タイムリミットのある恋人達

第四話

 その日渋谷のハチ公壁画前で晃司と待ち合わせをしていた美也子は、最初に映画を見て食事へと映っていた。
 仲の良い恋人達。
 誰が見てもこの後に、彼らに永遠の別れがいるとは思えないだろう。
 そう見えるほど幸せそうな恋人達だ。
 時間を気にしなくても言いように、この日二人は時計という物をしていない。許される限り共にいたいから。
 だが、ふとしたとき二人の目に悲しげな物が浮かぶ。
 それを振り切るように、美也子は明るく振る舞う。
 記憶に残る顔が、泣き顔なんて悲しい。
 いつも、思い出してくれるときは笑顔で、笑顔を浮かべた自分を思いだして欲しいから、美也子は心の底から微笑む。
 麻衣が浮かべるような無邪気な微笑みではない。
 何も望むことがない故に浮かべることが出来る、無心な笑顔。
 聖母のような柔らかな微笑み。
 それは、かえって彼女の儚さを心強く印象つけた。
 抱きしめたい。
 晃司は彼女の微笑みを見るたびに衝動が沸き上がる。
 自分はここにいると囁いて、彼女の身体が折れてしまいそうなほど強く抱きしめてあげたい。
 そんな寂しげな、悲しげな微笑は浮かべなくていいと囁いて、甘い言葉を囁きたい。
 だけれど、それはできないこと。
 彼女は美也子であって美也子ではないのだ。
 美也子の顔で拒絶されるのは、辛い。
 彼女が拒絶したのではないと判っていても、突き放されるのは辛い。
 ならば、一定以上触れなければ彼女は美也子でいてくれる。
 限りある時間。永遠に続くことのない終わりがあるときだからこそ、一秒でも長く傍にいて欲しい。
 晃司は祈るような思いでいたが、無情にも時は迫る。
 終わりの時間がすぐ傍まで来ていた。
 美也子の様子が明らかにおかしい。
 血の気の無くなっている顔。額には透明な汗の粒が浮き上がり、目もどこか虚ろだ。具合が悪いのが一目で分かる。
 晃司は美也子をどこかで休めようとしていたが、何気なく歩いていた二人はいつの間にか美也子の家の近くまで来ていた。この辺には休めるような場所はないため、近くの公園のベンチに座らせる。
 空は目が痛いほどのオレンジに染まり、東の方は徐々にその色を暗い物へと変えていった。
 晃司が自動販売機で買ってきた清涼飲料水を受け取った美也子は、プルトップを開けて一口飲むと顔を上げて、晃司を見上げる。
 お別れの時が来たのだ。
 これ以上、この身体に留まることは出来ない。
 ひどく、衰弱しているのが判る。
 そして、身体が自己防衛のために美也子を弾き出そうとしているのを、麻衣の意識が無理に押さえ込んでいるのも、また負担をかけていた。
 これ以上、迷惑はかけれない。
 決意を決めた美也子は、ゆっくりと唇を動かした。
「晃司さん、幸せになってね」
 笑顔を浮かべて、告げられた言葉。
 あまりにも悲しい言葉。
「私のことは早く思い出に変えてね……」
 けして晃司を見ることなく、明るい口調で言う美也子に、晃司はかけるべき言葉を見つけられないでいた。
 とうとう来てしまったのだ。別れの時間が。
「美也子―――逝かないでくれ」
 何て蠱惑的な言葉なんだろう。
 できることなら、こうしていつまでも晃司の傍にいたい。
 時には喧嘩をして、仲直りをして、いつまでもいつまでも一緒にいたい。
 やりたいことはいっぱいある。
 夢もあった。
 叶うなら、このまま生き続けたい。
 だけれど、それはできない夢。
 叶うことのない儚い淡雪のような物。
 今の自分は、雪のように消えていくだけの存在。
 出来れば傷つけたくはなかった。
 あのまま、彼の前に姿を現さず、消えていった方が彼のためだと判っていたけれど、出来なかった。
 せめて、自分の口で別れを告げたかった。
 我が儘・・・ただの、自己満足のために彼を苦しめ傷つけてしまうと判っていても、この機会を逃すことは出来なかった。
 伝えたかったから。彼と出会えて幸せだったことを。
 忘れて欲しくなかった「私」という人間がいたことを。
 記憶の海の中に埋没して欲しくなかったから、例え過去の人間とされても良いけれど、忘れて欲しくなかったから・・・

「晃司さん……ありがとう。私は晃司さんと出会えて幸せだったの」
 柔らかな声音で、別れを告げる言葉を晃司は否定する。

「言うな! そんなこと言うな!!
 君はこうして僕の傍にいるじゃないか!!どうしてもう会えないんだ!?今のままじゃ駄目なのか!?」
 晃司の慟哭が、静かな公園に響き渡る。
 涙が溢れ彼の頬をぬらしていく。
「ごめん…なさい―――傷、つけて………ごめんなさい―――」
 やはり現れてはいけなかったのだ。
 どんなに辛くても、こうして彼の前に姿を現すことで、叶うことのない夢を見せ、それを無惨にも引き裂くだけなら、あのまま消えてしまった方がよかったのだ……
 美也子が俯きながら言葉を囁くが、その時の晃司の耳にその囁きは入っては来なかった。
 彼は息を呑み食い入るように、美也子の首筋を見ている。
 今まで美也子の髪の影になって気が付いていなかったが、その白い肌には赤い跡が色濃く付いていた。それが虫さされなどではなく、もっと別の…人為的につけられたものだと言うことに、晃司は気が付く。
 かぁぁぁぁっっと頭に血が上っていくのを感じた。そして、次の瞬間晃司は行動に移していた。
「美也子、これは何だ」
 美也子は晃司の言葉の意味が分からない。
 彼女は当然麻衣が表にでている間のことは何も知らない。故に、晃司が首筋に触れて指し示していることが判らない。
「なんで、こんな痕を付けているんだ!」
 晃司の頭は混乱していた。
 どこかでは、これは美也子の身体ではないのだから…と言っている。だが、今目の前にいる女性は美也子であり、美也子がその痕を付けているようにしか晃司には見えないのだ。
 理不尽な怒りが沸き上がる。
 自分は触れることが出来ないのに、誰かが彼女に触れた。
 そして、刻印を残したのだ。
 まるで、彼女は自分のものだと言わんばかりに、色濃くハッキリと白い柔肌に刻み込まれている証。
 美也子は関係がない……そう思っても、納得しきれない自分がいる。
 違うと判っていても、違わないと感情が叫ぶ。
 何が違う問いのだ。
 目の前にいるのは美也子であり、彼女以外の何者でもない。

「こう―――じ、さん?」
 いつも自分を見る晃司が別人のように見え、美也子は怯えを隠せなかった。
 彼の傍にいるのは危険――
 そう思ったのは美也子か、それとも麻衣の鋭い第六感か…
 答えは判らないが、反射的に彼から離れようとした。
「どこ行くんだ」
 晃司はそう呟くと自分から、離れようとする美也子の腕を取って抱き寄せる。
「離さない、離さない!
 離すもんか!!美也子は僕のものだ。絶対に離さない!誰にも渡さない!!」
「いやっ」
 美也子は身を捩って晃司から逃れようとするが、抱き寄せた晃司は自分の腕の中に美也子を閉じこめると、その首筋に顔をうずくめた。そして、その存在を主張するような赤い刻印に唇を押し当て、上から強く吸い上げる。
「晃司さん!!やめて!!」
 美也子は叫ぶ。
 自分としては嬉しいが、麻衣が悲鳴を上げている。
 今まで自分のうちで眠っていた麻衣が、この事態に目を覚ましてパニックを起こしている。
「どうして……?どうして、そんなことを言うんだ?美也子――」
 悲しそうな声で囁かれ美也子はそれ以上の抵抗が出来なくなる。
 美也子から見れば望んでいたこと。
 強く拒めるわけがなかった。
 ――麻衣ちゃん……ごめんなさい…………
 泣き叫ぶ麻衣に美也子は囁く。
 抵抗の力のなくなった身体を、晃司はゆっくりとベンチに押し倒す。そして、彼女に口づけをしようとすると、美也子の意志に反して涙があふれ出し、彼女の震える唇がゆっくりとたった一言呟かれる。
―――「ナル」と。
 知らない名前。
 知らない男の名前が、美也子の唇から、美也子の声で流れる。
 美也子の姿が揺らぎ始めたことに、晃司は気が付かない。気が付かないまま組伏した彼女を見て叫ぶ。
「どうして!!どうしてだ!!!」
 麻衣が囁いたことだが、美也子に見える晃司には判らない。
「離さない―――僕は、絶対に離したりしない!!」
 美也子の服に手をかけていた晃司は力を入れて引き裂く。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ」
 麻衣がその瞬間叫ぶ。
 すでに美也子は麻衣から弾き出され、麻衣が表面にでていたのだが、晃司には変わらず麻衣が美也子に見える。
 弾け飛んだブラウスから見えたのは、白い肌に散る無数の赤い花びら。
 それが、晃司の理性を奪う。
 優しかった男はなりを潜め、そこにはただ嫉妬に猛り狂う男しかいなかった。
 自分が触れていない彼女の肌を、見知らぬ男が触れたかと思うと頭が狂いそうだった。
 暴れもがく少女の身体を男の力でねじ伏せ、柔らかな膨らみへと手を伸ばそうとした瞬間、砂利を踏みつける音が聞こえてきた。

「そこまでにしていただきましょうか?」
 低い抑揚の押さえたテノールの声に、晃司はハッとして顔を上げると、そこには黒衣を纏った白皙の美青年が、静かな怒りをその顔に浮かべて自分を見下ろしていた。青年の視線の先を追い腕の中の少女を見下ろす。
 その瞬間晃司は息を呑む。
 先ほどまで確かに美也子だったというのに、美也子は既に腕の中にはいなかった。

 腕の中の少女は恐怖に顔を引きつらせ、鳶色の双眸に涙を浮かべ、透明な雫が頬を濡らしている。
 その表情は、自分を見る彼女の顔ではなく、少女本来の眼差しが自分を見ていた。
 先ほどまで見せていた柔らかな微笑み。愛しさに満ちた眼差しは消え、恐怖に怯え知らない男を見るかのような眼差し。
 晃司は少女から目を反らす。
 ブラウスははだけていた、いや、破れていた―――無理矢理破いたのだ。
 そこから覗く白い肌には無数の赤い痕があった。
 誰かが付けた所有痕。
 おそらく―――目の前に立つ黒衣の青年が付けたものと思われる物。それを偶然見たとき、頭の中で何かが弾け、気が付いたら手を伸ばしていた。
 嫌がる少女を無理矢理組み伏せ―――自分以外の男が付けた所有痕を消そうとした。
 違うのに…少女は自分のものではないのに。
 いつの間にか勘違いをしていた。
 永遠に失ってしまった彼女と、少女を混同してしまった――――
「ごめん―――」
 晃司は小さな声で呟くと彼女を拘束していた手を離す。
 少女は起きあがると、黒衣の青年の後ろに隠れる。
 それを見るのは正直言ってつらい。
 別人だと判っているのに、まるで彼女に拒絶されたような気がして。
 黒衣の青年は自分の上着を脱ぐと、少女の肩に掛ける。少女はホッとしたような表情で上着の前を合わせると、彼の服の裾をそっと握りしめていた。
 ああ―――もう、本当に終わりの時が来たんだ。
 晃司は漠然とそう思った。
 本当の別れが―――
「彼女はもういない」
 ナルの氷を思わせるような硬質めいた声が彼に追い打ちをかける。
「これ以上彼女が麻衣の中に留まることは、麻衣自身にも負担をかけ、美也子さんの存在そのものも弱めていく」
 ナルの言葉に晃司は顔を上げる。
 晃司には見えないが、もしかしたら美也子の身に何かあったのでは…晃司の目が尋ねていた。恋人を気遣う晃司の視線に気が付いた麻衣は、意識をとぎすます。
 ナルの後ろに隠れるように立っていたのだが、目を閉じると再び晃司の前に姿を現した。
「み――や、こ」
 晃司の呟きによって、麻衣がまた美也子に身体を貸したことを知ったナルは、不機嫌そうに眉根を寄せる。懲りないやつだ…と思っているのかもしれない
「ごめんね…晃司さん。
 私がしたことは傷つけただけだった……でも、私はすごく幸せだったの。すっごい我が儘だけど・・・ただの、自己満足で自分勝手なことだけれど、幸せだった―――晃司さんは、うんと長生きしてね。
 私の分も、長生きしてね――幸せになってね」
 美也子はフラフラと晃司に近寄ると、背伸びをして晃司の頬に軽く口づける。
 それを見たナルは更に眉間のしわを深くする。
「さようなら……晃司さん―――――――――」
 美也子は綺麗な笑みを浮かべると、ゆっくりと目を閉じた。
 彼女の身体が後ろに傾ぐ。
 慌てて支えようとするがそれはできなかった。その前に黒衣の青年が腕を伸ばして、見知らぬ少女へと変わった彼女を抱き上げる。
 永遠に、なくしてしまったのだ。
 自分の大切な、誰よりも愛しい彼女は、もう戻ってこない。
「まだ、二十歳だった――――――」
 震える声が漏れる。
 涙が溢れ止まることなく頬をぬらしていく。
 晃司は膝から崩れ落ち、拳を握りしめて地面を叩く。何度も何度も、己の内に燻る怒りにも似た悲しみを吐き出すかのように。
「これからだったのに―――全てがこれからだったのに―――――――まだ、何も始まっちゃいなかったのに――――――――――!!!!」
 ナルは何も言葉をかけることなく、麻衣の身体を抱き上げるとその場から離れようとする。だが、それを麻衣が止めた。
「ナル…ちょっと、待って」
 麻衣は、ナルの腕から離れ自分の足で立つと、晃司に向かって囁く。
「晃司さん…美也子さんの言葉、無かったことにしないでね――――――」
 過去のことにしてもいいから、忘れないで。
 美也子が言いたかった言葉。
 それは、麻衣からは言えないけれど。だけれど、せめて美也子の言葉を無かったことにはして欲しくはない。
「麻衣」
 ナルが麻衣を呼ぶ。
 これ以上、あの男にかけてやる言葉はないはずだ。
 視線がそう語っていた。
 たぶんに…かなり激しい怒りの籠もった視線が。
 後ろ髪を引かれる思いはあったが、これ以上自分に出来ることは何もない。
 美也子はもうどこにもいないのだが。
 例え、いたとしてももう彼女は晃司の傍にいることはできない。自然の摂理に逆らってこの地に居続けることは出来ないのだ。
 麻衣はぎゅっと唇を噛みしめると、口を開いた。
 残される物の哀しみは知っている。そして、美也子の思いも知っている。
「美也子さんは、貴方の幸せだけを望んでいるの」
「なら、どうして・・・どうして、美也子は僕の前に現れた! どうして美也子は僕を連れていってくれなかった!! 美也子が僕を呼ぶなら僕はどこにでも行く!! ついていくのに・・・なぜ、美也子は僕に幸せになれなんて言えるんだ・・・美也子は、もうどこにもいないのに・・・・・・・・・・・・・・・」
「望めないよ・・・大切で、誰よりも幸せになって欲しいと思っている人の死なんて・・・・・・・
 自分の分も生きて、幸せになって欲しいと思うのは我が儘? それを、伝えたいって思うのはただの自己満足?」
 自己満足に過ぎないと言われてしまえば、それきりかもしれない。
 だが、麻衣にはそう思えない。
 今はどんなに辛くても、いつの日かそれは何よりも大切な言葉になる。
「大事な人と別れを経験したことのない、君に何が判るんだ!!」
 何も知らない晃司は叫ぶ。
 その言葉に麻衣は目を細め言葉を詰まらせる。
 大切な人と別れるつらさは麻衣も良く知っている。父に、母に、初恋の人に去られた苦しみを麻衣は経験知っているのだから。
「憶測で物をいうのはやめて貰いましょう。
 なぜ、麻衣が経験したことないといえるのですか?」
 ナルの言葉に晃司は麻衣を見る。
 麻衣は真っ直ぐに晃司を見つめていた。痛々しげな微笑みを浮かべながら。
「辛いよね・・・生きていて欲しいと思った人と別れるのは、すっごく辛くて哀しい。
 だけど、目をそらせてちゃ駄目なの。
 いつまでも反らせてたら、誰も幸せになれない・・・変わりなんてないけど、新しい幸せが生きている限り在るんだから。
 だから、晃司さん・・・美也子さんとは幸せになれなかったけれど、彼女が安心して眠れる幸せを見つけて下さい。晃司さんが新しい幸せを見つけることが、美也子さんにとっても幸せになると思うから。
 晃司さんが幸せになることが、美也子さんが一番望んでいることだから・・・だから、忘れないで下さい。
 美也子さんの思いを。言葉を・・・・・・・」
 そこまで言った麻衣の肩をナルは抱き寄せて、歩くように促す。
 後ろ髪を引かれる思いで麻衣は晃司を残して公園を去る。
 後はもう出来ることは何もない。
 彼の中で整理をつけ、自分の中で消化するしかないのだから。だが、それには時間が掛かる。
 長い・・・長い時間を必要とするはずだ。

 黒衣の青年に促されて公園を去っていく少女の後ろ姿をみながら、晃司はその場に座り込む。
 少女の言葉も、美也子が言いたかった言葉も判る。
 理性では判るのだが、感情が付いてきてくれない。
 いつか、この哀しみも薄れるというのだろうか・・・・・

 後には、悲しみに泣き叫ぶ男が一人残された。
 





 その夜も結局麻衣はアパートに戻らずナルのマンションに来ていた。

 ぼんやりとリビングのソファーに座って虚空を見ている。
「余計なことかもしれないと、言っただろう」
「ナルなら?
 ナルならどっちがいい?
 私が急に事故で死んで、ナルに一言も何も言えないまま死んじゃって、私が誰かの身体を借りて一週間だけ、会いに来たらナルはどうする?」
 麻衣は隣に腰を下ろしたナルを見上げて、真剣な眼差しで問いかける。
 話を逸らすことを許さないように。
 何を考えているのか、麻衣には判らない漆黒の双眸。
 その瞳には、ひどく情けない顔をした自分の顔が映っていた。
「ナルのことだから、仕事の邪魔をするなっていって追い出す?
 それとも、いい実験体だからって研究に使う?」
 何を考えているか判らないが、知り合ってから二年以上になるのだ。ナルが言いそうな言葉ぐらい見当が付く。
「さぁ、何を言って欲しい?」
 思いにもよらなかった返答に麻衣の方が面食らう。
 どうせ、くだらないとでも言って一笑されるのが、オチだと思っていたからだ。
「何だろ…ナルが何か言うのって判らないや。だけど―――」
 麻衣は恐る恐る両腕を伸ばして、ナルの首に腕を絡める。
 麻衣がナルに触れてナルが嫌がる気配はなかった。
 どの程度触れていいのか、麻衣にはまだ計り切れていない。
 大丈夫かな――?そう思いながらも、もう少し近づきたいな。と言う思いから麻衣はナルの胸にそっと近寄りその広い胸に頬を寄せる。拒まれることがなかったことに安堵の溜息をもらすと、体重を預けるように少しだけかける。
「何も言わなくて良いけれど、だけど…傍にはいたいな。
 時間に限りがあるなら、時間が許される限り、こうやってずぅぅぅぅとナルの傍にいたい。いることを許して欲しい……駄目?」
 麻衣はナルの胸から顔を少しだけ離して、上目遣いに見上げる。
 拒絶されることを怯えているかのような、情けない眼差し。
 ナルは苦笑を漏らす。
 死んでもいないのに、仮の話でよくもまぁ、ここまで不安になれることだと思いながら。
「生きている限り、時間は有限だ」
 答えにならないことを言うナル。
 時間が無限とも永遠ともになるのは、その鼓動が完全に止まったときだ。
「僕は、時間を無駄に使う主義じゃない」
 実にナルらしい言葉に、麻衣は苦笑を漏らす。
 ナルから甘い睦言を貰えるとは思っても見なかったが、もう少しましな言い方をしてくれてもいいと思うのに。
 そう思った麻衣だが、顔を再び胸に伏せていたために、ナルが実に蠱惑的な笑みを刻んだことには、気が付かない。
「時間を無駄にするつもりはない―――」
 再度呟くように囁くと、ナルは麻衣を抱き上げる。
 軽い浮遊感。
 高い天井が一気に近づく。
「仮定の話をしても仕方ないだろう。僕たちは生きているんだ」
 そういってナルが向かった先は、夕べと同じで……
 麻衣は嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちでナルの肩に顔を伏せる。
 
 人とふれあうことを何よりも嫌悪するナルが触れてくると言うことは、彼なりの答えなのだろうか?

 





☆☆ 作者の戯言 ☆☆☆
何か、わけわからん話になってしまいました(^^
う〜〜〜〜ん……何も言うべき言葉が見つかりません。
身体貸している麻衣を見て、ナルが嫉妬メラメラになるはずだったんだけれど…ナル嫉妬していないし。だぁぁぁぁぁぁ、失敗だわ(┰_┰)
亜狭都ちゃん。リクのちゃんと応えられていなくてごめんね。
こんなのでも、一応読んで下さった皆々様。ありがとうございます。
感想等お待ちしておりますねv


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