Xmas Night

















「ジングルベール、ジングルベール、すっずがぁなるぅ〜〜〜〜♪
 きょうは〜たのしぃ〜くりすます〜〜〜〜いえぇ〜い」
 少々音程が外れるのも気にならないほど、彼女は嬉しげに唄を口ずさみながら夜道を歩いていた。
 少々足取りが危うげな所を見ると、自分の酒量を弁えず少々飲み過ぎたようである。
 12月24日空気はキンッと冷え切り肌を刺すような冷たさだが、アルコールに火照った頬には心地よく感じる。
 白いコートが風をはらんでフワリ・・・フワリ・・・と翻るかと思いきや、ヨタヨタ・・・と背後から見ている人間がいれば思わず手をさしのべたくなってしまうぐらいには、ふらふらとしていた。
 が、彼女はそんなことなど気にせず車の通りが絶えた道を一人ふらふらとする。
「麻衣・・・いい加減にしないか」
 否。一人ではなかった。
 その背後には肌以外全身真っ黒という男が呆れを隠す様子もなく立っている。
「だってー、気持ちいいんだもーん」
「お前は心地良いのかもしれないが、僕まで付き合わせるな。
 まだ、外にいるというなら勝手にしろ。僕は先に戻っている」
 そういって、身をくるりと翻してさっさと歩き出そうとするナルのコートをハシッと捕まえて、麻衣はにっこりと笑顔で「駄目」と言い切る。
「せぇっかく、良いところ見つけたんだから、ナルも行くの!」
 いったいどこにナルを連れて行こうとしているのか、ナルには見当も付かない。
 先ほどまでイギリスの自宅で盛大なクリスマス・パーティーを行い、麻衣もそれはそれは見事なはしゃぎっぷりだった。
 いつもは、ナルと共にイギリスに渡り、ルエラやマーティン達とそれなりに楽しいクリスマスを過ごしていたのだが、今回はなんとルエラ達は都合が着くならと言って、イレギュラーズ達綾子や滝川、安原に真砂子まで誘ったのだった。ジョンはあいにくとクリスマスのミサがあるため来れなかったが、年末にはイギリスに来そのまま新年を迎えるというのだから、たいそうな賑わいである。
 家族と友人達と同時にクリスマス・パーティーを迎えることが出来て、麻衣は少々羽目を外しすぎ、かなりのシャンパンやワインを開けていたことをナルは知っていたが、あえて止めなかったのが災いしたと言うべきだろうか?
 酔った勢いのまま、麻衣はナルを半ば無理矢理連行したのだった。
 夜もかなり深まったため、町は静けさを取り戻しかけていた。それでもなお各家を照らすイルミネーションに照らされ、麻衣は夢見心地の足取りでまっすぐ進んでいく。
 徐々に家の感覚がまばらになり、木々が目につき始めた頃になって、ナルは漸く麻衣が向かっている場所に気が付く。
 この先は高台になっておりそこには墓地が連なっている。
 むろん、ジーンもそこで眠っているはずだ。
 遺体だけだが・・・・・・・・・・・・・
 麻衣はジーンの墓前にでも行くつもりなのだろうか?
 イギリスに着いた翌日、早速とばかりに墓参りを済ませているはずだというのに。
 ナルには麻衣の行動理由がわからず・・・理解できた試しなど殆どないが、その後を黙って付いていくことにしたのだった。









「あのね、昨日夢にジーンが出てきたの」
 坂道を少々息を切らしながら麻衣は歩いていく。
 ナルが逃げることを怖れているのか、しっかりとそのコートの裾を幼児のように握りしめたままで。
「一日早かったけど、ジーンから素敵なクリスマスプレゼントもらっちゃった」
 クスクスと楽しそうに告げると、上目遣いにナルを見上げる。
「気になる?」
「なぜ?」
「えーだって、自分の彼女が他の男の人から先にクリスマス・プレゼント貰うのってしゃくにならない?」
「僕が?」
「ちぇー、元々このぐらいでナルが嫉妬するなんて思ってないけど、もうチョット違ったリアクションがあってもいいと思うのになー」
 唇を尖らせて麻衣はぼやく。
 ナルは軽く肩をすくめただけだ。
 ジーンが何を麻衣にプレゼントしたのか知らないが、そんなことはナルにとってどうでもいいことだった。
 すでに鬼籍に入っているジーンが麻衣にプレゼントできる物があるとすれば、ソレは物理的なものではなく精神的な物だろう。
 そして、あのジーンのことだ。ただ精神的に麻衣を喜ばせたとは思えない。
 別の意味で柳眉を寄せてしまうナルに、麻衣はなぜ今更不機嫌そうな顔をしているんだろう? と逆に首を傾げてしまう。
「それは、僕に対するプレゼントの催促か?」
 麻衣やジーンが何をたくらんでいるのかいくら考えても彼らの思考回路を理解できるわけもなく、あっさりと考えることを放棄すると別のことを口にした。
「そんなことしないもーん。
 別にプレゼントが欲しいワケじゃないし。いや、貰えるモンならありがたくちょうだいするけどさ!
 義理で貰っても嬉しいモンじゃないしね」
 ニコニコ笑顔を浮かべながら答える麻衣にナルはますます疑問を深めていくばかりだ。
 そして、ある程度坂を上りきると麻衣はきょときょとと辺りに視線を巡らせる。
 外灯はあるがかなり間の空いた感覚で設置されているため、町の中よりもさらに暗闇が近くまで迫っている。その中で視線を巡らせようとも微かに木々の輪郭が判るぐらいなのだが、麻衣はこのぐらいかな?と辺りをつけると足を止めた。
「ナル、屈んで」
 立ち止まった麻衣はその裾を引っ張りながら、ナルに次なる注文を付ける。
 何かをたくらんでいることは、麻衣の笑みを見れば判るが、それを問いただしたからと行って麻衣が素直に白状するとも思えなかった。それに、この場で押し問答を繰り返しても無駄である。ナルはため息を一つ漏らしながらも、麻衣の言うとおりにその場に屈んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・麻衣」
 今まで文句一つ言わずに付き合ってきたナルだが、さすがに麻衣の次の行動には声に険を含ませる。
 当然だろう。突如目に布を巻かれればナルでなくても文句を言いたくなる。
「取っちゃ駄目!」
 手を伸ばして目に巻かれた布を取ろうとしたナルを、麻衣が声を上げて止める。
「後ちょっとだけ! 今取っちゃ駄目なの!!」
 両腕を麻衣は掴むと、耳元で喚く。
 ここまで来ればナルとて麻衣が何をたくらんでいるのかは想像することはたやすい。
 何かを見せたいが、そこにたどり着くまでは取っては駄目と言うことなのだろう。
「いったいお前は何をしたいんだ」
「ひ〜み〜つ〜♪ ひ〜み〜つ〜〜のぉあっこちゃ〜〜〜〜ん♪」
 やはり相当酔いが回っているのだろう。陽気な声で訳のわからないことを麻衣は言い放つ。
 こんな酔っぱらいの言うことに馬鹿正直に付き合っていた方がバカだ。そう結論づけるとナルは、目隠しをとってさっさときびすを返し元来た道を戻りかけるのだが、コートの裾を掴んだ麻衣はその場にしゃがみ込んでしまう。道路は雪が積もり夜の冷えで凍っているため、踏ん張ってもナルが進むに連れずるずると氷の上を滑る。
「だぁめぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!」
 ふぬぬぬぬぬぬ〜〜〜としゃがみ込んで重石になる麻衣を引きずって数歩歩いたものの、子供のだだっ子のような麻衣にナルは視線を向けることもなく、着ていたコートをするりと脱いでしまう。
 コートを脱げば寒いのだが、麻衣の馬鹿馬鹿しい行動に付き合うよりはマシである。だから、深く考えず脱いだのだが脱いだ瞬間、「うぎゃっ!」という悲鳴の後に、ゴンっという何とも形容しがたい音が闇に響いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 さすがのナルも悲鳴はともかくその直後の音をムシすることが出来ず振り返ってみれば、仰向けに倒れた麻衣がゆっくりと上体を起こすところだった・・・・後頭部を抱えながら。
「うぅぅぅぅぅぅ・・・・痛いよぉぉぉぉぉ」
 踏ん張っていたため反動がつきすぎたのだろう。受け身をとることもできないまま勢いよく後ろに倒れ、後頭部をしこたま凍った道路に打ち付けたようだ。夜目にも涙目になっているのが判る。
「ナルのばかぁぁぁ。いきなり脱ぐことないじゃんかよぉぉぉ」
「お前が子供じみた馬鹿なことをしなければ良かっただけだ」
「責任転嫁するな」
 数歩進んだ道を数歩元に戻り麻衣の傍らに屈むと、両手で抱えている後頭部を顕わにする。
 軽く触れてみればふっくらと腫れている。どうやら、こぶが出来たようだが、こぶが出来ているのならばたいしたことはないだろう。
 立ち上がろうとするが麻衣は今度はナルのウエストにがっしりとしがみつく。
「プレゼントなんていらないから! 別に明日のクリスマスはデートしようよとか言わないから、付き合ってよ!」
 今にも地団駄を踏みそうな勢いに、ナルは辟易する。
 別にこのまま麻衣を引きずって歩くことも出来るのだが、この先ずっとこの調子で喚き続けるに違いない。どちらにしろ、ここまで来てしまったら麻衣の言うとおりに動いた方が結局は早く終わりそうだ。
「好きにしろ」
 半ば投げやりに言い放つナルに、麻衣は喜色満面の笑顔で応じると、再びナルに屈んで貰いその両目を布で覆ったのだった。
「たぶん、こっち」
 人を目隠ししたまま案内しておきながら、案内人は酷く頼りない事を平然と言い放つが、その割には迷うことなくまっすぐに歩いていく。しかし、ナルは両目を布でふさがれたまま、麻衣に腕を抱えられて歩くのだが、酔っぱらいの歩みは目を覆われたまま歩くには酷く心許ないというか・・・・とにかく歩きにくかった。
 どのぐらい歩いたのだろうか?
 目を覆われているため実際の時間よりも長く歩いたように感じる。
 だが、ふいに麻衣は歩みを止めた。
「んふふふふ〜時間もちょうどよく付いた」
 一人子満悦そうな麻衣は、背伸びをするとナルの目を覆っていた布きれを引っ張って解く。
 するり・・・・と両目から布を外されると、ナルは数度瞬きをして辺りに視線を向ける。
 そこは高台にある墓地の中でも特に見晴らしの良い場所だった。
「ジーンがね、昨日連れてきてくれたの!
 クリスマス・シーズンには絶景ポイントだって!!」
 眼下にはイルミネーションに煌めく町並みが一面に広がっていた。
 夜も深まり家々の明かりが消えかけているせいか、よりいっそう家々を、町をデコレーションしているイルミネーションの煌めきが闇に浮かび上がり目を引く物になっている。
 点滅を繰り返す色とりどりの明かりに、町全体が煌めいているようにさえ見えた。
 その光景は圧倒するものがあるのだが、ナルは眉一つ動かさずそれを一瞥すると、白い頬を紅潮させて笑顔を絶やさない麻衣を見下ろす。
「これをわざわざ、僕に見せるために寒い中ここまで歩かせたのか?」
「そーだよ。だって、すごくない?
 町中が光っているように見えるんだよ! それにね・・・・・」
 麻衣が不意に言葉をとぎらせ、耳を澄ますように意識を傾ける。
 つられるようにしてナルも耳を傾ければ、聞こえてくるのは賛美歌。
 そして、教会から鳴り響く鐘の音。
「メリー・クリスマスv」
 時計に視線を落としてみればジャスト0時。調度今25日になったのだ。
「日本じゃ絶対に見れない光景だし、味わえないクリスマスだよね。
 みんなで和気藹々とクリスマス過ごすのも良いけれど、こうしてナルと二人で過ごせる時間も欲しいなーって思ってたら、ジーンがココのこと教えてくれたんだ」


 調査中でもないのに夢の中にジーンが表れたことに驚きを隠せなかった。
 なぜ、不意に意識が覚醒し麻衣とコンタクトが取れるような状態になったのかは、ジーンにも判らないと言っていたが、そんなことはどうでも良いことだった。
 ジーンは麻衣を連れ出すと、この場所に赴いたのである。
 イギリスのナルの部屋から、瞬きをするまもなくこの場所に連れてこられ、麻衣は感嘆のため息しか出なかった。
 夜景は今までにも何度も見たことはある。
 それこそ、日本のナルのマンションは高層階にあるため、毎晩のように東京の夜景を眼下に見下ろすことが出来るのだが、ここからの光景はまたそれとは違った物に見えたのだ。
 理由はわからない。
 ただ、言葉もなく見つめていると、ジーンは明日ならばこの時間に来ると賛美歌も聴けると教えてくれたのだった。
「たぶん、ナルとデートなん出来ないだろうから、僕からのプレゼントだよ。
 うまく、連れ出しておいで。ここなら、ナルも文句言わずに一緒に見てくれるよ。ご覧の通り墓地だから人も来ないしね」
 ジーンの言うとおり周囲に視線を向けてみれば、人っ子一人いない。
 きっと、今の自分達を誰かが見たら幽霊が夜景に見とれていると勘違いするかもしれない光景だっただろう。
 だが、しかし麻衣はそんなことに思い当たることもなく、ジーンに感謝をするのだった。
 でなければ、こんな綺麗な光景見ることもなかっただろうし、こうしてナルと二人きりにナル時間もなかっただろう。
 ルエラやマーティン達と家族と過ごすクリスマスも良いのだが、やはり日本人であるせいか、クリスマスは恋人と二人っきりでと言う考えも捨てられなかったのだ。むろん言葉に出すこともなければ態度に出すこともなく、ひっそりと片隅に浮かんでいた考えを、ジーンはくみ取り「デート」に最適な場所を教えてくれたのである。


「なら、最初から言えばいいだろうが」
「ん〜〜〜だけど、イルミネーション見に墓地に行こうと言ったら、ナル素直に付き合ってくれた?」
 酔っぱらっていても思考は鈍っていないと言うべきか。すでに思考自体に染みついてしまっているのか、ナルの性格を分かり切っている麻衣は、正攻法でナルが付き合ってくれるとは思っても居なかったのである。
 案の定ナルは、軽く肩をすくめて返事を誤魔化す。
「結果的には付き合っているだろう」
「そーだね。きっと、玄関先でギャンギャン言い合いをして、周りの皆に宥められたり呆れられたりしながら、渋々ナルが折れてくれるのが目に見えるよ。
 でもね、それじゃ楽しさが半減なの。
 嫌々付き合って貰っても楽しくないしさ」
「今の僕が嫌々じゃないと?」
 にっこりと口元だけ笑みを浮かべて問いかけてくるナルに、麻衣はえへへへへ・・・と誤魔化すような笑いを浮かべる。
 確かに少々強引だったことは麻衣も認めざる得ない。
 だが、結果が良ければすべて良しなのである。
 細かいことは気にしては駄目なのだ。
「でもさ、何処に連れて行かれるのかとか考えるとワクワクしなかった?」
「お前のふらついた足取りにいつ転ばされるかは思ったな」
「ひっどぉぉぉぉ〜〜〜〜〜そんなドジしませんよーだ。
 でーも、綺麗でしょ? ナルの住んでいる所って綺麗だよね」
 その腕にするりと自分の腕を絡めて麻衣はナルを見上げる。
「研究研究も良いけど、たまには周りに視線を向けよう? 綺麗な物も素敵な物もいっぱいあるんだよ?
 ジーンはこの景色のこと知っていたけど、ナルは知らなかったでしょ?
 自分達がずっと生活してきた町なのに、こんなに綺麗な光景が見れる事知らないってもったいないよ。
 もっとさ、色々と外に向けて、いっぱい素敵なものを見ようよ」
 最もジーンがいったいいつこの光景を見たのかも甚だ疑問があるが、麻衣はあえて触れないですます。
「僕が?」
「そっ、何事にも息抜きは必要だよ」
「お前はいつも息抜きしているようだがな」
「も〜〜〜ああいえばこういうんだから!
 せっかくロマンチックな光景なんだから、少しはそういう雰囲気味合わせてくれたっていいのに!」
 期待した自分がバカだった・・・・と麻衣は小さな声でぼやきながらナルから腕を外すと、すたすたと柵の近くまで進み身を乗り出すようにして景色を眺める。
 すでに昨日のウチに堪能しているというのに、まだ見飽きないようだ。
 たかだか、電気の点滅でここまで夢中になれるのが、ナルには逆に不思議でならない。
 そういえば、よく東京のマンションから見える夜景にも見とれていることを思い出す。
 以前に比べれば頻度は減ったが、それでも未だに窓から見える東京の夜景が好きだと言って、時間を忘れて眺めていた。
 さらに、「クリスマス」という効果がプラスされているのか、麻衣が町並みを見つめる眼差しは陶酔しているようでさえあった。
 たかが、夜景。クリスマスのデコレーション。ナルから見れば意味合いは同じなのだが、麻衣にとっては大違いのようだ。
「ロマンチックな雰囲気ねぇ」
 ぽつりと漏れたバカにしたような呟きに、麻衣はみるみるうちにふくれっ面になっていく。
「も〜〜〜いいよ!
 期待した私が悪うございました!
 そんなに、不本意なら帰ればいいでしょ! 私はまだまだこの光景独り占めして居るんだから、さっさと帰れば!!」
 へそを曲げたのか深夜だというのに麻衣は声を荒げながら、子供じみたことを叫ぶ。
 意地でも帰るものかと言わんばかりに柵にへばりついている麻衣に、ナルは一言声を投げかけた。


「そんなに、ここが気に入ったのならこっちで暮らすか?」


 思いにもよらなかった言葉に、意地は何処へ消え去ったのか勢いよく振り返る。
 身体事振り返った麻衣に、ナルは何かを放り投げた。
 小さな・・・・小さな煌めきを放ちながら。
 下手をすれば麻衣の背後を飛び越えて、高台から下へ落ちてしまっただろうが、それは見事な弧を描きながら麻衣の掌にすとん・・・・と落ちてくる。
 冷たい感触に視線を下げてみれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ナ・・・・・ル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナル!?」
 麻衣がそれを認識し、顔を上げた時にはナルは身を翻し、さっさと一人で歩き出していた。
「ちょ・・・・ちょっと待ってよ!!」
 慌ててナルの後を追いかける。
「まだ、見ているんだろ?」
 独り占めすると宣言していた割にはあっさりと放棄した麻衣に、ナルは意地悪く問いかけてくるが、すでに麻衣にとってそんなことはどうでもいい物になっていた。
「人の揚げ足は取らない!
 そんなことより、そんなことより、そんなことより・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 落ち着きをなくしているのか、麻衣は何度も同じ事を繰り返す。
「ええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っと」
「何が言いたいんだお前は?」
「だーかーらーそれは、こっちの台詞だよ!
 どういう意味よ! あれは!!」
「お前は日本語も理解できなくなったのか?」
「そういう意味で言ったんじゃなーい!」
「理解できたんならそれで良いだろう」
「私が言いたいのは!」
「僕は言葉通りの意味で言っただけだが?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もーいい。
 勝手に解釈するよ?」
 何を念を押しているのか、麻衣は顔を真っ赤にしながら問いかけてくる。
「好きにすれば?」
「そーする。
 んふふふふ〜〜〜ナルからクリスマスプレゼントもらちゃったー
 すごいなー、ナルの未来ぜーんぶもらちゃった〜〜〜〜♪」
 来た時はアルコールに酔った足取りでふらついていた麻衣だが、今度は別の意味で酔いに任せふらついた足取りでナルの前を歩む。
「でーも、これ自分で自分の指にはめるのかっこわるいからナルがはめて?」
「注文が多いヤツだな」
「いいでしょー、注文はね言ったモンがちなんだよ?知らなかった?」
「知らなかったな」
「これからも、いっぱいいっぱい、注文言うからよろしくねv」
 にっこりと宣言する麻衣に対し、ナルは肩を軽くすくめるだけ。
 それでも注文に応じて、その指に煌めく光をはめるのだから、それなりに応じるつもりはあるのだろうか?
「とりあえず、戻ったらお茶だな」
 ナルの注文に、麻衣はもちろん否はなかった。
「これから死ぬまで飲んでも飽きないヤツ入れてあげるよv」
 麻衣は嬉しそうに指を眺めると、思いっきりつま先立ちしその首に腕を絡め引き寄せると、すっかりと冷え切った頬に軽くキスをする。


「メリー・クリスマス♪ これからもよろしくね」


「メリー・クリスマス」


「愛情が籠もっていない!!」
 返しただけでも御の字だというのに、麻衣はそれこそ注文をつけていく。
 真冬のイギリス。寒さなど何処へ行ったのか、この二人に寒さは関係ないようである。













☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
 なんか、久しぶりに短編を書いた気がする・・・・・・・・・・・・・・・気がするじゃなくて、きっとそうだろう。
 っていうか、更新そのものが久しぶりのような気が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・深くつっこむのは止めよう。それを人は自虐行為と呼ぶに決まっている(笑)
 ちょっと、早いけれどクリスマスSSでございます(笑)
 クリスマスSSを書くかどうか今月入った時は考えてなかったんだけど、脱稿してなんか話し書くべと思ったらこの話がふいに浮かんだのでとりあえず書いてみましたー
 というわけで、誤字脱字は例の如く気にしないようにしてくださいませ(笑)
 ざっと見直しただけで多量生産してました・・・・・まだ、直してなかったりします。ウフフフ
 いや、もちろん気が付いたところはこれから直しますけど!
 直ってない部分に関しては見て見ぬふりよろしくですv


 んだば、クリスマス当日もなにかできたらいいなーv




                                           Sincerely yours,tenca
                                              2003年12月18日