと寝てよね!」
「判った」
 実際時間を気にして仕事などしないのだから、約束を守れるとは思ってもいないのだが、とりあえずこれ以上の押し問答は時間の無駄であるため、ナルと麻衣は互いに妥協をしたのだった。



 さて、麻衣が粘りに粘てナルをリビングに引っ張り出した時、時計は調度9時ジャストになっていた。
 イソイソとナルの隣に腰掛けると、クッションを前に抱えてスイッチをつける。
 と、同時におどろどろしい効果音がスピーカーから漏れ、女の断末魔が響き渡った直後、タイトルロール。


 『本当にあった恐怖体験談 The2003』


 黒い画面に赤い文字が浮かび上がり、血が流れるように文字は画面の上を流れて消えていく。
 そう、麻衣が見たいが一人では見れないと言い張ったのは、TVで放映される『怪談話』。常日頃調査で本物に対面し、死にかけるほどの事態に遭っているというにもかかわらず、麻衣はなぜかこの手の番組が好きだった。
 別に、人の趣味をとやかく言うつもりはナルにはない。
 端から見ていて非常に馬鹿馬鹿しいと思っていても、麻衣が見たいというならば勝手に見ればいいのだ。
 だが問題はあった。
 見るのは好きだと言うのだが、何を隠そう麻衣は恐がりでもあった。 
 作り物だと判っているというのに、怖くて一人で見れないというのだ。
 一人で見れないというのならば、見なければいいのだが、どうしても見たいという。
 俗に言う怖い物見たさというものだろうか? 好奇心が先立ち、恐怖のことなど一時的に忘れているのだろうか? 定かではないのだが、麻衣はとにかくこの手の番組が放映される時はマンションに来て、リビングにナルを引っ張り出してテレビを見るのが、日課になっている。
 今日放映されるのはオムニバス形式で全三話。二時間のスペシャル番組である。視聴者の体験談を元に再現したドラマだ。ありがちと言ってしまえばありがちなのだが、この手の再現ドラマは日常的にありえそうなものなので、なかなか想像力をかきたてられるらしい。
 ナルはそんな低俗な番組など見るだけ時間の無駄なため、さっそくとばかりに分厚い洋書に視線を落とす・・・・・・・・・・がいかんせん。邪魔をされないとはいえ読書が進んだ試しがないのは、分かり切っていた。
「うきゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 初めはクッションを抱えて、顔をそこに渦くめていた麻衣は、次第にナルに近づきその腕に自分の腕を絡める。少々邪魔だが片手が開いていればページはめくれるため、口うるさいことは言わない。
 とはいえ、耳元で悲鳴を上げられるのは勘弁願いたい。女の金切り声ほど脳に突き刺さる物はない。キンキンエコー付きで耳の中で響いている。よくもテレビぐらいでここまで悲鳴を上げられるものだと感心しつつも、とりあえず五月蠅いと言ってみるが、麻衣は気が着かずナルにひっついて「うきゃ〜」だの「ひゃ〜」だの訳のわからない悲鳴を上げている。
 二時間の辛抱である・・・・と思っていても、やはり人間何事にも限界という物があるのだ。本の上に突っ伏されれば別である。
「麻衣、邪魔」
 ナルが上からそう言ったところとて麻衣には届かない。
 足の上に突っ伏して顔を両手で覆ってながらも、チラチラとテレビ画面を見ては、ぎゃーぴーぎゃーぴー騒いでいる。
 ナルが頭上から五月蠅いだのどけだの言っている言葉は当然麻衣にまで届かない。
 本の存在など目にも入っていないのだろう、ナルの足に顔を押しつけてすがりついている。
「麻衣」
 こめかみがヒクヒクとし、青筋を立てようとも麻衣は気がつかない。
「麻衣!」
 声を荒げようとも、麻衣の意識はナルではなくテレビに。
 人間、限界はあるのである。
 短気なナルにしては持ったと十分に言えよう。
 傍らに投げ出されていたリモコンを手に取るなり、ナルはおもむろにスイッチを押してテレビを消す。


 ぶち・・・・・・・・・・


 と、音を立ててテレビが消えると、麻衣はがばり!と身体を起こす。
「酷いよ! 何で消すの!?」
「なぜ? お前が邪魔をするからだ」
「邪魔なんてしてないでしょ!? おとなしくテレビ見ていただけじゃない!!」
「あれがおとなしいというならば、この世には騒々しいという言葉は存在しないな」
「そりゃー、ちょっとは騒いだかもしれないけど、でもナルの邪魔してないでしょ!?」
 あれでちょっとと言える当たりいい度胸と言えるが、えてして人というのはそういう物である。
「本の上に突っ伏しておいて、邪魔をしてないとはよく言えたな。
 あいにくと僕には透視能力という便利な能力は持ち合わせておりませんので、本の上に突っ伏されてしまえば読むことはできないんですよ。それでも、邪魔はしていないとおっしゃるので?
 ちなみに、どこに手を置いていると思っている」
「どこって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あは、あははははは」
 開かれたページのど真ん中に右手を着いて、身体を乗り出していた麻衣は慌てて手を引く。
「ご、ごめん。
 うん、人間誰しも間違いは起こすよね。
 こ、これからは気をつけるよ・・・・って、どこ行くかなー?」
「邪魔をするなら、書斎で読む」
「待ってよ!約束までまだ30分あるよ!」
「約束を破ったのはお前が先だ。
 見たければ勝手に見てればいい。僕はもう十分に付き合った」
 だが、先ほどの再現とばかりに麻衣はナルにしがみついて離れない。
「もー邪魔しないから。だから、約束守ってよ!
 じゃなかったら、私だって約束守らないからね!!」
 なぜ、たかがテレビを見るのにここまで脅されなければならないのかが判らない。見たければ勝手に見ていればいいのだ。だが、麻衣はナルの腕にぎゅぅぅぅぅぅっと力一杯しがみついて離れない。
 時計をもう一度見れば時刻は10時30分少し前。約束した時間は残り30分ばかりだ。ここまで付き合えば残り30分付き合ったところで何かが変わるわけではない。
 諦めたようにため息を一つ着くと、ソファーに座り直すと、手にしていた本を広げる。麻衣もソレで安心したのか、テレビのリモコンに手を伸ばしてスイッチをつける。
 時間的に見ればクライマックスが行われる時間であり、スイッチをつけた時タイミング良く洗濯機のCMからドラマへと画面が変わったところだった。
 主人公は執着心の強い男と付き合っていたのだが、変質的なほど執着心と独占欲が強い男で、が彼女にストーカー行為をし、主人公はその変質的な愛情に恐怖を抱き、別れを切り出したのだが、ずっとつきまとわれていた。姿を消すように引っ越しをし別れた後に男は事故死。恐怖はそこから始まった。死後もストーカーとなりつきまとっている話だ。
 演出的にはありきたりぢあろう。特別真新しいことなど何もない。だが、ライトの当たり方といい効果音の使い方と言い、出現の仕方と言い・・・・ドラマだと判っていても怖い物は怖いのだ。
 そう、次にはなにかがある!と判っていても、いざそういうシーンになると心臓が止まるほどびっくりしてしまうのは、仕方ないというもの。驚くなと言う方が無理なのだ。
 麻衣はさっきと同じ過ちを繰り返さないように・・・なにせ、クライマックスが物語の中で一番もりあがるものであり、この手の番組では・・・・・一番怖いシーンと相場はきまっているのだ。今ナルにこの場から去られた時には、怖くて怖くて続きは見れなくなってしまう。
 片腕なら大丈夫だよね。
 意識の片隅でそう勝手に納得すると、ここぞとばかりに左腕にしがみつきながら、テレビを見ていたのだが・・・・・・うるささには変わりない。
 相変わらず騒ぎながらどんどん展開が進むドラマに集中する麻衣を見下ろしながら、ナルはため息を一つ漏らす。
 左腕にひしっとしがみつきながらも、テレビを見ている麻衣はもちろんため息をついたナルのことなど気がつかない。
 今更五月蠅いと言っても静かになるわけがないため、これ以上あえて言うつもりはないが・・・・・・自分もやはり男だなと認識せざるは得なかった。
 麻衣が腕にしがみつくたびに、腕におしつけられる柔らかな感触。肩に顔を伏せるたびに、柔らかな髪が首筋や頬を掠めてゆく。
 ぎゃーぴーぎゃーぴー騒ぎながらテレビを見ているせいか、頬が赤く紅潮し、目はうっすらと熱で潤んでいるようにも見える。体温の上昇に伴い、うっすらと立ち上るのは消えかけていたシャンプーの香りだろうか? 鼻先をくすぐって大気に消えていく。
「麻衣、暑い」
 だから、離れろと言っても怖い怖いと悲鳴を上げながらも、しっかりとテレビ画面を見ている麻衣にはナルの声など届かない。
 怖いなら見なければいい物の、人一倍好奇心が強いせいか・・・・それとも、単純に怖い物見たさをコントロール出来ないだけなのか、麻衣はこの手の番組を見るのを非常に好んでいる。
 馬鹿馬鹿しいにも程があるのだが、人の趣味にとやかく言うつもりはない。だが、一人で見るのは怖いからと言って麻衣はナルを巻き込む。普段は今日より多少は静かなのだが、再現ドラマのせいか、恐がり度はいつもよりもUPしており、そのためやたら滅多らとひっついてくる。
 エアコンはつけていても、しがみつかれれば当然暑い。
 まして、興奮して体温が上昇している人間にしがみつかれれば暑いのは当たり前である。
 だが、ナルがその腕から逃れようと身じろげば身じろぐほど、麻衣は逃すまいとするかのようにしっかりと腕を抱え込む。
 他の人間ならいざしらず、今更麻衣にしがみつかれたからとてどうってことはない。だが、しかし時と場合は選ぶべきだろうと思うのだ。
 テレビに集中している麻衣にはもちろんその気はないのは判っている。
 だが、惚れている女に密着されて平常心をいつまでも保っていられるだろうか?
 そういえば、ここのところ忙しくて触れては居なかったな。そう思ったのも燻っていた物を煽る風となったのかもしれないが、ナルからみれば理由などどうでも良かった。
「うきゃぁ〜」
 といっては肩に顔を押しつけるたびに、白い首筋が視界を掠める。少し伸びかけた髪の合間からうっすらと残っている赤紫の痕が、体温の上昇に伴いはっきりと浮き上がる。
 ナルは誘われるがままに、首を傾げそっと触れた。
「う・・・・・・・・・・・・・にゃぁぁぁりゅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
 首をバッと両手で押さえて振り返ると、唇に微かに上に上げたナルが目前に迫っていた。
「今のは悲鳴か? それとも僕の名前か?」
「うぇ・・・・・・って、いったい何するかな!」
 案の定、顔を真っ赤にしながら睨み付けてくるが、ナルはしれっとした態度を崩さない。
「キス、しただけだが?」
「しただけって・・・・・何でするかな!」
 今はテレビ見ているのにぶつぶつ
「あいにくと僕は暇な物で」
「私はテレビを見ているの!」
「お前はお前で好きなことをしていればいい。
 僕は僕でやりたいことをやる」
 やりたいことって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「邪魔しないでね」
 麻衣はびしっとナルに人差し指を突きつけるが、ナルはその指をぱくりとくわえる。
「ひ・・・・・人の指食べるにゃぁぁぁぁぁぁ」
 指をくわえたナルはそのまま、舌を這わせ指をたどり、掌に唇を押しつける。手を引こうにもナルに手首を捕まれ引くこともできない。
 ナルは麻衣に視線を絡めたまま掌から手首の方へと唇をずらしていく。暖かい舌先が手首をゆっくりとたどっていくのが判る。
 麻衣はナルから視線をテレビに移そうと意識的に無理矢理視線をずらそうとするが、視線がそれるたびに腕の内側の柔らかい部分から、ゾクリとした甘い刺激が駆けめぐって落ち着いて、ゆっくりとテレビを堪能しているような状態ではなくなっていく。
「ちょ・・・てれび、見たいんだってば」
「見れば?」
 覗き込むように至近距離にあった白皙の美貌が近づき、麻衣の唇に自分のを重ねる。
 初めは触れるだけのキス。
 互いに目を閉じていないから、焦点が重ならないほど至近距離に相手の顔がある。
 テレビを見ていた時とは別の理由で心臓が早鐘を打ち、体温が上昇していく。
「見ればって・・・・じゃぁ、どいて・・・・ん」
 触れるだけのキスは、言葉を紡ぎ出したとたん、内容を変えた。
 深く進入してきた舌は、根から奪われるように絡め足られる。胸を叩いてどいてと合図をしようともナルはびくともせず、顔を背けようとも執拗に追いかけられ、息苦しさからかそれとも逃れられない官能からか意識が、だんだん霞んでいく。
 それでも、閉じられない闇色の双眸に見つめられ、麻衣の顔はますます紅潮していく。
「お前はお前で好きなことをしろ。
 僕は僕で勝手にさせて貰う」
「ちょ・・・勝手って! その気のない人間に手を出すな!」
 僅かに離れた好きを逃さず、麻衣は両腕でナルの顔を押しやろうとするが、ナルは麻衣の両腕でを片手でつかみ取ると、頭上に縫いつける。
「ひっついていたいんだろう? なら好きなだけひっついていればいい」
 ひっつく意味がちがぁぁぁぁぁう!
 と、叫んだ麻衣の悲鳴は当然ナルにムシをされ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





 結果的に、一番おいしいクライマックスを見逃したのは言うまでもあるまい。





 さて、これで懲りると思ったナルである。
 いくら、怖かろうとも邪魔をされて見逃すぐらいならば、一人で見るようになるだろうと目論んだのだが。
 やはり、人生谷あり山ありである。
 予想通りに行くならばこの世の中誰も苦労するものも居ないだろうし、不幸な目に遭う人間もいないだろう。


 夏の夜の風物詩的番組。


 それは、毎年必ずテレビで放映されている。
 心霊特集として。
 それも、一回で終わるわけがない。夏だけでも各テレビ局がそれぞれ趣向を凝らして用意をしているのだから。

 この日も麻衣は、イソイソと時計を見計らって準備をする。
 そして、クッションを抱え、開けた扉からちょこんと顔だけを出した麻衣に対し、ナルの反応は?










                              the end ?












☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
 まだ、一話もホラー話をUPしてないのに、久しぶりの自作がコメディータッチだというのは見逃して下さい(爆)
 ホラーな話しもただいま準備中でござる。連載でいったい全何話になるのかちょっと不明‥‥連日UPを狙いたいので、もう少しお待ち下さいませねv
 リレーの方も現在努力しておりやんす〜〜〜〜


 さて、実はこの話。微妙に迷路のゴールに置いたお話とリンクしている部分があるのですよv
 ゴールテープを切った片にはおわかりかと(笑)
 はい、「いつもの癖」を書いてみましたー。
 ゴールがまだの人は頑張って迷路を攻略して下さい! ちなみに適当にクリックしてゴールされた方はすごいです!なにせ、ゴールまでのルートはたったの一本道。一つでも間違ったらにどとゴールにはたどり着かないんですから。
 地道にマッピングしてゴールされることを祈っておりまする♪




 でも、ふと思った。
 これ、ゴールに置いてある話と何がどう違うんだろう・・・・・と(遠い目)
 「いつもの癖」故に似たような話になっているという点は・・・・お見逃し下さいませぇぇぇぇ(爆)
 






☆☆☆ 天華の戯言その2 ☆☆☆


はい、こんな話をホラー企画でUPしてました(笑)
どこがホラーじゃ!とつっこまれませぬよう。ホラーな話はGWの発行本となる話が、サイト趣旨通りの話でした。
さくっと短編で終わらせるつもりが、なぜか14話になったのだけれど(笑)
えーとですね、
誤字脱字直してません。
いくつか直したいなと思うところを見つけてはいます。←直してないけれど
重複している文章、誤変換、言い回しなど何カ所か気になるところを見つけましたが、現在締め切り前につき、放置状態でUPです。
気が向いたら暇なときに直すかもしれませんが、おそらく私のことだからUPした後は忘れているかと・・・・
なので、誤変換があっても指摘しないで下さいなvご親切で教えてくれるのかと思いますが、指摘されても「脳内変換よろしく」ですませてしまいますので。