「あんた、なんでナルみたいな男と付き合ってられんの?」 オフィスに二週間ぶりに顔を出した綾子はソファーにおちつくなり麻衣に問いかけてきた。 「は?」 六月に入り蒸し暑くなってきたため、キンッと冷えたアイスティーを綾子の前に置くと、向かい合う場所に腰を落ち着かせ、自分は暖かい紅茶を一口飲む。 「普段から横柄で俺様な性格。気の利いた事も言ってくれなければ、デートもしてくれない。せめて、誕生日やクリスマスは一緒に過ごしたくても、仕事優先で強引に誘って食事だけ。バレンタインをやれば突き返され、自棄食いの末路。 食事を作ってもお茶を入れても美味しいの一言もなく、給仕されるのを当たり前かと思っているかのような態度。こっちが切れたらキスの一つや二つで機嫌が直るとでも思っているかのようで、思いっきり見下されているかのように振る舞う。 そんなナルと居て何が楽しいの?」 一気にまくし立てられ麻衣は、ぽかん・・・と口を開けてマシンガン・トークをとりあえず聞いていた。 「なんかあったの?」 「アタシの事じゃないわよ!!」 「いや・・・だって、ナンデそんな事聞くのかなぁ・・・って」 「聞いちゃ悪い?」 「いや、悪いって事ないけれど・・・綾子、新しい彼氏ってそういうタイプ?」 「だから、あたしじゃないって!」 向きになって叫ぶ綾子に対し、麻衣はニヤニヤ笑みを止められない。 「ナルの美点と言えば、顔が良いところとスタイルが良いところと、声が良いところと頭が良いところだけじゃない!」 そんだけ美点が有れば、充分だとは思うがいかんせん、話題に上っている人物がナルともなるとそう言いきれない。 なにせ、性格の二文字が大いに禍しているからにならない。 「前から不思議だったのよね。美人なんて三日見れば見慣れるって言うけれど、性格が悪ければどんな美人だって一緒にイタイと思わないじゃない? なんで、一緒に生活していられるのか不思議なのよね」 「それいったら、その性格悪いのとナンデ一緒に仕事が出来るのよ」 「だって、アタシはナルとの仕事なんて年に何回かよ?あんたみたいに365日顔合わせているワケじゃないモノ」 「綾子、新しい彼氏ってもしかして仕事優先であんまデートしてくれないとか?」 首を傾げての問いかけに、綾子は白を切ろうとしたが、疲れたようにため息をつくと。ホールドアップをするかのように両手を挙げた。 「大学病院に勤務している医者だから仕方ないんだけどね。宿直に、遅番早番があるわ、患者の容態次第で24時間365日呼び出しがかかるわ、デートをしても仕事の話ばっかり。 あたしが医者の娘だからって言ってもあたし自身は勉強したワケじゃないんだから、医学の事は判らないというのに、すぐにそっちの話題。もしくは、自分が抱えている患者の事が気になって、いつも人の話は聞かない。 良い雰囲気になったかと思えば、呼び出し。 タイプだったし、基本的に性格も良かったからうまく行くかと思ったけれど、付き合いきれなくてこの前別れたばっかよ。 で、麻衣はそれよりも重度のアレとよくもまぁ何年も付き合っていられるわねと思ったのよ。 あんただって人並みにデートしたりしたいでしょう?」 「まぁ・・・でも、別にデートとかにはそんなにこだわってないし。どうせ出かけるなら、趣味の合う友達と出かけた方が楽しいし。ご飯作ったりするのは好きだからやっているし、材料費は私出した事ないし・・・誕生日とかクリスマスは、プレゼント用意してくれているし、バレンタインは日本のお祭りで文化がナルの育った国と違うし甘いのキライだし・・・」 指折りに答えていく麻衣に対し綾子は判っていたことだがため息が隠せない。 麻衣がたいしたことないといった事にこだわっている自分が妙に子供じみているような気がしてきたのだ。 いや、世の大半の女性が自分と同じ物をこだわるだろう。麻衣とナルのカップルが希なのだ。 ナルにとって麻衣は一見都合のいい女にしか見えないだろうが、これでこの二人は至極自然に付き合っているのだから不思議だ。 自分もそういう局地に達してみた行きはするのだが、物欲の強すぎる自分にはきっとムリだろう。と簡単に諦めがついてしまう。 求める事を基本的に知らないこの二人だからこその関係のように思えるのだ。 だがしかし、理想と現実はえてして一致しないモノである。 「それでもやっぱり納得出来ないわ。 ただの学者バカの心霊オタクと居て楽しいと思えるの?」 SPR本部の人間が聞いたら卒倒しかねない事を、平然と口にした綾子に対し、麻衣は軽く吹き出すと少し考えて、口元に笑みを浮かべる。 「楽しいと思うより、幸せ・・・かな?」 どこか遠くを見るかのような視線と、自然と口元に浮かんだ笑みを見て、綾子は一瞬言葉を呑む。 自分よりも年下の麻衣が、大人びた笑みを浮かべたからだ。 恋人と居るのが楽しいと思っているうちは、まだまだお子様な恋愛なのかしらねぇ・・・声には出さず胸の中でそっと呟く。 よほど麻衣の方が「オトナ」な恋愛をしているようにこの時には綾子には見えた。 「あたしにもそう思えるような恋人が現れないかしら・・・」 氷が溶けかけたアイスティーを口に含むと、 「物欲をなくす方が先じゃない?」 麻衣がずいぶんませた事を口にする。 「アタシは贅沢な女なの。 満足させられない男じゃ、最初からゴメンだわ」 婉然と微笑みながら、言い切る綾子は綾子であっぱれだと思う麻衣であった。
・・・・ナルは欲しいモノをちゃんとくれるんだ
きっとそう言っても綾子は信じようとしないから、麻衣は微笑みで隠してそっと呟く。 カラン・・・と音を立てて崩れた氷によって、その呟きは綾子の耳にまで届くことはなかった。
☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
かれこれ5年前に日記SS(当時はCGIにてUP)していた話になります〜
楽しんでいただけたら幸いですv
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