華が咲き綻ぶように






 


「目を閉じて顔を上げていろ」
 顎をくいっとつかまれ上を向かされると麻衣は指示通り軽く瞼を閉じる。
 一体鳴瀧がどんな化粧を施してくれるのか楽しみなのだが、すごくどきどきする。
 今まで、亡くなった母や涼子などに化粧をしてもらった事は何度かある。自分でも時々は薄くだけど化粧をしたりもしたし、女房達がしてくれたこともある。だが、それらはすべて同じ女性達の手であり、こうして鳴瀧の・・・殿方の手で化粧を施してもらったことなど麻衣には一度もなかった。
 ただでさえ、鳴瀧がしてくれるということに加えて、初の体験である。
 緊張しないわけがない。
 そんな麻衣を見下ろしながら鳴瀧は楽しげな笑みを零している。
 無防備に目を閉じて顔を差し出している麻衣。これが、もし自分ではなく他の人間・・・・滝沢や榊でも同じようにしたのだろうか? 相手が見ず知らずの人間だというのならば別だろうが、彼らならきっと何の構えもなくその手にゆだねるだろう。麻衣にとって彼らは異性ではなく、父や兄のようなものだ。それもその認識は庶民のものに近い。
 普通貴族の姫ならたとえ実の兄や父だろうと、成人をしてしまえば素顔を曝さない。
 その素顔をじかに見ることのできるのは、彼女に使える女房達であり夫となったものだけなのだ。
 そのことをとやかく鳴瀧は言うつもりはないが、同列扱いはごめんである。
 自分は肉親ではないのだから。
 自分が「男」だという認識が果たして麻衣にはあるのだろうか? 平気で目を閉じ顔をゆだねる麻衣を見ていると疑いたくなってしまう。
 ゆらゆらと炎が風に揺らめいて影を大きく小さく麻衣の顔に作る。
 あどけないだけの顔が、時折ひどく大人っぽく見せるのは揺らめく陰影のせいか。
 いつもよりひときわ艶を放つ唇に自然と目が奪われてしまう。
 甘くくゆる香りにめまいさえ感じる。
 彼女には人工的な色は似合わない。
 天真爛漫に、無邪気すぎるほど無邪気な麻衣には、自然で天然的な色が何よりも合うのだ。
 鳴瀧は片方の手で顎を支えたまま、空いているほうの手で顔に触れる。最初は輪郭をなぞるようにゆっくりと触れる。軽く閉じている瞼に触れ、頬に触れ、唇をなぞる。
 麻衣は自分の顔に触れるのが筆などではなく、鳴瀧の指だということが判ったのだろう。目を開けようとするがあける前に鳴瀧が閉じているよう命令し、結局鳴瀧が何をやりたいのか判らないまま、瞼を閉じ続ける。
 どのぐらいの間、鳴瀧はそうしていたのだろうか。
 紙蝋が揺らめく中、緊張からか麻衣の顔が仄かに赤く染まる。
 白い色にほんの数的紅をたらしたような柔らかな色合いから、徐々に鮮やかさが増していくのを鳴瀧は笑みを零しながら見続けた。
 そう、麻衣には人工的な色は似合わない。色づかせるためには人工的なものではなく天然の色合いでなければならないのだ。
 何よりも鮮やかに咲き誇る、華の様に。
 生まれながら持つ色を際立たせるのが、一番美しく見える。



 麻衣はひどく困惑していた。
 鳴瀧が化粧を施してくれるというからすべてをまかせたのに、彼は一向に化粧をする様子がない。
 ただ、手のひらで包むように頬に触れ、顔の輪郭をなぞるように指先で、瞼や唇に触れる。
 一体何をしたいのかがわからない。
 鳴瀧はただ、手で触れているだけだというのに心臓が壊れそうなほどドキドキしている。早まる鼓動は静まりを見せるどころか、ますますと速さを増していくのだ。
 鳴瀧がじっと至近距離で自分を見つめ、その男の人にしては綺麗過ぎる指で自分の顔に触れている。
 そう思うだけでさらに鼓動が早まり、さらに顔も真っ赤なはずだ。
 一度だけ目を開けようとしたが、その前に鳴瀧に閉じていろと言われてしまい、目を開くこともできず・・・・ただ、真っ暗な世界で顔に触れる鳴瀧の指を感じ、視線を感じる意外なにもない。
 こうして、ただ触れられるだけのことが、見られることが恥ずかしいものだとはこのときまで想いにもよらなかった。
 見知らぬ人に顔を見られて恥ずかしいと思う事はある。それは、同時にもっともみっともないことだからこそ沸き起こる恥だ。だが、滝沢や榊に顔を曝す事はなんとも思わない。鳴瀧にだってそうだった。
 だが、このときほど顔を見られていることが恥ずかしいとは想いにもよらなかった。
 どうにかしたくて、かすかに身じろぎ鳴瀧からむ意識のうちに離れようとしたが、今まで顔に触れていた指が急に背に回り押さえ込んでしまう。けして、強引なものではなかった。その気になれば自分でも簡単に抜け出せられるものだというのに、麻衣はまるで金縛りにでも合ったかのように身じろぎできない。
「・・・・な、なるたき?」
 伺う様に瞼を上げて見上げると、思いにも寄らないほど近くに鳴瀧の顔があった。
 深い闇色の瞳がまっすぐに自分を見つめている。ただ、黒い色ではない、彼の瞳は不思議な色彩を持っている。夜闇のように深い色をたたえ、そしてその瞳は時々黄金色に輝きを放つ。
 普段は封じている能力を使う時と・・・・・・彼が珍しく感情を高ぶらせている時に、その瞳は黄金色に輝きを放つ。
 そして、真っ赤になりながらも目が逸らせず、鳴瀧の双眸をじっと見ているとゆらゆらと、その闇色の双眸の奥で淡い光が輝きだす。今まで何度か見たことがある。
 麻衣は顔をさらに赤らめ思わずうつむいてしまうが、鳴瀧に顎を絡め取られているため視線だけが下を向き、顔は相変わらず鳴瀧を見上げるような形だ。
「どうした?」
 ひどく楽しげな声が空気を震わせる。
 麻衣は目を逸らしてしまうことが悔しくて、再び視線を上げるのだが、整いすぎたほど整っている顔立ちに、感情のすべてを暴かれてしまっているのではないだろうか?と思ってしまう瞳に、ただ囚われて何も言えなくなってしまう。
「な・・・なるたき? 私、お化粧をしてもらいたいん・・・・・だけどぉ・・・・・・・」
 蚊が鳴くようなか細い声に、鳴瀧はさらに楽しそうな笑みを刻みながら「しているだろ?」とわけのわからない言葉を言う。
「これの・・・どこが、しているっていうのよ」
 ぷくんと頬を膨らませ我ながら、上目遣いで睨みつける麻衣に対し、鳴瀧は笑みを零すばかりで何を考えているのか、何をしたいのか話してはくれない。
「一番お前が綺麗に見える色を用意してやっているんだ。文句を言われる覚えはないが?」
 楽しげな口調に、笑みを刻む唇。瞳は悪戯が思い浮かんだような光が浮かんでいると思うのは気のせいだろうか。
 麻衣は鳴瀧が何を使用としているのか、見当もつかないのだが、何もいわずまるで自分をからかっているかのような態度に、眉をひそめる。
 やはり、からかっているだけなのだろうか。
 出来もしないことなら出来るといわなければいいのに。
 鳴瀧があえて言わなくても、自分が化粧を似合わない顔だって事は良く知っているのだから。
 例え嘘だろうと、ご機嫌伺いだろうと、似合う化粧があるって言ってくれただけでも嬉しい・・・・のだが、やはりカラカイのねたにされて喜べるわけがない。
「鳴瀧、からかうだけならもういいよ。どうせ、どんな化粧をやったってそんなに代わり映えなんてしないんだし。
 なら、下手に背伸びなんて止めて化粧はしないでこのまま向こうに戻るよ。皆もやきもきしながら待っているだろうし」
 麻衣は鳴瀧から離れて立ち上がろうとするが、結局その体は鳴瀧に抱えられているため、立ち上がろうとしたぶんバランスを崩し鳴瀧に向かって倒れ掛かるが、麻衣の華奢な身体を難なく受け止める。
「別にからかっているつもりはないが?」
 受け止めたまま麻衣を見下ろして、鳴瀧は心外だといわんばかりに肩をすくめながら答えるが、麻衣はむっと眉をひそめたまま鳴瀧を睨みつける。
「なら、遊んでいるって言えばいい?
 人の顔を見てニヤニヤしているだけで、全然化粧してくれないじゃない。
 どうせ、私に似合う化粧なんてないんだから、もういいよ。そういってくれただけでも嬉しいし」
 どうやら、麻衣は一向に化粧をしてくれないため、口から出たでまかせだと思ったようだ。ぷいっと鳴瀧から目を逸らせて幼子のように頬を膨らませている。
 まるで、親に約束事を破られてふてくされる子供のようである。
 鳴瀧は自分好みの化粧を施して、楽しもうと思っていたのだがどうもそうも言っていられないようだ。なら、それは後回しにすればいいか。
 腕の中でもがもがと暴れる麻衣を簡単に押さえ込みながら、そんなことを考えていたのだが、くるりと難なく麻衣の身体の向きを変える。
「大人しくしていろ。すぐにすむ」
 片手で麻衣を抱えたまま、もう片方の手で箱の中を探る鳴瀧を見て、麻衣はぴたりと動くのを止める。
「・・・・・・してくれるの?」
 きょとんとした目で見あがると、わざとらしい溜息が一つ漏れる。
「してほしいと幼子のように駄々をこねたのはどこのどいつだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・別に駄々なんてこねてないもん」
「ふ〜ん」
 むっと唇を尖らせて上目遣いに見上げる麻衣の顔は、うっすらと赤く染まっている。おそらく自分の行動が子供じみたところがあるのを自覚しているのだろう。
「駄々じゃ、ないもん」
「なんでもいい。少しは口を閉じていろ」
 おしろいの粉が入った入れ物のふたを開けながらの言葉に、麻衣もぴたり。と口を閉ざす。








「なぁ・・・涼子、麻衣遅くないか? 様子を見に行ったほうがいいんじゃないか?」
 すでに麻衣と鳴瀧が姿を消して半時ほど経過していた。それだというのにいまだに麻衣も鳴瀧ももどってくる気配はない。滝沢から見れば鳴瀧など戻ってこなくてもいいが、麻衣にはぜひ戻ってきてもらいたいのだ。やはり、彼女の笑顔がないと今ひとつ宴に華やぎがない。
「どうせ、もう少ししたら来るでしょう」
 鳴瀧が帰ったというなら、屋敷の人間がそのことを伝えに来るはずだが、帰ったという知らせはないのだから、彼はおそらく百合子の言うとおり麻衣の基にいるのだろう。なら、遅かれ早かれ仲直りして彼らはそろってこの場に来るか・・・・それとも、さっさと二人の世界を築いているのか二つに一つだろうと涼子は思っている。
 下手に邪魔をして鳴瀧の恨みを買うのは遠慮したい。
 麻衣を不幸にするのなら鳴瀧など敵に回しても構わないが、それ以外で彼を敵に回すのは危険が多すぎるのだ。とくに、麻衣が絡めば厄介極まりない事は自明の理であり、万が一自分と鳴瀧が険悪な中になってしまえば、間に立つ麻衣が苦しむだけである。
 いや、所詮友情より恋というべきだろうか。そうなった場合、自分に申し訳が利ながらも麻衣はきっと鳴瀧側に付くだろう。まぁ、夫の方を持つのは当然かもしれないが。
 ・・・・・・・面白くない。
 自分の可愛い麻衣を奪っておきながら、傷つけ、さらに、結局は美味しいところだけを持っていこうとするあの男がどうも姑息なように思えてならない。
 濁り酒を一気に煽りながら、不機嫌になって行く涼子。
 一人、麻衣はまだかまだかと右往左往する滝沢。
 余裕綽々な様子でお酒を楽しんでいる百合子に、彼らを眺めている榊。
 宴とは名ばかりの、なんともいえない雰囲気が漂う中パタパタと軽い足音が響き渡る。
「ねぇ、本当におかしくない?」
 明るい声音がすぐに聞こえてきて、同時に滝沢が待っていたぞ!といわんばかりに立ち上がる。
「僕を誰だと思っている?」
 麻衣の疑問に答えるかのような声に、鳴瀧も隣に居ることを知り、喜色満面だった滝沢の表情がいっぺん先ほどの蓄えたままの怒りの矛先を見つけ、声を張り上げようとするが、鳴瀧より先に麻衣がひょっこりと顔を出したために、滝沢は口を大きく開いたまま怒りのやり場をなくしてしまう。
「どうしたの? 法鷹にーさま。そんなに大きく口を開けて」
 麻衣はきょとんと大口を開けたままの滝沢を見てかわいらしく小首をかしげる。
「・・・・・化粧、したのか?」
 ぽかぁ〜〜〜んと口をあけたままの滝沢は、目の前にいる麻衣を見下ろして、棒読みのように言葉を口にするが、麻衣はそのおかしさに気が付かず照れたような笑みを浮かべて、コクリとうなずき返す。
「ど・・・・どうかな?」
 頬をうっすらと紅潮させて、様子を伺うように上目遣いで見上げる麻衣は、お世辞を抜きにして可愛いと滝沢は正直に思った。確かに先ほどの麻衣も見違えるほど綺麗になった。だが、正直に言ってしまえば、あの時の麻衣の美しさは別段珍しいものではない。人間綺麗な衣を着て、綺麗に化粧をすれば誰だって綺麗に見える。もともと麻衣は愛らしい顔立ちもしているのだから、さらに化粧をすれば美人に見えて当然といえば当然なのだが。
 今目の前にいる麻衣はどちらかと言うと、可憐というべきか愛らしいというべきか。本来彼女が持つ良さがよりよく生かされており、生き生きとした表情が充分に生かされている。化粧はどちらかといえば普段麻衣がしている程度の、薄化粧なのだが、その遣い方と言うべきか色の使い方というべきか、思わず目を引いてしまうほど愛らしさと可憐さが際立っている。
 白い頬は肌の色が見えるほど薄くおしろいを塗られているだけなので、紅潮しているのがわかりより、果実のように赤く色づいている唇は灯されている紙蝋の明かりに輝きを放っている。
 正直に言えば、先ほど涼子が施した化粧よりも麻衣には似合っており、さらに愛らしいとか可憐なから外れるにもかかわらず、匂い立つような色気さえもあるように思える。
「さっきも可愛かったが、今のほうがずっといいぞ!
 自分でやったのか? これなら、鳴瀧も・・・・・」
 滝沢の声に重なるように、くるりと背後を振り返った麻衣が嬉しそうに顔をほころばせて鳴瀧を見る。
「似合うって!」
「当たりまえだろう。一体誰が化粧をしたと思っているんだ」
 麻衣の背後に立ち偉そうに腕なんぞ組んで立っている鳴瀧に自然と視線が向かう。途中まで言いかけた言葉は立ち消え、鳴瀧を見て口をパクパクする滝沢に、さらに追い討ちをかけるように涼子が問いかける。
「なによ、鳴瀧がやったの?」
 正直言って悔しいが、自分が施した化粧よりも遥かに麻衣に似合っていると、認めざるえない涼子。だが、麻衣がこんな風に化粧を出来るわけがない。そもそも、自分で出来るなら涼子が化粧をすることもなかったし、あのような騒動も起こるはずもなかったのだから。もちろん、麻衣の周りの人間がやったわけでもない。
 なら、他に誰がやったのか。考えられるべき人物は一人しか居ない。
 涼子だけではなく、滝沢、榊の視線も自然と鳴瀧に向かい、彼らを代表して涼子が問いかけたのだった。
「そうなのv 鳴瀧がやってくれたの? どう?」
 あんなひどい言葉を投げつけられたのをすっかりと忘れてしまったかのように、口調を弾ませて鳴瀧の腕に自分の腕を絡ませてなつく麻衣に、誰もが呆れて言葉を続けられないで居た。
 よほど嬉しいのだろう。でなければ、いくら喉もと過ぎれば〜な性格をしている麻衣とはいえ、こうも簡単に浮上するわけがない。一体どんなやり取りの末、麻衣の機嫌をここまで持ち上げたのか。やはり、侮れない男である。が、皆が皆息を呑む中冷静な人間も居る。
「麻衣、いくらなんでも殿方に化粧をしてもらうのは、どうかと思いますわよ?」
 見ることができない分麻衣の外見上の驚きに影響を受けない百合子は、冷静に物事をいえるのだがその言葉にも、今の麻衣はにへらぁ〜〜〜と顔を崩すだけで、反論らしい反論をするどころか惚気としか聞こえない言葉が出てくる。
「だって、鳴瀧がどうせ綺麗になるなら自分好みにしてくれるって言うんだもん。やっぱり、好きな人のために綺麗になりたいなら、その人の好みのほうがいいし。せっかく、お化粧を鳴瀧がしてくれるって言うんだもん。こんな機会二度とないだろうし、たまにはいいでしょ?」
 その言葉に一同同時に溜息。いくらが意見には惑わされない百合子とて、言葉には惑わされる。
 まさか、麻衣の口から惚気が聞ける日が来るとは思わなかったために、ショックは余計に大きい。とくに滝沢などがく〜〜〜〜んと顎が床につきそうなほどの勢いで、ぱっくりと口を開いている。
 もしかして、部屋に戻った時麻衣は自棄酒でもしたのであろうか?しらふとはとてもではないが思えない言葉が、麻衣から漏れ出た。
 酔っている・・・絶対に酒によっている。
 でなければ、「鳴瀧に化粧をしてもらえた」という事実によっている。
 呆然とするなか二人は何事もなかったかのように、宴の席に戻り、再び二人の世界を築きつつあった。
 麻衣は上機嫌で鳴瀧に酒を勧めているし、鳴瀧は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。彫像のようにその場に立ち尽くしている彼らに鳴瀧は視線を向ける。
「皆さん? どうかなさいましたか?」 
 いけしゃあしゃと言ってくれる鳴瀧に、滝沢は恨めしげな目を向ける。
「あんな暴言を吐いておきながら、よくもまぁ平然と化粧なんてできるな」
「おや、今の麻衣が遊び女に見えるのですか?」
 言外にこんなに愛らしく出来たのに。といっている気がするのは気のせいだろうか?
「いや・・・・・・すっげーかわいらしい姫になっているよ。これなら、どんな野郎でも本気で惚れるだろうさ。そんぐらい可愛くなっているぞ」
 認めるのも口惜しいが、鳴瀧とは違って根が正直に出来ているため素直にもらす滝沢に、鳴瀧はさらに追い討ちをかける。
「当然でしょう。僕が化粧をしてあげたんですから。遊び女に見えるようなはしたない化粧を僕がするとでも?」
 さらりと言い切る鳴瀧に、歯噛みをする滝沢。そして、暴言としか言いようもない鳴瀧の言葉に、涼子も怒りに身体が震える。
 それは、すなわち自分がした化粧がはしたないといいたいのだろうか。
 わなわなと振るえ、先ほどの榊ではないが鳴瀧に酒をぶっ掛けたくなった涼子だが、傍らに麻衣がいて幸せそうに微笑んでいるその姿を見ると、そんなまねが出来るわけがなかった。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い! 飲むぞ!!」
 反論する余地も見つけられず、もって行き場のない怒りを酒を飲むことで誤魔化すことに決めた滝沢は、一気に酒を煽りだす。
「私も今日は飲むわよ! お酒! 屋敷にあるお酒全部持ってきなさい!!」
 滝沢に続いて自棄酒宣言した涼子に、麻衣はきょとんとそんな滝沢を見ていたが、鳴瀧に酒を飲むかと聞かれ、滝沢から鳴瀧に視線が戻ってしまう。


 





続く