雨の日の足音 2

1を未読の方は「雨の日の足音 1」を読んでいただいてから、続きをお読み下さい。続き物になっています。







 















 無言でひたすら歩調を変えることなく夜道を歩き続ける。
 路地を曲がれば夜中でも交通量の減ることのない国道が数メートル先に見え始める。
 とりあえず、安原は国道沿いにあるファミリーレストランを目指していた。
 そこで滝川とオチ右合う約束になっている。
 護符を持っているだけではどうにもならないことを察した安原は、すぐに滝川へ連絡をした。レコーディング中だと下手をすれば数日音信不通になることもあったが、すでにマンションに戻ってきており、後は寝るだけの状態だった滝川を捕まえることが出来たのは上々だろう。
 状況を簡潔に説明すると滝川はすぐに合流してくれることになった。
 まだ、油断は出来ないが滝川が来ると判ると少し気持ちが落ち着きはじめる。
 パニックを起こしてはいないが、極度の緊張を強いられていることは自覚していただけに、滝川との連絡が取れ、直ぐに駆け付けてくれると言う事はありがたかった。
 そうして、落ち着き始めれば頭が回転し始める。
 護符を持っている限り一定距離以上近づいて来ないことは判った。ならば、夜明けを待って始発でSPRの事務所に向かうのが一番の得策だろう。
 この時間だと渋谷まで出る電車はすでに無くなっていた。
 途中で立ち往生し、人気の皆無なところで霊と二人っきりになるより、適度に人気のある暖かい場所で様子を見る方が得策だ。
 ファミリーレストランのネオンが視界に入ってくると安堵のため息が漏れる。
 少し速度をあげて足早にレストラン内に入ると、微かなざわめきと陽気な音楽、それに冷え切った身体には心地よく感じる暖まっている室温に、身体の強ばりがとけていく。
 適当な席に腰を下ろしてから、適当に注文すると疲労感がどっと押し寄せる。
 ずっと緊張していたからか身体の奥に鉛でも仕込まれたかのように重く、身体が椅子の中にめり込んでしまいそうな錯覚に落ちる。
 いつもより歩いてはいるが、調査に比べればたいした事はない。
 にも関わらずこれだけ疲労感を感じると言うことは、そうとう緊張していたのかと思うと苦笑が漏れる。自分はまだまだ修行がたりないなぁと痛感せざるえない。
「あ、ちょっと待って」
 オーダーを聞きに来た店員が、グラスを二つ置いていったため安原は店員を呼び止める。
「なんですか?」
 大学生ぐらいのまだ若い男が煩わしそうな顔で安原を見下ろす。
「グラスは一つでいいんだけど?」
 安原がグラスの一つをすいっと店員に向けて押すと、店員は首を傾げる。
「え? お二人連れでしたよね?」
 その問い掛けに安原の顔が微かに強ばるが、すぐに何事もなかったように微笑を浮かべる。
「・・・・・・他のお客さんと勘違いして居るんじゃないかな。僕は一人で来たから連れはいないよ」
「いや、でもお客様達の前後はしばらく人来てませんでしたし・・・・後ろにいた女の人違うんですか?」
「違うよ」
 表情は変えないまま安原は力強く否定するが、店員は直ぐには納得できない様子だった。
「とにかく、コレ一つ多いから下げてくれるかな。足りなくなったら御願いするから」
 さらに強く言われると店員もこれ以上何も言うことはなく、言われるがままにグラスを下げるが、首を不思議そうに傾げている。
 だが、その視線が安原のテーブルを見て誰もいないことを確認すると、持って来たばかりのグラスを一つ下げていく。
 ウェイトレスの後ろ姿を見送ると、時計に視線を落とす。
 滝川のマンションからここまでの所用時間は一時間と言うところか。
 それまで、問題無く過ごせればいいのだが・・・・
 先ほどまではっきりと見えていた姿は今はない。
 護符が聞いて居るのか、それとも、何かの弾みでほんの一瞬だけチャンネルがあっただけにしか過ぎないのか。
 だが、彼女はまだ傍にいるのだろう。
 店内は客が快適に過ごせるように空調が効いているはずだというのに、自分の周辺の空気がやけに寒々しく感じる。
 いったい今どのぐらいの室温になっているのか。
 背後に座っている客達にも影響は出ているのだろう。
 寒くない?という声がボソボソと聞こえて来る。
 だが、まだ極端に低下しているわけではない。
 これ以上下がるようだったらここに長居するのは危険だが、今はとにかく滝川と合流するのが先決だ。
 自分ではどうすることもできないのだから。
 ウェイターが運んできた珈琲に手を伸ばし、暖かな珈琲を胃へと流し込むだけで身体が落ち着いて来るのがわかる。
 現場にはなれたつもりではいるが、やはり人間予想外の事に当たると多少なりとも動揺はするということなのだろう。
 そう分析するだけ冷静な判断が出来て居ることが判ると、安原は持っていたバックの中かkらモバイルパソコンを取り出し起動させ、滝川が姿を見せるまでの間に気になる点をいくつか調べ始めた。
 滝川が姿を見せたのはそれからおよそ一時間ほど経過してからだっただろうか。
 滝川だけではなく、見慣れた面々が姿を現した。
「安原さん? 大丈夫ですか?」
 まず、ひょっこりと姿を現したのは同僚の少女であり、その背後には上司であり雇い主でもある黒衣の青年。遅れて茶髪の革ジャンを着た青年が姿を見せた。
「所長と谷山さんに声をかけてくれたんですか?」
 安原がとりあえず連絡をいれたのは、滝川のみだ。
 にもかかわらず、上司と同僚がいるのならば、その場に彼らがいたか、でなければ滝川が呼んだにということになる。
「俺が呼んだのはナル坊だけだったんだがね」
 安原から連絡を貰った滝川はそのまま直ぐにナルにも連絡をいれ、安原と合流する前に滝川はナルのマンションに寄って彼を拾ったのだが、迎えに行ってみればナルだけではなくその場には麻衣もいたということになる。
 ナルが麻衣を予め呼んだ・・・というには不自然な時間。
 すでに一時を過ぎており、ナルと麻衣の住まいは電車と徒歩を合わせると一時間近くかかり、かつ、この時間帯とナルと麻衣の最寄り駅からは東京方面に上る電車はすでに終電を迎えている。
 そもそも、深夜と呼ばれる時間帯にナルが麻衣を呼びつけるはずがない。
 となれば、わざわざ麻衣を迎えに言ったと考えられるが、もし麻衣を疲労ならば滝川に先に麻衣を拾わせて、それから自分のマンションへ向かわせるはずだ。だが、滝川が向かったときには既に麻衣がいたと言うことは・・・・
 滝川の苦み走った顔からも推測は容易い。
 が、安原はむろんつっこまない。
 そんな無粋なまねをすれば馬に蹴られて死んでしまうのがオチだ。
 いや、そもそもいい加減一緒にすんでしまえばいいのにと常日頃から思っているぐらいなのだから、がんばれーとひっそりと上司を応援する以外する気は無かった。
「安原さん、ぼーさんから話を聞いては居ますが改めて伺っても?」
「もちろんです」
 安原の向かいに麻衣、ナルが腰を下ろし、安原の隣には滝川が腰を下ろすと、それぞれ飲み物をオーダーし、安原から改めて何があったのか事の顛末を説明してもらう。
「今日は、友人と会っていたので遅くなったのですが、終電の一つ前の電車で最寄り駅を降りました」
 そう。別段いつもと何も変わらない日常のはずだった。
 だが、今夜だけはきっと何かが違ったのだろう。
 駅を降りたときはまばらにいた通行人達も、5分も歩けばほとんど目につかなくなり、路地に曲がったときには自分一人となっていた。
 その路地からは借りているアパートまでおよそ10分程度。駅からは15分ほどの場所に安原はアパートを借りている。
 周囲は典型的な住宅街で、マンションやアパートより一軒家の方が多く、都心部のベッドタウンとしてここ20〜30年ほどの間に開発された住宅街と昔からの住宅街が同居している地域だった。
 渋谷まではおよそ電車で30分ほどの距離にあり、家賃もさほど高くないため気に入っていた。
 特筆するものは何もない。
 似たような地域は至る所にあり、これといって特徴らしい特徴もないが、閑静な住宅街で生活をするには最適な空間だろう  だが、それは何の脈絡もなく変化を遂げた。
 視えるはずの無いものが視えたということによって。
「電灯の直ぐ傍で立ちつくしている女性がいたんです。トレンチコートがぐっしょりと濡れていたので、傘を差してないのは判りましたが、時間も時間でしたし、今日は1日雨が降っていたので、こんな天気の日に傘を差さないで立っていると言う事にぎょっとしました」
 それは、安原でなくでもぎょっとする光景だろう。
 例え、昼であっても変な人だと思わずにはいられない。まして、それが真夜中と呼ばれる時間帯ならば尚更だ。
 とはいえ、直ぐにそれが霊と思ったわけではない。
 なにかしら事情があるのだろうと思い、安原は足早にその場を通り過ぎた。
 可笑しいと思ったのはそれからだ。
 足音の感覚を考えると距離が開いていくはずだというのに、徐々に近づいて来る足音に違和感を覚えたのはすぐのことだった。
 それから、直ぐに歩く速度を変えた。
 だが、足音のペースは自分よりも遅いというのに、音が徐々に近づいて来る。
 妙に嫌な予感がしてならなかった。
 気のせいや勘違いと思うには、危険なような感じがし、安原は自宅に戻ることはせずに滝川に連絡を取り、人気のあるファミリーレストランへと向かったのだった。
「正直、滝川さんはともかく所長まで足を運んで貰って申し訳ないのですが、僕が見たのが霊なのか生きた人だったのか判断がついているわけではないのですが・・・」
 俺はともかくってどういうこっちゃい。と滝川がぼやくがむろんそれは綺麗に無視をされる。
「で、安原さん今も見えるんですか?」
 一通り安原から話を聞き終えると、麻衣は周囲の様子を伺いながら問いかける。
「いえ、今は見あたりません。ですけど、店に入った時、ウエイトレスには僕に連れがいたように見えたようです。グラスが二つ出てきました」
 だが、安原のテーブルには当然安原一人しかおらず、店の中にずぶ濡れの客が入って来た様子もなければ、周囲に座っている様子も無い。
「麻衣、何かわかるか?」
「寒いぐらい。ここらへんだけほかより寒いうな気がする。お店に入ったときは暖かかったのに、今はちょっとゾクゾクするかな。ほかはよくわからない」
 それは麻衣だけではなく滝川やナルも肌で感じていることだった。
 マンションに置いてあったのを持って来たのか、温度計を見ると気温が低い。
 試しに出入り口の気温を麻衣に測らせに行くと、七度ほど気温が下がっていた。
 本格的に低下しているわけではないが、同じ室内で七度の差は大きい。
「安原、特に思い当たることはないんだよな?」
 バカやって道祖神壊したとか、何かのお札をひっぺりかえしたとか・・・・と続ける滝川に、安原は白い眼差しを向ける。
「僕がそんな馬鹿なまねをするような人間だと思っているんですか?」
「いや、まぁお前さんじゃなくても、お前さんの仲間にいたりとかしねぇか?」
「あいにくと、僕の友人にそんな下らないことをする人間はいません。そもそも、ローティンの子供じゃあるまいし、いい年してそんな悪ふざけしてたらイタイ人間なだけじゃないですか」
 今の世の中そのイタイ人間が多いような気もしなくはないが、少なくとも安原の周りには当てはまるような人間はいない。
「今のアパートには先月越してきたばかりですが、それ以降毎晩通っています。今夜と同じ時間帯も何度かありましたが、こんなことはありませんでした」
 頭をぶつけたりとか、いつもと違う何かが合ったわけでもない。
 なのに、なぜ今夜に限って……そこで、不意に安原は視線を外に向ける。
 細かい雨かまるで霧のように視界を隠していた。
「あ、雨……引っ越しししてから、今夜が帰宅時の雨は初めてかもしれません」
 だが、それがキーワードになるのか。
 事件も事故も見当たらない、だが、それはここ数年の話だ。
 まだ、本格的に調べたわけでもなく、土地ゆかりではなくさまよう者だった可能性もある。
 たまたま、遭遇してしまっただけなのか・・・
「皆さんが来られるまでの間に、近辺を調べてみたのですが、これと言って目立つ事件や事故などの類はありませんでした」
「安原さん、データ全部パソに入れて持ち歩いてるの?」
 安原が日常的に持ち歩いてるのはモバイルパソコンだ。データベース化した事件や事故の類は事務所のサーバーに保存してあるはずなのだが、モバイルパソコンにもコピーしてあったのだろうか?
 かなりの容量になるはずだが、稼働に支障は出ないのか。
 そんな麻衣の疑問に安原は苦笑を漏らし、ナルはあきれたようにため息をつく。
「谷山さん、サーバーをクラウド化したでしょ?」
 その一言に麻衣は軽く首を傾げるが、そーいえばとしばらくして思い出す。
 クラウド化する事によって外部でもサーバーにアクセスが楽にできるようちなったため、いつでも好きなときにデータを引っ張り出せるようになったというはなしだったか。
 クラウドの意味が今一つわかってなかったため、説明を聞いても今一つぴんときていなかった。
「あはははは。こーゆーことですか」
「こーゆーことなんですよ。で、それだけではなくてネットで検索してみましたが、やはり事故、事件の類はひっかかりませんでしたし、事故物件も半径50メートル内ではみつかりませんでした」
「事故物件って?」
「死人が出た部屋や土地がある物件の事だよ。自殺、殺人とかで亡くなった人が出た部屋は事故物件として、借り主に報告する義務があるんだよ。確か、病死は基本的には該当しないはずだけど、死後○日とか経過して五体満足とはいえないような場合は事故物件になるんだったかな?」
 安原の報告に今度は滝川が眉をひそめる。
「まぁ、曰くある部屋ツー分けたろ?そーゆーのが事故物件手のは知ってるんだが、なぜわかる?」
「そりゃ、事故物件紹介マップなるものがあるからです。谷山さん近辺のも見れますよ?」
「いい!んなもん知りたくないから!」
 麻衣は頭をブンブンと激しく否定する。
「ってか、んなもんあるのかよ」
 げんなりとした様子で滝川はモニターを見ると、駅からここら近辺の地図がモニターに表示され、所々に赤い罰印がある。
 ここ、五年ほどの情報らしいが、まぁずいぶんとあるものだ。
 今まで意識したことなどなかったが、こうして改めて見ると至る所にあるマークに寒気すら感じるが、考えて見れば住宅街でこの区だけで何万人と住んでいるのだから、常に人は出入りをし死人が出ているものなのだろう。
 地域を限定して絞り表示を100メートル程までに狭めてみると、その数はぐっと減らし50メートルほどのラインにはあてはまるものはなかった。
「安原さん、この近辺の状況は?」
 地図を見る限りでは一軒家とマンションやアパートが並んでいる区域だ。
「大通り沿いには一軒家よりもマンションの方が多く目につきます。後は、個人営業のお店や飲み屋、コンビニがあって、小学校と幼稚園も傍にあったような気がします。僕が遭遇したのはこの大通りから路地に曲がった所で、この辺です。その当たりはほとんど一軒家の並びなんですが、女性らしき人をみかけた場所は、古いアパートの前でした。確か取り壊しの予定があるアパートで、今は誰も住んでいないはずです」
 そのアパートの隣には24時間パーキングがあり、閑静な住宅街に少しだけ空白のスペースが産まれていた。
 ナルはじっとその地図を見ていたが、現状ではこれ以上のことは判らないと答えを出したのだろう。一度事務所に向かい、改めて明日、安原が何を視たのか突き止める為に動くということになったのだが、事務所に戻る前に安原が目撃したポイントにさしかかるとナルは滝川に車を止めさせて外に出る。
 雨はあいかわらずシトシトと霧雨が降り、傘をさしていてもしっとりと濡れてゆく。
 時刻はすでに二時近く人の気配は皆無だ。
 周囲の家の明かりも着いてるところはまれで、ほとんどが寝静まっているのだろう。
 足音をたてないように気をつけても、静まり返った住宅街に足音が響く。
 そう、どんなに気をつけても、音は響く。
 だから、麻衣は反射的に背後を振り返った。


 かつん。


 と、ハイヒールの音が聞こえたから。
 こんな時間に誰がこんな所を歩いているのだろう。
 そう疑問に思って。
 



「な、なる…」




 小声でナルを呼ぶ。
 さぁぁぁぁっと降り続ける雨音にかき消されそうなほど小さな声だったが、その声はナルの耳に届いた。
 届いたというよりも、腕を引っ張られたから気がついたと言うべきか。
 促されるままにナルの視線は麻衣へと降りるが、麻衣はナルではなく別の方向へと向けられていた。
「麻衣?」
 その視線を追ってみれば麻衣はナルではなく電柱を見てる。
 だが、そこに目を引く者は何もない。
 少なくとも、ナルには視えない。
 いや、ナルだけではない。
 安原にも、滝川にも、麻衣の視線の先にはこれといって気を引かれるような物はなにもない。
 だが、麻衣はしばらくじっとそこを見た後、まるで壊れたロボットのような動きで顔を上げて、ナルを見る。
 その顔色が青ざめて見るのは、街灯のせいか、それとも、雨に濡れているせいか。
 麻衣は自分だけが見た物を口にする。
 先まで見ていた方向を指差して。
「コートを来た女の人が塀の中に消えた」
 コートを着た女の人。
 それは安原の言葉と一致する。
 そして、生きてる人間は少なくとも塀の中に消えることは出来ない。
 ナルは視線を麻衣から再び塀へと向ける。
 塀はブロックを二メートルほど積み上げただけのよくあるたいぷのものだ。
 それは、アパートの周囲を囲うように積み上げられており、その敷地内に伸びるがままに放置されている木の枝が、隙間からはみ出していた。
 どのぐらいの間放置されているアパートなのか定かではないが、垣間見える荒れた庭の様子からしてかなり長い間放置していることが伺える。
 視線をさらに上に向ければ、二階部分の廊下が見え、手すりがさび付いて剥げ、所々、崩れているのも暗闇の中電灯に照らされて確認する事が出来た。
 誰か済んでいる気配は無い。
 だが、安原はこの下で目撃し、麻衣はこの中に消えて行くのを見た。
「ナル坊、どうする?」
 侵入しようと思えばできないわけではない。
 少し回れば塀は途切れ、アパートの敷地内へ自由に出入り出来るようになっていた。
 一応、その出入り口にはロープが張り巡らされているが、子供ですらまたげるような物で、抑止効果はない。
「いや、何が有るのか判らない。明日改めて出直する」
 長年人の棲んでいなかったという所はどんな曰くがあるか判らない。
 ナルはそう言った建物には無造作に足を踏みいれる事はしない。
 その事は他の皆も重々承知しているため、ナルの言葉に異論をあげる物はおらず、その場はいったん引き上げることとなり、翌日雨が上がりよく晴れた昼下がり、改めてアパートへと足を運んび、そこで見付けることになった。










 殺害された女性の遺体を。
































「で、どうやって処理したのよ」
 事のあらましを聞いて居た綾子は、麻衣の話に興味津々となって問いかける。
 殺害された遺体の第一容疑者となれば、警察が絡み色々と厄介な話になるはずだ。
 少なくとも、その場にナルが居るのは状況的によろしくはない。
「ぼーさんが、安原さんに梅吉君を預けていたことにして、引き取りに言ったんだけれど、梅吉君が逃げ出しちゃって差がしている時に、偶然ぼーさんが見付けたってことにして、叫び声を聞いたあたし達がかけつけて、警察に連絡したって事にした」
 まさか、女の人の幽霊をみかけたので。なんて言えるはずがない。
 そんな事を言ったら頭のおかしな団体・・・もといい、怪しい宗教団体ではないのか?と疑われかねない。
「後は、広田さんにお願いして、こうイロイロとナルに関しては誤魔化してもらう方向で」
「あの人も厄介な所と関わってしまったってきっと後悔しているでしょうね」
 広田の仏頂面を思い出しているのか、楽しげに笑い越えを漏らす。
「で、犯人は捕まったんだったわよね?」
「ニュースで言ってたけれど、捕まった見たい」
 アパートに遺棄されていた遺体は、死後三日ほど経過していたが、遺体が遺棄されたのはどうやらあの夜の様子だったという。
 麻衣達四人以外の足跡がしっかりと、雨で抜かるんだ大地に残っており、さらにその足跡は重いものを運んでいると形跡があると分析された。
 それから、身元調査が始まり、発見から一週間ほどして犯人は逮捕された。
 被害者の恋人で口論の末あやまって殺害してしまい、遺棄場所を探している時に廃屋と化しているアパートを見付けて、遺体を遺棄したと供述していると報道されていた。
「安原君が見えてしまったっていうのはびっくりだけれど、安原君が気がつかなかったら発見にしばらく時間かかったでしょうね」
「これから寒くなって腐敗するのもおそくなっただろうし、下手したら一ヶ月とか二ヶ月とか・・・取り壊される時に発見とかなったかもね」
「そう考えると、早期に見つかってよかったけれど・・・安原君もびっくりしたでしょうね」
 事務職専門の自分が見ることになるとは思わなかったに違いない。
「それ以降は?」
「まったく今の所は大丈夫みたいだよ。たまたまチャンネルがあちゃっただけだろうってぼーさんとか、真砂子なんかは言ってた」
「まぁ、そういうこともあるわよね。でも、麻衣あんたもよかったわねー」
「何が?」
 いったい何が良かったのだろうか?
 綾子の言いたい事が判らず、首を傾げると綾子はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「これで、安原君が見えちゃったら、あんたの良い所ますますなくなるんじゃない?」
 優秀な事務員で、優秀な少年探偵団で、優秀な霊媒師・・・・になっていたら、第二のジーンとしてナルに扱き使われること間違い無い。
 確かにそうなったら自分の出る幕などなくなりそうだ。
 いや、イレギュラーズだってその立場が危うくなってしまうかもしれない。
 だが、なぜか羨ましいとは思えないシュチュエーションだった。
 なぜならば、できれば避けたい立場だ。
 なぜならば確実に・・・・


「解剖同意書にサイン求められそう・・・・・」


 双子の兄の解剖すら切望していたのだ。
 他人ならまず間違い無く同意を求めるに違いない。
「あたし、ちょっと足りないぐらいでいい気がしてきた」
「そうね・・・アタシもそう思うわ」
 いや、ちょっとどころではないんじゃないか?
 と、どっからか突っ込みが入りそうだが、二人はずずずずと無言でお茶を飲みながら、午後の一時を過ごすのであった。







「そーいえば、兄弟の遺体を解剖したがっていたけれど・・・・・」





 綾子はちらりと向かいに座ってシュークリームを頬張っている麻衣をちらりと見、開かずの間状態と化している所長室へと視線を向け、言葉に出さずに呟く。








「恋人も例外ないのかしら?」




 当然ながらその疑問に答えは返ってこない。






終わり





☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆


ちょっと書き逃げ感満載ですが、これにて終了!
雨の日の足音1を書いたのがいったいいつなのかが、ログに日付がないから判らない(笑)
でも、確実に4〜5年は経っている気がしますが(笑)
ある日、唐突にその後が浮かんだのでその後を書いて見ました!
元々、安原が霊と遭遇!的なワンシーンだけが浮かんだので、続きが書けるとは欠片もおもってなかったんですけどね。
うわー、ひさしぶりにお題をまともに更新したよ・・・・
あははははははははは(笑)
ちょっと、オチがなかなか定まらず着地点が見つからなかったのですが、元々淡々とした話でしたので、ご容赦くださいませv


 夜中に響く足音とか。
 鳴り響く踏切の音とか、あまり好きじゃないので、そう言うのを題材にするのも好きです(笑)
 また、日常的な物を題材に書けたらいいなぁ。
 踏切は「想」で書いちゃったんですけどね(笑)


 また、次が4〜5年後の更新にならないように、もう少し更新率をUPして行けたらいいなぁと
『夢』だけはみております(笑)
 ここまでおつきあいくださいましてありがとうございました!








2012/05/23