午前中の市中見回りから屯所へ戻ってきた沖田は、障子の前に張り付いているとしか形容出来ない三人の姿を見つけて、はて?と思う前に楽しげに口角を歪める。
 土方辺りだったら、「組長が雁首そろえて、なにみっともねーまねしてやがるんだ!!」と怒声でも浴びせたかもしれなかったが、沖田は気配を殺して三人の背後にたつと、ぬっと首を伸ばす。


「なに、楽しそうな事をしてるの?」


 普段ならすぐに背後に立つ沖田の気配を察しただろうが、この時の三人には背後はおろか周囲の気配を伺う余裕はからきっしなかった。
 耳がダンボのように大きくなって、障子の向こう側の音を拾うのに集中しすぎていた・・・と、言えば聞こえはかろうじて良いが、ようはただ単に盗み聞きをしていた。だけなのだ。




「ぬぅわっっっっっっ」




 いきなり真横から伸びてきた首に、平助は思わず声をあげかけるが、その口を沖田はすぐさま掌で覆って声を押しつぶす。
「ダメダよ。そんな大声出しちゃ。斎藤君に聞こえてしまうよ?」
 楽しそうに笑みを浮かべる沖田の顔はまるで、化け猫のようににっと笑みを浮かべる。
「で、何を盗みぎきしているわけ?」
「盗み聞きって失礼なヤツだな」
 いや、どう見ても盗み聞きだろう。
 とは、新八の背後で同じく聞き耳を立てていた、左之助の声にならない呟きだ。
「斎藤のヤツが、千鶴ちゃんと中に籠もっていやがるんだよ・・・」
「・・・・・・斎藤君がねぇ」
 沖田は意外なものを見るかのように閉ざされた障子へと・・・その奥へと視線を向ける。
「で、なぜ君たちはでばがめを? 普通はさ、気を遣ったりするんじゃないの?」
 一番、気を遣うという言葉から縁遠そうな男に言われ、三人が三人とも胡散臭そうに沖田を見上げてしまう。
 なぜ、お前にだけは言われたくない・・・・と皆が皆同時に思った。
「んまぁ、そのなんだ。」
「間借りに間違って、一君が狼になってたら、助けてあげないとね」
 実は三人とも正確には中でなにが起きているのか正確なことは把握してはいないが、想像することは容易い事が聞こえてきたのだ。
「さっきまで、千鶴のなんつーか声が聞こえたんだけどよ。今はピクリとも音がきこえねーんだ。 やろー中で何をしてやがるんだっ」
「千鶴ちゃんの声?」
 相手が幾ら無口でも、斎藤に懐いている千鶴は臆することなく、あれこれ斎藤に話しかけている。当然、部屋から声の一つや二つや十や二十聞こえてきてもおかしくはない。
 別段こそこそと盗み聞きするような必要はないはずだ。
「なんつーかよ」
 そこで、新八は口ごもる。
 沖田は左之助に視線を向けると左之助は苦笑を浮かべながら一言「艶を含むような声音」と答えた。
 新八や平助ならいざしらず、左之助が「艶を含むような声」と言うのだから、沖田も少しばかり驚きを禁じ得ない。
 左之助がそういうのだから、まさに「そう」なのだろう。
 屯所で斎藤がそういう事を行うとも思えない。
 まだ陽は空高く、ようやく昼時を迎えようかという時刻。
 なにより斎藤は土方から千鶴の守り役を任せられているのだ。
 あの、朴念仁の固まりで色恋沙汰とは無縁どころか、母親の胎内に置いてきてしまっているのではないか?と思う程、恋情の話を耳にしない斎藤が?と思うのだがなにより・・・・・


「以外だな。千鶴ちゃんでも、そう言う声も出せるんだ」


 素直に、そう言う意味で驚きを素直に表す沖田に、左之助はため息を一つ漏らす。
「以外って・・・お前さん、千鶴をなんだと思って居るんだ?
 あの子だって立派に女人なんだぜ。
 お前が言いたくなる気持ちも判るがよ、んなもんは幾らでもやりようがあるだろうよ」
「でも、まだどうみても子供子供してるよねぇ」
 艶のつの字すら沖田は千鶴には感じない。
 確かに顔立ちは可愛いと思うのだが、まだ子供子供しており、とてもではないがそういった気にはなれない。
 なんだか、犯罪を犯しているような気分になりそうだ。
 思わず想像してげんなりしてしまうが、新八と平助は千鶴よりもその相手の方が衝撃が大きかったようだ。
「やりようといいやがるがよ。あの斎藤がだぜ?」
「そうだよ、一君だよ!?」
「どう考えても手練手管をしりつくしているようには思えん」
「左之さんならともかく、一君がそう言うことに精通しているようには思えない」
 二人の言い分のほうがかなり酷い。
 だが、実際に三人ほど斎藤は花街である島原に足を向けることもなく、足を向けても酒を楽しむだけで遊女を買うことなく帰してしまうことが多い。
 恋人や妾や妻がいるわけでもない。いったいどうやって男のサガを散らしているのか?
 俗物な新八は疑問に思うのだが、聞き捨てならない平助の言葉に、手が伸びる。
「おいおい、平助。俺ならともかくってどういう意味だ」
「花街のおねーさんたちが、左之さんなら仕事抜きでも相手したいって言ってたからね。
 皆骨抜き?」
「え!?マジ!?おれなんか金次第なんだぜ!?
 なんで、左之ばっかりなんだよっっっ」
「そりゃー、新八っつぁんだから」
「だから、おめーはよっっっ」


「で、だからなんで盗み聞きするような事になっているわけ?」


 小声で喧々囂々とやりあう二人をよそに、沖田は左之助に問いかけると、左之助も良くわからないんだがよ。と経緯を語り始める。

















 それは、ほんの少し前の話だ。
 朝帰りをした左之助の手には土産物の餅が包まれた風呂敷を抱えていた。
 数人分の昼飯になりそうな餅。
 左之助は皆に声をかけて、餅でも食おうと平助と新八を呼び、自室にいる千鶴と斎藤も呼び寄せようと部屋に向かった所までは、話は簡単だ。
 土方の部屋近く・・・屯所の奥まった場所に隔離するようにあてがわれているのが千鶴の部屋だ。秋も深まり風もかなり冷たくなってきたせいか、障子はしっかりと閉められてはいるが、中に人の気配があることだけはすぐに判った。


「千鶴、一くん、モチくわ・・・」


 軽快な足取りで最初に近寄った平助の脚が不自然に止まる。
 まるで、一時停止ボタンをおされたかのように、踏み出した右足、左足は宙に浮いたままで、笑顔を浮かべたままの状態。
 まさにフリーズ。
「おい、どうした、へいーんぐわっ」
 体格がよい新八だが歩くときは足音を立てない。
 が、無遠慮に近づいてきた新八の口を、平助が唐突に塞ぐ。
 その様子を見て、左之助は足音をよりいっそう殺して、二人の背後に回ると身をかがめ、平助に問う。
「何があった?」
 平助と新八の差はなきに等しいが、何か異常を感じたのだろうか。
 だが、その割には平助は警戒をしているというよりも、狼狽えていると言っていいような表情だ。
「あ・・・う・・・・こ、こえが・・・」
「声?」
 新八と左之助の声が微かに重なり、二人の視線はほぼ同時に障子へと向けられる。
 シンとして声はおろか、身じろぐような音一つ聞こえない。
 だが、気配はある。
 なんだか、妙に緊張しているような・・・張りつめているような気配。
 中で何があるのだろうか?
 声をかけて様子をうかがうべきか、それとも障子を開けて確認するべきか・・・
 中に斎藤がいるのならば、そうそう千鶴の身に危険が迫るようなことはないはずなのだが。





「・・・・・っんっっ」





 新八と左之助も出方を決められず、さてどうしようか。と思ったとき中から、息をのむような、飲み込めず漏れてしまったような・・・・表現しがたい音というか声が、微かに障子越しから漏れて来たため、障子に手をのばしかけた新八の動きが止まる。





「千鶴、唇を噛みしめるな」
「で・・・でもっ、っぅ」
「唇に傷が付く。堪えきれないなら  」





 ボソボソと微かにだが、斎藤の声も障子の奥から聞こえてくる。
「を・・・をい、今の声は・・・・・」
 新八は思わずぐるんと身体の向きを回転させると、狼狽えたように視線を左右にせわしなく動かせながら、平助と左之助を見下ろす。
「色っぽい声があの子にも出せるんだな」
 思わず関心してしまった左之助の脇腹を平助がどつく。
「変なところで関心しないでよ。
 っていうか、一君いったい千鶴になんしてんの!?」
「なにって・・・お前さん野暮な事いうねぇ。ナニ以外他になにがあるんだ?」
 しみじみと左之助に言われると、他に確かにないことは判っていたが、一気に平助の顔が赤くなる。
 さんざん今まで島原で遊んできて朝帰りをしておきながら、何を狼狽える必要があるというのか。初心な坊やでもあるまいし。とつっこみをいれたくなるが、平助の心境もわからないわけではない。
「だ、だだだ、だだ、だっって!!!!」
「おめー、日本語話せよ」
「だから、だって」
「声がでかい」






「安心しろ、一気にいく」
「・・・・で、でも・・・・」
「時間をかける方が痛みが長引く」
「・・・・で、でも、でも・・・・」
「怖いなら目を閉じていろ」












 ボソボソと聞こえてくる二人のやりとりに、新八と平助の顔が一気に真っ赤になっていく。
「は!?いっき!?」
「そんな、いきなりいっきはまずいだろ!?」












「いくぞ」
「や・・・いっっっ」











 息をのむような悲鳴のような声に、思わず三人は音を立てて唾を飲み込む。
 無粋な事をしているのは判る。
 本来ならばこのまま、何も聞かなかった、知らなかった。ということにして、回れ右をして、この付近に人を近づけさせないようにするのが、仲間としてのできる最善の道。
 だが、意に反し手足は動かない。
 どうして、なぜ、なんで!?
 三人の頭にはすでにその三文字しかなかったのかもしれない。
 千鶴が斎藤にほのかな思いを寄せ始めている事は、見ていて判った。
 だが、肝心の斎藤はと言うと・・・・何を考えているのかさーっぱり判らん。というのが三人・・・いや、土方や近藤を含めた仲間内の意見だ。
 問題は山積みで状況を考えると手放しで喜べる事ではないが、斎藤が千鶴の思いに答える気があるのなら、祝したいとは思う。
 だがしかしだがしかしだがしかし・・・・今のこの状況はいったいどういうことよ!?と問いただしたいのも事実であって、 ただ、息を潜めて耳をじっとすまし、中の様子をうかがっていた・・・・所へ、沖田がのっそりと顔を突き出したのだった。








 事のあらましを一通り聞いた、沖田はふーんとつまらなさそうに。生返事を漏らす。
 思っていたほど大それためくるめくる世界が繰り広げられている気配を感じなかった。
 すっかり興味を無くしている沖田に、平助と新八はなんでそんなに冷静なんだ!?と訴えるが、沖田から見ればなぜ、二人がそこまであわてふためくのかが判らない。
「声だけなら、別にねぇ?」
「いや、声だけでもよ」
「そーだよ、一君がだよ?」
 いったい斎藤よ。お前はどれだけ朴念仁と思われて居るんだ。
 二人の切々とした訴えに、原田は遠くを見たくなるが、不意に「あ」と声が漏れる。同時に、沖田の口元にも笑みが浮かぶと、薄い唇を開く。
「なんだか、ものすごい想像が巡らされているようだけれど?
 何してたの?斎藤君と千鶴ちゃんは」
 なぜ、そこで自分達にではなくて斎藤本人に話しかけるんだ?と思ったのは新八と平助だけで、左之助は大きなため息を一つつく。
 二人は気がついてなかったが、左之助だけはとうの昔に気がついていた。
 閉ざされていた障子が開いていたことに。
 そこにはいつもと同じ黒装束に身を包んだ斎藤が、不機嫌そうに眉を寄せて、二人を見下ろしている。
 左之助は手を微かに合わせてさっさと謝罪の意を伝える。
「うわっっ、なんで!?いつのまに!?
 お前と総司はこっそり背後に立つな!」
「一君、気配なさすぎだよ!! もうちょっと、存在感アピールしてよっっっ」
 二人の身勝手な言い分には耳を貸すことなく、斎藤は煩わしそうに四人を睨み付ける。
「騒がしい。お前達は静かにできないのか」
「斎藤てめぇなぁ・・・その前に、千鶴、何があったんだ!?」
「ひでーことされなかったか!?」
「斬りたくなったらいつでも、気軽に声をかけてくれていいよ。
 君の変わりに僕がやってあげるから」
 それぞれが勝手なことをわめき立てるが、一人千鶴はきょとんと勢いよく部屋に入ってきた平助と新八を見上げ、廊下からにこやかな笑顔で物騒な事をいう沖田を見上げ、苦笑を浮かべながら後頭部を掻く左之助を見、最後に斎藤へと視線を向け、何がなんだか判らず首を傾げる。


「無体なことを一君に・・・・あれ?」


 勢いよく駆け込んで千鶴の前にスライディングするように正座をした平助は何かがおかしいことに気がつき首を傾げる。
 千鶴は髪をいつも通り頭上高くで一本にまとめており、乱れた様子はひとかけらもない。
 着物の合わせ目もきっちりとしており、帯のゆるみもなければ、崩れた気配もなく、固く正しい位置で結ばれている。袴にも乱れはない。ただ、いつもは足袋で隠されている白い脚先がさらされているという以外、変化は何一つない。




 まるで、夢か幻か。
 狐か狸にバカされたか。
 それとも、島原で遊んだ付けがまだ残っていたのか・・・・・





 幻聴だったとでも言うのだろうか?
 平助だけではなく新八もわけがわからず首を傾げると、沖田が斎藤に問いかける。




「男装しているとはいえ、女の子の部屋を閉めきって何をしてたの?」




 斎藤は不愉快そうに眉をよせるが、軽くため息を一つつくと「傷の手当てをしていた」と端的に答える。
「傷の手当て?」
「いやだってよ、すんげー色っぽい声聞こえたんだぜ?」
「左之さんだってそう思ったんだから、間違いないよ!」
「って?訴えているけれど?
 ねぇ、千鶴ちゃん。正直に話してね」
 まるで猫が獲物を見つけたときのような笑みを向けられ、千鶴は顔が引きつりそうになるのを必死に堪える。
「な、なにをでしょうか・・・・」
 一体全体何がどうなっているのかさっぱり判らず、救いを求めるように斎藤へと視線を向けるが、斎藤との間に沖田が身体を挟み込み、彼女の訴えを遮る。


「斎藤君に何か不埒なまねでもされたの?」
「は? ふらちなまね? え?」
「うーん、率直に言うなら、手籠めにされた?」


 その瞬間、千鶴の目がこれ以上ないほど大きく見開かれ、斎藤の左手が右腰に差した刀にかかるが、それよりも屯所内に響き渡らんばかりの絶叫が響き渡る。




「な、な、な、な、な、な、ななななにを唐突にいうんですかぁぁぁぁ!!!!!」




 真っ赤になって絶叫するが、その甲高い声音は、間近で聞いた平助や新八の脳髄を突き抜ける。
 二人より離れているとはいえ、その声の大きさに沖田や、斎藤、左之助も思わず眉を顰めてしまう。
「そ、そ、そんなことないですっっっ
 き、傷の手当てをしていただいただけですっっっっっ」
 真っ赤になって必死に千鶴は訴えるが、端から見て傷の手当てはいったいどこしをてもらったのか。
「千鶴ちゃんって、傷の手当てをしてもらうだけで、色っぽい声がでちゃうの?
 それとも、斎藤君の手当ってそんなに気持ちいい?」
「い、いいいいいいったい、なにをおっしゃるんですかっっっっっっ!!
 斎藤さんは、そ、そ、そんな方ではないです!!」
「いや、でもねぇ。三人が聞いたって言うし?」
「総司、その辺にしておけ。
 雪村が頓死する」
 真っ赤になって、息も絶え絶えな様子で、口をパクパクしながら言いつのる様はまさに、ぽくっといつひっくり返ってもおかしくない様子だ。
「爪が剥がれたんだ」
「は!?つ、つめ!?」
 斎藤からもたらされた事実に、視線は千鶴の白い足へと向けられる。
 いきなり皆に足を見られたため、引っ込めようとしたが、治療がまだ途中だったため痛みが走り、思わずうめき声が漏れる。
 日に焼けることのない白い足。
 すらりと伸びた指先には桜色の爪が付いている。。。。はずなのだが、親指の爪が確かに剥がれて、肉を見せていた。
「うわっっ痛そう」
 もっとむごい傷を山のように見ているのに、なぜか痛々しく見える。
「いったい何をどうすれば、こんな怪我をするんだ?」
 不思議そうに新八が問いかけると、千鶴は思わず身を竦める。
「足の爪を切るのが苦手で・・・少し変な切り方をしてしまっていたらしくて、角が切り足りなかったのか、ひっかけちゃって・・・・・」
 そうしたら、爪が半端に剥がれてしまったのだ。
 剥がれた位置が悪かった。
 肉に被っている部分まで達してしまったが為に、刃物で爪を切り落とすこともできず、途方に暮れていた時に、斎藤が一気に半端に剥がれた爪を切り取ってくれたのだ。
 その手当の最中のやりとりを、三人はたまたま聞いたに過ぎない。
「いや、でも・・・・」
「すんげー色っぽい声だったんだぜ?」
 なぜ、爪の手当てをするやりとりが、あんな声になるのだろうか。
 やはり、斎藤の手つきが怪しかったのではないだろうか。
 あれは、普通の怪我の治療をしているというような雰囲気ではなかった。
 ボソボソと、新八と平助は背後に斎藤が居ることを忘れたかのように、好き勝手に言い始める。







「お前達」








 すちゃ。と斎藤の腰から刀が抜かれ、刃を新八と平助へと向ける。











「俺と、雪村の名誉を地の底に落とすつもりか?」















 沖田とは違い、なんでもかんでも刀を抜いてすます男ではないからこそ。
 よりいっそう怖い。
 刀の先が、顎先にふれると、新八は指先でちょいちょいとずらす。
「私闘は局所法度だよ、一君」
 冷や汗ダラダラの平助を斎藤はにらみすえる。
「お前達は、嫁入り前の娘の名誉を汚したことになる」
 嫁入り前の娘が、男といかがわしいことをしていた。という噂でも立てば、たとえ事実無根であろうとも、名誉は地の底に落ちたも当然だ。
 むろん、彼らがそんなことを言い触れ回るはずもなく、かつ千鶴は男として屯所にいるのだから、嫁入り前の娘。という定義はあてはまらないのだが・・・・


「きっと、土方さんも、私闘にあらずというかなぁ?
 嫁入り前の娘さんの名誉にかかわるんだしねぇ。
 あ、立ち会いが必要なら僕がやるよ?」


 
 ことの成り行きが、物騒なほうへ向かっているのはわかるのだが、今ひとつ・・・いや二つぐらい話の流れがわかっていない千鶴は一人、おろおろと視線をあっちへむけこっちへむけている。





「斎藤、その辺で簡便してやれや」





 一触即発。
 ぴーんと張り詰めた空気を緩ませるかのように、この場にいないはずのもう一人が姿を現す。
「おめーら。新撰組組長ともあろうものが、立ち聞きったーなさけねとおもわねーのか!!」
 いったいどこから聞いていたのか。
 土方は三人・・・特に平助と新八をにらみつける。


「そんなに時間がありあまっているならちょうどいい!
 全員で、厠のくみ取りでもして、その腐った脳味噌も一緒にすてちまえっっっっ!!」


 それは、普段平隊士が順番にやっていることだった。
 少なくとも、組長クラス・・・いや、幹部クラスがするような作業ではない。
 だが、今それを訴えても無駄なことで・・・・




「えええええ!? 土方さん、それは勘弁してよっっっ」




 平助が思わず泣きをあげるが、土方がそうあっけなく言った言葉を翻すはずもなく・・・・
 午後は平助と左之助の変わりに、斎藤と沖田が市中見回りの役目をおうこととなり、新八の変わりに井上源三郎が剣術指南の当番を代わることになったのは言うまでもない。
 この時一人難を逃れた沖田は市中を見回りながらぽつりと呟く。






















「そういえば、土方さんはどの辺から立ち聞きしていたんだろ? 聞き忘れたな」
























 そう、立ち聞きをしていたのはあの三人だけではなかった。という事に、気がついたものは他に誰がいたのか。
 それは、ナゾのままだ。










 
 






☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆


薄桜鬼第二弾です。
んが、ちーっともカップリング要素がなくて申し訳ないです(笑)
私的にカップリングはまだ斎藤×千鶴しか考えつかないんですけれどね!(笑)
その上、ありがちなネタで非情に申し訳なく・・・・
ちなみに、一君は外でごちゃごちゃと人がいることには気がついていたものの、傷の手当てを優先的に行っていたので、外野はとりあえず放置していたということでございます。はい。
あんだけ喧々囂々やりとりしてたら、絶対に気がつかないはずないし、つーか、そもそも障子に人影が絶対に映り混んでいるはずだ(笑)


もうちょっと、カップリング要素のある話も書けたらいいなーと思っていたりしますので、まぁ、ご興味ある方はUPしたときにでも読んで頂けたらうれしゅうございますv
まぁ、あまり更新頻度が頻繁なサイトではないので・・・・思い出した頃にでもふらりと起こし頂けたら、幸いですv
なにより、これから冬コミ原稿がありますので・・・いつまでも、現実逃避していられませんので(笑)



ありがちなネタの、ありがちな展開ですが、楽しんで頂けたら幸いですーv




Sincerely yours,Tenca
2008/11/04