第二話
                    







「何…この子、泣いているの?」
 ナルの腕に抱かれて眠っている麻衣は、閉じた瞼から涙をにじませていた。そのことに気が付いた綾子は指を伸ばして、麻衣の涙を拭って揚げるが、すぐにまた透明な雫があふれ出す。
 麻衣の唇が、微かに動く。
 人の名前を呼んでいるようだ。
 ナルは微かに眉をひそめる。
 ジーンの夢を見ているのだろうか?
 麻衣の心は片割れのもとではなく、自分のもとにあると判っていながらそんな想いがよぎるが、すぐにそれは違うことに気が付く。
「ちひ―――ろ―――――――」
 ナルが聞いたこともない名前だ。
 男の名前とも思えない。
 いったい何を見ているのか。
 麻衣は拭おうとも次から次へと涙を流しながら、譫言のようにその名を呼んでいた。
 麻衣を旅館まで運ぶと、急いで引いてもらった布団の上に横たわらせる。綾子がすぐに乱れている浴衣の裾を直し、夏布団を上からかけるのだが、その間も止めどとなく涙が溢れている。いったい何がそんなに悲しいのか、いったい何を視たがために涙を流しているのか、メンバー達ももちろんナルにも判らず、早草を覚える。
 特にナルはそれがよりいっそう強いのだろう。顔は不機嫌さを隠す様子もなく眉間に深く皺を刻みながらも、何度も涙を無意識のうちに拭っている。それを見ていたメンバー達はナルの無意識の行動に気が付いていたが、誰一人冷やかす者はいなかった。
 今の麻衣を見ていたら例えナルでなくても、好悪を別にしても涙を拭ってやりたいと思わず思わせる何かがあるからだ。
 まるで、何か、とても大切な者を亡くしてしまったかのような、ひどく辛そうな顔で泣いているモノを見て放っておけるわけがない。
 麻衣が意識を取り戻したのは、それから更に二時間ほどした頃だった。
「いったい何あがった」
 麻衣はきょとんと辺りを見渡す。先ほどまで辛そうな表情で涙を流し続けていたのが嘘のようだ。目は赤く瞼が腫れているという点を抜かせば、いつもと何ら変わらない麻衣の様子に、皆は内心で安堵する。
 なぜ、自分が横になっているのか分かっていない様子だ。
 布団を囲むように座っているみんなを見渡して、首を傾げ何かを思い出そうとするかのように虚空を見つめている。が、やはり判らないのだろう。諦めたようにと息を付くと、ナルをもう一度見て漸く口を開いた。
「何が…って何が?」
 聞きたいのはこちら側であるというのに、麻衣はとぼけた返事を返してくる。ある意味実に麻衣らしい返答に皆は苦笑を漏らす。
 どうやら、今の麻衣を見ていると切羽詰まった物は感じられなく、一安心をする。だが、おそらく一番彼女のことを心配していたと思われる人物は、そんな様子を欠片すら見せることなく、麻衣の返事に不機嫌そうに眉をひそめながら、口を開いた。
「麻衣、僕はふざけているほど暇人ではないのだが?」
 ナルの言葉に麻衣もムッとした表情をする。
 馬鹿にされたような気がしてならない。
 なぜ、彼に馬鹿にされなければいけないのか。今の麻衣には心当たりはない。
「ふざけてなんかいないやい。それよりどうして私はここで寝ているのよ。
 皆で花火見に行っていたのに」
 不満げな麻衣の言葉に皆は顔を見合わせる。
 どうやら途中から麻衣の記憶は抜けているようだ。
「お前は途中で、人がすすり泣く声が聞こえると言ってフラフラと森の中に入っていったんだ。追いかけてみれば森の中で気を失って倒れていたのはお前だろうが。
 いったい何があった?」
 麻衣は首を傾げる。
 自分は皆と共に花火を見に行った。それは間違いではないようだ。よくよく思い返してみれば、皆と一緒に旅館を出て、ナルと並んで土手を歩いたのを思い出す。色とりどりの提灯に、威勢のいいテキ屋のお兄ちゃん達。笑いさざめく人の声が甦ってくる。
 で…ナルと一緒に見ながら――――そう言えば……―――すすり泣く声、が聞こえた気がした。すごく、すごく悲しい声が聞こえたような聞いていないような……ハッキリと思い出せない。記憶に靄がかかっているようでスッキリとしない。
 が、ふいに脳裏に浮かぶのは真っ赤な華。
 目が痛くなるほど視界いっぱいに広がった真っ赤な華。
 そして――
 腐臭。
 今までに嗅いだこともないような強烈な臭いが充満していた。気持ちが悪くなるほどの腐臭。そして、虫がたかる羽音。
 それは、大切な人から立ち上る匂い。
 腕の中で冷たくなり、温もりが失って逝く身体。
 誰よりも愛しい人。だけれどもう二度と自分を見てはくれない。その声で名を呼んではくれない。
 麻衣の双眸から涙が溢れこぼれ落ちる。
 記憶に甦るのは、温もりを失ってしまった身体。
 冷たくなっていく身体を抱えて、森の奥へと運んでいった。
 そこに言い伝えられている伝説を信じて。
 愛しい人を還して欲しくて。
 何日であろうと、その時が来るまで抱きしめていた。
 腐臭など気にならなかった。愛しい人の薫りだから。
 肉が腐り崩れゆこうとも、それは愛しい人の一部。
 絶世の美貌が崩れ落ち、白皙の肌がどす黒く変色していこうとも、麻衣の目には生前と変わりないように映った。額に唇を寄せ、キスをすることにさえ抵抗を覚えなかった。
 崩れゆこうとする身体を抱きしめながら、ただ、時間が過ぎるのを待っていた。伝説の通りならきっと現れるはずだ。そして―――
 パンッと頬に軽い衝撃に麻衣は瞬きをする。そのすぐ後に鋭い声が自分の名を呼ぶ。
「麻衣!!」
 ナルの声に麻衣はゆっくりと顔を上げる。
 秀麗極まりない顔。
 何も変わらない。その肌の色も、闇色の双眸の輝きも、秀麗な顔立ちも。何も変わらず崩れてはいない。
 麻衣は焦点の合っていない眼差しをナルに向けたまま、ゆっくりと腕を伸ばしてナルの首に絡め抱きつく。暖かな温もりが腕の中にある。生きている音が聞こえる。腐臭もなく、虫が囓った痕も何もない。綺麗で滑らかな白い肌があるだけだ。
 滝川は麻衣の突然の行動に呆然とし、真砂子と綾子は「まぁ」と呟くとあっけに捕らわれている。ジョンは困ったような笑みを浮かべて、安原は「若いっていいですねぇ」と爺むさいことを呟き、リンは無表情だ。
 ナルはと言うと、わけが分からないと言わんばかりだ。
「麻衣。どうした」
 様子が明らかにおかしい麻衣の背中を軽く叩き、淡々とした声で問いかける。抑揚の欠けた声音ではムードもへたくれもないというのに、麻衣はナルを見上げて幸せそうに微笑む。安堵とも言えるような笑みかもしれない。鳶色の双眸には涙が浮かび上がり、潤み今にも目尻から溢れ流れ出そうだ。
「還ってきてくれたんだね―――ナル」
 麻衣はわけの分からないことを呟く。還るも何もどこにも行った記憶はナルにはない。麻衣の突然の言葉に、当然皆も困惑を隠せず顔を見合わせている。それどころかいつにない、心細い不安げな顔でナルにすがりつく麻衣に、驚きを隠せない。あの、いつも陽気で明るい麻衣が泣いているのである。イヤ、麻衣がなくのはこれが始めてではない。たが、今まで麻衣が泣くときは依頼人や霊に同情したがために泣いたり、悔しくて泣いたりと言ったことばかりだ。こんな切なげな顔できくほうが苦しくなるような声で泣いている所など見たことはない。
 だが、それよりも彼らを驚かせる事態が起きた。
「置いていかないで――お願いだから、置いていかないで―――――」
 麻衣は涙をポロポロと流しながら、告げる。
 ナルは溜息をもらすと、軽く麻衣の背中に腕を回す。
「いつ置いていった」
 皆はナルの声音にあんぐりと口を開けてしまう。表情はどちらかと言えば呆れているが、声が聞いたことがないぐらいに柔らかい。リンでさえも驚きを隠せないのか、僅かに目を見開いている。ナルは彼らの驚きに気が付いているはずだが、気にももとめず麻衣の背中を軽く叩いてなだめている。
 いったい何の夢を見たのやら、ナルには見当は全く付かないが、とりあえず麻衣の言葉から推察できることは、どうやら麻衣をおいてどこかに行ってしまうのだろうと言うことだ。
 落ち着かせるように麻衣の背中を叩いていると、麻衣はふいに顔を上げる。何度か瞬きを繰り返すと、ぼけていた焦点が視点を定める。
「ナ…ナル!?」
 麻衣は慌ててナルから離れる。いや、離れると言うよりナルを突き飛ばすと言った方が的確だろう。体勢を崩したナルはその場に尻餅を付くような形で座っている。不機嫌そうな目つきで麻衣を見ているが、当本人の麻衣はそんなことには気が付かない。
 周囲を見れば、ギャラリーがたくさんいた。それなのに、今自分はナルに抱きついていなかっただろうか!?
 麻衣の顔が一気に赤くなる。
 おろおろしているのがナルにも伝わり、ナルは呆れを込めた溜息を盛大に吐く。
「漸く目を覚ましたか。この万年寝ぼけ娘」
「え―――ええ?――えええええっっっっ―――――――――!?」
 麻衣の絶叫が深閑とした空気を震わした。
 至近距離で聞いていたナルは、麻衣の声がきぃーんと響いて思わず顔をしかめてしまう。当然皆も麻衣の絶叫が耳を貫通していった。
「で? 何を見た?」
 とりあえず麻衣が元に戻ったのが判ったため、ナルがもう一度同じ質問を口にする。先ほどまでの柔らかな口調はどこへ行ったのか、いつも通りの冷めた抑揚だ。変わり身の早さにギャラリー達は呆れたような溜息を付くが、麻衣は今更気にしていないのか、居住まいを正すとポツリと呟いた。
「腐乱死体の夢」
 麻衣は迷わず一言で告げた。
 その単語に皆が皆思わず顔を引きつかせる。もちろんナルやリンの表情は変わってはいないが。
 それにしても腐乱死体とは穏やかな夢ではない。
「あの森で男の人が女の人を抱きしめているの。
 その女の人は既に死んでいて、少しずつ腐敗して行くんだ。虫が集って蛆がわいて、腐臭が立ちこめていくの」
 麻衣はポツリポツリと語る。その光景を思い出すのか眉がひそめられあまり顔色は良くない。イヤ、もしも麻衣が言っているとおりのモノを現実で見たら、普通の神経をしていれば卒倒物だろう。
 脳裏に浮かぶのはまるで大切な宝物を抱える男の人だ。
 彼は無惨な姿に変わり果てている恋人――おそらく恋人で間違いはないだろう――−をその腕に抱き続けていた。
 麻衣はまるで予言でもするかのようにどこか、遠い眼差しで夢で見た内容を語り続ける。
 黒い虫がいっぱい集って、耳障りな羽音が響いていようとも身動きせず、彼女の身体を抱きしめていた。何かの弾みで虫が飛びだつとそこには正視できないような状態と化した彼女の、なれの果ての姿があろうとも彼は変わらず彼女を抱きしめていた。
「うげっ」
 淡々と語る麻衣の口調のせいか皆リアルに想像する。
 その光景は出来れば一生見たくない物だ。
「それで不意に辺りが霧に覆われた頃、男の人が姿を現したの。
 たぶん男の人だと思うけれど、ナルみたいに全身真っ黒づくめの男の人。黒いのになんでか、赤い雰囲気を纏った人。その人と恋人を抱えていた人は何か言葉を交わしていた…余りよく聞き取れなかったから何を話していたのか判らないけれど、その後その人は男の人にナイフを手渡すとすぐに消えたけれど…男の人はそのナイフで自分の手首を切り裂くの。真っ赤な血が手首から溢れて彼女の身体に流れ伝うと、その身体が――」
 見る見る間に元の姿を取り戻していったのだ。
 まるで、ビデオを巻き戻ししているかのように。
 元の綺麗な身体へと…そして、ゆっくりと瞼が開いて――そこで記憶は切れている。
「一面に彼岸花が咲いていて、目が痛くなるぐらい一面が真っ赤だった」
 まるでホラー映画である。
 イヤ、今時そんなホラー映画何かあるわけがない。
 一昔…二昔前のホラー映画にありそうだ。
「まるでゾンビだな」
 滝川の呟くがナルが呆れたように言葉を挟む。
「ぼーさんが言うゾンビとは宗教学的から見ると意味が違う。
 世間に知れ渡っているゾンビの解釈は、映画の影響で実際は違うな」
「え?そうなの?」
 麻衣が驚いたように目をしばたく。麻衣ばかりではなくリン以外が皆驚いた顔をしている。漫画や映画、小説等ではゾンビは夜な夜な歩き回り人を襲うのがそれの役所(?)だ。
「無知」
 ナルは呆れたように一同を見渡して、ゾンビという言葉がどこから来たのか無知なる面々に教えてくれた。(無知云々とナルは言うが、普通は知らないであろう。知っている方がマニアックなのだ/イレギュラーズ+麻衣談)
「ブードゥー教の呪術師が蘇らせた死体をゾンビという。
 映画等で使われているゾンビの影響で、ゾンビは人を襲い食らう存在として定着してしまったが、元々は、極刑を受けた犯罪者や悪人を、死んだ後に奴隷とする目的で神官が復活させた存在だ。人を襲うことはない。もちろん、伝染するとか太陽に弱いというのも、映画だけの設定だ。
 ブードゥー教には、キリスト教の司祭にあたるオウンガンと、その裏の面を受け持つボコールがいる。ゾンビは、このボコールに作られている。だからといって、ボコールは呪術を請け負う黒魔導師というわけではない。あくまで人を導く神官であることには変わりない。ボコールは、犯罪者の墓で呪文を唱えて儀式を行い、彼らを奴隷として使役する。生前に社会に及ぼした害を、死後、働くことによって償うためだ。ゾンビは、神罰に近い」
 ナルの専門的な知識に、ほへぇ〜〜〜そう言う意味があったんだ。と麻衣達は感心していた。初耳である。
「神罰なんだ。それって、やっぱり死体だから腐っていて、あまりお目にかかりたくない姿しているのかな?」
 麻衣の問いにナルはさぁ〜と肩をすくめる。
 そう言う伝承があるというだけで、実際にあるかどうかは見たことがないので、何とも言えない。そもそも、完全に死んだ人間が甦るわけがない。あくまでもそれらは伝承にしか過ぎないのだ。だが、それらの伝承が姿を変え形を変えて、似たような話は世界各国にある物だ。その中の一部が映画や小説などで知れ渡っているに過ぎない。
「なら、あれかい?
 仮死状態の人間を死んだと思って埋葬してみたら、実は息を吹き返して墓から出てきたというパターンか?」
 麻衣は軽く首を振って滝川の意見を否定する。 
「ぼーさん…冗談抜きで腐っていたんだけど……
 片方の目が飛び出していて、その目だってたぶん崩れていたかな。水晶体ってゼリー状でしょ?それが顔の半分にたれていて、原型とどめていなかったから。ぽっかりと空いた眼窩には蛆がいて、あっちこっちに虫が囓った痕があって、皮膚がどす黒く変色していてその皮膚の下にも虫がはいずっているような状態で、ごそごそと何かが蠢いていて、虫が全身に集っているような状態で、私は生きていたくないよ………」
 何だか、異様なまでにしっかりと見ている麻衣の淡々とした発言に、誰もが呻き声を漏らしてしまう。
「イヤ、冗談だって……」
 滝川は笑おうとしたがその顔は微妙に引きつっていた。滝川とてそんな姿になってまで生きていたくはない。
「でも、どうしてそんなものを谷山さんが見たんでしょう?
 ただたんに夢を見たんでしょうか……それとも………」
 安原は語尾を珍しく濁す。
 麻衣はまだ発展途上段階だが、内包する能力はかなり高いと言われている。能力はナルの片割れのユージンと近い物があるが、彼が持っていたよりもその能力は多岐にわたると考えられており、霊視能力以外にもサイコメトリーの能力があることは既に判明している。しかし、そのサイコメトリーはまだ意識的に使えず、殆ど無用の産物とかしているのが現状なのだが。
 ただの夢なら問題視することはないが(別の意味で、そんな夢を見る麻衣の精神状態を少し気にした方がいいかもしれないが)、万が一にもサイコメトリーや霊視の場合もある。が―――皆が皆顔を見合わせ沈黙が漂っていたが、ふいに麻衣が口を開く。
「あの女の人が、霊として姿を現したんなら判るけれど……死んだ人間が、甦るの? そう言うコトって本当にあるの?
 それも、仮死状態の可能性があるかもって言うレベルじゃなくて、冗談抜きで腐って肉がドロドロに溶けた死体が……虫に囓られた痕とか、皮膚がデロデロになって、お腹にはたぶん腐るときに出るガスが充満していて、ぱんぱんに膨れていていたような身体が元に戻るの? 怪我とかだったら新陳代謝で治るけれど、そこまで言っていたら例え生きていたとしても自力では治せないよね? っていうか、新陳代謝とかって死んだらおきないよね………」
「麻衣、お願いだからもう言わないで」
 綾子がげっそりとして言う。
 真砂子も同様だ。顔色が悪い。
「え〜〜〜〜言わせてよぉぉぉ〜〜〜〜」
 対する麻衣もあまり顔色は良くなく、今にも泣きそうな顔で訴える。
 あんな光景忘れられるなら、さっさと忘れたい。
 生で見たわけではないとは言え、実に見ていて気持ちがいい物ではない。というか、嫌な物は全て吐き出したいと言ったような感じで、麻衣は先ほど壊れたようにその様子というものをリアルにコト細かく話していたのだった。おかげで、麻衣以外誰も見ていないその死体の有様を皆、脳裏に、リアルに描くことが出来ていた。
「麻衣――無神経すぎますわ」
 真砂子は袖で、口元を覆いながら呟く。
「だってぇぇぇぇぇ」
 麻衣は泣きそうな顔で救いを求めるように周りを見る。滝川は苦笑いを浮かべながら麻衣の頭をポンポンと叩いて慰めた。
「麻衣、そこの博士と陰陽師なら顔色一つ変えず聞いてくれるぞ。
 夜は長く、その二人なら徹夜もへっちゃらだ。安心して聞いて貰え」
 その中に自分をカウントしていないところを見ると、滝川もこれ以上スプラッタな話は聞きたくないようだ。安原もジョンも同意しているところを見ると、右に同じらしい。
 麻衣は思わず救いを求めるようにリンを見る。
「話したいことがあれば、聞きますよ」
 顔色一つ変えないと言われた陰陽師は、苦笑を思わず浮かべ滝川の言葉に承諾の意味を込めて、軽く頷き返す。内心リンがどう思っているか判らないが、断れなかったことに滝川はひっそりと安堵する。麻衣は無邪気なまでに嬉しそう笑みを零して礼を述べていた。ナルと言えば……
「言い足りないなら、勝手に話してろ」
 聞く気があるのかないのか判らない態度だが、とりあえず麻衣が傍で言い足りないことを言っていて良いという了承らしい。素直でないナルの態度に、麻衣とナル以外が呆れたように肩をすくめたことは言わずもがな、だ。
 麻衣はと言えば、ナルに聞いて貰えることがかなり嬉しいらしくて、照れたように顔を赤らめながら、リンの時よりも喜んでいると一目で分かるほど、顔を崩していた。
 そして、すっかりと夜も更けていたために皆が皆用意されている客間へと引き返したのは、それからすぐの話で。リンとナルはそのまま残り麻衣の言い足りないお話(死体がどんな状態で、男がどんな風に扱っていたのか等々)を、麻衣が途中で眠りこけるまで顔色一つ変えず聞いていたという。

 関係ない話だが滝川は部屋へ戻るさい綾子を捕まえている。
「なぁ、あいつらってさどーゆう付き合い方しているの?」
 麻衣の父親を自称する滝川としては、世の普通の父親と同じように気になるのだろう。だが、綾子から見れば煩わしいだけである。
「知らないわよ。普通なんじゃないの?」
 おざなりな返答なのだが、滝川は首をひねる。
「普通? ナル坊が麻衣とデートしたり、手を繋いだりするのか?」
 滝川に改めて言われなくても、実に想像がしにくいことだった。そもそも、麻衣が誰か別の人物と付き合っているのと報告してきたならば、何の疑問も持たず世にありふれている『付き合い方』を想像できるのだろうが、相手があの『天才博士様』だと想像できない。
 調査のアシスタントとか、実験の披見体(と書いてモルモットと読む)やら、研究の助手にしているというなら判るのだが……それらは今更な事だ。あえて、今この時点で疑問に浮かぶようなことではない。
「そう言うプロセス一気に飛び越えているかもよ」
 ポツリと漏らした綾子の爆弾宣言を残すと、さっさと部屋へと戻っていったのだった。一人残された滝川は安原が呼びに来るまで、人通りのない廊下でムンクの叫びをしていたという。










☆ ☆☆ 作者の戯言 ☆☆☆
う〜〜〜〜ん、本来ならばここまでの話を一話にしたかったのに、なぜだか伸びてしまった……一つにまとめると量が増えすぎるため、二つに分けちゃいました(^^ゞ
これも、けっこう長くなりそうですねぇ〜〜〜〜〜
その上、微妙に麻衣の性格が違うような……なんだか、今回の後半の麻衣の性格…作者の性格を反映しているようなきがします。どこがって?それは、ホラーな話を嬉々としてするところとか…いえ、別に麻衣は嬉々として話している訳じゃないんですけどねぇ〜〜〜私は、よく人にどうしてそんなに嬉しそうに話をするの?って言われます。
そうか、そんなに嬉しそうに私は話をするのかって思っちゃいますが、嫌がる人を見るとついしたくなるってコトありません?(だから、性格悪いって言われるんだけどぉぉぉぉ)
私の周りは『血』とか「スプラッタ」がだめな人が多いので、その手の話は禁句なんです。その為、どういう怪我をしてどんなに血が出て、どういう風に縫ってどんな状態だったかという話も誰も聞いてくれませんでした(┰_┰)











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