「今度の番組で取り上げたいんだけれど、真砂子ちゃん見てくれるかな?」
 馴染みとかしているテレビ局からのディレクターの誘いに、真砂子はすぐ応えず問題の写真を見る。
 山々に囲まれ歴史を感じさせる寺が写されている。写真を見た感じでは何も判らない。果たして、この寺のどこにこのディレクターが興味を持ったのか、これだけでは判らない。興味を引きそうな写真は山ほどあるのだ。
「それは、普通の写真。問題はこっちなんだよ」
 そう言って手渡されたもう一枚の写真、そこには色褪せた青銅色の鐘と、二人のアベックが写っている。一見した感じでは記念撮影をしているだけにしか見えない。だが、そこにあるべきでないモノが写っている。
「真砂子ちゃん、どうかな?」
 ディレクターの問いに、真砂子はしばらく考えた後口を開いた。




    燃えつきぬ恋 1




 何もない真っ暗な世界をひたすら走る。
 焦がれて焦がれて、ただ一人の人を追い求めて。
 裏切ったあの人が許せない。
 嘘を付いたあの人を逃さない。
 好きだから憎い。
 憎いけれど愛しい。
 どうして、約束を破ったのですか。
 なぜ、出来ない約束をしたのですか。
 末は、連理の枝とも比翼の鳥とも言われるようになりたいと、願ったのに。
 なぜ、どうして、ひどい。ひどい。ひどい。
 慣れない道程に足を痛めようとも、草履がすり切れ、着物が汚れようとも、彼女は道なき道をひたすら歩き続ける。彼と追い続け。追い求め。
「口惜しや……」
 彼の人の名前を呼び続け鈴のような声といわれていた物が、醜い老婆のように枯れ果てた声が漏れる。
 足がもつれ、冷たい地面に倒れる。血塗れの足、慣れない旅に悲鳴をあげる身体。池に写る顔は、涙を流し続け黒目がちの双眸は紅く染まり、異様な形相と変わり果ててしまっていた。
 美しかった面影はどこにもない。
 醜くやつれ、悔しさと哀しみ歪んだ顔。
「許せぬ……」
 戯言で心を傷つけた男。
 出来ぬことをできると言った、見栄の塊のような男。
 見知らぬ者達と共になって、我を嘲り蔑視したあの男許せぬ。
 我が心を踏み捻るばかりか、あざけり貶めた男…許せぬ。
 せめて、真実が在れば。
 優しさが在れば、
 ここまで心は乱れなかっただろうに。
 浅ましいばかりの醜い姿を、観衆にさらすことなどなかっただろうに。
「憎しやっっっ」
 許せぬ、何が在ろうと許せぬ。


 それでも、つきぬ愛しいと思う心
 どうすれば、この心が届くというのだろうか
 目に見えぬ想いが通じるというのだろうか



 伝えたい
 この想い、この身全てをかけて、どれほどまでに愛しているかを―――――


 それ故、憎しみに狂いかけているかを


「憎しや……愛しや――」











 麻衣はその日、オフィスで黙々と資料整理をしていた。イギリスから送られてきた資料や、書籍のたぐいを分類し、ラベルを貼り、ノートに記し、棚へとしまい込む。単純作業とはいえ数が在れば、なかなか終わらない作業だ。
 ナルとリンはそれぞれの部屋に籠もって仕事をしているし、安原と二人で言いつけられた仕事を順繰りに片づけていく。
 と、ふいに麻衣が顔を上げて首を傾げる。
 何か気になることがあるのか、首の後ろをさすったあと、身震いをする。
「寒いですか?」
 今は既に11月の晩秋というべきか初冬と言うべきか、もうじき今年最後の月も間近に迫った日であった。既に室内には適温を維持している暖房がいれられているため、寒いほど室温が冷えているわけではない。
「なんだか、今すっごい鳥肌立っちゃって」
 といって麻衣は袖をめくると白い滑らかな肌を安原の前に晒して、腕を見せる。たしかに、鳥肌がたっている。それも、総毛立ちと言っていいようなレベルだ。
「風邪ですか?」
「そんな感じじゃなくて……」
 何て言っていいのか判らないのか、麻衣は言葉を曖昧に濁す。
「何て言えばいいのかな…まるで調査中、やっかいな霊が現れたときのような、寒気というか…風邪引いたときの悪寒とはまたちょっと違っていて…何だか、嫌な予感というか」
 調査中なら充分にあり得ることなのだが、今はオフィスでのディスクワーク中であり、ここにはリンと滝川の手により厳重なほど結界が張られていて、ちょっとやそっとでは霊達が潜り込めないようになっているのだ。麻衣の言うような悪寒がこの室内にいて在るはずがない。
「どうしたんですかね?」
 安原も判らず首を傾げる。
 麻衣自身もワケが分からず戸惑っているような表情だ。
「ただの風邪かもしれないですけ……」
 考えすぎかもしれないと苦笑を浮かべて言いかけた麻衣だが、最後まで言い切らないうちに途切れる。その時、ドアの前で何かが弾けるような音が響き渡ったからだ。そのさい、オフィスが激しく揺れる。二人とも知っている現象だ。何かが結界に触れたのだ。
「な、何!?」
 実際に今まで室内が激しく揺れるほど、結界が反応したことはない。
 今までなかったことに、安原と麻衣は瞬時に緊張する。
 この場合何かと言えばたった一つしかない。
 それに、弾けた音にかき消されかけてハッキリと聞こえなかったが、小さな悲鳴が聞こえてきた。その声はよく知っている声だった。二人が驚いて席を立つのと同時にリンが資料室から姿を見せ、ナルも厳しい顔立ちで所長室から出てくる。
「リン」
「何か、判りませんが結界に触れました。
 谷山さん、安原さん。危険ですから奥へ」
 リンはいつでも攻撃態勢を取れるように身構える。
 結界があれほど激しく反応したのだ。その辺の浮遊している霊のはずがない。よほどの力を持っている物のはずだ。
 安原と麻衣はリンの指示どおりオフィスの奥へと移動する。
 ピンと張りつめた緊張感が漂う中、リンが指笛を吹く。ひゅるり…と高い音が漏れると目に見えない何かが動く。ほんの数秒と経たないうちに、リンの顔に僅かに驚きの表情が浮かび、何の躊躇することもなくいきなりドアを開ける。
 慎重な彼にはふさわしくない程だ。
 磨りガラスのドアが開くと同時に、小柄な身体が倒れ込んでくる。それを知っていたかのようにリンは両手でその身体を支える。
「原さん!?」
 リンの腕の中で顔色悪く支えられているのは、なじみ深い真砂子だった。肩口で切りそろえられている髪が顔に掛かり、その表情を隠しているが具合が悪そうなのは一目瞭然であり、自分の力で立っていられないようだ。
「何か、憑いています」
 彼女を支えながらリンは上司であるナルを見る。
 リンでは判別できないが何か、異なる存在が真砂子にまとわりついていることだけは判った。
「麻衣、何か判るか?」
 ナルが背後にいる麻衣を見て、顔をしかめる。
 麻衣もまた顔色が悪く、小刻みに身体が震えているからだ。
「麻衣、どうした?」
 その肩に片手を置くと、麻衣の身体が一瞬びくりと震えるが、ゆっくりとナルを見上げもう一度真砂子を見るがすぐにその視線を真砂子から逸らしてしまう。
「わかんない…でも、何かすごく嫌な感じがする……」
 歯の根が合わないほど震えながら、掠れた声で麻衣は応える。
 明らかに麻衣は真砂子を恐れている。
 ナルの腕をぎゅっと掴んで、真砂子から目をそらしてしまった。
「判らないけれど…怖い……すごく怖い」
 正視できないほど怯える麻衣を落ち着かせるように、ナルはその背中を軽く叩くと、心配そうな視線を真砂子に向ける安原に声をかける。
「安原さん、今すぐにぼーさんと松崎さん、ジョンに連絡を入れて下さい。
 リン、原さんの様子はどうだ?」
「精神的にも肉体的にも衰弱しています。おそらく、ここまでご自身の力で抑えていたのでしょうが、結界に弾かれたことによってかなりダメージを受けているかと思います。
 奥で休ませた方がいいでしょう。谷山さん、何か温かい飲み物を淹れられますか?」
 リンは麻衣よりさらに小柄な真砂子の身体を難なく抱き上げると、震え続けている麻衣に問いかける。麻衣はまだ真砂子を見ることは出来ないようだが、コクリ…と頷き返すと、足早に給湯室に駆け込む。
 狭い給湯室という場所に来て麻衣は漸く、息が出来た心境だった。
 真砂子に何が起きているのか麻衣には判らない。
 ただ、すごく嫌な空気が真砂子を取り巻いているように思えた。その空気はそのまま、真砂子を呑み込んでしまうのではないかと思うほど、密度が濃くまとわりついている。
 思考の世界に入り動きを止めてしまった麻衣は、温かい飲み物を何にするか少し迷ったあげく、ホットココアを入れることにした。疲労が濃いのなら甘い物が良いだろうと思っての選択だ。
 お湯を沸かそうとケトルに手を伸ばし水を淹れるべく蛇口をひねったが、水がすぐに出てこない。
「断水?」
 そんな知らせは水道局からも、ビルの管理人からも届いていないから、あり得ないはずなのだが水が出てこないのは事実である。なかなか出てこない水にさらに蛇口をひねった麻衣だが、次の瞬間甲高い悲鳴が漏れていた。
「麻衣!?」
 空気を切り裂くような悲鳴を聞きつけて、ナルが給湯室へと駆け込んでくる。
 ケトルを床の上に落として、ジリジリと後退する麻衣は震える腕を伸ばして蛇口を指し示す。ナルはそれを追うように蛇口へと視線を向け、微かに目を見開く。
「蛇?」
 水が出るはずの蛇口からは、細い緑色の蛇が這い出ていた。ちろちろと先が二股に別れている舌を出しながら、ゆっくりと蛇口から出てくる。それは、ずるり…と蛇口から這い出ると、ゆらゆらと壁を伝って進んでくる。
 どこへ向かっているのか一見分からないが、やがて麻衣に向かって進んできていることに気が付くと、ナルは麻衣を背後に庇いリンを呼ぶ。
 普通の蛇ではない。
 瞬時に浮かんだナルの答えだ。
 ナルの鋭い声に呼ばれたリンは給湯室へとかけより、その蛇を見るなり九字を切る。鋭い声とともに切られた力に、蛇はすぐに塵と化す。
 ザラッと音を立てて形を無くした蛇は、すぐにその姿を塵と化して消した。
「今の蛇はどこから?」
 結界に触れた感触はリンにはなかった。ただの蛇なら簡単に侵入できるだろうが、あれはただの蛇ではなかった。蠱毒と言う物でもない。意志を感じさせないから曖昧な物だが、明らかに霊的な物だ。いくら、真砂子に付いたモノの接触により結界が軋んだとはいえ、結界が死んだワケではない。反応が無いのはおかしすぎる。
「蛇口から這い出てきた」
 その蛇口からは今は勢いよく水が流れている。
 リンはその蛇口をひねり閉ざす。
「盲点でした…水と霊は繋がりが深いですから、おそらく水道の流れに沿って侵入してきたのかと思います。それに蛇口は蛇の口とも書きますから、この蛇にとっては出入り口になったのかもしれません」
 結界は生きている。それは、外部からの侵入を防ぐ物だ。だがもしも、中にいる物が招けばその存在は結界に引っかかることなく簡単に通り抜けられる。
 麻衣は水を必要とし、自らの意志で蛇口をひねるということによって水を招いた。その水に溶け込んで霊が侵入を果たした可能性もなくはない。まして、その入口となった者は蛇口…すなわち蛇の口と書くのだ。名は本質を示す物だ。霊的な意味合いを強く持った蛇にとっては、まさにここは出口となったのだろう。
 さらに、水と蛇は繋がり深いと思われる。
 何ら確証は無いのだが、その傾向は特に東洋で強く、土俗信仰としても深く定着している。実際に水神として祀るものは蛇の化身が多く、竜神もまた蛇の一種として考えられている。その点を考えれば、蛇が水と同化して結界内に侵入を果たしたと考えてもおかしくないことだった。
「原さんに憑いていると思われるものと関係があると思うか?」
「どうでしょうか。私には何が原さんに憑いているのか判りませんが、少なくともこの短時間での接触ですから、無関係とは思えませんが、先ほどの結界の軋みによって触発されたという可能性もあります」
 リンはかならずしも、真砂子に関係あるとは言い切ってはいないが、無関係の霊がいくら触発されたとはいえこうもタイミング良く現れるとも思えない。もしも、無関係だとしたら、真砂子に憑いている存在が呼んだという可能性もあるのだ。
「結界を強化しておいた方がいいだろう。
 安原さん、連絡は取れましたか?」
 ちょうど受話器を元の位置に戻した安原に視線を向ける。
「皆さん、すぐに駆けつけてくれるそうです」
 ナルは頷くと再び視線を麻衣に戻す。
 先ほどまで少し動揺していた麻衣だが、暖かいココアを飲んで気が落ち着いたのか、震えは既に止まっており、顔色も良くなっている。
 今まで黙って彼らのやりとりを聞いていた麻衣だが、ナルが自分を見たことによりどういう行動を求められているかすぐに判る。
 まだ、温もりを宿しているカップをぎゅっと握りしめると、深く深呼吸をしナルを見上げる。
「出来るか?」
 何をとは言わない。
 霊を視ることはもっぱら真砂子の仕事であるが、その真砂子は出来る状態ではない。その、真砂子を除いて霊を視ることが出来るのは、麻衣だけである。
「――頑張ってみる」
 ハッキリ言えば怖い。漠然とした物だが怖いと言う感情が奥底から沸き起こってくる。それでも、麻衣はキッパリとやると続けた。
 いつも助けてくれる大事な大事な仲間。
 彼女が何かに苦しめられているなら助けて上げたい。
「無理はしないで下さい」
「頑張って下さいね」
 先ほど麻衣が異常なほど怯えていたのを見ていた、リンと安原は励ますように麻衣に言葉をかける。麻衣はその励ましにいつもどおりの笑顔を浮かべた。
 そして、ソファーに腰掛け直すとゆっくりと深呼吸をして、トランス状態へと意識を導く。ゆっくりと…ゆっくりと…呼吸を繰り返す。
 呼吸に合わせて身体から力を抜いていく。
 意識が暗い闇の中に沈んでいく…引きずられるような感覚がし、ふいに身体が軽くなる。全てを覆うような闇が晴れて、明るい場所へと出る。
 辺りをキョロキョロと見渡すと、山に囲まれた所だということに気が付く。民から敷物はどこにも見あたらず、紅葉も鮮やかな木々が色とりどりに山を飾っていた。視線をさらに辺りに向けると、上方にどっしりとした構えの門が見える。石畳が遥か下方から続き古びた黒光りする木の門は、古い歴史を感じさせた。
 大きな木の看板には「○○寺」と書かれている。雨風に晒され続けているせいか、寺の名前は字が掠れていて読めなかった。
 門の中に入ってみるとそこには、三台ほどのバンが止まっている。正門は石畳を上ってこなければならないが、どうやら、車が通れる道もあるらしい。キョロキョロと辺りを見渡していると、カメラやらライトやら集音マイクなどを持った人達が、バンと寺の奥とを行ったり来たりしている。
 撮影現場だ。
 彼らを見てそれだけは判った。何を撮影しているのか確かめるべく麻衣は、そっちへと足を向ける。
 寺の奥に行くと、鐘がありそれを囲むようにしてスタッフがいる。その中央部…最も鐘に近いところに真砂子が立っていた。
 本来ならば、それは釣り鐘なのだろう。よくお寺などに置いてあるような、特別何の代わり映えもしない普通の青銅色の鐘なのだが、それは不思議なことに石畳の上に置かれていた。あれでは、鐘を突いても音を響かせることが出来ないのではないだろうか?
 辺りを見るとほとんど訪れる者もいないのか、酷く寂れた雰囲気の場所だ。
 真砂子がテレビスタッフと一緒にロケに来ているということは、この照れ…というよりあの鐘は何か曰く付きなのかもしれない。
 じっと、その様子を見ていた麻衣だが、ふと目を細める。
 鐘がなにか揺らいだようなきがしたのだ。
 何か靄のような物が立ち上っているような気がする。ゆらゆらと陽炎のように揺らいでいる白い影。それは、細長く鐘にとぐろを巻くように巻き付いているようにも見える。
 それに、気を引かれてしまっていたせいかふと気が付くと、スタッフ達がざわついていた。何かあったのだろうか? 真砂子がその場に座り込んで、スタッフの一人に手当されている。よく見ると、足首に何かに咬まれたような痕がある。ぽつぽつと二つの穴が開き、そこから赤い血が滲み出ていた。
 何に咬まれたのか見定めようと辺りに視線を向けると、細長い蛇が鐘の影に消えていくのが視界に入った。緑色の細い身体をうねらせながら消えていく。そして、それは、鐘に吸い込まれるように消えていった。

 鐘…嫌な鐘。
 とぐろを巻いているように見える白い靄は、もしかしたら蛇なのかもしれない。
 その、靄はその場に座り込んでいる真砂子の身体にも巻き付くように近づく。
 
 逃げて…真砂子、逃げて。

 叫ぶが当然その声が真砂子に届くわけがない。
 麻衣は手を伸ばしかけるが、身体が急激に引き戻されるような感じがした。
 彼女達が段々遠のき、再び視界が闇に覆われるとき、微かに聞こえる声。
 シューシューと小さな穴から空気が漏れるような音と共に、嗄れた声が微かに聞こえてきた。

 ――許さぬ けして、許さぬ
 
 ゾクリと身体が震えるほどの冷たい声。

 ――幾年月が経とうとも、この恨み晴らされぬ



 恨みの籠もった声音に、今まで聞いたこともないほどの深い恨みの声に麻衣は、この場から速く逃げたいと思うようになった。




 麻衣は重い瞼を上げる。
 いつの間にかソファーの上に横になっていた。冷えないようにとの気遣いか身体にはブランケットが掛けられている。
 ゆっくりと鈍く重く感じる頭を上げると、室内には既に滝川と綾子が来て、ナル達と何か相談し合っている。そこには、幾分顔色の良くなった真砂子もいた。
「おっ、麻衣、目が覚めたか」
 滝川が麻衣が身体を起こしたことに気が付き麻衣に声をかける。
「真砂子、大丈夫なの?」
「ええ。もう大丈夫ですわ。
 結界に弾かれるまではそんなに辛くはありませんでしたの。つい、結界のことを失念してしまったのが、いけなかったのですわ」
 麻衣が眠っている間に、真砂子は自分には女の霊が憑いていると語った。だが、どんな霊で何をしたいのかが判らないという。自分に憑いてしまっているせいか、ハッキリと視えないという話だ。
 ただ、撮影に行ったときに疲れたことだけは判った。自分でどうにかしようとしたのだが、霊視能力以外強い力を持たない真砂子では、自分の身体に憑いてしまった霊を落とせないという。出来ることは、表面に出さない紆余うに自分の内に押さえ込むことぐらいらしいことを、説明していたのだ。
「麻衣も見て下さいませ」
 そう言って、真砂子は着物の裾を持ち上げる。
「真砂子!!」
 白い滑らかな肌には、魚の鱗のような物が浮かび上がっていた。その鱗の下には赤い丸い痣がポツリとある。麻衣には見覚えのある痣…いや傷跡だ。夢の中で真砂子が蛇に咬まれた場所と同じだ。
「蛇に、咬まれたから?」
 麻衣が聞くと真砂子はコクリと頷く。
「夢で見たんですのね?
 麻衣の言うとおり蛇に咬まれてから、浮かび上がった痣ですわ。初めは傷跡だと思ったんですけれど、赤い痣になってしまいましたの。それから、少しずつ鱗のような模様が出てきました。
 あたくしでは何もできないので、こちらにご相談しようと思って今日は寄らせていただきましたの」
 事前に連絡を入れるべきだったと、騒がせてしまった謝罪を真砂子は口にしたが、ナルは特に何も言わなかった。無事ならそれでいいと言うことか、もしくは既にこの件のことに思考を巡らせており、真砂子の謝罪を聞いていなかったのどちらかだろう。でなければ、嫌みの一つや二つ言っていたに違いないのだから。
 そのナルは真砂子の話の調書をとり終えると、次に麻衣に夢で見た内容を話すよう促した。
 麻衣は夢で見た内容を語り出す。それは、真砂子の話とほとんど変わりがなかったが、真砂子は蛇が鐘の中に消えたことまでは知らなかった。
「鐘の中に消えた所までなの。私が視たのは。
 最後に、女の人の声が聞こえた。
 すごく恨みの籠もった声で、許さないって言っていたの」
 
 ジョンが来しだい、真砂子に取り憑いた霊の除霊を行うことになった。
 全てはその後である。










☆☆☆ 天華の戯言 ☆☆☆
 ぼちぼちと、連載開始。
 今回蛇さん蛇口を伝わってのご登場。はじめ、蛇さん出したとき結界どうした?と思ったけれど、漢字変換を見た瞬間のこじつけにより、無事解決(笑)
 漢字変換見るまで、結界をどう切り抜けたか考えていませんでした。はじめは最初の接触で結界が死んだことにしようかなぁ・・・と思ったけれど、ちょうどいいや。と思って。
 一ヶ月ぐらいかけて、完結する予定。
 たぶん、途中で日記の方とか載せたりするので、一ヶ月強ってとこになるかなぁ・・・
 のんびりとおつきあいしてくださいませv




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