だから・・・・・












「千鶴、江戸にお前は戻れ」


 鬼との戦いは終わって間もなくの事、斎藤は新政府に降伏した。
 最後まで武士として新政府と戦うつもりでいたが、会津藩主が降伏しそののち、藩主が寄こした使いの説得に応じるように降伏したのだった。
  その前夜、斎藤は千鶴に江戸へ戻るよう告げる。
 唐突に切り出された内容に、千鶴の両目はゆっくりと大きく見開かれる。


「な、何を急に言うんですか・・・・私は、どこまでも斎藤さんについて行くって   


 あの夜、土方達と道を違えた夜、そう誓ったはずだ。
 たとえ、この先がどんな地獄であろうとも、共にあることを。
 だから、斎藤が降伏するというのならば、共に行くつもりだ。
 だが、斎藤はゆっくりと首を左右に振る。


「お前は新選組の人間ではない」


 この場になって、なぜそれを言うのだろうか。
 たとえ新選組の人間でなかったとしても、心は彼らと同じもとにある。
 少なくとも、自分の心は彼と共にある。
 あの夜・・・初めて口づけを交わし、思いを確かめあった夜、誓った  どこまでも共にあると。


「その両腕は何者の血にも穢れてない・・・まっさらなままだ」


 けして楽な生活ではなかった。
 年頃の娘らしい格好をさせてやるどころか、転戦に転戦を繰り返し、着の身着のまま幾日も過ごした日もある。
 新選組を訪れた当初は綺麗だった指先は、荒れあかぎれまみれで、年頃の娘の手とは言い難い。
 父一人、子一人、家のことを全てやっていたというが、それでも幕府の息のかかった医師の一人娘であり、小綺麗で指先などもまだ少女らしく綺麗なままだったのだ。
 きっと、自分達にかかわらなければ、この両手が荒れることなどなかっただろう。


「お前なら、まだ何も知らなかったあのころへ戻る事ができる」


 血の穢れを知らない今なら、全てを過去のこととして忘れて、戻る事ができるだろう。
 平穏で暖かな生活へ・・・


「戻れるわけないじゃないですか!!」


 だが、千鶴の絶叫がそれを否定する。


「ずっと・・・ずっと・・・一緒にいました。
 たとえ、人を斬っていなくても、入隊の儀を行ってなかったとしても、心は新選組の一人でした!!
 皆と一緒に笑って、泣いて、怒って・・・歯を食いしばって、ずっとずっと・・・ずっと、京の都からずっと・・・一緒に・・・なんで、どうして今になってそんなこと言うんですか!?
 あの夜、私は誓いました!!!
 たとえ、どんなむごい殺され方をしようとも、たとえどんなに見苦しい死に様をさらすことになろうとも、斎藤さんと共にいるって!!!
 どこまでも斎藤さんについて行くって、あの夜誓いました!


 なのに・・・・なのに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今更、どうしてそんなことを          





 最後は嗚咽になり、まともに言葉を言うことはできなかった。
 ただ、何度も斎藤の胸を握り拳で叩く。
 なぜ、どうして、ただそれしか言うことが出来ず、バカの一つ覚えのように呟き続ける。
 斎藤はただ、黙ってそれを受け止めていたが、その両肩を両手で包むと自分から引きはがす。


「お前は、江戸へ戻るんだ」


 夜のような深い双眸がまっすぐに千鶴を見つめる。
 千鶴は喉の奥で、嗚咽を漏らす。
 涙が後から後から溢れ、斎藤の端正な顔が滲む。


「俺は、人を多く斬りすぎた・・・・あまりにも多く。
 投降すれば最後、生きて戻ってこれる可能性は低い・・・いや、ない」


 静かに告げられたその言葉にひっく。と喉が引きつけを起こしたように鳴る。


 新選組三番隊組長 斎藤一。


 その名は、世に轟いている。
 「人斬り」として。
 一番隊組長 沖田総司と肩を並べて、特に多くの人を斬り殺してきた。
 その身は、たとえ返り血を浴びずとも、無数の血によって汚されている。
 そんな彼が投降したとするならば、どんな裁決が下されるかは、火を見るより明らかだ。
 良くて切腹・・・・いや、おそらく・・・・


「近藤さんのように、斬首されるだろう     


 世を騒がせ、動乱のるつぼに落とした一員の一人として・・・・
 数多の仲間を殺した、憎き敵として、裁かれるに違いない。


「嫌です・・・・嫌・・・・いやっっっっっっっ」


 千鶴は泣きじゃくりながら首を左右に振る。
 羅刹となり、いつ果てるか判らない命と言われ、失うことを怖れた。
 だが、希望の灯火は消えては居なかった。
 奥羽の澄んだ清き水が、斎藤を苦しめる変若水の毒を解毒し、和らげてくれるだろうと・・・その水を飲んでいれば、すぐに果てることはないだろうと・・・やっと、一縷の望みを掴んだのだ。
 共に、これからも生きていけるかもしれないと。
 なのに・・・なのに・・・・・・・・・・・・・・・・


「いやです・・・しなないでください・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 彼に、こう告げるのは卑怯だ。
 彼は武士として戦い、武士として裁きを受けるのだ。
 その彼の生き様を止める権利は自分にはない。
 それでも、望んでしまうのだ。












「好きです」

















 思いが溢れて止まらない。
 後から後からこみ上げてくる。
 こんな思いをぶつけられても、今の斎藤には面枷にしかならないだろう。
 それでも、止める事は出来ない。


 千鶴は揺るぎなく自分を見下ろす斎藤をまっすぐに見つめる。
 自分の言葉は彼の意思を変える事はできないのだ。
 判っている・・・
 どれほど、共にあることを望んでくれたとしても、彼の信念はそれをよしとしないことは。
 それでも、言わずには居られない。




「愛してます・・・愛して居るんです      誰よりも、貴方を  





 千鶴の想いに答える言葉を、斎藤は告げない。
 唇は真一文字に結ばれ、吐息一つ吐き出されない。
 それでも、彼の気持ちは痛いほど伝わってくる。
 自分の両腕を掴む力が、強くなるごとに・・・・











「だから              











 彼の信念を歪める事は出来ない。
 だけれど、自分の気持ちを偽ることも、またできない。





















「だから、ずっと待ってます」

















 涙で煙る視界。
 彼がどんな顔をしたのか、滲んでしまって判らない。
 泣きはらした顔はどんなに不細工だろうか。
 それでも、笑みを精一杯浮かべる。



















「だから、斎藤さんが・・・・・一さんが戻ってくるのを、ずっと待ってます・・・」

















 この会津で。
 ずっと、そのお帰りを・・・・
 いつまでも、いつまでも、いつまでも・・・・・・・・・・・・・・・・・







 千鶴は背を伸ばすと、冷たい唇にそっと口づける。





 全ての想いを込めて。






 何かに突き動かされたように背に腕が周り強く抱きしめられる。
 微かに触れていた唇は、少しずつ深みを増してゆく。


 最後になるかもしれない抱擁。
 だが、それでも望みは棄てない。





 羅刹となり、口ゆくだけの命が止まるすべを知ったように。
 きっと・・・




 再びこの腕に戻る日が来ることを信じ、
 再びこの腕に抱ける日が来ることを信じ、








 ただ、言葉なく、想いを告げ合うこともそれ以上せず、二人は口づけを交わし合う。













                                            to be continue?











 
☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆




あはーん。何を書いて居るんだー!!といわんでください。
どーしても、らぶい話を書いて、一段落つけねば、頭がGHモードにならんかったのでありますよ。
ちなみに、続きます・・・・をい。
えーと。エンド後捏造編です(笑)
史実ですと一君は、会津公が降伏したあとも戦い続け、会津公が派遣した使者の説得を受け入れて、
やっと新政府軍に投降したそうなのです。
降伏後は捕虜となった会津藩士とともに、はじめは旧会津藩領の塩川、
越後で謹慎生活を送ったようなのだ。
んで、どう考えてもその間女連れのわけねーべ?
千鶴は男装しているけれど、さすがに捕虜となったあとは、守れねーべ?
ってことで、勝手に捏造deごーつーわけでして、一時ここで離ればなれって感じにしてみましたん。
投降したとき、それなりに覚悟していると思うんですのよ。
何せ、新選組三番隊組長で、人斬りとして名をはせていましたでしょう?
近藤が斬首になっているから、斬首という可能性も棄てきれなかったと思うし、
可能性は十分にあったとおもうのよねーん。
ってことで・・・・その、投降してお縄になる前夜というわけなのでーす♪



とりあえず、このネタが落ち着いたら、少し気も紛れそうなので、
ぬぉ〜〜というのだけ、書いて、GHの方に専念専念。いい加減言い飽きた。・・・・・・・・反省。
でも、書きたい衝動はどーにもならないー。いえーい。