「愛と」
「勇気と」
「萌え〜戦士!!」
「こすちゅーむ戦隊!」













「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


























 とある場所で、しゃきーんとポーズを決めて叫んでいる青年達がおりました。
 各々、どこか陶酔したような眼差しをしております。
 ふ・・・・決まったぜ。俺様ってなんて格好いいんだ。と皆様悦に入っているようです。
 が、それをドアを明けた瞬間目撃してしまった谷山麻衣嬢は反応に困ってしまいました。
 痩せている人、太っている人、背の低い人、もっさりとした髪型で顔が見えない人・・・正直言ってあまり見目麗しくない御仁方が狭い部屋で、手足を広げポーズを決めているのですが、正直言って非常に邪魔で仕方在りません。
 が、依頼人相手に「邪魔」とも言えないので、見なかったふりをして彼らの横を通り過ぎ、所長ではなく、リンへとボードを手渡します。
「あ、リンさん、南階段の気温がちょっと低めでした」
「お疲れ様です。他に気がついた点はありましたか?」
「南階段よりも、ベースの方が危険なほど気温が下がっていると思います」
 麻衣嬢はとある一点に視線を向けることなく、きっぱりと言い切ります。
 それに対し、リンは一言もコメントを返せませんでした。
 せめてもの救いは、悪のりをするいつもの面々が一人もいないということでしょうか。
 この場で下手に悪のりされた日には、ビルが倒壊していたかもしれません。
 そんな危険人物を相手にしているとは、欠片も思っていない青年達は、危険人物と認可されたばかりの青年の周りに、集い始めます。
「ちょっと、ちみ。駄目だよ。 そこで見参と叫んでくれなきゃ」
「そうだよ。せっかく愛と勇気と萌え戦士、萌え萌えこすちゅーむ隊初のこすちゅーむ・ぶらっくなんだからさ。名誉ある大鳥を譲ってあげたんだからさ、〆の言葉を抜かされちゃ困るなぁ」
「今まで大鳥は、このボク こすちゅーむ・れっどが勤めていたんだけれどね。
 やっぱり新人君が入ったときには、お披露目もかねて譲べきだろうって一致団結してね。
 ちみにはぜひ、見参!の後でチャームポイントを披露してもらいたいんだよ」
 彼らは、こすちゅーむ・ぶらっくと名付けた青年に向かって遠慮無く、ぽんぽんと意見を言っていきますが、青年は一言も口をききません。
 眉間にいつもの十割り増しぐらい深い皺を刻んで、薄く引き締まった唇を固く閉ざしております。
 シャンプーやトリートメントのCMに出られそうな細く、サラサラの黒髪は、雪花石膏(アラバスター)のような白い肌とのコントラストが際だち、全てのパーツが絶妙の位置で配置され、すらりと伸びた長身に見合うだけの長い手足。誰が見ても急け一般的基準からみれば美形と判定される青年は、始めてみる人種に絡まれておりました。





 所は東京は秋葉原。通称オタクの聖地。
 ちょっと前までは、電気街として有名だった街。むろん今でも電気街としても賑わっておりますが、最近注目を集めているのがアニメ関連やフィギュアなどといった類のお店の郡立。メイドカフェ発祥の地(?)など、新たなジャンルでここ数年賑わっております。
 さて、JR山手線、京浜東北線、総武線、営団・・・いえいえ今は東京メトロ日比谷線、などが在るため交通の便も便利!となり、連日連日そりゃーもう大にぎわいな街。
 渋谷からは電車で30分と大変近いのでございます。
 さてさて、山手線で言うとだいたい反対の位置にある秋葉原に、我らがSPRの調査員達が本日もお仕事に励みに足を運んでおりました。
 オタクの街秋葉原のオタクの為のとある雑居ビルに出現すると言われている心霊現象の調査のためにです。
 夜な夜な店内に陳列されているフィギュアが独りでに動き出すというのです。
 初めは命を得たフィギュア達に、狂喜乱舞したオタク達だったのですが、人間の世界にも派閥だの苛めだの、喧嘩だの、殺しあいだのがあります。
 ぬわんと、フィギュアの世界にもあるらしく、アニメの通りに戦争を始めてしまったり、喧嘩を始めてしまったり・・・・陽が昇りただの動かぬフィギュアに戻った頃には、見るも無惨なまでにボロボロになってしまったのでした。
 これでは、売り物になりません。
 命を得た等とアニメチックな現象を呑気に喜んではいられなくなったのです。
 そこで、フィギュアオタク代表を名乗る店長は、いそいそと渋谷にある心霊オタクの巣窟であるSPRへと足を向けたのでした。
 さて、そんなわけで彼らは居るのですが、コトの起こりは調査開始2日目で起きたのでございます。
 閉店時間を過ぎ店員が一人・・・二人・・・と帰り、店長も店を出ると、いままでただの置物にしか過ぎなかったフィギュア達が、のっそりと動き出しました。
 そして、各々キャラクター通り好き勝手に動き始めるのですが、その日はいつもと違いSPRの人間がオフィスに居たのです。むろん、店長もベースからこっそりと店内を覗いておりました。
 さて、いざ現象が起き始めると室温は面白いぐらいにグングン下がっていきます。
 以前いればの九十九神を見たことがありましたが、今度はフィギュアの九十九髪なのでしょうか。それは、判りません。店内はまさにどんちゃん騒ぎ。戦車や軍人のフィギュア、プラモデルのロボットフィギュアなども在りますので、ドンドン爆発音が聞こえてき、それに巻き込まれたフィギュアは、哀れなことにバラバラになってしまいます。
 まさに、人間の世界のミニチュア版。
 初日は一晩、データー採取であけくれ、2日目の夜、この場に人が居た場合どうなるのだろうか?ということで、ナルと麻衣が現場へと足を向けたのでした。





「もう最悪」




 そう呟きたいのは麻衣よりもむしろ、ナルでしょう。
 異物と見なされた二人は、命を得たフィギュア達に襲われたのです。
 その構図はさながら、小人の国に紛れ込んでしまったガリバーの如く。
 慌てて駆けつけたリンと、ナルが静電気の要領でPKを使い、麻衣が九字を切ってなんとかベースへと逃げ出せたのですが、フィギュアの一人にペイント剤を頭から落とされてしまい、カラフルな青年と少女ができあがってしまいました。
「シャワーで早く落とした方が良いですよ。
 谷山サンはこれ来てください。
 で、渋谷サンなんですけれど、コレでいいですか? 他にはこれとかこっちかなぁ・・・仕入れ前であまり今在庫がないんですよね〜」
 気配りを忘れない(と、思っている)店長は、店の倉庫から引っ張ってきたプレゼント用のTシャツを二枚二人に手渡します。


 いいですか?
 オタクのための街のオタクのためのお店の売り物です。
 ここのところを忘れずによろしくです。


 受け取った麻衣はびろーんとTシャツを広げました。
 黄色の生地のTしゃつに野菜が擬人化されたキャラクターがペイントされているTシャツでした。キャラクターのTシャツを着るようなとしではありませんが、まぁ着るのに抵抗はありませんでしたので、麻衣は有り難くTシャツを貰うことにしました。
 んが、ナルは麻衣とは違いいつもの五割り増しぐらいに眉間に皺を刻んでおります。
「えーと、すみません。無地のTシャツとかないんですか?」
 ナルの隣でそれを見ていた、麻衣が顔を引きつらせながら問いかけます。
「フィギュア買ってくれた人に、プレゼントとしてあげているTシャツなんで、無地とかないんですよ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 だからといって、店長が手に持っている物にナルが素直に手を伸ばすとは思えませんでした。
「渋谷サン黒が好きみたいだから・・・・そうだ、これなんてどうですか?
 愛と勇気と萌の戦士隊・こすちゅーむ・ぶらっくがペイントされているTしゃつです。
 けっこう、売れ行きがいいフィギュアなので、これ最後の一枚なんですよ〜
 せっかくだから、渋谷サンに差し上げます。
 どうぞ、遠慮無く着てください」
 そういってびろーんと広げられたTシャツはL3ぐらいのサイズだろうか。
 麻衣が二人は軽くはいれそうな大きさの黒いTシャツ。
「内の店の調査でペイント剤まみれになってしまったんですから。
 さーさー、早く着替えないと肌に着色されちゃいますよ。上着はもう駄目になちゃってますけれど」
 さぁさぁと言わんばかりに、二人の背中を押して、ぽぽいっと事務所備え付けの小さなバスルームに二人とも放り投げてしまいました。
 確かにこのままと言うわけにはいきません。
 顔は感歎に洗えますが、髪までペイント剤でべったりです。早く洗わなければ固まってしまいます。そうなったら大変です。
 ナルは仕方なく特大のため息を漏らすと、汚れた衣服を脱ぎ、シャワーを頭から浴びることにしたのでした。
 汚れを十分に落とし、水気をタオルで拭うとナルは特大のため息をさらにもう一度漏らすと、手渡されて黒いTシャツに手を通したのでした。




 オタクの街のオタクのお店で買い物をしたお客様にプレゼントするためのTシャツ。
 キャラクターのイラストがばっちりと描かれたTシャツ
 特大サイズだったゆえに、ナルが着てもだぼだぼのTシャツ。
 その胸の部分には、胸にあんパンどころかメロンパンを埋めて居るんじゃないか?と思ってしまうほど不釣り合いなサイズの固そうな巨乳を強調している衣装を身に纏った、お色系のおねーさんキャラが描かれております。
 こすちゅーむ戦隊ぶらっく・ぽりすとクラフト童のフォントで書かれております。
 どうやら、この胸をやたらと強調した衣服は、婦警さんの制服のようです。
 こんな胸の真ん中までボタンをはずした婦警が世の中にいるか!とつっこみたくなります。
 太ももの半分しかないタイトスカートは付け根までスリットがはいっており、ほとんどスカートの意味を果たしておりません。
 指をピストルに見立て構え、足をどだいの上にのせて、狙いを定めているといった構図・・・のきゃらが描かれたTシャツを、渋谷氏が着ているのです!!
 麻衣は危うく悲鳴をあげそうになりました。
 そして、悲鳴を上げる変わりにさめざめと泣き始めてます。
 なにが哀しくて、そんな物をきたナルを見なければならないのでしょうか。
 でも、美形はやはり何を着ても美形。
 それだけは改めて認識したのでした。
 ベースに戻ってきたナルにリンも何も言えません。
 視線をナルからそらし、何事もなかったように業務に励みます。
 一人、悦に入っているのはナルにそのTシャツを薦めた店長さんだけでした。
「よっしゃ。これでこすちゅーむ・ぶらっくが生まれたぞ」
 何を思ったのかイソイソと帰宅した、社員三名を呼び戻します。
「ボクタチ、コスチューム戦隊の親衛隊なんですヨ。
 ボクがこすちゅーむ・れっど、で鈴木クンがこすちゅーむ・ほわいと。たてやまクンがこすちゅーむ・ぶるー、いわきクンがこすちゅーむ・いえろーだったんだけれど、ごらんの通り人が一人足りなくてね。
 渋谷サンには是非ともこすちゅーむ・ぶらっくとして隊員に加わって貰いたいんだ。
 こすちゅーむ・ぶらっくはごらんの通り美人でお色気キャラだから、美人サンにたのみたかったんだよネ!!」
 鼻息を荒くしながら、メンバー紹介をする店長。すでにフロアーで戦争を勃発させているフィギュアのことなどどうでもよくなっているらしく、これからの活動予定何ぞをナルに説明し始めていた。






「リンさん、私達何しにきているんでしたっけ・・・・・?」
「私に聞かないでください・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」





 そんなやりとりがされていることには全く気がつかない、こすちゅーむ戦隊の皆様は新しくメンバー入りしたことになっているナルに、決めの台詞だのポーズだのを伝授し始める。
 いっけん大人しく聞いているナル。
 果たして、ナルの神経はいつまで持つのでしょうか。


 そして、話は最上部へと続くのでございました。