誰が為に啼く鐘








 まだ、いくつか令嬢から話が聞きたいことがあったのだが、傍でただ聞いていたキャリーがいい加減飽きてきたのだろう、いい加減に仕事の話はやめてくれとごね始める。
「せっかく、レディー・ジェニファーがお茶に呼んでくれたのに、いつまでも仕事の話なんてしないでよね」
 自分たちはその仕事をするために、日本やイギリスから都合をつけて駆けつけたというのだが・・・・・キャリーはそんなことお構いなしのようだ。
 令嬢もどこか困ったように麻衣達とキャリーを見ている。
 もっとも、その表情は白い包帯に隠れているため判らないのだが。
「ミス・タニヤマはデイビス博士とご婚約されているんですのよね? どちらで出会われましたの?」
 人種や国籍関係なく話題になるのは恋愛話だというのだろうか、令嬢は興味深げに麻衣に話を振る。
 調査に協力をするといっても興味ない話題に飽きては来たのだろうか。
 話題を変えるように話をしてきた。
 本当に調査とは何も関係ない、プライベートな話に麻衣は苦笑を漏らすが別に隠すようなことは何もないので、素直に答える。
 綾子は面白くないのか、一瞬表情をしかめたがすぐに何もなかったような顔で紅茶に手を伸ばした。
「私が高校に入学した春に、高校に調査に来たナ・・・所長と会ったんです」
 ついつい、癖でナルといいかけるのを途中で止めて、所長と言い換える麻衣に、令嬢はクスクスと楽しげに笑みを零す。
「無理をなさる必要はございませんわ。呼びなれた呼称で呼んでくださって構いませんのよ」
 思わず乾き笑いを漏らしてしまっても仕方ないかもしれない。
 綾子は呆れたような視線を向けていたが。
「リンさんや調査に協力してくれる皆ともそのときに初めてあったんです」
「ロマンティックですわね。高校での運命的な出会いをされて、生涯の伴侶になるんですもの」
 そういわれるとものすごくロマンティックのような気もするのだが・・・・・・はたして、ゴールにたどり着くまでの過程がロマンティックといえるかどうかは・・・・甚だ疑問である。
「でも、ご苦労されることもたくさんありましたでしょ?」
「ええ・・・まぁ・・・・」
 曖昧な顔で思わずごまかしてしまう。
 あの、ナルシストな性格といい、天上天下唯我独尊な態度といい、マッドサイエンティストぶりや仕事馬鹿なところには何度泣かされたかことか。
 思わずどっとため息が出てしまう。
「そうですわよね。博士とは身分も住む世界が違いますもの・・・・ご苦労されることのほうが多いですわよね。それでも、生まれた世界に負けず手を取り合っていらっしゃるんですもの、すばらしいですわ。
 ミス・キャリーもミス・マツザキもそう思いません?」
「そうですわね。生まれも育ちも何もかも違いますのに、博士はよく選びきったと思いますわ」
 賛同しているのか、バカにしているのか、微妙に線引きが難しくなりそうなキャリーとは裏腹に、令嬢は「応援しておりますわ」と麻衣に告げるのだが・・・・・麻衣も綾子も思わずきょとんとしてしまう。
 《苦労》と区分した意味合いに大きなずれがあるような気がするのだが・・・・・・・いや、きっと勘違いしているに違いない。相変らず表情は伺えないのだが、きっと『身分を越えたロマンス』というものを想像し、うっとりとしていそうな気がしてならない。
「あのぉ・・・・身分とか住む世界が違うって・・・・・?」
 確かに国籍は違うが、別に今のところそれが問題となったことはないのだが。
 いや、そもそもナルに伯爵令嬢が考えるような身分があるというのだろうか。確
 かに、ナルの父親はケンブリッジ大学の教授をしており、ナル自身も博士号を取って、SPRで働いているため、それなりに金銭的余裕もあるが・・・・確かにどちらかというと、裕福な家庭といえるかもしれないが、だからといって、それらが『身分』と呼べるようなものではないと思うのだ。
 あえて言うのならば、『身分』ではなくて『社会的地位』と表現するような気もするのだが、どうやら、それらをひっくるめて『身分』と称してしまうのだろうか。
「イギリスは階級社会よ。博士のご実家は確かに爵位を持つような家柄ではないけれど、ケンブリッジの教授をなさっているプロフェッサー・デイビスのご子息ですもの、ただの労働階級や中流階級とは違うに決まっているでしょ。
 それに、博士自身優秀な学者なんだから、とうぜん将来を有望されているし、パトロンをやっている企業家や貴族が博士を娘婿にぜひって考えていたのを、ミス・タニヤマあなたが知らないわけないでしょ? 一ヶ月以上イギリスにいたのだから、自分たちを取り巻く世界が違うものだってことは、肌身にしみていると思っていたけど?
 あなたは、確か孤児なんですってね。
 さぞかし、パーティーでは博士も恥ずかしい思いをしたんじゃないかしら? パーティーに身寄りのない娘なんていないですもの。たとえ、両親が他界されてる令嬢が居たとしても、莫大な財産を受け継いでいる方ばかり。貴女のような、後ろ盾も何もない孤児を選ぶとは、博士も酔狂だと思いません? レディー・ジェニファー」
 クスクスと完全にバカにしたような言いように、麻衣は軽く肩をすくめて聞き流してしまう。
 この手の嫌味やらはイギリスに滞在中にうんざりとするほど聞いてきたからだ。
 一々相手にするだけ時間の無駄と思うようになったのだが、綾子はそうも行かなかったのだろう。今にもキャリーに掴みかからんばかりの勢いで立ち上がる。
『ちょ・・・!さっきから黙って聞いていれば何を好き勝手言ってるのよ!
 今時身分や住む世界が違うだなんて、御伽噺でもあるまいし! そもそも、あのナルがそんなくだらないことにこだわると思う!? そんなくだらない事にこだわっている人間は、過去の矜持にしかすがることしか出来ない能無しと相場が決まっているのよ!!
 って、英語で言えたら良かったのに!! あたし、日本に戻ったら英語を猛勉強するわ。絶対に自分が言いたい言葉をダイレクトに言えるようにマスターするわよ! だから麻衣今の訳しなさいよ!! あんたなら、あたしが言いたいことぐらい英語でまくし立てられるでしょ!?』
 誰もがあっけに取られてしまうほどの勢いで綾子はまくし立てたのだが、いかんせんそれほど英語が得意ではなかったため、自分の言いたい事を英語にすることができず、日本語でまくし立てたのだった・・・・もちろん、意味が判るのは麻衣だけで、令嬢は呆気に取られたように呆然と綾子を見つめており、キャリーはニヤニヤと楽しげな笑みを零している。
 英語もしゃべらないくせに・・・とバカにされたように感じたのだろうか、さらに綾子がまくし立てようとするが、さすがに麻衣がSTOPをかける。
『言い合いをしたいならとめないけど、せめて令嬢が居ないところでやってよね。みっともないからさ』
 その言葉に綾子はあんたのためを思って!と言いかけるが、令嬢が重々しいため息をついたために言葉をとぎらせてしまう。もちろん、綾子もこういった態度が外聞のいいものではないということは、重々承知しているが、そんなくだらないことで、自分の意思ではどうしようもないことで麻衣が侮辱されるのが、どうしても我慢できなかったのだが、令嬢の思いにもよらなかった言葉に勢いをそがれてしまう。
「羨ましいですわ・・・・ミス・タニヤマ。
 わたくしも、身分など気にせず恋ができればよかったのにと思いますの・・・・・自分の好きなように、自由な恋が・・・・・」
 あまりにも寂しげな声に、キャリーですら言葉をとぎらせてしまった。
 場の空気が判っていないのか、それとも判っているからこそ、話の矛先をずらすためにそんな事を唐突に話し始めたのか、麻衣にも綾子にも、もちろんキャリーにも判らなかった。
「これからだって、出来ますよ」
 恋なんてやろうと思えばできる問題でもないのだが、最初から諦めてしまっては出来る物も出来なくなってしまう。
「・・・・・わたくし、こんな身体なんですのよ?」
「病気が良くなったらいくらでも・・・・・」
 確かに、重い病を患っている現状では難しいかもしれないが、完治すればいくらでも未来への道は開けると思うのだが・・・・令嬢はそうは思えないようだった。
「無理ですわ。もう、無理なんですの・・・・・お父様も、わたくしのことをここから出してはくださいませんし・・・・もちろん、わたくしの身を案じるからこそ、この城から出すことは出来ないのだと判っておりますの。ですから、我侭は申せませんわ。お父様をもう苦しめたくありませんもの。
 わたくしが我慢すれば、お父様はお幸せになれるんですの。
 ですから、わたくしは死ぬまでこの城から出ることはできませんわ」
 父親のためだけにこの城の中で生き続けるというのだろうか。
 病のためというよりも、父親のためだけにこのような暗い世界で一生を終えると?
「でも、いずれは病気だって良くなるだろうし・・・・そうしたら、素敵な出会いだってあるかもしれないですよ?」
 何も最初から諦める必要はないのだと麻衣は言うのだが、令嬢はゆっくりと首を振って、ひび割れた唇をゆっくりと動かす。
「わたくし、ただ闇雲に恋がしたいのではありませんの。
 ただ、一人の方と恋がしたかったんですわ。
 もう、二度と会うことは出来ませんけれど、わたくしお慕いしている方がおりますの。
 ミス・タニヤマのようにロマンティックな結末を迎えることは出来ませんでしたけれど・・・・・今も変わらずお慕いしておりますわ。でも、わたくしの恋は実らないまま終わってしまったんです・・・・ですから、わたくしはこの城で一生あの方だけを思い続けて生きていくことに決めているんですわ。
 ミス・タニヤマ・・・・貴女は、負けないで下さいね」
 負けるって一体何に負けるというのだろうか・・・・・麻衣には今一つ、二つぐらい令嬢の言っている意味が判らなかったが、両手を痛いぐらいに握り締められて、必死に訴えてくる令嬢を無視することも出来ず「がんばります」とだけ応えたのだった。
 その後も、会話はしばらく続けられたのだが、重苦しい空気が消えることはなく、仕事があるからといって早々に席を離れたのだった。
 廊下に出るなり綾子は気の毒そうな眼差しを閉ざされたドアに向ける。
「彼女、きっと身分違いの恋をして父親に仲でも引き裂かれたんじゃないの?
 あんたと、ナルが自分と同じように身分違いの恋をしていると思ったからこそ、励ますためにお茶に呼んだのかもね」
 綾子はそういうが麻衣にはやっぱりよく判らなかった。
 別に自分達の間ではそんなものが問題になったことがないから、そういわれても実感はわかない。
「綾子、私ちょっと、外の空気吸ってきたいから先にベースに戻ってて」
 階段に差し掛かったところで、先に階段を下りようとする綾子の背中に向けて告げる。
「外の空気って城塔の?」
「うん。城の外に出なければ別に問題ないでしょ?」
 いくらなんでも、塔のてっぺんに野良犬がいるわけがないのだから、襲われると言うことはないだろう。
「だけど、あたしたちが調査に来た目的の中には釣鐘がかってに鳴るってのも入っているんでしょ? 一人で行くのは危険じゃない?」
「でも、特にまだなにも起きてないし、勝手に鐘が鳴るってだけでしょ? 別に嫌な感じとかなかったし少しぐらいなら平気だよ」
 そうは言うが、単独行動はナルが嫌うところだ。だが、令嬢の思いにもよらない話に麻衣自身少々気がめいってきているのだろう。まったく、思い当たる節がないということもないだろうから。
 少しは一人になりたいのかもしれない。
「判ったわ。だけど、すぐに戻ってきなさいよ。ナルには適当に言っておくから」
「うん。十分ぐらいで戻るようにするよ」
 踊り場で麻衣と綾子は正反対のほうに進んでいく。
 自分ひとり分の足音が緩やかに響き渡る。
 幾人物人がこの城内を忙しく動き回っていたとしても、その気配というものは一切感じられないせいか、この城にいるのは自分たった一人のような気がしてしまい、表現できない寂しさが押し寄せてくるような気がする。
 ただ、階段を上っていると先ほどの令嬢との会話がリピートされる。
 ナルと自分に身分という壁があるだなんて思いにもよらなかった。
 確かに考え方の違いや、ものの捕らえ方がかなり違うと思うことはしばしばあったが、それは、生まれや育ちには関係ない。どんな人間と付き合おうともその違いは付いてくるものだ。
 だが、確かにナルと婚約をしイギリスでこの数週間生活を共にしてきたとき、自分たちを取り巻く環境の本当の差に驚いたことも確かだ。ナルは将来有望な若者であり、自分は彼にとってなんの力にもなれないただの、島国の孤児にしか過ぎないというのは嫌というほど思い知らされたが、それが障害になると思ったことはない。
 ナルはそんなものを求めては居ないということが判っているから。
 ナルの両親が、自分のバックグランドを気にするような人たちではないという事を知っているから。
 関係ない第三者が何を言おうとも、所詮は他人のたわごととして聞き流せて来れた。もちろん、最初は一々頭に来ていたが、あまりにも皆が同じような反応ばかりするため、いい加減耐性が付いてしまい、どうでもいいことのように思えてきたからだ。
 そう、それこそ『負け犬の遠吠え』と思ってしまえば、痛くも痒くもなにもない。
 逆に、そんなことしか言えない彼らが哀れにしか思えない。
 そんな、矜持でしか自分達の立場を優位に持って来れない彼らは、どう考えてもナルの事を判っているとは思えなかったからだ。
 そう思えたのは何よりも、自分達の気持ちがはっきりとしており、また近親者とも好意的な関係を築けたからかもしれない。
 本当の娘のように可愛がってくれたナルの両親や、手放しで祝ってくれたナルの直属の上司であるまどかの存在、恩師であるサー・ドリーの祝福があったからこそ、そう思えていただけなのだろうか。
 もしかしたら、これから世界の違いを感じていくのだろうか・・・・・麻衣にはとうてい想像の付かないことだが、改めて人に言われると、小さなしこりのような不安が押し寄せてきそうになる。
 気にする必要などない。
 ナルも、彼の両親も、まどかもサー・ドリーもそう言ってくれるだろう。
 もちろん、リンや安原、真砂子、綾子、滝川、ジョンだって同様の事を言うだろう。
 そうは思っても、現実を目の当たりにした時そう思っていられるだろうか・・・・ナルもそう思ってくれるだろうか。いつか、なにも出来ない自分に、嫌気がささないだろうか。負担に思わないだろうか。わずらわしいと・・・・邪魔だと思うことはないだろうか。
 生活習慣の違い、言語の違い、新しい環境、新しい人間関係・・・・・すべてが、慣れた日本からイギリスに移るのもそう遠い日ではないはずだ。
 パーティーの間に、いつ日本から戻ってくるのかといったような質問が一番多くされていたのを知っている。
 もちろん、ナルが日本に永住するなどとは思ってもいない。
 いずれ、ナルと共にイギリスで生活を始めていくということも承知している。
 だが、それは本当に判っていたことなのだろうか・・・・・・
 今、考えるべきではないことに頭が占領されてしまう。
 どうして、今までちゃんと考えなかったのだろうか・・・・いや、例えどれほど考えたとしてもそんなことで、ナルとの未来をなかったことに出来るわけがない。
 すべてを承知してその手を取ったのだ。
 何もいまさら悩むべきことではない。
 何を・・・他の誰をなくしたとしても、ただ一人だけは失えない・・・失いたくはない。
 ナルを失うことのほうが何よりも恐ろしいのだから、いまさらそんなつまらない事を気に病む必要なんて何もない。
 ただ、自分達の事を何も知らない人間に何を言われても気にならなかったものが、伯爵令嬢に言われた言葉まで軽く聞き流すことが出来なかった。
 身分違いの恋をしてそれを叶えられなかったという令嬢の言葉だろうからか。
 そこに、揶揄や嘲るものを宿していないからだろうか。だから、人事として聞き流せないのだろうか。
 伯爵令嬢が考えているような障害は目の前にはないと判っているのに、本当に何も目の前にないのかと思ってしまう。
 このままでいいのかと・・・・


  本当にこれで、いいの?


 そんな囁きが脳裏に響く。
 
 
 ワタシは良くても、彼に迷惑がかかるかもしれない・・・・
 彼は何も知らないワタシを不満に思うかもしれない・・・・
 だって、何も知らないから。
 生活習慣も、この国では当たり前のことも、何も・・・・知らないから・・・・・・・・・・・・・・・・・













 身体が揺らめきながら麻衣は階段を上っていく。
 やがて階段は終わりを告げ、目の前に重い鉄の扉が行く手をさえぎる。両手を伸ばしてきしむ扉を開けると、強い風が吹きよせてき舞い上がった髪が一瞬視界を隠す。
 すでに夕暮れが間近に迫っていたのだろうか。濃紺と橙のグラデーションが空イッパイに広がっていた。澄み切った空に黒みがかった森。耳に聞こえる音は獣たちの遠吠えの声や、葉を揺らす風の音ぐらいで、聴きなれた都会の雑踏などは耳の片隅にも聞こえない。
 三百六十度そんな光景が広がり、ただ圧倒される。
 たとえ、この城に住む人間がどれだけ変わろうとも、ここから見える景色はずっと変わっていないのだろう。そう思えるほどここから見える光景は、自然美に溢れるものだった。
 過去から延々と受け継がれる大自然を見ながら麻衣は歩みを進めていく。
 

「なにを、馬鹿馬鹿しい事を考えているんだろ」

 
 風になびく髪をかきあげて、視界を邪魔する髪を片手でまとめて雄大な景色に視線を向ける。
 暗くじめじめしたトンネルのような階段を通り抜け、太陽の残滓を浴びた瞬間、ふと目が覚めたかのように思考がクリアーになる。
「身分?そんなもんを求めるような人なら、最初からナルは私なんか選ばないつーの。
 初めて会ったときから孤児だって知ってたんだからさ・・・・それに、そんなもんを重要視するようなたまかっての」
 闇の色が濃くなっていく森を見つめる。
 早く戻らないと皆が心配するとわかっていたのだが、なぜかここから離れたがいと思ってしまうのだ。
 拒絶するわけでもなく、受け入れるわけでもなくただあるだけの森を見ているのは好きだなぁと思ってしまう。むせるほど濃く感じた緑の匂いが、今は心地よく感じてしまう。
 身体の奥底にわだかまる暗鬱とした気持ちが浄化されていくかのようだ。
 風は冷たく吹き抜け、体温を奪っていくというのに、なぜかそれが暖かく感じる。
 あの階段を下りて、またただ暗いだけの室内に戻るのが嫌で、思わず塀に寄りかかるように手を伸ばした瞬間、古くなっていたのだろうか塀の一部が崩れる。
 黒い石の塊が数個落ちて、麻衣の腕が塔の外に突き出る。勢いはまだ死なず麻衣は身体ごと塀にぶつかる。さらに数個の石が崩れ肩から上が飛び出してしまう形になる。今までは見えなかった塔の真下が視界に入り、その高さに一瞬意識がくらむ。
 そればかりではない。妙な浮遊感が身体を襲い、自分の状態がどうなったかも判断できないまま地面が急速に近づく。







「ウソ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」













 頬を切り裂くような冷たい風。
 見る見る間に近づいてくる、固い地面。
 口から漏れる甲高い悲鳴は、本当に自分のものなのだろうか。
 驚愕に見開かれた顔がかすかに見える。





















 あの顔は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



























 身体にかかる重力と風圧に意識が押しつぶされそうになる中、確かに今にもあとを追いかけて塔から飛び降りんばかりに身を乗り出した人がいるのを見た。
 だが、それは誰の姿かを認識する前に、意識は霞んでいき静かに目を閉じる・・・・・・・









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