誰が為に啼く鐘














 割り振られた部屋に入るのは初めてなのだが、麻衣は思わずあっけにとられてしまう。
 窓がなくてどこか息苦しさを感じるのはしかたないが、それさえ眼をつぶってしまえば高級ホテルのスィートルームのような豪奢な造りの部屋だった。
 扉はほぼ部屋の中央部に作られており、部屋全体が見渡せられる。
 すでに見慣れてしまった暖炉、その上には三本の燭台が乗っている蝋燭たて。四方の壁は美術の教科書で見たことのある絵のタペストーリが飾り、足首まで埋まってしまいそうなほどの毛足の長い絨毯が冷たい床を覆い、部屋の中央部にはアンティークな造りのソファーとテーブル。暖炉と反対側の壁には黒光りする古くて大きなクローゼット。繊細なレリーフがほどかされており、年代を感じるその色合いといいきっと値段を聞いたらとんでもない桁に行くのではないかと思ってしまうようなアンティークなデザイン。
 そして、暖炉と向かい合う形であるのがクィーンサイズか?と思ってしまうほどの大きさを誇る天蓋付きのベッドである。
 なんだか一人で眠るのがもったいないほどの広さだ。
 想像以上のそれらに麻衣はタダ唖然として部屋を見つめていたのだが、そうそうぼやっとしている場合ではない。晩餐の仕度が整う前に麻衣と綾子は軽装から着替えることにしていたのだ。
 ナル達もしぶしぶながら服を着替えることになった。
 着替えなくていいのは神父のジョンぐらいである。といっても自分たちは調査に来たのであって、晩餐の席に着ていけるような服ははっきり言って持ってきていない。
 なにせいざ調査となったらとにかく身動きが気軽に出来るものでなければどんな目にあうか判らないのだ・・・・・ジーンズやパンツといったものにセーターの類しか荷物の中にはない。
 綾子はきっと一着や二着持っているだろうが・・・・・
 そのことを伯爵は想定していたのか、こちらで勝手に用意させて頂いたから、クローゼットの服を好きに使って構わないと言っていた。
 一体どんな服を用意してたのか判らないが、麻衣は部屋のクローゼットをあけてさらに唖然とする。
 色とりどりのドレスがかけられていたのだ。
 おそらく中世の貴婦人達が着ていたであろうデザインから、最新のデザインまで選り取り緑といったところだろうか。眺めているだけでも楽しい。こんな状況でもなければゆっくりと時間をかけてみてみたいし、イロイロと試着してみるのも楽しいだろう。だが、これらを着るとなると別問題だ。
 正直言ってしまえば、めったに着ることの出来ないデザインの服である。一度は着てみたいきもするが、今は調査中でありいつ何があるかわからないというのに、浮かれたようなカッコウでいられるわけもなく、またナルの不興を大いに買うだけである。
 適当に見ていた麻衣は一着を手にとって身体にあわせて見る。
 これなら特にナルも文句を言わないだろう「盛装」から「準正装」といった感じだ。
 麻衣が選んだのはパールピンクのワンピースドレスである。丈は膝上5センチといったところで、特別短くはないのだが、柔らかな生地がゆったりとドレープをつくり、ふわりと膨らんでいるデザインが可愛らしい。ところどころにパールが縫い取られており、アクセントになっている。
 そのワンピースドレスはノースリーブのためコレ一枚では肌寒く感じ、麻衣はクローゼットの中からシルバーのショールを取り出すと、肩に羽織っていくことにした。軽く化粧を直し、靴も現在はいているスニーカーから用意されていた、シルバーのヒールへと履き替え準備完了だ。













 部屋を出ると麻衣は綾子の部屋をノックする。
 すぐに、声が帰ってきたので麻衣はドアをあけて中を見る。
 麻衣の部屋とは位置が逆だったが、全く同じような造りの部屋だった。
 綾子はクローゼットの扉を前回にして、扉に貼り付けられている鏡の前で身支度を入念にチェックをしていた。
「あら、麻衣可愛いじゃない」
「なんかさークローゼット開けてびっくりしちゃった」
「あたしもよ。イロイロと着てみたいところだけど、時間かけるわけにも行かないじゃない。あたし一人でも着れそうなのにしてみたんだけど、どう?」
 綾子が選んだのはシンプルなデザインだが深くスリットの入ったボルドーのイブニングドレスだ。ビロードのような滑らかな生地で作られており、ボディーラインがくっきりと浮き出ている。腰の部分に金の飾りチェーンが施されている以外に、装飾はされていないのだが、だからこそ余計艶かしいものがある。
 綾子のように自分のボディーラインに自信がなければとてもではないが着れない。
「綾子には似合っているよ」
 最後にもう一度鏡で念入りにチェックをするしたあと、二人は部屋を出る。
 暖炉の灯った暖かな室内から離れるとひんやりとした空気に思わず身震いしてしまう。
「まぁね、あたしが自分に似合わないものを選ぶわけないじゃない。
 それよりもそろそろ行ったほうがいいのかしら? 
 このまま直であのダイニングへ行けばいいんでしょ?」
 自信満々に言う綾子に麻衣は思わず苦笑を浮かべてしまう。
 ナルのことを何かとナルシストとか自惚れやとか自信家というが、綾子もそれなりにぷらいどが高く自信家だ。仕事に関しては初めて会ったときのように、裏づけのない事は言わなくなったが、性格そのものが変わるわけではない。
「そー言ってた。ナル達は先に行っているって。
 リンさんもナルも盛装じゃないけれどタイは元々していたし、ジョンは神父服でしょ?着替える必要はないって言ってたからさ」
 綾子は密かにナル達男性人の部屋のクローゼットにはどんな服が用意されていたのか興味があったのだ。機会があったらジョンの部屋のクローゼットでも覗かせてもらおうなどと呑気なことを考えてしまう。
「それにしても、あたし達レディーをエスコートもしないなんて紳士の風上にも置けないわね。
 あたしはともかくナルは麻衣ぐらいエスコートしてあげたっていいのにね。
 本当婚約しても相変わらずよねぇ〜」
 天井が高いせいか綾子の小声であろうともやたらと響く。
 誰に聞かれても日本語だからわからないだろうが、麻衣は思わず辺りを見てしまう。
「今は調査中だから関係ないもん」
「あら、調査の開始は明日からでしょ? なら問題ないと思うんだけど? 
 あの伯爵が日本人であるあんたやあたし達のことをどう思っているかなんて知らないけれど、一応あんた達の婚約祝いをしようと言っているんだから、エスコートぐらいしたほうがさまになるじゃない」
 カツーン、カツーンとハイヒールの音が響き渡る。
 壁に映る影がゆらゆらとうごめき、無数の蝋燭によっていくつもの影が壁に出来上がりまるで目に見えない誰かがいるように思えてしまう。
 妙に不安になってしまう心を押さえ込むように、わざと呆れた口調で綾子に言ってみるが、いくら口調を明るく変えたからと言って暗鬱としたものが消えるわけではなかった。
 それでも暗い口調でいうよりはましだろう・・・・・
「それ、ナルに言ってみたら?」
「・・・・・・・・・言えたらあんたには言ってないわよ」
 ナルの性格を判っていながらいうのだから、こういうとき綾子は性格が悪いと思ってしまう。
「そもそも、婚約したって言ったって何も今までと変わらないよ」
「そりゃーそーでしょうとも。今まで以上にどうやってあんたたちがいちゃこらするっていうのよ」
 あっけらかんとした綾子の口調に麻衣は唇を尖らせる。
 別に自分たちはいちゃいちゃなどしているつもりはない。
 ごく普通にしているというのにそれがいちゃいちゃしているように見えるのだろうか?
 渋谷などで見かけるバカップルなどに比べたら、足元にも及ばないのに。
「あんたねぇ・・・あれはバカップルを超えてただのアホよ。
 見境なくさかって見ぐるしいったらありゃしない。
 それに、あんなことをあんなナルがして御覧なさいよ。
 あたしは怖くてナルが見れなくなるわよ。
 あ〜〜〜想像しただけで寒いわっっっ」
 ひどい言われようだが、確かに麻衣も同じ意見である。
 別に人前でいちゃいちゃしたいわけでもないし、あのナルが例えば頭を打ったりして、何らかの拍子であんな態度に出たりした日には、間違いなく正気を疑ってしまうであろう。
 そればかりかたちの悪い霊にでも取り付かれたのかと思ってしまう。
 それに、別に今のナルに不満を持っているわけではない。
 確かに仕事ばかりしてあまり構ってくれないとか、一緒に出かけてくれないとか細かなことを言ってしまえば切がなくなるのだが、それはどんなカップルにもある些細な不満に過ぎない。
 人によっては些細ではすまないかもしれないが、麻衣からしてみれば今更問題にするようなことではなかった。そもそも、その点に不満があるのならばとっくの昔に分かれているだろう。
 麻衣からしてみれば今のままで充分幸せなのだ。
 これから、死が二人を分かつまでずっと一緒にいられるのだ。
 それも、大切な大好きな人たちに祝福されて。これ以上の望みは麻衣にはなかった。
 それに、ナルはナルだからこそいいのである。
 なんとなくわけのわからない納得をしてしまうが、妙にしっくりと来る理由のような気がして麻衣は一人頷いている。
 そんな麻衣を変なものでも見るかのように綾子は見ていたのだが、意見をひっくり返すかのようにあっけらかんと別のことを言う。
「晩餐と言ってもただの食事でしょ? そう気張ることもないんでしょーけれど」
 といいつつも自分たちの格好はただの晩餐に出向くだけのものとも言えないのだが、日本で考えられる食事会と貴族の食事会では規模も何もかも違うのだろうから、このぐらいはきっと普段着感覚なのだろう。
 麻衣は綾子の意見に頷きつつも、そこに含むものは他にもあるのだろうと思うのだ。
「たぶん、顔合わせになるんじゃないかな・・・・・さっきナルが言っていたけれど、自分たち以外にも伯爵が懇意にしている研究員を招いている話だし」
「ナル以外に研究者を呼んでいるならそいつらに任せればいいのにね、一体何を考えているんだか。
 懇意にしているけれど研究者としては能無しなのかしら? だったら、いくら懇意にしていたからといったって調査に呼ぶとは思えないし、あたしは伯爵にはまださっきの一回しか会っていないけれど、ああいうタイプの人間が能無しを雇うとも思えないのよねぇ」
 それは、綾子のみならず麻衣やジョンも思ったことだ。
 いくらナルがこの道では名が通っているとはいえ、懇意にする研究者がいるのならば、わざわざ毛嫌いしているナルを自分の城にまで呼んで調査以来をしなくてもすむ話だ。また、懇意にしていたとしても研究者としては信用が足りないと言うならば、あえて呼ぶ必要などないはずである。自分たちの監視役としてか?と思ったが、調査に入れば独自に動き出し、彼らが一人一人をマークしきれるとは限らない。
 一体何を考えて自分たちを呼び寄せたのか、その目的がただ城に出る幽霊の調査だけとは思えなかった。
 とはいえ、ここで麻衣と綾子が何かを言い合ったところでその真意が判るわけもなく、二人は奥歯に物が挟まっているかのような気持ち悪さを残したままダイニングへと向かう。













 階段を降りきるとダイニングのドアの前に一人の白人の男が立っていた。
 彼は麻衣たちに気が付くと何も言わずドアを開く。
 二人は小声で「ダンケ・シェーン」と告げたのだが、彼は眉一つ動かさず低姿勢のままだ。
 ナルとは違った感じのその無表情さはまるで、機械仕掛けの特大の人形のようにも見える。
 彼の仕事ゆえ無表情なのか、それとも伯爵の有色人種嫌いの影響なのかは定かではないが、あまり気持ち言い対応とは思えなかった。
「これは、美しい。東洋のお嬢さん方も捨てたものではないな」
 百パーセントお世辞だろう。そう思ってもいないだろうに表面上は褒め称える伯爵に、綾子は優雅な笑みを浮かべて礼を述べ、麻衣ははにかんだ様な表情で礼を述べる。
 その様子にとりあえず伯爵は満足したのか、笑顔を浮かべながら褒め称えているのだが・・・・・やはり、その笑顔は能面のようにしか思えなかった。
 腹に一物どころか二物も三物も抱えているのだろうから、笑顔なんて浮かべなくてもいいのにと思わず思ってしまうが、気を取り直すように周囲を見渡せばすでに席は埋まっており、麻衣と綾子が来るのを待っていたのが判る。
 主席に伯爵が座り、上座二つがあいたままでその隣にナル、一つ席が空きリンにジョンが座っている。
 そして、ナルの向かいには見知らぬ金髪碧眼の青年。その隣にはやはり初めて見る女性と男性が座っていた。
 伯爵の血縁者かな? と推測を立てていると金髪碧眼の青年が麻衣と綾子を交互に見た後ナルへと視線を向ける。
「をいをい、博士何かの冗談でしょ? そのおじょーちゃんが博士の婚約者? てっきりあちらの女性かと思ったよ」
 ナルの隣に腰を下ろした麻衣を見た後、綾子へ視線を固定させながら揶揄るように口を開く。
 麻衣は一体自分がいくつに見られているのか判らないが、実際の年よりもはるかに下に見られていることがその言葉から想像できた。ナルとは一つしか年が離れていないということを言ったほうがいいのかな? と思ったのだがナルは澄ました顔で軽く目を伏せているため、麻衣は合えて何も言わず成り行きを見守る。
「あちらの女性が博士の好みなら、あたしにもまだチャンスはあると思ったんですけれど、ベビーフェイスがお好みならあたしは駄目ね」
 豊満なボディーラインを強調するようなドレスを見に纏った赤毛の女性は、麻衣を見ながらクスクスと笑う。こういった言葉を聞くのは何も今が初めてじゃない。英国滞在中うんざりとするほど聞かされてきた言葉だ。
 自分が童顔に見えるのは仕方ない。
 同じ日本人が見ても麻衣は実年齢より下に見られることが多いのだから、西洋人から見たらなおさらだろう。ただでさえ、日本人は童顔に見られるのだからなお更だ。
 第一麻衣は彼らの顔は始めて見るが、彼らがナルのことを紹介されていないにもかかわらず《オリヴァー・ディビス》と知っているならば、SPR関連者だろう。ならば麻衣のこともすでに知っているはずだ。それなのにあえて今初めて知るといった態度を取るというのは、なにやら含むところがあるのかもしれない。
 麻衣は軽く溜息をつきながらも冷静に状況を判断できるが、綾子など不機嫌もあらわな態度で目の前の二人を凝視している。特にボディーラインがいかにも自慢ですといった様子の女性に対して、敵愾心を燃やしているようだ。姿勢をすっとただし、肩に掛かった自慢の黒髪を何気なくかきあげて、背中に流している。リンは我冠せずといった様子でいつもどおりに無表情、ジョンはどうすればいいのか判らず困ったような表情を浮かべている。そんな彼らを目の前の二人は楽しげに眺めている。
 悪趣味な二人。
 麻衣の第一印象はそれで決まった。
 なんとも言えない空気が漂うがそれを破ったのは、いつ入ってきたのか判らない老執事の登場でだ。
「伯爵様・・・・・」
 身をかがめて伯爵に何か話しかける。伯爵は何度か頷き返すと老執事に何かを囁き、席についている一面をゆっくりと眺めながらもったいぶった口調で告げた。
「私の可愛い娘と、たった一人の甥も体調がよい様でこの席に出れるとのことだ。
 なにぶん二人とも病を患っているので、粗相があるかもしれないが大目に見てやった欲しい」
 その言葉と共に扉が大きく左右に開き、伯爵の娘と甥が薄暗いダイニングルームに姿を現した。
 その瞬間、ナルとリンを覗く皆が思わず息を呑んでしまう。
 一人の女性は、どんな容貌をしているのか判らないぐらいに全身を包帯で包んでいた。
 長い髪はプラチナブロンドというのだろうか。銀色にきらめき背中に垂れている。その顔はどんな容貌をしているのかまったく窺い知れない。目元と口元以外全て白い包帯で隠されているからだ。それだけではない映画などで見る貴族の夫人が着るゆったりとした長袖のドレスから覗く手も指先まで包帯に覆われており、足元はたっぷりとしたスカートで隠されているため見えないが、この様子だと白い包帯で全て隠されているのだろう。
 そして、彼女の手を引く青年、彼も異様としか言えない容貌をしていた。
 彼女のように全身を包帯で包んでいたわけではない。ごく普通のタキシードを身にまとっていたのだが、その姿はこのうす闇の中蝋燭の明かりに照らされくっきりと闇に浮かび上がっていた。白い髪、白い肌、赤い瞳・・・・・・・そう、彼は色素というものをまったく持っていなかったのだ。
「この子が私の可愛い一人娘。ジェニファー・キャロライン・アッシュクラフトだ。娘は大病を患って以来肌を病んでいるため、衛生面を考えてご覧の通り全身を包帯で覆い隠している。醜いかもしれんが素肌をさらす事は勘弁願いたい。
 ジェニファー皆様にご挨拶をなさい」
 伯爵に促されると、ジェニファーは優雅にスカートのすそを持ち軽く腰を曲げて頭を垂れる。さらり・・・・と髪が前に流れたのだが、あらわになったうなじも包帯で隠されていた。
「初めてお目にかかります。ジェニファー・キャロライン・アッシュクラフトと申します。
 大変お見苦しい姿でありますが、どうか寛大なお心でお許しくださいませ。
 当家滞在中よろしくお付き合いしてくださいまし」
 しわがれた声が、僅かに開いた唇から漏れる。
 包帯に覆われ外見が定かではないため、声だけを聞いているとまるで老婆のようにも思えてしまう。やや猫背気味なのがその印象に拍車をかけているのだろうか。彼女はまるで皆に見られることを恥らうように軽く目を伏せて、従兄に当たる青年の陰に隠れるように身をすぐに引いてしまう。
 どこか時代がかかった挨拶に、麻衣や綾子はつられるように席を立って頭を下げる。が、目の前に座る赤毛の女性はあっけに取られたまま彼女を凝視していた。
「甥のブラット・アインリッヒ・シュトラーゼだ。妻の弟が残したただ一人の甥だ。
 私とは血の繋がりはないが、息子のようにも思っている。
 ご覧の通り色素が先天的に欠乏するという病を患っているため、紫外線など大敵だ。瞬く間に火傷を負い皮膚がんになってしまう。だが、それ以外はなんら常人と変わりない。滞在中はイロイロと外の話をしてやって欲しい」
 タキシードを着た青年は優雅なしぐさで一歩足を引くと、軽く腰を曲げる。
 伯爵の娘とは対照的に朗らかな印象を与える。ナルのようにずば抜けて容貌が際立って美しいと言うわけではないのだが、堀の深く整った顔立ちは、見慣れない色素もあってどこか神秘的に見える。
 白人の肌よりもさらに白い肌は向こうまで透けて見えてしまいそうなほど透明感があり、白く細い髪はさらさらと音を立ててゆれ、まるで淡雪が光を弾くように全体的に燐光して見えるのは、その肌の白さが蝋燭の明かりを反射しているからだろうか?漆黒のタキシードとのコントラスに思わず目が惹かれてしまうのだが・・・・・・麻衣は妙に落ち着かずそわそわと居住まいを何度も直してしまう。
「始めまして皆様。遠路はるばる当城にいらしてくださってありがとうございます。
 何かと不便な事もあるかもしれませんが、その時は遠慮なくおっしゃってくださいね。
 色々な国から皆様がいらしてくださったので、イロイロと話を伺えることを楽しみにしています」
 引っ込み思案な伯爵の娘とは違い、青年は物腰の柔らかな雰囲気で、人好きがするような笑顔を浮かべて如才なく自己紹介をし、ゆっくり一人ずつ顔を覚えるように視線を動かす。麻衣を初めとし、女性には目が合うとにっこりと微笑みかけるのだが、麻衣は微笑みかけられずぎこちない笑顔で終わってしまった。
 なんでこんなに気分が落ち着かないのだろうと思い、綾子や目の前に座る女性もそうなのかと視線を転じるが、彼女達はぽぅ〜と見惚れてしまっていた。綾子でさえ僅かに頬を赤らめているのだ。自分とは違った感情を持っているとその表情を見ればすぐに判った。
「二人はご覧の通り表に出ることが出来ないので、他人と接する機会が少ないのだ。もしよければ仕事の合間に相手をしてあげて欲しい」
 二人が伯爵の隣に腰を下ろすと、給仕のものが現れグラスに赤いワインを注いでいく。
「では、順繰りに自己紹介とまいろうか。
 お互いのチームが初顔合わせとなるのであろう?
 私の信用するトエィン・チームと、SPRが誇るディビス・チームどちらが事件を解決してくれるのか、私は非常に楽しみにしているよ」
 ショーではないと言うのにまるで勝負事のように話をしだす伯爵の言葉にナルがかすかに柳眉をしかめるものの、あえて何も言わなかったが、麻衣はこれから先一体どうなるものかと、調査そのものよりも人間関係に頭を悩ませそうだ・・・・・・と、ナルとは別の意味で溜息をついていた。




 
 
 

 


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