をとめの姿
  しばし 留めぬ


    
 何度文を出そうとも、いっこうに返事が返ってこない。
 青年は、ここ数日をかけて愛しの姫君のことについて調べ上げた。麻衣姫はすでに両親が亡く、一人で切り盛りしていたようだが、親戚筋にあたる藤原の涼子の薦めにより安部鳴瀧と夫婦になったという話だ。上司としての立場を使ってものにしたのではないだろうか?たかが、陰陽師如きがそう簡単に藤原の姫を迎える事は出来ない。だが、未よりもなく後ろ盾もない、まして血筋すら特筆するような点のない家の姫なら、充分に手の届く範囲である。これを気に、藤原とさらに懇意になり上の位を目指しているのではないだろうか? 興味をなさそうな顔をしてずいぶんしたたかな男である。
 藤浦の少将はこの時すでに、二人が相思相愛とは思えなくなっていた。
 確かに、今までどんな女性にも見向きもしなかったという彼が、とうとう通うところを作ったと言うから、そのときは蜂の巣を突っついたように大騒ぎになったのを覚えている。
 だが、それもしょせんは噂にしか過ぎなかったことがこの数日間でよくわかった。あの男は、人目に付かないところで他にも通うところを作っているのだから。それは間違いないと言い切れる。
「殿――麻衣姫は今宵、陰陽寮にて宿直をなさるそうです」
 側近の一人が耳打ちしてくる。
 なんでも、夫である彼とともに今夜は宿直することが決まったらしい。そこまでして、甲斐甲斐しいまでの献身ぶりを見せる姫のことを思うと、心が狂いそうだ。
 夫が他に通うところを作るのならば、妻のところに他に通う男がいてもいいではないか。
 そう思うと藤浦は決意を決めた。
 麻衣の屋敷には忍び込むのは難しそうだが、陰陽寮ならば部外者が多少うろついていても不審がられないだろう。万が一見とがめられたら相談事があるといえばいい。
 藤浦は側近に耳打ちし帰すと、側近は心得たように頷き返した。




 宿直といっても麻衣自身は何もすることはない。ただ、鳴瀧が屋敷に一人でおいておくのが不安だと言うことで(はっきりと言いきってはいないが、ようはそういうことだろう)麻衣も宿直をしているのだ。
 夕餉も終えるとさっさと割り当てられた部屋へと下がるが、どうもなれない部屋のせいか落ち着かない。
 涼子や百合子は隣で静かに眠っているが、麻衣の意識ははっきりと醒めていて眠気が襲ってこないのだ。
 二人を起こさないように部屋を出ると、そっと鳴瀧の部屋へと足を向けた。
 昼間とは違って陰陽寮とはいえ、夜ともなると人気はなくなる。そっと足音を忍ばせて鳴瀧の部屋へと入っていくと、紙蝋の明かりで鳴瀧は書物に目を通していた。
「まだ起きていたのか」
 視線をあげることもなく発してきた言葉に麻衣は、こくりとうなずき返す。
「なんだか落ち着かなくて。鳴瀧、白湯飲む?
 少し休憩しようよ。月が綺麗だよ?月光に照らされて桜がすっごく映えて綺麗」
 うっとりとつぶやく麻衣に、鳴瀧はようやく視線をあげる。
 滅多にないこの状況に興奮しているのだろうか。
「白湯を頼む」
 一緒に月を見るとは言わないが、白湯は飲む気のようだ。とりあえず、外へと引っぱり出すのは白湯を入れてからにすればいい。そう思うと麻衣は、快く返事を返すときびすを返して部屋を出ていく。
 いつも通りなれている階だというのに、昼と夜ではこうも雰囲気が変わるのかと思った。所々につり下げらた灯籠がほのかに、寮を照らし出す。もちろん庭の隅々まで照らされることはないから、少し庭を降りてしまえば真の暗闇に覆われてしまう。
 だが、今宵は月が雲に隠されることもなく、地上を照らしているためぼんやりとした輪郭を闇に浮かばせていた。
 麻衣はなんだかお酒によっているかのような気分だな。と思う。
 妙に心が浮き立つようで落ち着かない。
 何でこんなに落ち着かないんだろう?
 と首を傾げたとき、人のいないはずの部屋から白い腕が伸びてきた。
 驚きのあまり悲鳴を上げかけるが、その腕はとっさに口をふさいでしまう。
 何が起きているのかわからず、恐慌状態に陥りながらも、とりあえず逃げなければいけないと言う本能が働き、がむしゃらに暴れるが、いかんせん相手は男。女の力でその腕を払いのけられるわけがなかった。
「お静かに―――私は、貴方に危害を加えたいわけじゃないのです」
 どこかねっとりとした声が密やかに耳朶を打つ。
 背後に見知らぬ人間の気配とぬくもりを感じ、麻衣は恐怖のあまりどうすればいいのかわからなくなっていた。
 麻衣が硬直しているのをいいことに、男はズルズルと麻衣を奥の部屋へと引きずるように連れ込む。
 この状況は非常にやばい。
 なんとしても逃げ出さなければいけないと言うのに、どうしても体は言うことを聞いてくれなかった。
「麻衣姫――私の桜の君…こうして、貴方に会いたかった…触れたかった。
 貴方が、あの不実な夫の下でどれほど苦しんでおられるかと思うと、心がはち切れそうでした」
 訳の分からない言葉を並べる男に、麻衣はさらに訳が分からなくなっていく。
 麻衣姫といったのだから、自分のことだということがわかる。
 桜の君というのだから、おそらく自分の通り名である「桜月」をもじっての呼び名だろう。それに、あの文にも桜がどうのこうのとかいてあった。ということは、この男はあの文をよこし続けた男だというのだろうか。藤浦の少将がどんな顔をしてどんな声をしているのか知らないため、予想でしかないがおそらく間違いはないはずである。
「あの桜の木の下で、花びらに戯れている貴方を一目見たときから心を奪われていた…桜襲ねをまとっていた、貴方はまるで桜の精のようだった…どうか、私の思いをわかってほしい」
 男は勝手なことを言い募ると、麻衣をその場に押し倒す。
 そのときになって、ようやく麻衣ははっと我に返りじたばたと暴れ出した。
 勘違いしている…。
 麻衣は、男の言葉ではっきりとわかった。自分は桜の襲ねなど今年は着ていない。他の誰かと勘違いしているのだ。この男は。
 それを伝えたかったのだが、男は話を聞く様子ではなかった。
「ちょ――やだ、違う…私じゃない…やだってば!!」
 麻衣が叫び声をあげようとすると、その両腕を片手で軽々と拘束し、さらにその唇をなんと自分の唇でもって無理矢理ふさがれる。麻衣はショックのあまりに目を大きく見開く。抵抗らしい抵抗がやんだことに、男はようやく唇を離し、その帯へと手を伸ばす。
 しゅる―――っと、ほどける音が耳に届いた瞬間、麻衣は絶叫と呼んでもいいぐらいの声を張り上げた。

「な・・・・なるたき・・・・鳴瀧ぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜んと、した耳鳴りとともに麻衣の甲高い声が男の耳を突き抜ける。
「姫――どうか、お静か――」
 ふつうの姫ならば、このような状態になって人に乱入されることを恥じ、甘んじて受けざるを得ない状況なのかもしれないが、麻衣にはそんなことは関係ない。まして、人違いのあげくことに及ばれるのなんて言語道断である。
 必死になって男の拘束から逃れようともがき暴れる。
 麻衣が抵抗すればするほど、男もムキになるのか、その帯をほどききると、麻衣の袿をはぎ取り、単衣にまで手を伸ばす。
 夜目にもまぶしい白い肌があらわになり、男がその肌に顔を近づける。
 気持ち悪いとしか思えない吐息を間近に感じ、生暖かな感触が肌に触れたしゅんかん、ざわりと肌が粟立つ。気持ち悪意を通り越しておぞましいとしか言いようがなかった。
「いやっ、いやだってば!! 離してよ!!離しっててば!!!」
「ご安心下さい。私は貴方を傷つけたいわけじゃない…貴方を守りたいだけです。
 阿部殿は、貴方のご親友と通じられているんですよ?
 このままでは、貴方が苦しむだけです…どうか、貴方が一人で苦しまなくてもすむように…私を側に置いて下さい。私は貴方の支えになりたいのです」
 なんだか訳のわかないことを言い綴る男の言葉に、麻衣は一瞬呆然とする。
 いったいどこの誰が、誰と通じているというのだろうか。
 あの鳴瀧が、親友…涼子か百合子と通じている?
 そんなわけがあるはずがない。
 何を根拠にこの男そんなことを言うのだろうか。
「私は見たんです。陰陽寮の裏で、阿部殿と貴方のご親友が楽しげに睦まじんでいるところを」
「ちが――っそれは――――んぅ」
 麻衣が口を開いた瞬間、男は再度麻衣の唇を自分ので覆う。
 今度は、話しかけていたために開いていた口腔内へ、男は自分の舌を潜り込ませてきた。
 鳴瀧以外の人間の体温に、ぬめりに、麻衣は吐き気がするほど気持ち悪かった。
「やっ――――鳴瀧」
 涙がぼろぼろと出てくるが、泣いていても何もならない。
 そのうち騒ぎを聞きつけて人がやってくるだろうが、その前にことが進んでしまっては、もう鳴瀧にあわせる顔がなくなってしまうし、このままの状況を甘んじて受け入れるなんて麻衣には到底出来なかった。。
 麻衣は涙で滲む目をぎゅっと閉じて、何度も瞬きを繰り返して浮かび上がってくる涙を流しきる。泣くのは後でいくらでも出来る。今しか出来ないことをやって、身の安全が保障されたらいくらでも泣き喚けばいいのだ。麻衣はきっと眉を吊り上げると目を見開いて意思を強く持ち、未だに口腔内に潜り込んでくる舌を勢いよく噛む。
「っったぁ!!」
 口の中に血の味が広がり、その瞬間男が離れた。そのタイミングを見逃せるわけがない。麻衣は勢いよく手足を動かす。力でたとえ男に叶わなくても今ならどうにか振り払えるかもしれない。とにかく必死でもがき手足をじたばたと暴れさせる。顔を爪で引っかき、膝で男を蹴飛ばす。運良く膝が男にめり込むと場所がよかったのか、男はその場に蹲ってしまう。さらに麻衣はあとを追いかけてこられないように止めを刺すかのように、男を踏みつけて部屋から飛び出す。
 はっきり言ってとんでもない姿をしているが、今はそんなことにかまっていられない。
 今にも膝からくずれ込んでしまいそうなほど、足に力が入らず体が震えているが、階まで駆け出すと。凍りつく喉を叱咤して声を張り上げて、ただ一人の名を呼ぶ。







 麻衣が白湯を入れに出てどのぐらいの時間がたっただろうか。いつもならそれほど待つこともなく白湯を持って戻って来るというのに、なかなか戻ってこない。
 どこかで寄り道でもしているのだろうか?
 麻衣ならあり得る。
 陰陽寮に初めて宿直するせいか、ひどく興奮気味にあった麻衣。月に照らされる桜がきれいだと言っていたから、もしかしたら庭にでも降りているのかもしれない。
 内裏とはいえ、夜ともなれば色々な意味で危険があるというのに、あの麻衣は相変わらず危機感というものが薄い。
 それでもしばらくの間、書物に目を通していたのだが、妙な胸騒ぎを覚え室内を出た。その瞬間、聞き慣れた声が自分の名を叫んでいるのが聞こえ、鳴瀧はかけだした。
 いつも鳴瀧を呼ぶ声は朗らかで高く澄んでいるというのに、ひどく切羽詰ったかすれた声が耳にこびりつく。






「鳴瀧!!」
 階の向こうで見た姿に鳴瀧は息をのむ。
 まとっていたはずの袿はなく、単衣までもはだけ白い肌がかなりあらわになっている。麻衣の顔はぼろぼろと言っていいほど泣き崩れており、鳴瀧がその腕に抱き寄せると麻衣は安心したのか、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまう。
「麻衣?」
 背中を支え名を呼ぶと、涙に潤んだ目が鳴瀧を見上げる。笑みを作ろうと思っていたようだがソレは失敗し、泣き声に変わると自分の首に腕を回してしがみついてくる。
「ふぇ、鳴瀧〜〜〜〜〜〜〜」
 この様子を見れば、どんな目に合いかけたかわかる。
 さらに、麻衣の声を聞きつけたのか、どたどたと足音をたてて背後から涼子と百合子が駆け寄ってきた。二人とも単衣に袿を羽織っているだけの略装である。
「麻衣!!その格好――――」
 麻衣の姿を見た瞬間涼子は絶句する。
 当然だ。一瞬最悪の事態を考えてしまったとしてもおかしくない格好である。
「麻衣を頼めますか?」
 涼子は自分のは羽織っていた袿を脱ぐと、麻衣の肩にそっと掛ける。そして、百合子とともに麻衣を抱きかかえるようにして部屋へと戻っていくのを見ると、鳴瀧は奥の部屋へと足を踏み入れた。
 そこには体をくの字に丸めながら苦痛に耐えている一人の男がいた。おそらく麻衣の膝がたまたまソコに当たったから、麻衣は難なく逃れることができたのだろう。じっとりと脂汗を流しながら苦悶の色を浮かべている男に、鳴瀧は一別を向ける。
「人の妻に手を出さないでいただきましょうか」
 絶対零度も書くやといわんばかりの声音に、男は…藤浦の少将は痛みをこらえながら顔を上げる。恋敵を前にして無様な姿をいつまでもさらすのは、男の沽券に関わった。
「他に通うところがある貴方に、あれこれ言われたくはない」
 毅然とした態度で言ったつもりだろうが、いかんせん。その顔色は悪く脂汗が浮かんでいるのだ。まして、鳴瀧ににらまれている状態ですでに逃げ腰のため、勝負は付いているというのに藤浦の少将はあきらめる気はないといわんばかりの態度をとる。
「誰と勘違いしているのかわかりませんが、僕の妻は麻衣一人ですが?」
 丁寧な言葉遣いを使えば使われるほど、寒気が増してくる。
「とぼける気か。私は見ているのだぞ。
 貴方が陰陽寮の裏庭で、人目を忍ぶように麻衣姫の親友にあたる姫と睦んでいたところを」
 これでどうだ。といわんばかりの態度をとる藤浦の少将だが、鳴瀧は冷然とした態度を崩さない。そればかりか、相手を見下しているような笑みさえも口元に浮かんでいる。
「妻といて何がいけないと?」
「いけしゃあしゃあという。
 だが、認めたな。貴殿には麻衣姫以外にも通う妻がいると」
「鬼の首を取ったつもりになるのもいいのですが、貴方が見たという姫君は麻衣ですが?ソレで何か問題でもあるというのですか?」
 藤浦の少将は未だにとぼける気でいる鳴瀧に対し、真っ赤になって怒鳴り声を張り上げる。
「潔く認めたらどうなのですか! 一人の姫に尽くすように見せても所詮はそこがしれているというもの。
 栗色の髪をした姫君と一緒にいたところを私はしかと見ているのですぞ!! 麻衣姫は黒髪がことのほか美しく、噂どうりの愛らしく美しい姫君だというのに、貴方は気味悪い栗色の髪をした姫と通じているではないですか!!あんな、麻衣姫からみたらどこも優れた点もない姫君と!!!」
 これでどうだ。といわんばかりの態度の藤浦に対し鳴瀧は、冷笑を浮かべる。その目には藤浦の最後の言葉にけんのんとした光を宿らせながら。
「栗毛に鳶色の瞳をしたのが麻衣ですが? 何か問題がありますか?」

「――――――――――――――――――――――――――――」

 その言葉に絶句するのは鳴瀧ではなく、藤浦の方だった。
 口を開いては閉じることを何度も繰り返している。その顔からは見る見るうちに血の気がなくなり、体が小刻みにふるえているのが闇の中でもわかった。
「どうやら、麻衣をどなたかと勘違いしているようですね?
 それで、すむ問題だとお思いですか? 藤浦の少将殿」
 相手に自分の名前まで知られているとあっては、この場から逃げ出せてもそれで丸く収まるわけがない。
 だが、相手が言い逃れをしている可能性もあるのだ。
 あのとき、確かにあの桜の君は誰だ?と聞いたら麻衣だと答えたではないか。
 後々に調べてみたら麻衣姫の通り名が「桜月」と呼ばれていることを知った。だからこそ、この季節に併せて「桜の襲ね」を着ているのだと思ったのだ。
「そんな馬鹿な…漆黒の髪の美しい姫が、麻衣姫ではないのか――桜の精を思わせるかのように、毅然とした中にある美しさを兼ね備えた姫…それが、麻衣姫ではないのですか」
 問いかけるような言葉に代える言葉はない。
 ただ、冷め切ったまなざしを男に向けるだけだ。
 その、あまりの冷たさに藤浦の少将はふるえる。
 誰が、凍れる月の君だ、新月の闇夜のような男だ。激しい焔を宿しているではないか。青白い炎のような物に焼き尽くされる錯覚に陥り、訳も分からずふるえる。
「鳴瀧さま、麻衣が震えておりますの。わたくしや涼子様では麻衣を安心させてあげる事はできませんわ。
 できるだけ早く戻ってきて下さいませ」
 おそるおそる声をかけてきた姫君を見た瞬間、藤浦の少将は声を上げた。
「麻衣――姫――――――――――――――――」
 その言葉に百合子は眉をつり上げる。
 麻衣を…大切な親友を傷つけた男を見えない目でにらみあげると、勘だけを頼りにずかずかと近寄ってくるなりその頬をひっぱたたく。
 じゃっかんずれてしまったが見事に百合子の右手は、藤浦の少々の頬をはたいた。
「殿方って本当に最低な方ばかりですのね」
 小気味よい音が辺りに響き渡る。
「麻衣…姫?」
「何をおっしゃっていらっしゃるの!?
 麻衣は、あちらで貴方がなさった暴力にひどく傷ついておりますわ!!
 藤浦の少将様がこのような方だとは、思いにもよりませんでしたわ。
 鳴瀧さま、早く戻ってあげて下さいませ。深く傷ついているはずですのに、必死で何もなかったように振るまおうといたしますの……痛々しくて傍にいられませんわ。わたくしや涼子様では麻衣を気遣わせてしまうだけですもの。
 榊様と滝沢様がすぐに駆けつけて下さいましたの。今、外で待っていて下さっていますわ。こちらのことは、わたくし達にお任せして下さいませ。
 まだ、いい足りないこともやり足りないこともあるかと思いますけれど、今は何よりも麻衣の方を優先してあげて下さいませ」
 百合子の言葉に鳴瀧はしばらく考え込むが、やがてゆっくりと吐息を吐くと静かに音を立てずに出ていった。
 最後の瞬間、男に視線を向けたとき、男は茫然自失状態でその場に座り込んでいた。
 


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